2023年02月09日
2023年10月12日
近年、日本の労働市場における人材不足は深刻化しており、企業では社員の生産性を高める取り組みが求められています。また、今後の労働力不足を解消する鍵として、ミドル・シニア層は重要な担い手ですが、受け身の社員が多く生産性に課題があるという声も聞かれます。
そうした背景の中、社員一人ひとりが主体性を持ち、仕事で高いパフォーマンスを発揮するための手段の1つとして、キャリア自律が注目されています。特にミドル・シニア層により一層活躍してもらいたいといった企業では、積極的なキャリア自律の支援が有効です。
そこで、本記事ではキャリア自律が注目されている背景や実施するメリット、具体的な施策内容や効果的な実施方法まで解説します。
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キャリア自律を支援する施策が注目を集めていますが、どのように取り組めばいいか分からない方も多いのではないでしょうか。
・他社がどのようなキャリア自律施策を行っているのか知りたい
・これからキャリア自律施策を検討し、組織活性化を図りたい
そのような方に向け、「企業のキャリア自律施策の実態調査」レポートを公開しています。
キャリア自律を支援する施策を検討する際に、ぜひご活用ください。
キャリア自律とは、個人がキャリアについて自分なりの考えを持ち、自身の力でキャリアを切り拓くことを意味します。昨今では、キャリアオーナーシップとも言われます。
キャリア自律は、業務や経験を通して自然と形成されるものではなく、社員が自らの意思でキャリアについて考えたり、自身のキャリア形成のために行動する仕組みと機会を作ることが重要です。
具体的には、企業が以下のような施策を実施することが、社員のキャリア自律の促進に有効です。
ここからは、なぜキャリア自律が注目されるのか、キャリア自律に取り組む必要性も踏まえてその背景を解説します。
キャリア自律が注目される背景の1つとして、労働人口の減少が挙げられます。パーソル総合研究所の調査では、国内の労働市場が2030年には「644万人の人材不足」となることが明らかになっています。
人材不足が続く中で、企業は優秀な人材を確保するだけでなく、社員一人ひとりの労働生産性を高める必要があります。そのためには、一人ひとりが自ら考え行動するような主体性を持った社員が必要です。
また、生産性の向上は全年代が持つべき考えです。新型コロナウイルス拡大や技術革新など、企業を取り巻く環境が目まぐるしく変化する中で、今までの終身雇用を前提としたはたらき方は通用しなくなってきています
終身雇用や年功序列に代表される「メンバーシップ型雇用」から、「ジョブ型雇用」の推進が増えていることもキャリア自律が注目される背景の1つです。ジョブ型雇用とは、職務内容を明確に定義し、職務や実績で評価する雇用システムのことを指します。
成果やスキルが人事評価に直結するため、社員は主体的に自らキャリアを考えて行動に移さなければなりません。また企業側もこうした社員に対し、仕組みを整えてキャリア自律を支援する必要があります。
企業を取り巻く環境が大きく変化する中で、社員のはたらき方や価値観、キャリア形成の在り方も多様化しています。
例えば、株式会社日本マンパワーの「新入社員意識調査2022」によると、「仕事の中で、将来の自分についてどのようなイメージを描いていますか」という質問に対し、「管理職になりたい」「出世は希望しない」「副業しながらはたらきたい」「起業をしたい」とキャリアに対する考え方はさまざまです。
このようにキャリアに対する価値観が多様化する中で、企業には社員一人ひとりのキャリア実現を支援し、スキルや能力を上げる人材開発が求められます。これまでのように入社年次に合わせて一律に行う「階層別研修」から、各人の課題に応じて自ら選択して受講する「選択型研修」へと移行している企業が増えているのは、その表れです。
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企業が積極的にキャリア自律を支援していくことは、社員のみならず組織にさまざまなメリットをもたらします。キャリア自律の支援によって組織の経営課題として挙げられる労働生産性の問題や、人材マネジメント面での課題が改善されるケースもあります。
ここでは、企業がキャリア自律を支援するメリットを4つのポイントから解説します。自社が直面している課題と照らし合わせて、キャリア自律の考え方を取り入れるべきなのか検討しましょう。
企業がキャリア自律を支援することで、社員は自分の仕事に対して興味を持ち、意欲的に取り組む状態へと変化を促すことができます。
