労働生産性とは
まずは労働生産性の定義について確認しましょう。公益財団法人 日本生産性本部では、労働生産性を以下のように定義しています。
「労働投入量1単位当たりの産出量・産出額」として表され、労働者1人当たり、あるいは労働1時間当たりでどれだけ成果を生み出したかを示すもの
時間や労働力といった経営資源を縮小し、生産量や付加価値といった成果を拡大することができれば、労働生産性を向上させることにつながります。
なお、OECDの調査によると、日本の労働生産性はOECD加盟38カ国中23位、さらに一人あたりの労働生産性は28位という結果が出ています。業種によって差があると予想されるものの、世界と比較すると全体的に低い水準であることがわかります。


【参照】公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較2021」
労働生産性の種類と計算方法
労働生産性を算出する基本の計算式は、(アウトプット ÷ インプット)です。ただし、労働生産性は以下2種類に分類され、何をもとに考えるかによって、それぞれ計算方法が異なります。
1.物的(物理的)労働生産性
物的労働生産性は、労働生産性のうち、生産量や生産個数といった物理的に目に見えるものを成果として考えるものです。次の計算式で算出されます。
物的労働生産性 = 生産量 ÷ 労働量

生産量を労働者数で割ると、従業員一人あたりの物的労働生産性を出すこともできます。
2.付加価値労働生産性
付加価値労働生産性は、「労働者数・労働時間あたり、どれだけの付加価値を生み出せたのか」という考え方です。付加価値とは、売り上げから諸経費(原材料費や運送費など)を引いたもの、つまり粗利を指します。
付加価値労働生産性 = 付加価値額 ÷ 労働量

付加価値労働生産性は、従業員が付加価値を生み出している効率を図ることができます。
労働生産性が注目される背景|なぜ企業にとって重要な指標なのか
近年、労働生産性の向上は企業経営において大きな課題となっています。背景として挙げられるのは次の3点です。
1.人材不足の深刻化
少子高齢化の影響を受け、人材不足問題は年々深刻になっています。パーソル総合研究所の「労働市場の未来推計2030」によると、2030年には7,073万人の労働需要に対して、6,429万人の労働供給しか見込めず、644万人の人材不足が起こる見込みです。

このような背景を踏まえると、限られたリソースを最大限に活用し、少ない人材でも大きな成果をあげることが非常に大切です。人材不足かつ、生産性が低い状態だと生産量は下がる一方です。
したがって、従業員一人ひとりの付加価値を高めるという労働生産性の向上が求められるのです。
2.働き方改革の推進
2017年に政府が発表された「働き方改革実行計画」によると、働き方改革の意義は「働く方一人ひとりが、より良い将来の展望を持ち得るようにすること」であり、「働き方改革こそが、労働生産性を改善するための最良の手段」と述べられています。
- 日本経済再生に向けて、最大のチャレンジは働き方改革。働く人の視点に立って、労働制度の抜本改革を行い、企業文化や風土も含めて変えようとするもの。働く方一人ひとりが、より良い将来の展望を持ち得るようにする。
- 働き方改革こそが、労働生産性を改善するための最良の手段。生産性向上の成果を働く人に分配することで、賃金の上昇、需要の拡大を通じた成長を図る「成長と分配の好循環」が構築される。社会問題であるとともに経済問題。
3.テレワークの普及によるはたらき方の見直し
新型コロナウイルスの流行によって、テレワークを導入する企業が増えました。テレワークの普及により、労働生産性の低下が懸念されていましたが、日本生産性本部の「労働生産性統計」を見ると、テレワーク率の高い金融・保険業や情報通信業において、労働生産性が大きく変化していないことがわかります。

テレワークの導入をきっかけに、生産性について考える企業も多いのではないでしょうか。

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労働生産性向上にむけて見直すべき4つのポイント

それでは、労働生産性向上にむけて、どのような部分を見直していくべきでしょうか。大きく4つのポイントについて、見直すべき理由と具体的な見直し方を説明します。
1.業務プロセス・業務フローを見直す
業務プロセス・業務フローを見直し、業務効率化を実現することで生産性向上につながります。三菱UFJリサーチ&コンサルティングが行った「人手不足対応に向けた生産性向上の取組に関する調査」によると、約6割の企業が、業務の見直しによる、生産性向上や人手不足対応への効果を感じていることがわかります。

▼見直しに向けた取り組み例
・不要業務・重複業務の見直し
・業務の平準化、マニュアルの作成
・業務の見える化
・業務の再分化・業務分担の見直し
・アウトソーシングの活用 など
2.労働時間を見直す
長時間労働の是正も、生産性向上へとつながります。パーソル総合研究所の調査によると、残業時間が増えると健康への影響が顕著にあらわれることがわかりました。

残業によって従業員のパフォーマンスが下がった状態では生産性が低下し、さらに残業が増えるという悪循環に陥ってしまいます。
また、テレワーク環境下では、隠れ残業が増えてしまうといった課題も抱えています。日本労働組合総連合会の調査によると、約4割の人がテレワークで時間外・休日労働を行うことがあったと回答しています。

▼見直しに向けた取り組み例
・ノー残業デーの設定
・労働時間を適正に管理するツールや仕組みの導入
・柔軟なはたらき方の推進 など
労働時間を見直して長時間労働を是正することができれば、従業員のモチベーション向上やストレス軽減に繋がり、生産性向上が期待できます。また、社内で労働時間の是正方針を周知することで、「なぜ残業が発生してしまっているのか」「就業時間内で終わらせるのにはどうしたらよいか」といった議論を活発化させるきっかけにもなるでしょう。
3.各種システムを見直す
多くの企業が業務のさまざまな場面でシステムを活用していることでしょう。システム導入から時間が経っている、システム化していない業務があるといった場合は、ここから見直しを進めてみるとよいでしょう。
「2020年版ものづくり白書」によると、自社の労働生産性が3年前と比較して「向上した」と回答した企業、人材の定着状況が「よい」と回答した企業は、デジタル技術を活用している企業が多いことがわかりました。

▼見直しに向けた取り組み例
・ITツールの導入・見直し
・電子署名
・ペーパーレス化 など
システムの導入やリプレイスを検討すべきなのは、システムを導入しているのに手作業が発生している業務や、定型的な付加価値に生み出さない業務です。こうした業務にデジタル技術を活用することで、本来注力したい開発や企画、営業といったコア業務へ専念できる時間を生み出すことができます。そうすれば、必然的に生産性も向上するでしょう。
4.育成・評価方法を見直す
生産性向上には育成・評価方法の見直しも欠かせません。育成や評価は、従業員のモチベーションに影響するためです。
パーソルホールディングスの調査によると、自社の人材育成の環境・制度に満足していない人は全体の3割に上ることがわかっています。

また、株式会社識学の調査では、評価に対して不満を感じている人のうち、一番多くの理由として「評価の基準が不明確」と挙げられています。

▼育成・評価手法の例
育成)リカレント教育、OJT、eラーニング など
評価)OKR、360度評価 など
自社の人材育成を見直し、透明で納得のいく評価を行うことで、従業員一人ひとりのスキルとモチベーションが向上し、生産性向上につながります。
まとめ
労働生産性を向上させることで、人材不足の解消や、企業競争力が期待できます。また、ワークライフバランスが実現することではたらく個人にとってのメリットも期待できます。自社にとって取り組みやすい部分から、労働生産性向上への取り組みをはじめてみましょう。

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