生産性向上とは
「生産性向上」とは、限られた人員・限られた資源で大きな成果を生み出すことを指します。
生産性とは
「生産性」とは「従業員数や労働時間数に対してどれだけの成果が出せたか」を表す指標です。総務省の「情報通信白書」によると、次のように書かれています。
『生産性』とはその効率性を指す概念であり、これを定量的に表す指標の一つとして『労働生産性』が用いられている
生産性の指標は「物的生産性」や「付加価値生産性」もありますが、日本では「労働生産性」のことを指すことがほとんどです。労働生産性は基本的に、(アウトプット ÷ インプット)で計算されますが、何をもとに考えるかによって2つの種類に分けられます。
1.付加価値労働生産性(付加価値額 ÷ 労働量)
労働者数・労働時間あたりに生み出した付加価値を測る指標です。付加価値とは、売り上げから諸経費を引いた粗利を指します。

従業員が生み出している価値を測ることができるため、生産性向上の指標としては付加価値労働生産性が用いられることが一般的です。
2.物的労働生産性(生産量 ÷ 労働量)
労働者数・労働時間あたりに生み出した生産量や生産個数といった、目に見えるものを測る指標です。

生産性向上と業務効率化の違い
「生産性向上」は「業務効率化」と混同されますが、この2つは厳密には異なります。 生産性向上は「成果」を重視しているのに対し、業務効率化は時間や費用のコストを下げるなど「改善」に向けた取り組みを指しています。
業務効率化は労働投入量(従業員数もしくは労働時間数)の効率化につながるため、いうなれば「生産性向上を達成するための手段の一つ」と認識すべきでしょう。
生産性向上が求められる背景
生産性向上が重要視されている背景は主に以下の3つです。
1.労働力人口の減少
高齢化が進む日本では、最もはたらき盛りの30歳以上は減少の一途をたどり、2000年には4,686万人だった人口が2030年には4,501万人になると予想されています。
今後、多くの業界・企業で人材不足が深刻化することは明白でしょう。そのため、今までと同じはたらき方では、一人ひとりの負担が大きくなり、生産性が低下するため企業は衰退していく一方です。
限られた人員で競争力を維持するには、同じ時間でより多くの生産活動ができる仕組みが必須と言えるでしょう。
2.国際競争力の低下
日本生産性本部の「労働生産性の国際比較2022」によると、2021年の日本の一人当たりの労働生産性は81,510ドル(約1,061万円)で、OECD加盟38カ国中29位(2020年は28位)と、1970年以降最も低い順位になっています。
今後国内市場が縮小していく中、激化するグローバル市場で勝ち残っていくためには、限られた資源で価値の高い商品やサービスを生み出す必要があります。そのためにも、生産性向上は不可欠です。
3.従業員の意識変化
「働き方改革」の促進によって、ワークライフバランスを実現できる、はたらきやすい環境を従業員が求めるようになっています。生産性向上への取り組みが進んでいない企業ほど、従業員の総労働時間が減らない傾向にあり、ここから脱却しないことにはいずれ人材の確保が難しくなるのは間違いありません。
このような背景から、一人ひとりの生産性を上げることが、近年さらに重要なテーマとなっているのです。
生産性向上が企業にもたらすメリット
生産性向上は、企業に大きなメリットをもたらします。ここでは代表的な3つのメリットを説明します。
1.コスト削減
時間や工程の効率化により、従業員の労働時間を短縮できます。人件費などのコスト削減が期待できるほか、短縮できた時間を既存製品やサービスの付加価値向上のための業務に注力できるようになります。
2.人材不足の解消
AIやRPAを導入し、生産性向上を実現することで、人材不足の解消につながると考えられます。これまで人が関わってきた仕事を自動化できれば、従業員は「人にしかできない仕事」に集中でき、限られた人材でも効率良くはたらけるようになります。
3.離職率の改善とモチベーション向上
効率化により残業時間が削減されることで、従業員のモチベーション向上にもつながります。はたらきやすい良好な職場環境は、離職率の低下や優秀な人材の確保にもつながるでしょう。
生産性向上を図るための施策6つ
では、具体的にどうすれば生産性を向上できるのでしょうか。生産性向上は、時間や工程の効率化を図る、または革新的なビジネスを創出するなど付加価値を増やすことができた時に実現します。

【出典】総務省「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究」(平成30年)より作成
効率または付加価値を上げる具体的な施策として、以下の6つが挙げられます。
1.「ムダ」な業務の洗い出し
生産性向上のためにまず取り組むべきことは、業務を棚卸しし、業務量や業務フローを正確に把握することです。そのうえで慣習的に続けられている重要度の低い業務や簡略化できる業務があれば、積極的に改善を図りましょう。
