2021年06月02日
2024年09月20日
はたらき方や価値観が多様化し、企業と従業員の「つながり」に大きな変化が訪れています。そこで、従業員がはたらきやすいと感じる環境づくりの実現に向けて、注目されているのが「エンゲージメントサーベイ」です。
本記事では、エンゲージメントサーベイの意味や目的、実施するにあたってのポイント、設問例などを解説します。
【調査レポート】エンゲージメント向上の取り組み実態とは?
近年「エンゲージメント」の重要性が増しています。この背景には、人的資本経営の主要な指標として認識されるようになったことなどが挙げられます。エンゲージメントを向上させることで、従業員の行動や成果・業績が改善し、ひいては組織のビジョンの実現にもつながります。
パーソルグループでは、企業の経営層ならびに人事に携わる方を対象に、人事施策に関する調査を行い、その中から「エンゲージメント」に関する調査結果をまとめたレポートを公開中です。レポートでは、エンゲージメント向上の取り組み実態や課題などを解説しています。
自社のエンゲージメント向上に課題をお持ちの経営層や人事担当者の方はぜひ本資料をご活用ください。
目次
「エンゲージメントサーベイ」とは、従業員のエンゲージメント、つまり、はたらく人が企業活動に積極的に参与・参画している度合いを可視化するための調査です。 従業員が組織や自社が提供している商品・サービスに対して、どれくらい熱意や愛着を持っているかを測定できます。
エンゲージメントサーベイが注目されるようになった背景には、従業員と企業の関係性の変化が挙げられます。
かつての日本は1つの会社に定年まで勤める終身雇用が主流でしたが、昨今は個人の価値観やはたらき方に対する考え方が多様化し、いまや転職も一般的です。また、米ギャラップ社の調査「State of the Global Workplace:2022 report」によると、日本では熱意あふれる(エンゲージメントの高い)社員の割合はわずか5%という結果で、アメリカの35%やグローバル平均の22%と比較しても低い数値となっています。
そのような中で「弱くなってしまった企業と従業員の結びつきを強固にしたい」「会社の理念に共感して熱意を持った人材がほしい」と考える企業が増えたことで、注目されるようになったのが、エンゲージメントサーベイです。
エンゲージメントサーベイと似ている言葉に、「従業員満足度調査」があります。従業員満足度調査は会社の制度や労働環境に対する満足度を測る調査であり、従業員がどれくらい職場に居心地の良さを感じているかがわかります。
従業員満足度とエンゲージメントの違いは、数値の上昇が必ずしも組織の生産性や業績の向上につながらないところです。エンゲージメントは業務に対する意欲や積極的な姿勢といった内面的な状態がわかるのに対して、従業員満足度は制度や労働環境に不平不満がないかを確認します。
【関連記事】組織サーベイとは|目的やメリット、実施方法をわかりやすく
エンゲージメントサーベイを実施する目的は大きく以下の2つがあげられます。
エンゲージメントサーベイでは、企業の掲げるビジョンの浸透度合いや上司や同僚などとの関係性などにおいて、従業員が抱いている期待と現状のギャップを把握できます。
これによって組織の人材に関する課題が明確になるのに加えて、職場の人間関係の悪化やモチベーションの低下など、社内トラブルや離職につながりかねない問題の早期発見にもつながります。
【関連記事】【事例あり】組織活性化とは|実現への5ステップ、取り組みの効果
エンゲージメントサーベイのデータは、人事施策の実施・改善に活かすことができます。
定期的にサーベイを実施し、従業員のエンゲージメントを把握しておくことで、打つべき施策の検討に役立つでしょう。従業員のエンゲージメントの推移を確認しながら施策を実施すれば、最終的に戦力となる人材の増加や業績の向上につながるでしょう。
エンゲージメントサーベイを活用し、組織課題の分析と改善に取り組むことで、以下のような効果が期待できます。
エンゲージメントサーベイを定期的に実施することで、モチベーションの低下や職場環境への不満などを早期発見できます。サーベイの結果をもとに、上司と部下の面談を設けたり、職場環境を改善したりすることで、エンゲージメントの改善を図りやすくなるでしょう。
従業員のエンゲージメントが高まると、会社はもちろん一緒にはたらく仲間に対しても愛着や信頼が生まれ、意欲的に仕事に取り組めるようになります。結果的に、定着率の向上や離職率の低下が期待できます。
【関連記事】モチベーションマネジメントとは|低下する原因と具体的な改善施策
