2021年04月07日
2025年02月05日
モラハラ(モラルハラスメント)とは、倫理観や道徳意識といったモラルに反した精神的な虐待のことで、家庭や学校、職場など、さまざまな場所で起こる可能性があります。
モラルハラスメントという言葉は、フランスの精神科医マリー=フランス・イルゴイエンヌによって広く知られるようになりました。イルゴイエンヌは、職場におけるモラハラを以下のように定義しています。
職場内で繰り返す言葉や態度などによって、人の人格・人権や尊厳を傷つけたり、心身の健康を害したりして、その人が仕事を辞めざるを得ないような状況に追い込むこと、または職場の雰囲気を悪化させること
本記事では職場で起こるモラハラの意味や具体例、さらには予防策・対処法について解説します。
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モラハラは、職場の生産性低下や離職の原因となるだけでなく、企業リスクにもつながります。しかし、「どこから対策すればいいのか分からない」「具体的な対策を考えたい」という方も多いのではないでしょうか?
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目次
モラハラとは、モラルハラスメントの略であり、倫理観や道徳意識に反したいやがらせ・いじめのことを指します。セクシュアルハラスメント(セクハラ)、パワーハラスメント(パワハラ)などと同様に、社会で起こり得る代表的なハラスメントの一つです。
モラルハラスメントの提唱者であるフランスの精神科医マリー=フランス・イルゴイエンヌは、職場におけるモラハラを大きく2タイプに分類しています。
1.陰湿な行為の繰り返し
2.権力を利用したモラハラ
業務を円滑かつ安全に進める上で、注意や叱責などは必要です。そのため、必要かつ相当な範囲で行われる、指示として適切な注意や一時的な叱責は、モラハラにはあたりません。ただし、威圧的な態度や度を越した叱責が継続的に行われた場合は、モラハラと見なされることがあります。
モラハラとパワハラ(パワーハラスメント)には共通する部分もありますが、加害者と被害者の関係性、暴力の内容において明確な違いがあります。
パワハラは客観的な立場や権限などが上位にある者が、下位の者に対していやがらせを行うことを指します。一方モラハラは、これに加えて、同僚や部下など立場が同等もしくは下の者から行われるケースを含みます。
また、パワハラには肉体的な暴力も含まれますが、モラハラは精神的な暴力のみで、肉体的な暴力は用いません。目には見えづらい暴力だからこそ、モラハラは周囲がその発生に気づきづらいという側面があります。
直接的に叩かれたり殴られたりしなくても、精神的な暴力を振るわれると、人は心に傷を負います。精神的な苦痛が蓄積すると、肉体にも影響が出始めます。
心の傷は目に見えないため、傷を負ったのか、その深さがどのくらいなのか、周囲が本人と同様に理解するのは容易ではありません。だからこそ、被害が毎日のように継続したり、場合によってはエスカレートしても分かりづらく、周りが気づいたときには被害を受けた社員が休職や退職してしまったり、最悪の場合には命を落とすなどの深刻な問題へと発展してしまいます。これが、モラハラの難しいところです。
【関連記事】パワハラとは?定義と6つの類型、企業が取り組むべき対策を解説
モラハラは、行為を行った本人に意図的な悪意がなかったとしても、相手に深い心の傷を負わせてしまう可能性があります。職場におけるモラハラの具体例としては、以下のような行為が挙げられます。
部下の業務に不備や漏れがあった場合、上司が注意や叱責をせざるを得ない場面があるかもしれませんが、度を超えた侮辱や暴言はモラハラに該当します。周囲に他の社員がいる場所で繰り返し叱責したり、わざと本人に聞こえるように悪口を言ったりするケースも、相手を精神的に傷つける可能性があります。
特定の人から話しかけられた時だけ無視したり、職場の人間関係から切り離したりする行為は、モラハラに当てはまります。また、あからさまな舌打ちやわざとらしい溜め息をつくといった反応は、相手を委縮させてしまいます。
業務には関係のない、家族や恋愛のこと、休日の過ごし方などについて必要以上に踏み込むのも、モラハラに該当する可能性があります。他愛のない世間話のつもりであっても、「なぜ結婚しないの?」「なぜ子供を産まないの?」といった発言によって精神的なダメージを負わせてしまうことは珍しくありません。
モラハラの加害者・被害者になりやすい人には、以下のような特徴が挙げられます。