その際、担当者のみで取り組むのではなく、現場の従業員の意見も聞くことで、管理者の立場からは想定できていなかった過剰なコストやムダな工程が発見できる可能性があります。

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2.業務の標準化
業務がマニュアル化されていないため、成果物の品質にばらつきが生じ、結果的に時間の無駄が発生していることもあるでしょう。
業務効率化を進めるには、業務をマニュアル化し、誰が担当しても同様の品質を維持できる状態を作ることも大切です。マニュアルが存在すれば仕事のミスを未然に防ぎ、修正に費やす時間を削減できます。
また、使用する書類のフォーマットを企業全体で統一することで、作成や確認作業の削減にもつながります。
3.適切な人員配置
適切な人員配置も企業の生産性に大きく関わります。業務内容に求められるスキルや適性を持った人材が配置されていないと、業務効率が低下します。
また、部署内で業務への習熟度に偏りが出ていないことも重要です。習熟度が高く、指導が行える人材に対し、研修や指導が必要な従業員の数が多すぎると、育成計画が難航したり、マネージャーの負担が高くなりすぎたり、効率の低下につながります。
人員配置を考える際には、個々の性格やスキル、本人の志望、配属部署の現状を踏まえて、選定することが重要です。
4.テクノロジーの活用
定型的かつ日常的に発生する業務に関しては、RPA(ロボティックプロセスオートメーション)のようなテクノロジーを活用し業務の自動化を図ることも生産性の向上に有効です。RPAはオフィスの定型業務をソフトウェアで自動的に行うツールです。
RPAを取り入れやすい業務
- データ入力
- チェック作業
- データの分析
- 社内システムと業務アプリのデータ連携 など
RPAを活用することで、人的ミスの削減や作業スピードの向上につながります。また、24時間稼働できるため、人的コストを減らしつつも、作業スケジュールを大幅に短縮することが期待できます。
5.ノンコア業務のアウトソーシング
事務処理など企業の利益に直結しない業務を外部にアウトソーシングすることで、従業員が本来注力すべき業務にかける時間を生み出すことが可能です。RPAでは行えないような複雑な工程がある業務も、アウトソーシングであれば効率化できる可能性があります。
社員が担当すべき業務と外注できる業務を適切に仕分けし、必要に応じてアウトソーシングを検討してみましょう。
6.従業員のエンゲージメントを高める施策の実施
業務の見直しに加え、従業員のエンゲージメント向上も重要です。
エンゲージメントとは
企業に対する愛着や理念・ビジョンに対する共感のことを示す。
エンゲージメントが高い状態になることで、モチベーションの向上につながり、結果的に生産性が向上します。エンゲージメントを向上させるための適切な施策は、企業によって異なりますが、以下のような施策が考えられます。
-
- 社内コミュニケーションを活性化させる
- 公正で客観的な人事評価制度を構築する
- 自律的に働ける環境を整備する
まずは社員と会社の愛情や心のつながりを調査・可視化するサーベイなどを用いて自社の現状を正しく把握し、適切な施策を実践しましょう。
生産性向上の心得と注意点
「効率の向上」と「付加価値の向上」が生産性を上げるとはいえ、やみくもに新たな施策を実行しても、現場が疲弊してしまい、マイナスの結果を生み出しかねません。
ここからは、生産性向上に取り組む際に押さえておくべきことを経済産業省の「中小サービス事業者の生産性向上のためのガイドライン」(平成28年2月)を参考に見ていきましょう。
1.自社の理念に立ち返る
自社が何を目的とする会社なのか、自社が提供しているサービスは何のためにあるのか、今一度その理由を考えてみましょう。
このとき、消費者視点に立って「それは社会のニーズに沿っているのか」に注意することも大切です。
2.事業コンセプトを再構築する
自社の理念が明確になったあとは、事業コンセプトに目を向けましょう。ここで重要なのは「誰に」「何を」「どのように」提供するのかを考え、常に一貫させること。どれか一つでもズレてしまっていたら、生産性向上にはつながりません。具体的な考え方は以下です。
「誰に」を考える
自社のサービスや商品の特徴を見極め、顧客層を特定します。同時に潜在的な顧客の顕在化にも目を向けると、サービスや商品の提供範囲が広がり、生産性向上につながります。
「何を」を考える
「誰に」が定まったら、顧客のニーズに合ったサービスを考える必要があります。自社が過去に提供していたサービスや他社との差別化要素もしっかりと見つけておきましょう。顧客の期待価値を上げることは、生産性向上に欠かせないプロセスです。
「どのように」を考える
「誰に」「何を」提供するかが決まったら、どのように実行に移すかを考えます。例えば、どんなサービスを提供しているのか情報をしっかりと開示することは重要でしょう。それを見て、顧客は自分のニーズと合致しているかが判断できるため満足度が上がります。