組織のエンゲージメントが高まると、従業員が意欲的にはたらけるようになります。エンゲージメントの高い従業員は自主性が高く、自分の役割以外の業務も積極的に行います。多忙な同僚をサポートするような行動が増えれば、組織全体の生産性向上につながります。
また、エンゲージメントサーベイの結果を踏まえ、組織への貢献度が高い従業員を責任あるポジションに抜擢するといった人事施策に活かすことで、組織が活性化するでしょう。
【関連記事】生産性向上とは?具体的な6つの施策や業務効率化との違いを解説
近年、問題視されているハラスメントや、社内の人間関係のトラブルを防ぐ意味でも、エンゲージメントサーベイは有効です。周囲の同僚に直接相談するのが憚られる場合でも、個別に回答するエンゲージメントサーベイであれば、人間関係に不安があることを伝えやすい人もいるでしょう。
あからさまなハラスメントに発展していなくても、上司や同僚の何気ない言動が精神面に悪影響を及ぼしている可能性もあります。エンゲージメントサーベイは、そうしたリスクを早々に察知して対処する上でも役立ちます。
リファラル採用とは、自社の従業員の紹介によって新たな人材を採用する手法です。社内の状況をよく知る従業員からの紹介という性質上、採用した人材の定着率が高く、スキルやマインドのミスマッチが少ないという傾向があります。また、採用活動にかかるコストを削減できる点もメリットと言えます。
エンゲージメントの高い従業員は、自社の良さを社外にも広めてくれる可能性があるでしょう。会社をより良くしたいという思いから、優秀な人材を引き込んでくれるかもしれません。従業員のエンゲージメント向上を目指すことによって、採用活動の活発化も期待できます。
エンゲージメントサーベイは以下7つのステップで実施しましょう。それぞれのステップについて解説します。
エンゲージメントサーベイを実施する目的を、従業員にあらかじめ共有しましょう。調査の意図を説明し、従業員に納得してもらうことで回答率がアップします。
従業員に回答してもらう質問を決定します。設問決定については、次の章で詳しく説明します。
エンゲージメントサーベイを実施します。メールなどで従業員に一斉通知し、それぞれ期限内に回答してもらう流れが一般的です。
エンゲージメントサーベイの結果を分析し、課題を洗い出します。
結果によって導き出された課題に対して、解決するための施策を決定します。
どの課題から解決すべきか優先順位をつけ、施策を実行します。
実施した施策については、効果があったかどうか検証することが重要です。効果が見られなかった場合は、別の施策を実施します。
このようなPDCAを回すことで、課題を抽出し解決に導きます。
サーベイの設問項目は、分析やフィードバックがしやすいように、テーマが絞り込まれた、かつシンプルなものが望ましいとされています。また、回答は記述式ではなく、5段階や10段階で評価するほうが定量化しやすくなります。参考例として、2つの質問例を紹介します。
アメリカの調査会社ギャラップ社では、12個の設問をエンゲージメントサーベイの最適な設問としています。具体的には、以下のようなミッション・ビジョン・バリューの浸透や自己承認、上司や同僚との関係といった項目について、それぞれ5段階で評価します。
Q1:あなたは職場で自分が何を期待されているのかを知っている
Q2:仕事を正しく行うために必要な環境を与えられている
Q3:職場で自分のベスト尽くす機会を毎日与えられている
Q4:この1週間のうちに、よい仕事をしたと認められたり、褒められたりした
Q5:上司や同僚は、自分をひとりの人間として気にかけてくれている
Q6:上司や同僚が自分の成長を後押ししてくれる
Q7:自分の意見が尊重されている
Q8:会社の使命や目的により、自分の仕事は重要であると感じている
Q9:同僚が真剣に質の高い仕事をしようとしている
Q10:職場に親友がいる
Q11:この6カ月のうちに、職場の誰かと自分の進歩について話した
Q12:この1年のうちに、成長する機会があった
「eNPS」は、アメリカのベイン・アンド・カンパニー社が開発した指標をApple社が応用したものです。「自社ではたらくことをどの程度親しい人に勧めたいか」というシンプルな質問に対し、以下のように0~10点で評価します。
0点~6点:批判者
7点~8点:中立者
9点~10点:推奨者
eNPSは、少ない設問項目で構成されているため、改善ポイントが把握しやすいというメリットがあります。
エンゲージメントサーベイを実施する際、ポイントとなるのは実施後です。実施後に気をつけるべきポイントは以下の2つです。
エンゲージメントサーベイを実施して、データを収集したらすぐに分析を行い、回答者である従業員に共有することが大切です。