モラハラの加害者となる人物には、自己愛が強い、周囲の人間を支配したがるという特徴が見られます。具体的には以下の通りです。
加害者に見られる特徴
一方、被害者となる人物は、他人の言うことを鵜呑みにしやすい、他人に依存しやすいなどの特徴が見られることもありますが、必ずしもそうした人ばかりがターゲットになるわけではありません。たまたま加害者よりも目立っている、加害者が期待した反応を示さないなど、加害者にとって都合が悪い状況をつくったことで、被害者となってしまうこともあります。
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モラハラが職場に与える影響は決して少なくありません。場合によっては、企業経営に関わる事態に発展することもあるでしょう。ここでは、モラハラが職場に与える影響を3つ解説します。
職場内でのモラハラの被害が大きくなると、被害者は加害者との接触を避けるため、あるいは仕事への意欲や会社への信頼を失ったために退職や転職を考えるケースも珍しくありません。しかし被害者が離職しても加害者が職場に残っていれば、根本的な解決にはつながらず、次の被害者が生まれる可能性もあるでしょう。
また、モラハラの被害を直接受けていない人でも、職場の雰囲気が悪くなり結果的に離職者が増えることも考えられます。その結果、採用コストの増加やサービス品質の低下など二次的な被害が発生することもあるでしょう。
モラハラの加害者は、被害者への攻撃を優先するあまり、仕事を円滑に進行させることを考えないケースがあります。その結果、チーム全体のパフォーマンスにまで悪影響を及ぼしかねません。
一方の被害者も、モラハラを受けているにもかかわらず自責の念に駆られ、不要な我慢や努力をしてしまうこともあるでしょう。さらに、直接的な当事者でない従業員も、今度は自分自身がモラハラを受けるのではないかと恐れ、心理的安全性が低下するリスクがあります。
これによって仕事への集中力の欠如やミスの増加などが発生し、企業全体の生産性に影響を与える可能性があります。
パーソル総合研究所が実施した「職場のハラスメントについての定量調査」では、ハラスメントの被害を受けた従業員は「主観的生産性(業務遂行能力や生産性)」や「幸福度」、「継続就業意向」の低下が見られました。ハラスメントは企業全体の持続可能性や組織力にも深刻な影響を及ぼすことを示しています。
すべての企業は、安全配慮義務(従業員に安全な労務を提供する義務)と、職場環境配慮義務(快適な職場環境を提供する)を負っています。企業がモラハラへの対策を整備しなかったり、放置したりすることで、従業員が損害賠償責任や民法上の使用者責任を問うため、会社を訴えるケースも考えられるでしょう。
ハラスメント防止法は、それ自体には罰則はありません。しかし企業のモラハラ対策が不適切と判断されると、企業名が社外に公表されることがあります。これにより、築き上げてきた信用が失墜するなど、企業イメージにも影響が出かねません。
さまざまな予防策を取っても、モラハラが起こってしまったときにはどのように対応したら良いのでしょうか。ここでは、職場内でのモラハラの発生時に企業が取るべき対応について解説します。
まずは被害者、加害者、そして被害に遭っている場面を見かけた第三者それぞれの証言を集めることが重要です。相談してきた被害者、あるいは第三者から聞き取りを行い、状況を見ながら加害者にも聞き取りを行いましょう。
話の食い違いがあった場合に、モラハラがあったことを判断する材料となるのが、客観的な証拠です。裁判となったときにも必要となりますので、被害者や第三者には、以下のような証拠があるか確認したり、証拠として残したりしておくように働きかけましょう。
なお、厚生労働省では、トラブルが起きた際に、労働者・事業主どちらでも利用することができる「個別労働紛争解決制度」の利用を推奨しています。「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」に基づき、職場のトラブル解決のためのサポートが受けられる制度で、問い合わせや申し込み窓口として各都道府県労働局または全国の労働基準監督署内に「総合労働相談コーナー」が設けられています。
モラハラを含めた職場トラブルに関する相談、解決のための情報提供を無料で受けることができるので、困ったときにはぜひ利用しましょう。
事実確認と同時に、モラハラを受けた被害者に対する精神的なケアも忘れてはなりません。すでに身体的な健康被害が出ている可能性もあるため、産業医面談などを通して被害者の状態を正しく把握しましょう。その上で、療養が必要であれば休職を勧めたり、加害者との接触を断つために部署異動を検討したりといった対応が必要になります。
