【事例あり】組織活性化とは|実現への5ステップ、取り組みの効果

活性化している組織に所属する社員は、組織ビジョンに自身の思いが内包されていることから、「やらされ感」を持ってはたらいていません。多くの社員は、”自分ゴト化”された組織ビジョンの実現に向け、やるべきことを自ら見出し、能動的・主体的に取り組むといった行動を採ります。また、相互に助け合う「ソーシャルサポート」が自然となされます。

活性化された組織を考えるうえでは、組織風土は自然とできるものではなく、意図を持ち、戦略的に実現するものであるという観点が重要です。

本記事では、組織活性化の定義や、組織を革新させるためのステップ、実際に組織を活性化させた事例について詳しく解説します。

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目次

組織活性化とは?

「組織活性化」とはどういう状態なのか、統一された定義は存在しないため、本記事では以下のように定義しています。

組織活性化

互いに認め合い、建設的な議論を行いながら組織と共有している目的・価値を能動的に実現していこうとする状態

人材不足が深刻化し、採用難が続く中、企業が永続的に変化・成長していくには、今いる社員一人ひとりのパフォーマンスを最大化しつつ、組織として総合力が発揮できる状態をつくっていく必要があります。

しかし、ビジネス成果のみに焦点をあて早急に高めようとすると、各人の心的負荷が高まり、相互援助がなされない”ギスギスした職場”へと変わってしまいます。重要なのは、永続的に成果を生み出せる組織基盤の構築であり、その組織を形づくる社員一人ひとりが幸福感を得ながらはたらけることだといえます。

活性化している組織では、上司部下間や部下間における相互理解が進んでおり、気軽なコミュニケーションや本質的な議論が多くなされています。このような関係によって従業員の職場に対する帰属意識が高まり、離職率が低くなるといった効果が生まれます。

職場の傾向としては以下がみられます。

    • 積極的にソーシャルサポートがなされている
    • ※4種類のサポート:情緒的、評価的、道具的、情報的サポート
    • トランザクティブ・メモリー・システムが構築運用されている
    • 共有メンタルモデルによってスムーズな業務推進がなされている
    • 課題葛藤に対するコンフリクト・マネジメントが機能している

組織活性化を実現する5つのステップ|SDモデル

活性化された組織をつくり上げるにあたり、どのような組織・チーム状態を目指していけばよいのでしょうか?本章では組織を活性化し、成果を生み出すためのステップとして、SDモデルを紹介します。

SDモデルは、組織が永続的にビジネス成果を生み出せる状態へと変化・成長していく過程を5つの段階で示したものです。

1.Search(自分たちの素晴らしさを発見できる)

他人と効果的な関わりを持つためには、まず自分自身のことを深く理解しておく必要があります。そのためにも、セルフコーチングなどを実施し、自己概念の表出化や自己呈示などを行うと良いでしょう。

以下のような問いに答えることで、自己理解が進みます。

    • 私を、言葉で表現するとどのように表すことができるだろうか?
    • 私は、他者からどのように見られたいのだろうか?
    • 私が、大切としていることや譲れないことは何だろうか?
    • 私は、仕事を通して何を実現したいと思っているのか?
    • 私の強みとは何だろうか?

自分自身を深く知る行為を通して、相手を知るためのポイントも明確となり、相手に対する興味・関心も生まれます。

2.Satisfaction(他者を受け入れ認め合える)

この場面では、”ワイガヤ”や”ガチ対話”が求められます。しかし、多くの職場では心理的安全性が担保されていないことから、ホンネで話すことはできません。

よって最初に「この場は何か意思決定したり、評価をしたりするのではなく、分かり合うことが目的」であると明示します。そのうえで、それぞれの思いや価値観、考え方が異なるのは当然のことと確認し、対話を通して相互理解を進めましょう。

▼心理的安全性が低いことで発生する4つの不安

無知だと思われる不安 業務遂行上の不明点を確認したいが、「この程度のこともわかっていないのか」と思われてしまいそうで不安になり、必要な質問ができなくなってしまう。
無能だと思われる不安 担当業務がうまく進められないときに、「こんなこともできないのか」「使えない人だ」と思われないか不安になり、ミスの報告や必要な支援要請ができなくなってしまう。
ネガティブだと思われる不安 目の前の議論を聞いていて、懸念点があるから指摘したいが「ネガティブな人だ」「否定的な発言で和が乱れる」と思われないか不安になり、反対意見が出せなくなってしまう。
邪魔をしていると思われる不安 意見があっても、「ここで発言すると、収束しかけた考えが、また発散してしまうのではないか」「皆の邪魔になってしまうのでは」と不安になり、せっかく思いついた考えが述べられなくなってしまう。また他者にフィードバックの依頼も遠慮してしまう。

