モラハラ(モラルハラスメント)とは
モラハラとは「モラルハラスメント」のことで、フランスの精神科医マリー=フランス・イルゴイエンヌが提唱し、広く知られるようになりました。
「モラル」とは倫理観や道徳意識のことです。「ハラスメント」とは、いやがらせやいじめを指し、セクシュアルハラスメント(セクハラ)、パワーハラスメント(パワハラ)などが、ハラスメントとして広く知られています。
つまり、モラハラは「社会における善悪・正邪の判断をするときの一般的な決まりごとである倫理、道徳に反した」「人として守るべきルールに反した」いやがらせやいじめのことです。
職場におけるモラハラの定義
モラハラは、家庭、学校、職場などさまざまな場所で起こり得ます。では、職場におけるモラハラはどのように定義されているのでしょうか。イルゴイエンヌは、職場におけるモラハラを以下のように定義しています。
職場内で繰り返す言葉や態度などによって、人の人格・人権や尊厳を傷つけたり、心身の健康を害したりして、その人が仕事を辞めざるを得ないような状況に追い込むこと、または職場の雰囲気を悪化させること
また、イルゴイエンヌは、職場におけるモラハラを大きく2タイプに分類しています。
1.陰湿な行為の繰り返し
- 行動・言動の例:無視、ため息、見下した態度をとる、容姿や人格の否定、家族への悪口、本人に聞こえるように悪口を言う、悪い噂を流して孤立させる、必要な情報を与えない等
- 加害者となる可能性が高いのは「立場、年齢を問わず全社員」
2.権力を利用したモラハラ
- 行動・言動の例:わざと大勢の前で叱責をする、仕事を与えない、プライベートな時間に連絡を入れる、不正行為や飲み会の強要等
- 加害者となる可能性が高いのは「上司・先輩」
業務を円滑かつ安全に進める上で、注意や叱責などは必要なことです。必要かつ相当な範囲で行われる、指示として適正な注意や一時的な叱責は、当然、モラハラにはあたりません。ただし、威圧的な態度や度を越した叱責が継続的に行われた場合は、モラハラと見なされることがあります。
モラハラとパワハラの違い
厚生労働省の定義によると、パワーハラスメント(パワハラ)とは「優越的な関係に基づいて行われる、業務の適正な範囲を超えた、身体的もしくは精神的な苦痛を与えること、または就業環境を害すること」を指します。
パワハラとモラハラには、共通する部分も多くあります。異なるのは、加害者と被害者の関係性、暴力の内容の2点です。
パワハラは、パワーバランスが上の者が、下の者に立場を利用して行うハラスメントです。モラハラは、そうしたケースに加え、同僚や部下など立場が同等もしくは下の者から行われることもあります。
また、パワハラには肉体的な暴力も含まれますが、モラハラは精神的な暴力で、肉体的な暴力は用いません。目に見えづらい暴力だからこそ、モラハラは周囲がその発生に気づきづらいという側面があります。
モラハラとなる可能性の高い言動
以下のような言葉、態度は、本人に悪意がなくても、モラハラとなる可能性が高いといえます。
モラハラの例
- 相手の容姿や人間性・能力の否定、その家族への悪口
- 周囲に人がいるところでの叱責の繰り返し、必要以上の長時間の叱責
- 本人に聞こえていると分かっていての悪口、陰口
- 理由のない仕事外し、職場の人間関係からの切り離し、陰湿な無視
- 職場外での行動の監視、必要のないプライベートへの立ち入り
- 長期にわたる業務外の作業や、私的な雑用の命令
- 舌打ち、わざとらしいため息
直接的に叩かれたり殴られたりしなくても、精神的な暴力を振るわれると、人は心に傷を負います。モラハラは、初めは精神的な苦痛だけですが、その蓄積により肉体にも影響が出始めます。
モラハラ被害による影響

心の傷は目に見えないため、心の傷を負ったのか、その深さがどのくらいなのか、周囲が本人と同様に理解するのは容易ではありません。だからこそ、被害が毎日のように継続したり、場合によってはエスカレートしても分かりづらく、周りが気づいたときには被害を受けた社員が病気となって休職や退職してしまったり、最悪の場合には命を落とすなどの深刻な問題へと発展してしまいます。これが、モラハラの難しいところです。
加害者、被害者になりやすい人の傾向
モラハラの加害者となる人物には、自己愛が強い、周囲の人間を支配したがるという特徴が見られます。
加害者に見られる特徴
- 自分には才能があると思っている
- 業績がなくとも仕事ができると思っている
- 仕事に関する自己評価が甘い
- 他人から認められたい気持ちが強い
- 目的のためには平気で人を利用するが、罪悪感がない など
【出典】「随伴性の心理学―応用編:モラルハラスメント」中丸茂
被害者となる人物は、他人の言うことをうのみにしやすい、他人に依存しやすいなどの特徴が見られることもありますが、必ずしもそうした人ばかりがターゲットになるわけではありません。たまたま加害者よりも目立っている、加害者が期待した反応を示さないなど、加害者にとって都合が悪い状況をつくったことで、被害者となってしまうこともあります。
