2021年09月07日
2025年06月24日
「勤怠管理」は、従業員のはたらき方を適正に把握し、法令に則った労務運営を行うための基盤です。しかしながら、従来のアナログな管理方法では限界があり、勤怠管理に課題を抱える企業も少なくありません。
本記事では、勤怠管理とは何かという基本から、活用できるツールを紹介し、そこから得られるデータの種類と活用法について解説していきます。
勤怠管理とは、従業員の出勤・退勤、休暇、残業、休憩時間などの勤務状況を記録・管理する業務を指します。企業の労務部門においては、適正な給与支払いや労働時間の把握に欠かせない基本業務の一つです。
勤怠管理の主な目的は、法令遵守と労務リスクの回避、そして従業員のはたらきやすい環境づくりです。適切に勤怠を記録することで、長時間労働や不正打刻の防止につながり、企業の信頼性向上にも寄与します。
では、なぜ勤怠管理が必要なのでしょうか。従業員の労働時間の適正な把握・管理は、労働基準法に加え、厚生労働省が策定した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」で定められています。また、労働時間を記録した書類は、労働者名簿、賃金台帳とともに5年間保存しなければなりません。
賃金台帳の適正な調製
使用者は、労働基準法第108条及び同法施行規則第54条により、労働者ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数といった事項を適正に記入しなければならないこと。 また、賃金台帳にこれらの事項を記入していない場合や、故意に賃金台帳に虚偽の労働時間数を記入した場合は、同法第120条に基づき、30万円以下の罰金に処されること。【出典】厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
働き方改革の一環および長時間労働是正のための施策として法律が整備されている現在、適切な勤怠管理の必要性はますます高まっています。また、勤怠管理は以下の点からも、企業にとって重要です。
労働時間は従業員の給与計算に欠かせない情報です。正しい給与や残業代を算出するためにも、日々の労働時間や有休取得を正確に把握しておくことが重要です。
日本では長らく、過酷な長時間労働の常態化や残業手当の未払いが社会問題となっています。コンプライアンス違反などにならないようにするためにも、従業員の労働状況をしっかり把握しておく必要があります。長時間労働を防ぎ、従業員の心身の健康を維持することは、健全な経営につながるといえます。
勤怠管理の記録をうまく活用すれば、生産性向上にもつながります。従業員がどんなタスクにどれだけの時間をかけているのかが分かれば、残業の多い従業員が抱えている負担が把握でき、改善のポイントも見えてくることでしょう。非効率な業務フローの見直しや、部署あるいは組織全体の業務の平準化を図ることにも役立ちます。
勤怠管理ではどのような情報を記録し、いつまで保管する必要があるのか、解説します。
勤怠管理の対象は下記のように定められています。
・対象事業場
対象となる事業場は、労働基準法のうち労働時間に係る規定(労働基準法第4章)が適用されるすべての事業場です。
・対象労働者
対象となる労働者には、2つの考え方があります。
まずは安全配慮義務の観点から、企業は社員の労働時間を把握し、長時間労働とならないように勤怠管理をする必要があるという、全社員を対象とする考え方です。
もう1つは、時間外勤務手当の支給の観点において、労働基準法第41条に定める者(管理監督者など)及びみなし労働時間制が適用される労働者(事業場外労働を行う者にあっては、みなし労働時間制が適用される時間に限る)を除く労働者が対象とする考え方です。
上記の労働時間は、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」を指します。したがって、休憩時間は労働時間に含まれません。また、労働基準法では、労働時間は原則「1日8時間、1週40時間以内」とされており、これを超える場合には「労働基準法第36条に基づく労使協定の締結(通称:36〈サブロク〉協定)」および「所轄労働基準監督署長への届出」を行う必要があると定めています。なお、労働基準法では勤怠管理の対象は、雇用関係におかれた労働者のみとされています。成果により報酬を得るフリーランスは個人事業主であり、勤怠管理の対象外です。
厚生労働省のガイドラインでは「使用者は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること」と定めています。また、使用者は以下の項目についても適正に把握する責務があると記されています。
・出勤日、欠勤日、休日出勤日
給与計算を正しく行うため、勤務状況をはじめ休日出勤・代休の取得の有無などを1カ月単位で把握します。
・始業・終業時刻、労働時間、休憩時間
労働時間は、原則として1分単位で管理します。これは、厚生労働省から労働基準監督署へ提示された行政通達と、労働基準法の第24条をはじめとした条文に記された、労働時間分の賃金の「全額払い」の原則に基づいています。
