2023年06月26日
2024年02月07日
「2030年問題」は、日本国内の人口の約3割が高齢者となることで引き起こされる各種問題の総称です。少子高齢化による、医療費の増大や地方の過疎化が社会問題として扱われることが多いですが、その影響は企業にも強く及びます。
本記事では、2030年問題の概要や企業に与える影響、事前の対策方法まで具体的に解説します。
【お役立ち資料】2030年問題に備えて対処すべき2つのポイント
2030年問題によって、多くの企業が人手不足に直面する可能性が高まっています。そのため、事前に対策を講じることが企業にとって非常に重要です。
・2030年問題に今から備えておきたい
・人材不足を解消するノウハウを知りたい
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目次
2030年問題とは、高齢化に伴う人口の減少により、2030年に顕在化するであろうと考えられている社会問題の総称です。多くの企業が人材不足に陥るほか、人材獲得競争の激化や人件費の高騰など、さまざまな問題に直面すると考えられています。
内閣府が公表した「令和5年版高齢社会白書」によれば、2022年10月時点の総人口は1億2,495万人であり、うち65歳以上の人口が3,624万人と、高齢化率は29.0%に上ります。すでに高齢者が1/4以上を占めていますが、この状況が続けば、2030年には総人口の約1/3を高齢者が占めることが予測されます。
高齢化だけでなく、少子化も大きな問題です。少子化の影響により日本の人口は減少の一途をたどっており、2050年の総人口は1億人を下回るとも言われています。
新たに生まれる子どもが少ないため人口は思うように増えず、ますます高齢化が進んで労働人口が減少する、と日本を取り巻く環境は決して良好とは言えません。2030年問題に関しても、すべての企業が自分ごとと捉え、対応を考えていく必要があります。
2030年問題は、企業にも深刻な影響を与える可能性があります。企業が抱えうる問題としては、以下の4つが挙げられるでしょう。
ここでは、その詳細について具体的に解説します。
2030年問題によって「生産年齢人口」が減少し、多くの企業が深刻な人材不足に陥ると考えられています。生産年齢人口とは、生産活動の中心を担う人口層のことであり、主に15歳以上65歳未満の人を指します。
パーソル総合研究所の調査によると、2030年の労働需要が7,073万人であるのに対し、供給される労働人口は6,429万人と、実に644万人もの人材不足が発生する見通しです。
さらに帝国データバンクの調査によると、人材(正社員)が不足していると回答した企業は、全有効回答企業1万1,506社のうち52.1%に上ります。旅館・ホテル業界のほか、情報サービス、建設、農・林・水産、金融と、さまざまな業種で慢性的な人材不足が続いており、問題の深刻さを物語っています。
【関連記事】人手不足の現状と原因|6つの解決策・事例も解説
生産年齢人口の減少により、多くの企業が人手不足に直面し、人材獲得競争が激しくなります。その結果、採用担当者の負担が増加します。求職者が少なくなる中、企業が適切な人材を見つける難易度も一段と高まるでしょう。
採用難易度が上がると、採用担当者は採用により工夫を凝らさなくてはなりません。競争が激化する中で、求職者・転職者を引き付けるためには、募集広告の内容だけではなく、自社の特徴や風土、雰囲気を伝えることが不可欠です。
さらに人材を確保するために、企業は複数の採用方法を使うことが増えるでしょう。例えば、リファラル採用やダイレクトリクルーティング、SNSを活用した人材スカウトなどが挙げられます。これらは効果的な手法ですが、採用担当者の仕事量や負担が増えることが予想されます。
こうした背景から、人材を獲得するためには、採用戦略の強化に加え、魅力ある職場づくりの実現が求められます。
人件費の高騰も、企業が直面しかねない大きな問題です。労働人口が減少し、多くの企業が人材不足に陥れば、人材を獲得するためにこれまで以上に良い条件を提示しようと考える企業が増加すると考えられます。応募してもらえるように、福利厚生を充実させたり、給与を上げたりすることが想定されます。
福利厚生の充実や給与の見直しは人材獲得に有効ですが、人件費の増加につながるため、利益が減少するおそれがあります。