エンゲージメントサーベイは、その時点で所属している部署やプロジェクトチームを対象とした内容になるため、フィードバックの前に部署やプロジェクトチームの再編がないように注意しましょう。部署やプロジェクトチームが抱える課題が明らかになったら、関係者全員で話し合い、課題の解決を目指します。
【関連記事】1on1とは?目的や話す内容・面談との違い【取り組み調査あり】
関係者全員で課題について話し合う上で、データの解釈に違いが生まれることもあるでしょう。まずは、その違いを互いに受け入れることが重要です受け入れた上で、部署やプロジェクトチームが、将来どのような状態にあるべきか、どのような役割を果たすべきかを前向きに話し合いましょう。
対話を繰り返しながら、将来のストーリーを描いていくことが大切です。
最後に、エンゲージメントサーベイを効果的に取り入れた企業の事例を紹介します。
業種:IT
従業員数:1,000人以上
資本金:400億円以上
とあるIT企業は、短期間で組織を拡大し、従業員が急増しました。また、成長分野では組織内外の環境がどんどん変化するため、チーム編成も目まぐるしく変わっていました。そのような状況下でも組織の健全な状態を保つために、エンゲージメントサーベイのフィードバックに力を入れ始めました。
・サーベイは3ケ月に1度の実施
・数日間で集計と分析を行って経営会議で発表してフィードバックをもらう
・フィードバックを各部署のミーティングでアクションプランに落とし込む
PDCAを素早く回すことで、従業員のエンゲージメントの変化にいち早く気づいて手を打つことができ、「会社が働きかけてくれた」と従業員からの評価を得ることができました。結果を具体的なアクションにまで落とし込むことを徹底したのも、サーベイの効果的な運用のポイントです。
業種:電機メーカー
従業員数:20万人以上
資本金:2,500億円以上
国内有数の電機メーカーでは、従業員のはたらきがいを向上させるために、意識調査を年に一度実施して職場の状況を可視化しています。サーベイを効果的に活用するには、定量的なデータから課題が見えたあとに本音でディスカッションをすることが大切だと考えられています。「自身の力で会社・組織を動かせる」ことを社員に実感してもらうために、フィードバックの場では上司を交えて本音で語り合える心理的安全性の確保を徹底しました。
・自分の経歴や興味や特技など、パーソナルな情報を話す場をつくる
・入社後から現在までの浮き沈みをライフラインチャートにして、まず同僚や上司、部下のことを知る
これらの施策で、他者のことを「知ろう」というスタンスで話し合うことができ、心の距離を縮めています。また、サーベイのフィードバックは課題だけではなく、ポジティブなことを出し合うことも重視して実施しています。
個人の価値観が多様化し、個人と組織の関係性が変化した現代社会において、エンゲージメントサーベイは注目を集めています。エンゲージメントサーベイを実施し、その結果を有意義に活用することは、人材の流出を防ぐだけではなく、必要な人材を安定的に獲得することにつながります。
ただし、エンゲージメントサーベイを実施するだけでは意味がありません。サーベイの結果をもとに分析し、改善策を打つことにより、より良い職場環境の構築につながります。
エンゲージメントサーベイの目的を理解し、効果的なサーベイを実施しましょう。
【サービス資料】エンゲージメントを高める、サーベイ+ワークショップ「エンゲージメントナビ」
昨今、多様なバックグラウンドや価値観を持つ人材が集まる組織においては、従来のような人材のモチベーション管理だけで熱意や意欲を引き出すのは難しくなりつつあります。
組織力を強化して企業の競争力を高めるには、従業員の組織に対するエンゲージメントが高い状態にあることが求められます。
パーソル総合研究所の「エンゲージメントナビ」は、従業員への調査だけではなく、人材にまつわる課題の明確化とアクションプラン策定までご支援するツールです。詳しいサービス資料は以下よりダウンロードいただけます。
A1.「エンゲージメントサーベイ」とは、従業員のエンゲージメント、つまり、企業との心のつながりを可視化するための調査です。従業員が会社や自社が提供している商品・サービスに対して、どれくらい熱意や愛着を持っているかを測定できます。
>>エンゲージメントサーベイとは?
A2.エンゲージメントサーベイは、組織の課題を見える化し、データを人事施策やチーム運営に活かすことが目的です。定期的にサーベイを実施することで、組織に対するエンゲージメントの変化がわかるため、モチベーションの低下や周囲との関係性の悪化などを早くキャッチアップできます。サーベイの結果をもとに改善に向けた対策を打つことにより、効果的な人事施策やチーム運営に活かせるでしょう。
>>エンゲージメントサーベイの目的