パーソル総合研究所の調査によると、キャリア自律度が高い層はキャリア自律が低い層と比べ、ワーク・エンゲイジメントが約1.27倍高いことが明らかになりました。ワーク・エンゲイジメントが高いほど、社員は誇りとやりがいをもって、いきいきとはたらくことができます。
ワーク・エンゲイジメントが高い社員は帰属意識が高く企業との関係性が良好なため、業務に対するストレスも低い傾向にあります。こうした社員が職場の中で増加すれば、未然にストレスを生み出さない環境を自然と創出することにつながり、健康的な組織づくりを進めることができます。
帰属意識の高さは社員の定着率向上にもつながります。定着率が高く、キャリア自律を支援する環境であれば、優秀な人材が集まる確率も上がります。優秀な人材が集まれば、さらなるパフォーマンス向上に期待できるでしょう。
また、先の調査でも、キャリア自律度が高い層はキャリア自律が低い層と比べ、人生満足度も高いという結果が出ています。
キャリア自律の高さは個人のパフォーマンスの高さに影響し、そのような社員が増えれば、組織の活性化や生産性向上をもたらします。
個人のパフォーマンスが高い社員は、組織ビジョンの実現に向け自らやるべきことを見出し、能動的・主体的に行動します。こうした社員は目の前のビジネス成果だけではなく「組織のビジョンをどう実現するか」という視点でも考え、動くため、社員同士で支援したり業務スキルを補い合ったりといったことが自然となされる状態になります。
社内のコミュニケーションが増えれば、各々が抱える業務を分担したり、適材適所な人材配置を行うことができます。結果として組織のパフォーマンスも高まります。限られた人材の中で、組織の生産性を上げるには、個人とチームがともに継続的に成長できる組織を形作ることが必要です。
キャリア自律は、個人のスキルや能力を向上させる点でも有効です。近年、キャリアに対する価値観の多様化を受け、社員一人ひとりのスキルや能力を高めて企業の成長を図る「自律的な人材開発」を導入する企業が増えています。業務に必要なスキルを一律に取得する人材育成とは違い、人材開発は社員が自ら目的を設定して、スキルや能力の向上を目指します。
社員が個人で目標を設定するためには、自らの成長イメージや目指すキャリアが描けていることが必要不可欠です。企業がキャリア自律の支援を行えば、成長イメージやキャリアを自発的に社員が描くようになり、結果として個々のスキル・能力アップにつなげることができます。
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高年齢化する組織に求められる人材マネジメント
ミドル・シニア層の活躍に向けた方策とは
社員へキャリア自律を促すためには、企業はさまざまな施策を講じる必要があります。自社へキャリア自律支援を導入するにあたって必要な施策を理解し、導入の準備を行いましょう。
ここでは、キャリア自律を促す7つの施策を紹介します。
年代によってキャリアに関する課題も異なります。そのため、年代に合わせてキャリアを考える機会(キャリア研修)を実施することをおすすめします。
「自身のキャリアについて普段から考えている」という人は若手では増えていますが、ミドル・シニアになるほど少ないのが現状です。仕事が忙しく、考えないまま時間ばかりが過ぎているという話もよく聞きます。
キャリアを考える機会を作ることで自らの強み、価値観、やりがいなど、自己理解を深めるとともに、同年代で対話をすることで、相互作用で気づきが促進され、自分だけでは考えられなかったキャリア目標を掲げることができます。
キャリア目標に向けた行動計画を策定し、上司とのキャリア面談に進むことは、実行に向けた支援を受ける機会にもなります。
部下と上司がキャリアについて対話する場を設けます。上司は部下が今後のキャリアをどう考えているかを聞き、対話を行うことで、自律的にキャリアを考える必要性を伝えたり、支援できることは何かを一緒に考えたりできます。
キャリアに関する対話を行うときは、キャリアプランシートを使ってキャリア意思を示してもらうことをおすすめします。過去・現在・将来と段階別にキャリアを考えることができます。
STEP1 これまでの経験 今の自分 |
STEP2 これからやりたいこと |
STEP3 どのように 能力を伸ばすのか |
職務経験 (過去・現在) ・これまでの経験の棚卸し ・身につけた知識、能力 ・現在の職務について |
将来計画 (将来) ・自身の価値観、興味 ・自分の強み ・将来やりたいこと (仕事・プライベート) |
行動計画 (将来) ありたい姿に向けての ・自己啓発計画 ・研修受講計画 ・仕事経験の計画 |
