シニア人材のマネジメント課題|キャリア自律を促す3つのポイント

人口減少や少子高齢化により今までのような右肩上がりの経済成長を望めない中、バブル期に大量採用し現在ではミドル・シニア層となった人材のマネジメントに課題を持つ企業が増えています。

ミドル・シニア人材は社員数・人件費ともに企業内で大きなウエイトを占めています。一方、ミドル・シニア人材がもつ豊富な知識や経験といった強みを活かすことで、組織に貢献してもらえる可能性は大いにあります。

本記事では最近、注目されているミドル・シニア人材の「キャリア自律」について解説します。(注:本記事ではミドルを40~54歳、シニアを55~69歳と位置付けています)

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キャリア自律を支援する施策が注目を集めていますが、どのように取り組めばいいか分からない方も多いのではないでしょうか。

・他社がどのようなキャリア自律施策を行っているのか知りたい
・これからキャリア自律施策を検討し、組織活性化を図りたい

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目次

日本企業が頭を悩ませる、ミドル・シニア人材の問題

なぜ今、ミドル・シニア人材の活用が求められているのでしょうか。まずは、背景から見ていきます。

組織の高齢化

現在のミドル・シニア人材は、バブル世代、団塊ジュニア世代にあたり、社内の年齢構成では大きな割合を占めています。パーソル総合研究所の調査によると、正規社員のうち高齢者の割合が高い企業が全体の84.0%にも上っており、「組織の高齢化」が進行していることがわかります。

日本企業の年齢別人員構成

 

【出典】株式会社パーソル総合研究所「企業のシニア人材マネジメントに関する実態調査」

雇用においては、バブル・団塊ジュニア世代が2020年頃に賃金カーブのピークに達することから、人件費が増大することが懸念されています

関連記事「目前に迫る2025年問題とは? 何が起き、どう備えるべきかを徹底解説」を見る

成果と給与のミスマッチ

従来の評価制度は、年齢を基準に給与が上がり、昇進する「年功序列」が一般的でした。しかし、ポスト(役職)には限りがあり、全員が等しく昇進できるわけではありません。

そのため、40代を境に


 ・出世
 ・名ばかり管理職
 ・出世滞留

という、目に見えない三つの道にキャリアが分かれることになります。

ここで出世コースに乗ることができたとしても、決まった年齢で役職を退任しなくてはならない「役職定年制度(ポストオフ)」が導入されている場合、50代で役職を解かれる可能性もあります。

日本企業の標準キャリアマップと2つの谷

 

【出典】株式会社パーソル総合研究所「適性な処遇・配置とキャリア自律の促進~ミドル・シニアの生産性向上に向けたアプローチ~」

このように、昇進できない、もしくは、昇進できても役職定年を迎えた社員は、出世の道が絶たれたことや処遇への不満、部下との立場の逆転などから、仕事へのモチベーションが低下しがちです。その結果、成果が伴わなくても高い給与を支払っているという「成果と給与のミスマッチ」が起きています。

65歳までの定年引き上げ

高年齢者雇用安定法の改正により、2025年4月からすべての企業において「65歳に定年を引き上げ」「65歳までの継続雇用(希望者のみ)」「定年制の廃止」のいずれかの導入が義務付けられます。

また、2021年4月からは70歳までの就業機会確保が企業の努力義務となりました。

これまで60歳だった定年が65歳、または70歳になることで、新規採用を抑制せざるをえなくなる、組織の新陳代謝が滞るといった影響が生じる恐れがあります。

関連記事「『70歳定年』時代に向けて企業が準備すべきこと」を見る

ミドル・シニア人材の活躍をキャリア自律で促す

ここまでミドル・シニア人材の活用が必要である理由や背景を述べてきましたが、現状はどのようになっているのでしょうか。

パーソル総合研究所が企業を対象に行った調査によると、ミドル・シニア人材を活用した企業は「高い専門性の発揮」「取引先や人脈の伝承」「後進の育成」など、経験や専門性を活かした業務では、一定の成果が出ていると評価しています

一方で、「自律的な自身のキャリア構築」や「新たな仕事に対するチャレンジ」では、「組織の期待に十分に応えている」と活躍を評価している企業は2割未満に留まりました。

シニア人材の活躍状況

 