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モラハラの予防策
2020年6月に、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律、通称「パワハラ防止法」が改正されました。これにより職場におけるハラスメント防止対策が強化され、大企業の事業主にはハラスメントの防止措置が義務付けられました。2022年4月より中小企業も義務化の対象となりました。
モラハラはパワハラと通ずるところが多いので、パワハラと同様の対策で予防、対策にあたりましょう。厚生労働省は、企業が講ずべき措置として4つのポイントを挙げられています。
企業が講ずべき措置
- 事業主の方針などの明確化及びその周知・啓発
- 相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備
- 職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
- そのほか併せて講ずべき措置
上記を踏まえ、具体的に企業が取り組むべき施策を紹介します。
職場全体のリテラシー強化
モラハラ対策で最も大事なのは、モラハラは断固として許さないという考えを社内に浸透させることです。
就業規則にハラスメントについての規則や懲戒処分についての言及を追加したり、以下のようなポイントをおさえた研修を実施したりすることで「全社員がモラハラに対しての知識を持ち、何かあった際にすぐに対処することができる状態」を作りましょう。
- 管理職層を中心に階層別の研修を実施する
- 社員だけではなく、パート、アルバイトなども含む全従業員を対象に研修を実施する
- 新入社員の入社時期、異動の多い時期に合わせて研修を実施する
相談体制の整備
モラハラをはじめ、職場のハラスメントについて相談できる体制を整備し、全社に周知しましょう。
体制整備のポイント
- 企業内外で相談窓口の担当者を設置する
- プライバシーを保護するための措置を行う
- 解雇をはじめ不利益な取り扱いをしないことを定める
- 相談窓口は面談だけでなく、電話やメールなど複数の方法を設ける
- 人事担当者や相談者の上司と連絡するなど、フォロー体制を整える
また、普段から被害を受けたときには一人で我慢せず、信頼できる人や相談窓口に相談をすることを推奨しておくと、相談をしてもらいやすくなるでしょう。
モラハラに周囲が気づくこともあります。被害を知っていながら見過ごすことも、モラハラの加害の一つであること、モラハラと思われる場面に遭遇した場合には加害者に直接注意を促すか、難しければ相談窓口に助力を求めるよう、普段から周知しておきましょう。
モラハラが起きてしまったときの対処法
さまざまな予防策を取っても、モラハラが起こってしまったときにはどのように対処したら良いのでしょうか。
重要なのは、被害者、加害者、そして被害に遭っている場面を見かけた第三者それぞれの証言です。まずは、相談してきた被害者、あるいは第三者から聞き取りを行い、状況を見ながら加害者にも聞き取りを行いましょう。
話の食い違いがあったとき、モラハラがあったことを判断する材料となるのが、客観的な証拠です。裁判となったときにも必要となりますので、被害者や第三者には、以下のような証拠があるか確認したり、証拠として残したりしておくように働きかけましょう。
- モラハラの被害を受けている現場を録画または録音したもの。メールなども可
- モラハラを受けた日時や内容をできるだけ詳しく記録したもの
- モラハラ被害に遭っている場面を見かけた第三者(同僚など)による証言
- モラハラ被害によって発症した、うつ病や心身症、適応障害などの医師の診断書
厚生労働省では、トラブルが起きた際には、労働者・事業主どちらでも利用することができる「個別労働紛争解決制度」の利用を推奨しています。「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」に基づき、職場のトラブル解決のためのサポートが受けられる制度で、問い合わせや申し込み窓口として各都道府県労働局または全国の労働基準監督署内に「総合労働相談コーナー」が設けられています。
モラハラを含めた職場トラブルに関する相談、解決のための情報提供を無料で受けることができるので、困ったときにはぜひ利用しましょう。
まとめ|モラハラは精神的攻撃。パワハラ防止の取り組みで防ごう
モラハラは、役職や立場に関係なく、非正規社員を含む、職場における全員が加害者・被害者となる可能性のあるハラスメントです。職場全体を見渡して、社員のコミュニケーションに問題はないか、相談窓口が気兼ねなく利用できる体制がきちんと整備されているかなどをチェックし、モラハラが起きない環境づくりを行っていきましょう。
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