また、先に紹介したキャリア研修にキャリアコンサルティングを組み合わせ、社員を支援することもおすすめです。こうした企業の体系的な取り組みはセルフ・キャリアドックと言われています。
中長期的な視点で社員のキャリアビジョンを描き、ビジョン達成のために実践的に活用できるプロセスや環境を企業が提供します。
キャリア面談をはじめ、キャリア自律支援の実践には、管理職自身が自分のキャリアについて考え、行動に移していくことが重要です。しかしながら、管理職ほどキャリア自律の意識は低い傾向にあります。管理職がキャリア自律について何も理解しないまま、部下のキャリア支援を行っても効果は見込めません。
キャリア自律はなぜ必要か、どんな効果が見込めるのかを理解したうえで、管理職が率先して自身のキャリアビジョンを描き、開発に向けた行動を実践していただくことが大切です。管理職自身がロールモデルとなり、部下やメンバーの支援を行えるようになります。
そもそもキャリア自律は若手層だけの取り組みではありません。ミドル・シニア層を含め、すべての世代が今後社内でパフォーマンスを発揮するためにも、管理職自身がモデルケースとして手本を見せていくことが求められます。
社内にどのような部署や職務、ポジションがあるのかが明示されていることも重要です。社員が今後、どのようなキャリアパスがあるのかを知ることで、自己の将来の可能性を認識し、キャリア目標を持ちやすくなります。
将来のポジションや役割を明確にすることで、「何ができなければいけないか」「今なにを学ぶべきか」「そのために、今なにをすべきか」が明確になります。
キャリア自律したいと考える社員が増えても、その意向を会社や上司に伝える機会が無ければ意味がありません。公募制度やキャリア・カウンセリング、上司との対話など、「キャリア意向の表明機会」が重要になります。
必要な人材やポジションを公表し、社内で希望者を募る社内公募制度を活性化することが重要な施策の1つです。新たな業務や部署への異動を希望する社員が手を挙げやすいよう、積極的にキャリア意向を表明する機会を設けましょう。
ここで重要なのは社内公募制度を策定するだけではなく、社内ジョブ・マッチング・システムを機能させることです。社員からキャリア意向が表明された場合、人事異動で配置転換を行うなど実際に反映されていることを社内で告知していくことも大切です。希望をすべて実現させることは難しいですが、優秀な人材ほどこの会社で自分がキャリア実現できるのか、会社の動きを観察しているものです。
リカレント教育を推進することも、社員のキャリア自律の支援に役立ちます。リカレント教育とは、学校教育を終えて社会人になった後も、個人が就労と学習を繰り返すことで、キャリアのレベルアップを目指すことです。
リカレント教育は誰かが強制するものではなく、個人の主体性に委ねられます。しかし、社員が研鑽に励むことは企業にとってもメリットになるため、キャリア自律と同様に学習の支援をする企業が増加しています。
リカレント教育の促進には、資格取得に応じた報奨金や、学習した社員を評価する手当を与えることが有効です。
リスキリングの推進も、キャリア自律の支援に有効です。リスキリングとは、現在とは異なる領域や職務のスキルを社員に新たに習得してもらう取り組みです。リスキリングの目的は、発展や変化をしている領域で新たなビジネス・価値を生み出し、より付加価値の高い職務を遂行できる社員を育成することです。
近年、産業構造が大きく変化し、一部の職種では人材過剰となる可能性も指摘されています。社員に新たなスキルを取得させ配置転換を行うといった点でも、リスキリングが注目を集めています。
リスキリングを推進するには、企業側が今後新たに自社で必要となる業務・スキルを洗い出し、社内に周知させていきましょう。
リスキリングは人材戦略の一つであり、経営戦略と連動しています。そのため、社員の主体性に任せるのではなく、企業側が市場の情勢や経営戦略を考慮した上で、この先自社で求められる業務・スキルを決定しなければなりません。
そして決定後は、企業の発展のために必要なスキル、現時点で不足しているスキルを従業員に周知することが大切です。現状と理想とのギャップを認識してもらうことで、意欲的に学習に励んでもらいやすくなります。
副業では、日頃社内では得られない経験や人脈を形成することができます。元々個人が持つ知識や知見を違った形で生かすことができ、得たものを本業に還元することができます。
パーソル総合研究所が実施した「副業の実態・意識に関する定量調査」によると、副業を実施したことによって「本業に役立つスキル・知識が身についた」「視野が拡大した」「新しいことを取り入れることに抵抗がなくなった」など、スキルやマインドセット面で本業にプラスの効果が見られました。