【出典】株式会社パーソル総合研究所「企業のシニア人材マネジメントに関する実態調査」

そこでミドル・シニア人材の良い点を活かしつつ、活躍を後押しできるようにするのが「キャリア自律」です。

キャリア自律…自らの中長期キャリアをイメージし、自発的にキャリア開発を進めていくこと

日本企業では組織がジョブローテーションや育成という名目で、配属・転勤を決めることが多く、社員の選択肢は限られていました。いわば自律させない仕組みがあったのです。

しかし、変化の激しい時代にミドル・シニア人材が活躍し、成果を出せるようになるには、“他律”から“自律”への転換は避けては通れない道です。社員自らが考えた理想のキャリアを目指して仕事に取り組めば、自然とモチベーションが上がり、それがパフォーマンスの向上にもつながります

ミドル・シニア人材のキャリア自律は若手にも影響を与える

ミドル・シニア人材のキャリア自律に取り組むと、本人たちのモチベーション向上だけでなく、若年社員にも影響があると考えられます。

例えば、シニア社員が活躍している職場では、若年社員の転職意向が抑制されることが、パーソル総合研究所の「シニア従業員とその同僚の就労意識に関する定量調査でわかりました。


 

【出典】株式会社パーソル総合研究所「シニア従業員とその同僚の就労意識に関する定量調査

また、50歳中盤からは大半が自身より年齢が下の上司のもと仕事を進めることになる中、上司のよき理解者・相談役となるよう積極的にフォロワーシップを発揮することができれば、企業全体の推進力にも大きな影響を与えるでしょう。

ミドル・シニア人材のキャリア自律に必要な3つのポイント

ミドル・シニア人材のキャリア自律を目的とした研修を導入する企業も増えていますが、研修を実施したからといって、すぐに社員の考え方や行動を変えられるわけではありません。

下記の3つすべてを実施することではじめて、キャリア自律が実現できます。

1.人事制度・マネジメント改革
2.ジョブ型雇用、社内労働市場の公開
3.自律意識の醸成

本章では、キャリア自律を推進するために企業が取り組むべきポイントをまとめて解説します。

1.人事制度・マネジメント改革

まずは、土台である人事制度そのものを変えます。特に、評価制度をこれまでの年功序列型から、職務や職責、成果に合わせた内容にすることが重要です。

その方法の一つがジョブ型の雇用と評価制度です。

▼ジョブ型雇用
職務・仕事(ジョブ)の内容に基づいて必要な人材を採用する仕組みのこと。「まず仕事ありき」でその仕事にコミットすることが求められる点において、日本で主流の「仕事は与えるもの/与えられるもの」と考えるメンバーシップ型雇用と異なる。

雇用をジョブ型にすることで、各社員の役割や仕事が明確になります。すると自ずと、仕事ができているか、成果を出しているのかが可視化されやすくなり、適切な評価ができるようになります

関連記事「ジョブ型雇用とは?メンバーシップ型との違いや事例から見る効果」を見る

加えて、マネジメント層の意識改革も同時に行います。日本人は波風を立てるのを好まないため、成果が伴わない部下に対しても当たり障りのないように「普通」と評価をつけることが珍しくありません。これを見直し、仕事の大きさや成果に応じて適切に評価する形式に変えていきましょう。

また、昇格・昇給基準の細分化・明確化や役職定年制度の導入により、「年齢とともに給料が上がるわけではない」と自覚してもらうことも大切です。

関連記事「人事評価制度とは?テレワーク下で見直すべきポイントを解説」を見る

2.職務の見える化と本人による選択

上述した通り、ジョブ型雇用を導入することで職域や役割が明確になり、適切な評価やマネジメントができるようになります。しかし、社員に自律を促すにはこれだけでは不十分です。

次のステップとして、社員に自ら職務(ジョブ)の内容を決めてもらいます

▼旅に例えると

  • 旅の目的地を決める=職務の内容を決める

職域(職種)をすべてオープン、かつ、公募制度などで誰もが選択できるようにし、組織の「地図」から目的地を選べる状態になっている。

  • 旅行かばんの中身=職務に必要な経験・スキル

目的地にたどり着くために必要な持ち物を提示する。 

このように現実と理想の未来ギャップがわかれば、社員の危機意識またはモチベーションが高まり、ギャップを埋めるための行動を始めます。これこそが、キャリア自律の第一歩となるのです。