以上のことを考えた上で生産性向上に取り組みましょう。
3.長期的視点で取り組む
生産性向上の取り組みはすぐに変化が表れるわけではありません。研修を導入したりマニュアル化したりとコストだけかかって一向に効果が出ないと不安に感じることもあるでしょう。
しかし、生産性向上のための投資は「こんなことをやっても意味がないから、予算は別に回そう」と諦めず、長期的視点で取り組む姿勢が大切です。中小企業でもIT設備など成長のための投資を惜しまない企業は、効果を発揮しやすい傾向にあります。
例えば、決裁において何人ものハンコの確認が必要などアナログなやり方を変えないと、生産性は下がっていく一方です。変化を恐れずに新しいものを取り入れる姿勢も、生産性向上には欠かせません。
中小企業の生産性向上に活用できる助成金
厚生労働省や各自治体は、生産性向上に取り組む企業に向けたさまざまな助成金制度を設けています。一つひとつ簡単に確認してみましょう。
ものづくり補助金
補助額:100万~3,000万円(一般型は最大1,000万円、グローバル展開型は最大3,000万円)/補助率1/2(原則)
新商品やサービスの開発といった経営改革や生産性向上に関連する設備投資に関して支援が受けられます。
応募条件
①付加価値額+3%以上
➁給与支給総額+1.5%以上/年
③事業場内最低賃金(1人当たりの時間給)地域別最低賃金+30円
上記の要件を満たす3~5年の事業計画を策定・実施する企業なら誰でも応募可能。
過去には「複数形状の餃子を一度に製造できる餃子全自動製造機」の開発のために補助金を活用した企業もあります。
【参考】全国中小企業団体中央会「ものづくり補助金総合サイト」
持続化補助金
補助額:50〜200万円/補助率:2/3
店舗の改装やチラシの作成、広告掲載など、ブランド力を高めて販路開拓を目指す企業が対象です。
応募条件
提出する事業計画期間で下記を見越していることが必須条件。
・給与支給総額が年率平均増加
・事業場内最低賃金を地域別最低賃金より増加
この補助金を活用し、外国語版ウェブサイトや営業ツールを作成した旅館は問い合わせ件数が倍増したという成功例もあります。
【参考】独立行政法人中小企業基盤整備機構「補助金」
IT導入補助金
補助額:30万~150万円未満(A類型)、150万~450万円(B類型)/補助率:1/2
業務効率化や顧客獲得など生産性向上につながるITツールの導入を支援します。
応募条件
事業計画期間で下記を満たすことなどが加点要件となります。
・給与支給総額が年率平均1.5%以上向上
・事業場内最低賃金が地域別最低賃金+30円以上
とある企業は人材に限界を感じ「長年の勘」からの脱却を図るべく販売管理システムを導入し、売上の高い得意先の需要予測や仕入れ単価の推移の見える化により、売上増加を可能にしました。
【参考】独立行政法人中小企業基盤整備機構「補助金」
業務改善助成金
助成上限額:20万円~100万円/助成率:事業場内最低賃金900円未満の場合は4/5、生産性要件を満たした場合は9/10、事業場内最低賃金900円以上の場合は3/4、生産性要件を満たした場合は4/5
応募条件
中小企業・小規模事業者が生産性向上のための設備投資を実施し、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合に費用の一部を助成。
この制度を活用して勤怠管理システムを導入した企業は、報告業務の効率化が図れたことで、勤怠管理報告作業が従来と比較すると月平均6時間削減しています。
【参考】厚生労働省「業務改善補助金」
生産性向上を実現した企業の取り組み事例
最後に、生産性向上に取り組み、成果を上げている企業の事例をみてみましょう。以下は厚生労働省が平成31年1月にまとめた「生産性向上の事例集」から抜粋した事例です。
事例1.食品製造販売業A社
ベルトコンベアの導入による弁当の盛りつけ作業の効率化
新潟県にある食品製造販売業者は、弁当製造の際の盛りつけ時間を削減したいという課題を抱えていました。これまでは配膳台の周りを従業員が移動して盛りつけていたため、非効率なはたらき方になっていたのです。そこで助成金を活用してベルトコンベアを導入したところ、盛りつけ時間が2時間から1時間30分に短縮。作業時間の削減により、28人の従業員の時間給(事業場内最低賃金)を30円引き上げることに成功しています。
事例2.船具・船舶用塗料販売業B社
販売管理ソフトの導入で在庫管理を適正化
熊本県の船具・船舶用塗料販売業者は、販売管理ソフトと連動した在庫管理による適正な仕入れと販売管理時間の削減を目指し、助成金を活用。一連の業務にかかる時間が30分~1時間削減できたことで生産性が向上しました。結果、1人の従業員の時間給(事業場内最低賃金)を124円、事業場内最低賃金以外の従業員の賃金の引き上げも実施できました。