・時間外労働時間、深夜労働時間、休日労働時間
時間外労働や深夜勤務、休日出勤を行った従業員に対し、企業は割増賃金の支払いの義務があります。
・有休取得日数・残日数
2019年4月の労働基準法の改正により、年次有給休暇の取得(年5日)が義務化されています。
2020年4月1日、労働基準法の一部が改正され、法定三帳簿(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿)などの重要書類の保存期間は5年間(賃金台帳が源泉徴収簿を兼ねている場合は7年間)に延長されました。ただし、過年度分については当面の間、経過措置として3年間となっています。
勤怠管理にはさまざまな方法があり、企業の規模やはたらき方に応じて選択肢が異なります。ここでは、代表的な勤怠管理の手法とそれぞれの特徴・課題について解説します。
紙やエクセルを使った勤怠管理は、特に小規模企業や導入初期の段階でよく見られる方法です。
コストを抑えられる一方で、入力や集計を人の手で行う必要があるため、手間やミスが発生しやすい点が課題です。打刻忘れや修正履歴の追跡が難しく、従業員とのトラブルが起きる可能性も否定できません。また、毎月の集計作業や給与ソフトへの転記にも時間がかかり、担当者の負担が大きくなります。さらに、労働時間のリアルタイムな把握や法改正への対応も難しく、長期的には非効率になりやすい方法といえるでしょう。
業務が拡大してきた場合には、より正確かつ効率的な管理手段への移行を検討すべきタイミングといえます。
タイムカードやICカードを用いた打刻方式は、比較的古くから使われている勤怠管理方法で、客観的な打刻記録が残せる点が特長です。
従業員が出退勤時に機器にカードを通すことで、勤務時間を自動的に記録できます。手書きよりは正確性が高く、紙管理に比べるとミスのリスクも抑えられます。ただし、打刻データは専用機器に保存されるため、データの集計や分析には別途ソフトウェアや手作業が必要になるケースも多く、管理者の負担は完全には解消されません。また、設置場所に縛られるため、リモートワークや直行直帰には対応しづらいのが難点です。
こうした理由から、より柔軟性の高いクラウド型システムへの移行を進める企業も増えています。
クラウド型の勤怠管理システムは、インターネット環境があればどこからでもアクセスでき、リアルタイムに勤怠情報を管理できるのが大きな特徴です。
従業員はスマートフォンやパソコンを使って出退勤の打刻ができるため、テレワークや直行直帰など多様なはたらき方にも柔軟に対応可能です。管理者側も、リアルタイムで労働時間を把握できるほか、休暇管理や残業申請などの承認ワークフローも一元管理できるため、業務の効率化と透明性の向上につながります。また、法改正への対応やシステムの自動アップデートも期待でき、常に最新の状態で運用できる点も企業にとって大きなメリットです。
中小企業から大手企業まで、勤怠管理の効率化と精度向上を目指す多くの企業で導入が進んでいます。
勤怠管理システムは多種多様で、導入時には自社に合ったサービスを選ぶことが重要です。ここでは、比較・検討の際に押さえておきたいポイントを3つの視点から紹介します。
勤怠管理システムを導入する際には、自社の就業形態やルールに対応しているかどうかが重要な判断基準となります。たとえば、フレックスタイム制や交代制勤務など、企業ごとに働き方の前提は異なります。制度に合わないシステムを導入してしまうと、結局は手作業による補完が必要となり、導入効果が十分に得られません。
導入前には、自社の就業規則や勤務パターンを整理したうえで、どこまで柔軟に対応できるかを確認しましょう。
従業員がどのように打刻するかも、システム選びの重要なポイントです。ICカード、PCログイン、スマホアプリ、GPS機能付きのモバイル打刻など、はたらき方に応じた選択肢が求められます。
たとえば、外出やテレワークの多い職場であれば、モバイル対応は必須です。現場ごとに異なる運用環境に対応できる柔軟性のあるシステムを選ぶことで、利便性が向上し、従業員の利用定着率も高まります。
導入前に、利用予定のデバイスやネット環境との相性もチェックしましょう。
勤怠管理システムは単体で使うよりも、給与計算ソフトやシフト管理システムなどと連携して活用することで、より高い業務効率化が実現できます。
たとえば、勤怠データをそのまま給与計算に反映できれば、入力ミスや二重チェックの手間が減り、担当者の負担が大幅に軽減されます。また、シフト情報と連動することで、過不足のある勤務体制も可視化しやすくなります。
システム選定時は、自社の使用ツールとの連携性も必ず確認しましょう。
勤怠管理は、単なる出退勤の記録ではなく、企業のコンプライアンス、従業員満足度、生産性に直結する重要な業務です。特に近年は多様なはたらき方に対応する必要がある中で、クラウド型の勤怠管理システムを導入する企業が増えています。自社の状況に合った管理方法を選び、信頼性の高い勤怠管理体制の構築を目指しましょう。