人材不足によって企業は業績の悪化に陥る恐れがあります。人材不足は、営業や販売の人員が足りない、プログラミング担当の技術者がいない、カスタマーサービスの担当者が足りない、といった状況を引き起こします。
大勢の顧客を抱え需要の高いサービスを提供していたとしても、人材が足りないばかりに十分な対応ができなければ、顧客の満足度が低下する可能性があります。それによって顧客が他社に流れた場合、収益の悪化にもつながるでしょう。
帝国データバンクの調査によると、2023年4月に発生した「人材不足倒産」は30件に上り、増加傾向にあります。今後も人材不足を起因とした業績の悪化や倒産件数は高水準で続くと予想されています。
2030年問題による人材不足は、ほとんどの業界で生じると想定されていますが、その影響をとくに受けることが懸念される業界もあります。
ここからは、なぜこの5業界で人材不足が進むのかの詳細について解説します。
建築業界では、2022年時点でもすでに労働力の不足が著しく進行しています。就業者数は減少し続けており、2003年には約600万人でしたが、2022年には約300万人に減少しています。
建設業界は少子高齢化の影響を受け、ますます人材不足が顕著になる見通しです。
帝国データバンクの調査によると、2023年4月時点で、特に旅館・ホテルにおける人材の不足が深刻化していることが判明しています。調査に参加した75.5%の企業が「正社員の人材不足に直面している」と回答するほど、人材が足りていない状況です。
インバウンド需要の高まりを受け、景況感の回復が見られているものの観光業界の人材不足はいっそう加速していくでしょう。
航空業界においても人材不足が懸念されています。政府はインバウンド消費の拡大のため、外国人観光客を積極的に受け入れる施策を進めています。
しかし、外国人観光客の増加に反して、その受け皿となる、航空業界のサービス提供者が不足していることが問題となっています。
国内での人材確保が難しいと考えた政府は、外国人就業者の確保に注力しています。2019年度に外国人の在留資格「特定技能」制度を導入するなどして、外国人人材の受け入れ力を強化しています。しかし、企業では外国人人材の採用が進んでいるものの、言語や文化、教育の課題などがあり、人材の充足にはまだまだ時間がかかるでしょう。
ITニーズの世界的な需要拡大の影響を受けてIT人材のニーズが高まっています。具体的には、AIやIoT、ビッグデータなどの普及・拡大を受けて、ITを取り扱える人材や情報のセキュリティを担当できる人材の需要が増加していく見通しです。
しかし、この需要に反して供給が追いつかないことが想定されています。
経済産業省の調査では、2030年には人材不足の規模が約59万人まで拡大すると予想されています。また、現時点では比較的若い世代の多いIT業界においても、高齢化が進むとのことです。
【関連記事】IT人材不足の原因とは?対策やエンジニアの獲得方法
医療・介護も、2030年頃に深刻な人材不足が懸念される業界です。
超高齢化社会の影響を受けて、医療・介護サービスの利用者数は増加し続けていくでしょう。しかし一方で、サービスを提供する側である医師や介護職員、看護師といった医療従事者が不足しています。少子化の影響を受けて、こうした人材の増加の目処は立っていません。
医師を対象にした2019年度の調査では、「自院の医療機能の維持に必要」な勤務医が不足していると回答した病院の割合は、40.9%でした。2019年度の時点でも人材不足の状態に陥っている中、その傾向は今後も拡大していくと考えられます。
企業の持続的な発展のためには、2030年問題が来るのをただ待つのではなく、今から有効な施策を実施することで、問題の解消・緩和を図ることが大切です。具体的には、以下のような施策を講じていくとよいでしょう。
これらを適切に実施することで、人材不足の解消や生産性の向上が期待できます。
働き方改革を推進して多様なはたらき方ができる企業であれば、社員の労働環境の改善が期待でき、応募してくる人材へのアピールになると考えられます。
例えば、テレワークを導入すれば、育児・子育てや介護などの理由で オフィスへ出社ができなくなってしまった社員も、はたらき方の選択肢が広がります。
また、フレックスタイム制も有効です。フレックスタイム制は、月内の総労働時間の範囲内で、従業員が始業・就業時刻をある程度自由に決められる制度です。勤務時間をある程度コントールできるようになることで、「子どもを保育園へ迎えに行くため16時に退社する」といった柔軟なはたらき方ができるようになります。