一人ひとりが異なる存在であることを理解し、その違いを認め、受け入れあうのがポイントです。

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3.Spin(個人だけでなくチームとしての夢を語れる)

この場面では、各人のビジョンを紡ぎ合わせ、組織やチームのビジョンへと昇華させていきます。

ここで作られる「チームビジョン」には、メンバー各自の思い・ビジョンが反映されているため、「我々が尊重されたチームビジョン」というとらえ方がなされます。そして、「実現に向けて共に頑張ろうという意欲」が職場に芽生えます。これが、チームビジョンの“自分ゴト化”プロセスです。

このプロセスにより、各人の能動的・主体的行動を引き出すことが可能となります。

チームビジョンを紡ぎあげるダブルループ活動

4.Design(夢を実現するための具体的な道筋を描く)

この場面では、チームビジョンの実現に向けた具体的な進め方を設計します。

合意されたチームビジョンの背景や目的、目標をチーム内で改めて共有し、実現に向けた課題などを事前に洗い出し、各人の負荷なども考慮しながら全員で計画を立てていきます。この場面で効果を発揮するのが、先述の「トランザクティブ・メモリー・システム」や「共有メンタルモデル」などです。

計画については、チームが担っているミッションの達成に関する計画もあれば、実現するためのチーム状態に関する計画もあり、これらを統合して考えることがポイントです。

5.Development(個人/チームが共に継続的に成長できる)

設計された計画に沿って進め、計画と実績についてふり返ります。

目の前の業務へどう対応するかのみ考えるのではなく、常に目的を意識し、あわせてチームメンバーの成長に自身が寄与する(ソーシャルサポート)ことも考えながら計画に落とし込んだ業務へ対応していきます。

自身の思いが取り込まれたチームビジョンへ、深いところで分かり合った仲間と共に協働していくこと。そして、日々の業務を通して自身が成長できること。また、仕事を通して成果を生み出せることはビジネスパーソンにとって幸せな状態であると言えます。

SDモデルでは、このような組織の状態変化を表しています。

組織活性の評価方法

組織活性の度合いは、各企業や職場で設定される目標によって大きく変わりますが、以下のような考え方が可能です。

成果は「ビジネス」と「人・組織」の両面で捉える

企業では組織活性化により、「ビジネス目標の達成」と「人材や組織における状態目標の達成」という二軸目標の達成が求められています。しかし、多くの企業ではどちらか一方しか見られていません。

ビジネス成果を永続的に生み出すためには、組織基盤を整える必要があることは前述の通りです。焦って短期的な業績を追求するのではなく、無理なく成長し続けられる状態をつくっていくことが、会社にとっても社員にとっても理想的な状態と言えるでしょう。

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調査は「量的」と「質的」の両面で実施する

プロジェクトの開始時と完了時に調査を行い、変化を見ます。このとき、量的調査と質的調査の両方を実施することが望ましいでしょう。

質的調査では、量的調査(アンケート調査)で明らかになった結果が「なぜ起こっているのか?」について仮説をもってインタビューし、検証を行ったりします。質的調査を実施する理由は、量的調査のみでは得られる情報に限界があるからです。

問題点1.回答者の判断基準がプロジェクト前後で変わる

組織活性化の取り組み後に量的調査(組織サーベイなど)を実施すると、プロジェクト後に数値が下がっていることが多々あります。施策を講ずることで値が上がると思われがちですが、必ずしもそうではありません。なぜなら、施策を通して回答者の判断基準が変わってしまうことがあるためです。

例えば、開始前によく考えずに答えていた項目も、組織風土改革などのプロジェクトを通して”自分ゴト化”され、「私たちはもっと出来るのではないか?」と考えるようになり、基準を知らず知らずのうちに上げてしまうといったことがよくなされます。