また、副業を推進するにあたり、企業は副業者を抑圧・抑制しないことも重要です。「副業についてのアドバイス」「副業に対する肯定的な評価」などの上司による副業への肯定的な態度も、本業へのプラスの効果を高めます。副業による本業へのプラスの効果を期待する場合には、職場と上司いずれもの「積極的な副業への支援」が重要です。
企業側が単に「キャリア自律を実践してください」と呼びかけるだけでは、キャリアについて自ら考えたり、自ら学ぶ風土は社内に育ちません。キャリア自律を成功させるためには、なぜキャリア自律に取り組むべきか全社員に理解してもらった上で、社員自らが行動に移しやすくなる環境を整備することが必要です。
本章では、キャリア自律を成功させるための具体的な施策について、要点を絞って解説していきます。
キャリア自律の支援がなかなかうまくいかない企業の特徴として、社員がキャリア自律の必要性を理解していないことが挙げられます。社員の理解がないまま制度を作っても、制度だけが形骸化してしまう恐れがあります。
企業は社員に対し、なぜキャリア自律が必要だと考えるのか、施策に込めた思いを明確に意思表明しましょう。
キャリア自律を促すことは企業の成長にもつながります。企業としてキャリア自律に取り組むという意識を持ち、社員への理解や納得性を醸成していくことを心掛けましょう。
キャリアについて考え始めた社員個人に気付きを与え、自身を見つめ直す機会をつくるためにキャリア相談窓口を設置することも重要な施策です。上司以外の違った視点からのアドバイスを受けられるメリットがあります。
また、相談した社員が、その後どうなったかまでをフォローすることも重要です。さらなる改善点が必要であれば、キャリア相談窓口やコンサルタントから、キャリア自律に必要なアドバイスを行いましょう。
近年では、メンター制度を導入している企業も増えています。メンター制度とは、社員に対し、精神面やキャリアでの悩みについて相談できる人をつける制度です。若手社員に対し、普段から接する機会が多い先輩社員がメンターになるケースが一般的です。
若手社員の中には、相談窓口やコンサルタントに相談しにくい人もいるでしょう。先輩社員をメンターにすることにより、話しやすい人に自身のキャリアを相談できます。相談窓口やコンサルタント、メンターを通じ、自身にとって最適なキャリアを知ることが大切です。
キャリア自律の醸成には、能動的な教育訓練をした経験が関係しています。パーソル総合研究所の調査によると、個別業務のスキルアップ研修や中途入社研修、管理職向け研修などの研修がキャリア自律に影響していることが明らかになりました。
マネジメント研修やビジネススキル研修といった研修を実施すれば、社員は能動的な訓練の経験を積めます。研修に参加すれば、自身の適性を知る機会にもなるでしょう。多様な研修を開催し、社員に対して選択肢を与えることが大切です。
キャリア自律の支援施策についてご相談いただけます
パーソルグループではさまざまな目的や対象者にあわせたキャリア自律支援を提供しています。キャリア自律施策設計にあたってお困りごとがあれば、お気軽にパーソルグループまでご相談ください。
企業がキャリア自律支援を行うことで、自ら主体的に考え、社員が育ち、社員のエンゲージメントの向上や、組織の活性化を期待できるメリットがあります。
そのためには、管理職社員への理解を促すことや、キャリア相談窓口を設置するなど、企業がキャリア自律の啓蒙活動を行うことが重要です。
キャリア自律支援を行い、社内から優秀な人材を発掘し、組織の活性化へつなげましょう。
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キャリア自律を支援する施策が注目を集めていますが、どのように取り組めばいいか分からない方も多いのではないでしょうか。
・他社がどのようなキャリア自律施策を行っているのか知りたい
・これからキャリア自律施策を検討し、組織活性化を図りたい
そのような方に向け、「企業のキャリア自律施策の実態調査」レポートを公開しています。
キャリア自律を支援する施策を検討する際に、ぜひご活用ください。
株式会社パーソル総合研究所
ラーニング事業本部 キャリア開発支援グループ マネジャー
小室 銘子
大学卒業後、証券会社の営業、商社での企画職を経て、人材派遣会社にて広告宣伝、営業、コーディネーター、スタッフ教育、企業研修等すべての分野を経験。多くの女性部下をマネジメントしてきた経験を活かして、「職場で活躍する」社員育成のプログラム開発・D&IE・キャリア開発支援を得意とする。社会人大学院に通い、アカデミック領域と実務を繋げる研究に従事。2020年4月から企業向けキャリア開発支援を担当。