副業の容認は企業側・従業員側の双方にメリットをもたらします。企業側には、従業員が別の業種・職種で得た経験を本業に還元してもらえるなどの利点があるでしょう。また従業員自身にとっても、新しいスキルの獲得や副収入による収入増加というメリットがあります。
リスキリングは、従業員が現在とは異なる職務や新しい分野のスキルを身につけることを指します。これによって、従業員に新しいスキルを獲得させたり、別の職種に配置転換したりすることができます。
日本では、人材不足が懸念される一方で、デジタル技術の進化による自動化・機械化が進んでおり、一部の職種では人材過剰の可能性も指摘されています。三菱総合研究所の調査によれば、2030年までに事務職では約120万人の人材余剰が生じるとされています。
労働人口減少に伴い、新たな人材獲得がますます厳しくなる時代、企業には従業員が環境に適応しながらより長く活躍し続けられるキャリア支援を行うことが求められます。リスキリングは、それを実現するための手段として有効です。
【関連記事】リスキリングとは?意味やDXにおける重要性、取り組み事例を解説
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シニア世代でも、労働意欲をもっている方は少なくありません。経済産業省によると、就労している60歳以上の方へのアンケートで「70歳以上でもはたらきたい」と回答した人は約8割でした。
このような労働意欲を持つシニア人材の活用によって、シニア人材が持つ豊富な経験や人脈を業務へ活用できることなどが期待されます。加えて若手育成に対しても有用です。シニア人材が長きにわたって培ってきたノウハウや知識、技術を若者に伝えることで若手の成長が見込めます。
シニア人材の活用方法として、社内の定年年齢の引き上げや業務委託契約の体制を整えるなどがあります。シニア人材の雇用機会を増やし、将来の人材不足に備えましょう。
【お役立ち資料】ミドル・シニア人材が活躍する組織を作るには?
少子高齢化が進む労働市場では、シニア人材の活用を推進する企業が増えています。本資料ではミドル・シニア層へのマネジメント課題から定年制度の実態、シニアマネジメントが機能する3つのポイントなどを解説しています。
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従業員がはたらきやすい環境を整えることも重要です。 離職防止だけでなく従業員の労働意欲の向上や業務の効率化による生産性の向上につながります。
具体的な施策としては、福利厚生の充実が挙げられます。例えば、リフレッシュ休暇制度の導入や、出産・育児の補助金、各種手当の拡充が有効です。
また、各種ハラスメントの相談窓口を設けるのもよいでしょう。パワハラやモラハラなどのハラスメントの対応に取り組むことで、従業員は安心してはたらきやすくなります。
2030年問題に対する施策として、デジタル化の推進も有効です。デジタル化は、アナログな業務プロセスをデジタルで処理できるようにすることです。例えば、「紙の資料をペーパーレス化する」や「手作業で行っていた業務をITツールで効率化・自動化する」などが該当します。
人が行っていた業務をデジタル化することで、業務時間の短縮や正確性の向上が見込めます。業務効率が向上することで、従業員はより付加価値の高い業務に集中できるでしょう。
デジタル化を支援するツールは多岐にわたりますが、以下に一例を挙げます。
SFA(Sales Force Automation) | 営業支援ツール。案件管理や顧客管理などを自動化する |
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RPA(Robotic Process Automation) | ロボットによる業務自動化ツール。定型的なパソコン操作を、人間が行うのではなくソフトウェア(ロボット)により自動化する |
MA(Marketing Automation) | 見込み顧客の獲得・育成のためマーケティング活動をサポートするツール |
デジタル化の推進にあたっては、まず導入する部門や業務を選定し、効果を見極めたのちに展開するプロセスを経るのが望ましいとされます。まず一部門を対象にツールを導入するなど、スモールスタートで始めましょう。
【関連記事】デジタル化とは?意味やIT化との違い・進め方を具体例付きで解説