回答者の判断基準の変化は集計数値から判断することができず、単純に数値が下がり「成果が出なかった」というとらえ方がされてしまいます。そうならないように、別途質的調査を実施し、数値からは見えない意識の変化を捉えていきましょう。

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問題点2.数値の意味を読み取りづらい

量的調査だけでは、抽象化された値しか読み取れず、組織の実態が見えづらいという問題点もあります。

例えば、4人の人が5点スケールで評価する量的調査を実施した場合、以下のようなどちらの場合でも「平均3点」という同一の結果になってしまい、違いが検証できません。

    • 2人が1点をつけて、2人が5点をつけた場合
    • 全員の点数が3点であった場合

標準偏差を算出し、ばらつきを捉えることを実施したりもしますが、選択値がばらついている理由までは分かりません。このような結果を回答者の属性などから推測し、仮説を設定し、インタビューによる調査(質的調査)で検証していきます。

組織を活性化させるための施策

組織を活性化させるための方法は数多く存在しますが、ここではハード的なアプローチとソフト的なアプローチに分けてそれぞれ2つずつご紹介します。ハード的なアプローチは前述のSDモデル全体に影響を及ぼしますが、ソフト的なアプローチは特定フェーズの状態変容を意識したものとなっています。

組織の現状や目指したい状態などを鑑みて、効果的な施策を選択ください。

ハード的なアプローチ

■人事制度の改定・理解浸透

社員は自身の役割を主に人事制度(等級定義、役職定義、評価項目およびその基準など)から理解するため、人事制度が組織の活性に資するものとなるよう改定し、浸透させていきます。

具体的には、自社が理想とする活性化した組織状態と現状を比較し、以下のような問いをたてながら手を打つべきポイントを精査し、人事制度に組み込みます。

・社員の言動には、会社の理念やチームビジョンが反映しているか?
・健全な対立、心理的安全性を意識したかかわりなどが職場で意識されているか?
・自ら進んで他者を支援するような動きが職場でとられているか?

改定後は、その意図や社員に対する期待、目指すべき組織状態などを社員に語り続けることで浸透を図り、社員の意識変革や行動変容につなげていきます。

■コラボテーションツールやタレントマネジメントシステムなどのシステム導入

コミュニケーションの量と質の改善のために、コラボレーションツールやタレントマネジメントシステムなどシステムの導入が有効です。

コミュニケーションをとるうえで、相手の価値観や思考・コミュニケーションタイプ、得意領域などが事前に分かっていると心理的なハードルが下がり、“最初の一歩”が踏み出しやすくなります。結果、多職種・他階層・自身と異なる契約形態の方々と積極的に接点を持ってもらいやすくなるという効果が期待できます。これが量的な観点による効果です。

また、それぞれの特性を考慮した効果的な組み合わせを行うことで、より本質的なコミュニケーションがなされる環境を構築することも可能です。社員のデータを見ながら、効果的な異動や組織編制を行うことで、組織を活性化させるといった考えです。これが質的な観点による効果です。

ソフト的なアプローチ

■自己理解の促進・開示(自己概念・自己呈示)

相手に自分を知ってもらうためには、まず自分自身についてよくわかっていなければなりません。この「自分自身に対する探求を通して、自己理解を深めていくこと」が自己概念(自己定義)であり、認識された内容を伝え合うことを自己開示と言います。自身を捉える着眼点としては、価値観や思考・コミュニケーションタイプなどがあります。

自己呈示は、本来の自己に「希望」や「期待」などの意図を込めて伝える行為を指しますが、自身が目指したい自己像として相手に伝えるような使用方法もあります。

SDモデルのSerch(探索)やSatisfaction(充足)など、初期フェーズで使用される施策です。

■共通認識の醸成(社会規範の表出化と改定)

職場に存在する様々なルールは、明文化されたものと暗黙的なもの(社会規範)とに分類することができますが、分かりにくいのが暗黙的なルールです。なぜならば、職場に所属する多くの人は、意識せずにルールに縛られているからです。そして、ルールが生まれた背景について誰も知らなかったり、組織が目指している状態に即したものでなかったりするケースも多々あります。

よって、暗黙的なルールを見える化し、目指す状態を実現するために必要な考えや行動とはどういったことなのかをチーム内で話し合い、その価値観や判断基準と合致しないルールを変えていく必要が出てきます。これが共通認識の醸成です。