モラハラの事実を踏まえて、就業規則に基づいた措置を実施します。一般的には、過去の判例を参照して懲戒処分などが判断されます。懲戒処分には、加害者の降格や減給、出勤停止、諭旨解雇、懲戒解雇などの措置が含まれます。加害者がモラハラの事実を否定した場合は、裁判に発展するケースも考えられます。
職場内でのモラハラの事実が発覚した場合、速やかに再発防止策を検討することが重要です。モラハラが発生する原因を特定し、社外の顧問弁護士なども交えて議論しながら、再発しないための対策を考えましょう。抑止力としては、加害者に対する懲戒処分を厳罰化するのも有効です。
2020年6月に、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律、通称「パワハラ防止法」が改正されました。これにより職場におけるハラスメント防止対策が強化され、大企業の事業主にはハラスメントの防止措置が義務付けられました。2022年4月より中小企業も義務化の対象となりました。
モラハラはパワハラと通ずるところが多いので、パワハラと同様の対策で予防、対策にあたりましょう。厚生労働省は、企業が講ずべき措置として4つのポイントを挙げられています。
企業が講ずべき措置
上記を踏まえて、具体的に企業が取り組むべき施策を紹介します。
【関連記事】パワハラ防止法とは?法律の内容や企業に求められる対応について解説
モラハラ対策で最も大事なのは、モラハラは断固として許さないという考えを社内に浸透させることです。 ハラスメントについての規則や懲戒処分などは、就業規則において定めましょう。会社としての方針を明確にして周知・啓発に努めることで、実際にモラハラの発生を防止できるのはもちろん、従業員にとって心理的安全性の確保やエンゲージメント向上にもつながります。
モラハラをはじめ、職場のハラスメントについて相談できる体制を整備し、全社に周知しましょう。
体制整備のポイント
また、普段から被害を受けたときには一人で我慢せず、信頼できる人や相談窓口に相談をすることを推奨しておくと、相談をしてもらいやすくなるでしょう。
モラハラに周囲が気づくこともあります。被害を知っていながら見過ごすことも、モラハラの加害の一つであること、モラハラと思われる場面に遭遇した場合には加害者に直接注意を促すか、難しければ相談窓口に助力を求めるよう、普段から周知しておきましょう。
モラハラを未然に防ぐためには、会社全体でモラハラについての理解を深めることも重要です。定期的にハラスメント研修を実施することで、従業員一人ひとりの意識が高まり、職場全体のリテラシー向上につながります。研修は社員だけではなく、パート、アルバイトなども含む全従業員を対象に実施しましょう。
なお、パーソルグループでは長年の人材開発実績をもとに1社1社にあわせた最適なハラスメント研修を提供しています。研修をご検討されている方はお気軽にお問い合わせください。
【関連記事】ハラスメント研修とは?目的や種類・カリキュラム例、ポイントを解説
モラハラは、役職や立場に関係なく、全従業員が加害者・被害者となる可能性があります。社員のコミュニケーションに問題はないか、相談窓口が気兼ねなく利用できる体制が整備されているかなどをチェックし、モラハラが起きない職場環境づくりを進めていきましょう。
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職場のモラハラ対策に課題をお持ちの方は、ダウンロードいただき、ご活用ください。
A.すべての従業員が正しい知識や共通認識を持つことです。研修などを通して「全員がモラハラに対しての知識を持ち、何かあった際にすぐに対処することができる状態」を作り上げておきましょう。
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>>調査レポートから読み解くハラスメント対策の4つの観点
A.モラハラとパワハラの大きな違いは「加害者と被害者の関係性」「暴力の内容」の2点です。パワハラは、パワーバランスが上の者が、下の者に立場を利用して行うハラスメントです。モラハラは、同僚や部下など立場が同等もしくは下の者から行われることもあります。
また、パワハラには肉体的な暴力も含まれますが、モラハラは精神的な暴力で、肉体的な暴力は用いません。目に見えづらい暴力だからこそ、モラハラは周囲がその発生に気づきづらいという側面があります。
>> モラハラとパワハラの違い