デジタル化と同時に進めていきたいのが、DXの推進です。DXとは、「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)」の略称です。デジタル技術によってビジネスモデルや業務に変革を起こし、企業の持続的な発展を目指します。
具体的には、事業構造の変革や、既存の商品・サービスの付加価値向上、人材採用の効率化・高度化などが挙げられます。
DXはデジタル化と類似する概念ですが、別物です。それぞれには以下のような違いがあります。
デジタル化では業務効率化に重きが置かれますが、DX化ではビジネスモデルや組織に変化を起こし、市場で競争上の優位性を確立することを目指します。
デジタル化とDXを同時に推し進めることで、既存業務の効率化をして社員の負担軽減や人材不足のカバーをしつつも、企業価値の向上も期待できるでしょう。
DXを成功に導くためには、以下の流れで実施をしていくことが大切です。
事前に綿密に戦略を立て、ステップを踏んで推進していくことで、DXで成果を得られやすくなります。DXの必要性や成功のポイントなどは関連記事「DXとは?意味や取り組み内容・メリットをわかりやすく」で解説しています。
【お役立ち資料】DX推進を成功に導く採用・育成・組織設計と成功事例
DXの具体的な施策は企業ごとにさまざまですが、どの場合にも共通して重要なポイントが3つあります。本資料では、DX推進を成功に導くステップやDX人材の採用・育成についてまとめた資料を公開しています。これからDXに取り組む・DXの推進にお悩みの方はご覧ください。
2030年問題には、以下の課題とも密接な関連があります。
2030年問題はいきなり訪れるわけではなく、段階を経て進行していきます。また、2030年をすぎた後には、各種問題はいっそう深刻化していくと考えられています。企業には、より長期的な視点で捉えて対策を講じていくことが求められます。
自社がより適切な動きを取れるよう、2025年問題、2040年問題、2050年問題についても理解を深めておきましょう。
2025年問題は、2030年問題に先駆けて訪れる問題です。2025年には団塊の世代が後期高齢者となるといわれています。団塊の世代とは1947〜1949年の第一次ベビーブーム期に生まれた人々を指します。
2025年には、後期高齢者が団塊の世代を中心に構成され、日本の総人口の約18%を占める見通しです。医療サービスを受ける人数が増える一方で、医療従事者の供給が追いつかない、といった課題などが懸念されています
【関連記事】2025年問題とは?何が起こるのか・具体例や対策をわかりやすく解説
2040年には、5人に1人が後期高齢者となることで生産年齢人口が6千万人を下回ることが予想されています。
2040年には団塊ジュニア世代が高齢化し、65歳以上の人口が総人口の約35.3%を占める見通しです。
これに伴って生産年齢人口は減少の一途をたどることが予想されており、日本経済は2040年代以降、マイナス成長の可能性が高いと指摘されています。
2050年問題は、ここまで述べてきた社会問題がより深刻化することを指し、別名「最悪のシナリオ」と言われています。超少子高齢化社会がいっそう進んでいく中で、2050年には日本の人口は1億人を切り、そのまま減少をし続けていくと予想されています。
全人口の約4割が65歳以上となることで、労働力となる人材の不足がますます深刻化していくでしょう。また、AI化が進むことによる雇用の減少も指摘されています。
2030年問題は、すべての企業が真剣に向き合うべき問題です。労働者が不足することで企業の生産力や競争力の低下を招く可能性があります。自社には関係ないと考えるのではなく、先を見越した人材採用や、多様なはたらき方ができるような環境整備など、今からしっかりと準備を進めていきましょう。
【お役立ち資料】2030年問題に備えて対処すべき2つのポイント
2030年問題によって、多くの企業が人手不足に直面する可能性が高まっています。そのため、事前に対策を講じることが企業にとって非常に重要です。
・2030年問題に今から備えておきたい
・人材不足を解消するノウハウを知りたい
そのような方に向けて、「【2030年問題に備える2つのポイント】労働力不足対策に効果的な人材マネジメント・組織づくり」を公開しています。
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