SDモデルにおける、Satisfaction(充足)やSpin(つむぐ)のフェーズで使用される施策です。

組織活性化の事例|流通・サービス業A社

組織活性化の事例として、パーソルグループがご支援した事例を紹介します。

流通・サービス業のA社では、中核となるモデル店舗の活性化に課題を感じていました。現場の社員を育成し、店舗の品質を高めるべく、パーソルとの取り組みをスタートしました。

課題

    • 売上額の向上
    • 各種キャンペーンにおける上位入賞
    • 店舗品質の向上
    • 店舗人材の育成

施策内容

    • 全国にあるモデル店舗の店長を対象に、9カ月にわたり研修を含むコンサルティングを実施
    • 活動開始時と終了時に組織活性度サーベイを実施し、定量的な成果を測定
    • あわせて、店舗の現状や目指したい状態を各店長へインタビュー
    • 導入研修後に宣誓式を設け、個々人とチームの目標を明確化
    • 関係者全員(上司を含む)で推進検討会を開催し、各自の職場課題に対する知恵出しを実施
    • 活動終了時に、修了発表会を開催し、各自・店舗の目標に対する活動のふり返りを実施

結果

  1. ビジネス成果:施策開始前は全国平均とモデル店舗の売上はほぼ同じであったが、施策実施後は平均以上の成果を記録。一部キャンペーンにおいては、上位入賞を達成。
  2. 人材の育成:育成対象者だけでなく、ベテラン社員の若手社員育成に対する意識も変わったため、マニュアルにないノウハウの共有なども自然となされるようになった。結果、店舗品質(QSCなど)が高まるだけでなく、社内検定試験の合格率も2~3倍へ向上。
  3. 組織活性度サーベイの数値上昇。

組織活性度サーベイの施策前後の比較

組織活性化について詳しく知りたい方は、こちらまでお問い合わせください。

まとめ|組織活性化により、社員と組織の成長を促す

組織活性化において重要なポイントは、各人の”思い”を大切にすることです。

一人ひとりが自身の内面と向き合い、あわせてチームメンバーとホンネで語り合う。その“場づくり”と、各自の思いが込められたチームビジョンの設定、具体的な計画立案などを計画的・体系的に進めていくことが求められます。

組織活性の評価は、量的指標だけでなく質的指標もあわせて見ることで、施策前後の適切な効果測定が可能となります。効果を測定することは活動をより良いものへと進化させるための糧となります。

組織活性化を実現し、企業の恒常的成長へとつなげましょう。

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インタビュー・監修

株式会社パーソル総合研究所

組織力強化事業本部 組織力強化コンサルティング部 コンサルグループ

内田 智之

情報システムを扱う商社にて、新規市場の調査や開拓営業、特許出願などを経験したのち、コンサルティング業界へ転身。日本能率協会コンサルティングやSMBCコンサルティング、トランストラクチャといった複数のコンサルティングファームに在籍し、組織診断やコンサルティング(組織風土変革、人事制度設計、教育体系策定、教育システムの導入など)、各種研修業務に従事してきた。また、所属企業の中で組織開発研究所(現在は閉鎖)を立ち上げ、主席研究員として運営にも携わってきた経験を持つ。上記業務・活動を推進する一方で、自らのビジネス領域に関係する調査・研究を行い、研究結果の現場活用に取り組んでいる。2019年10月より現職。

よくあるご質問

Q1.組織活性化の取り組み事例は?

A1.流通・サービス業を手掛けているA社では、モデル店舗の活性化に課題を感じていました。現場の社員を育成し、店舗の品質を高めるべく、取り組みをスタートしました。取り組み終了後には、売上向上や検定・試験合格率の向上、組織活性度サーベイの上昇という成果を得られました。

>>組織活性化の事例|流通・サービス業A社

Q2.組織活性化の定義は?

A2.組織活性化とは「互いに認め合い、建設的な議論を行いながら組織と共有している目的・価値を能動的に実現していこうとする状態」です。

組織を変革する際、成果を早急に求めてしまう傾向がありますが、成果だけを追い求めてしまうと組織への負荷が高まり、人材が離れ、結果的に組織の崩壊に繋がりかねません。

重要なのは直接的な成果を導き出すために組織の基盤を整えることであり、組織を形づくる社員一人ひとりの状態がより良いものになることです

>>組織活性化とは?