3.自律意識の醸成

制度面の改革とともに、意識面の改革も必要です。

パーソル総合研究所の調査では、役職定年後に「上司」「部下人数」「年収」「仕事内容」についての変化を「事前にイメージできていた」のは3割前後に留まっています。自分のキャリアについては、どこか「他人ごと」になってしまいがちなのでしょう。

役職定年後に対する事前イメージと実際の変化との比較

 

【出典】株式会社パーソル総合研究所「ミドル・シニアの躍進実態調査」

キャリアを「自分ごと」として考えてもらうために有効な施策がキャリアプレビューです。

「管理職に上がれない」「役職定年を迎える」など、将来自分が直面するかもしれない不都合な事象をリアルなこととして伝え、キャリアを見つめ直すきっかけを作ります。

同時に、収入の変化(減少)とそれに合った暮らし方、資産運用で備えておくことも大事です。

この他に1on1やカウンセリングも欠かせません。研修などを通じてキャリア自律の必要性を理解したとしても、実際に意識や行動を変えるのは、難しいものです。必要に応じて働きかけることで、自律意識の醸成をサポートしましょう。

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キャリア自律を支援する施策が注目を集めていますが、どのように取り組めばいいか分からない方も多いのではないでしょうか。

・他社がどのようなキャリア自律施策を行っているのか知りたい
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まとめ|ミドル・シニア人材の課題解決のため社員への説明、理解をベースに自律を進めよう

組織の高齢化が進み、さらにコロナ禍で経済状況が大きく変化したことで、ミドル・シニア人材の活用は、もはや目をそらすことのできない喫緊の課題となっています。

今回、ご紹介したキャリア自律の施策がミドル・シニア人材にすぐ受け入れられるとは限りませんが、少子高齢化や自社が直面している課題など、導入の“大義”を説明することで理解、協力を得られるかに懸かっています。

なお、パーソルキャリアコンサルティングでは、ミドル・シニア人材のキャリア自律を促すための人事戦略設計のコンサルティングからキャリア研修、社員の自己理解をサポートするキャリアカウンセリングといったサービスをご用意しております。ミドル・シニア人材に自律したキャリアを歩んでもらい、組織への貢献につながるまで伴走しサポートします。ぜひ、お気軽にご相談ください。

パーソルグループのミドル・シニア躍進支援サービス

ミドル・シニア人材を取り巻く雇用の現状や課題を踏まえ、ミドル・シニア人材を躍進に導くサービスをご提供します。研修・コンサルティング・就職支援等、貴社の課題に沿ったソリューションをご提案しますので、ぜひお気軽にご相談ください。

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インタビュー・監修

石橋 誉

石橋 誉

株式会社パーソル総合研究所
コンサルティング2部 シニアマネジャー

国際会計事務所系コンサルティング(PwC、Deloitte)、国内戦略コンサルティングファーム(NTTデータ経営研究所)、リクルートキャリアコンサルティングを経て現在に至る。20年超のキャリアにおいて、ITコンサルティング、事業戦略コンサルティング、組織・人事コンサルティングのコンサルティングプロジェクト経験を持つ。組織・人事コンサルティングとしては、職務等級人事制度の設計、評価制度設計、人材開発体系設計、マネジメント強化、評価者研修、理念浸透・組織開発、キャリア開発のプロジェクトに複数関わる。2010年よりミドル・シニア領域の新規事業立ち上げのメンバーとしてリクルートキャリアコンサルティングに参画。企業の組織高年齢化、雇用延長に伴う人事課題の解決に向けたコンサルティングサービス、キャリア形成支援に関わるプロジェクトを担当。クライアントは、卸・商社、運輸、医薬、消費財、金融、SI、ハイテクメーカー、など多岐に渡る。2017年4月よりパーソル総合研究所に参画。
米国CCE、Inc 認定 GCDF-Japanキャリアカウンセラー。

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