労働基準法とは?違反しないために押さえたい2つの重大ポイント

労働条件の最低限を定める労働基準法に違反すると、罰則を科されることもあります。

本記事では、罰則や違反のケースはどのようなものか、違反しやすい今回の法改正の2つのポイントとは何か、ひいてはこれらへの上手な実務的対処法について、わかりやすく説明します。

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目次

労働基準法とは?何が違反になるのか押さえよう

労働基準法は、労働条件に関する最低限のルールで、1人でも人を雇っているなら使用者はこれを守らなければいけません。労働基準法が定める決まりは、賃金、労働時間、休憩・休日・休暇、年休(有給休暇)、解雇・退職、時間外労働・休日労働、割増賃金、労災、管理監督者の範囲や責任、記録の保存など、広範囲にわたり、違反すると、罰則が科せられることもあります。

また、働き方改革の一環として労働基準法も改正されており、「36協定の改定」と「年休取得の義務化」の2つが今次改正の目玉とされています。

労働基準法の罰則

まずは、罰則と、何をしてはいけないかを罰則が重い順に概観します。なお、最も重い第117条の罰則をのぞいて、その他にもしてはいけないことはありますが、まずは重要な点をおさえておきましょう。

■1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金(労働基準法第117条)

強制労働の禁止(労働基準法第5条)
「使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。」

労働者の意思に反して、労働を強制してはいけません。たとえば、暴行、脅迫、監禁、または精神的・身体的な自由を不当に拘束することによって、労働を強制することは重大な法律違反です。また、労働者が退職を申し出ても拒絶して認めないことなども該当する可能性があります。

■1年以下の懲役または50万円以下の罰金(労働基準法第118条)

中間搾取の排除(労働基準法第6条)
「何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。」

他人の就労に介入して利益を得る、ピンハネのようなことをしてはいけません。これには「法律に基づいて許される場合のほか」という条件があります。たとえば、職業紹介や労働者派遣のようなことは許されるわけです。

最低年齢(労働基準法第56条)
「使用者は、児童が満十五歳に達した日以後の最初の三月三十一日が終了するまで、これを使用してはならない。」

15歳以下の子どもには、仕事をさせてはいけません。ただし、映画・演劇の子役のように15歳以下でも修学時間外であれば使用できる例外もあります。

賠償予定の禁止(労働基準法第16条)
「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」

労働者に対して、あらかじめ違約金を定めたり、損害賠償金額を予定する契約をしたりすることは許されません。

■6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金(労働基準法第119条)

均等待遇(労働基準法第3条)
「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。」

国籍や信条、社会的身分を理由に差別的な取り扱いをしてはいけません。

男女同一賃金の原則(労働基準法第4条)
「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない。」

男女間で異なる賃金を定めてはいけません。

年次有給休暇(労働基準法第39条、第1~6項、第8~10項)
「使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。ほか」

すべての労働者には、有給の休暇を与えなければいけません。ただし、これにはいろいろな条件があります。たとえば、雇用してから半年以上を継続勤務した人には与える、全労働日の8割以上を勤務した人には与える、などといった条件です。継続勤務した年数によって与える最低の日数が違うというのも、ご存じの通りです。

■30万円以下の罰金(労働基準法第120条)

契約期間等(労働基準法第14条)
「労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、三年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあっては、五年)を超える期間について締結してはならない。

一 専門的な知識、技術又は経験(以下この号及び第四十一条の二第一項第一号において「専門的知識等」という。)であつて高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者(当該高度の専門的知識等を必要とする業務に就く者に限る。)との間に締結される労働契約
二 満六十歳以上の労働者との間に締結される労働契約(前号に掲げる労働契約を除く。)」

有期雇用者の労働契約は、3年を超えてはいけません。ただし無期雇用者(正社員)や、期間が決まったプロジェクトなどに専属させるために雇う人は除きます。また、厚生労働大臣が定める高度な専門的知識・技術または経験がある人を雇うとき、または60歳以上の人を雇うときは、最長5年まで契約してよい、とされています。

労働条件の明示(労働基準法第15条第1項)
「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。」

労働契約に際しては、賃金や労働時間などの重要な労働条件を明示しなければいけません。

賃金の支払い(労働基準法第24条)
「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。」

給料は原則的に毎月1回以上、決まった日に、労働者に直接、全額を通貨で支払わなくてはいけません。

事業者が気をつけたい、よくある違反のケース

ここからは、担当者が抑えておきたいポイントとあわせてよくある違反のケースについて解説します。

36協定違反

36協定(さぶろくきょうてい)とは、1日8時間・週40時間(法定労働時間 *1)を超えて働かせるときに、労使で交わさなければいけない協定です。書面にして、労働基準監督署に届け出なければいけません。労働基準法の第36条で決められていることから、こう呼ばれます。

*1:特例措置対象事業場は週44時間(商業、映画・演劇業(映画の製作の事業を除く)、保健 衛生業、接客娯楽業のうち常時 10 人未満の労働者を使用する事業場)

残業させるときには36協定の締結と届け出が必須となり、上限となる残業時間の原則は以下の表の通りです(特別条項による例外あり)。

【出典】厚生労働省「時間外労働の限度に関する基準 H29.03

36協定は労働基準法第36条に協定名が由来するわけですが、そもそも36条が残業(時間外労働・休日労働)を規定する条項です。また37条では割増賃金を定めています。

違反すると、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金となります。よく問題になるケースはさまざまです。

よく問題になるケース

そもそも36協定を結んでいなかった、届け出をしていなかった
1日8時間、週40時間を超えて働かせることは労働基準法違反です。36協定を結んで労働基準監督署に届け出ることによって免責されるというものですから、協定を締結せず、届け出をせずに残業をさせてしまうと、違反となってしまいます。これは残業代を支払っていたとしても、違反となってしまいますから注意が必要です。

締結してはいたが協定の範囲を超えていた
協定は締結・届け出ていたのに、残業時間が取り決めていた上限を上回る場合も、免責の範囲を超えてしまうことになり、同じく法違反となってしまいます。

特別条項の取り決めを超えていた
協定を締結し、さらに残業代を払ってもいたのに、特別条項(※)で決めた上限を超えてはたらかせてしまうと、違反となってしまいます。

(※)特別条項とは、繁忙期や緊急対応時に上の表にあげた上限残業時間を超えて残業させざるをえない場合のために、年6回を限度にさらなる上限残業時間(休日労働を含む残業時間が稼働月平均80時間以下、または月100時間未満)をあらかじめ労使で決めておくことです。

特別条項の書式(厚生労働省)

特別条項の書式(厚労省)

【出典】厚生労働省「36協定届の記載例(特別条項)・(様式第9号の2(第16条第1項関係))」

36協定で人事担当者がおさえておきたいポイントも、まとめておきましょう。

まず、休日を含まない時間外労働(残業)は、原則1カ月45時間および1年間360時間までとなりました。

1)月45時間を超えることができるのは、年6カ月まで
45時間 × 12カ月 = 540時間 ですから、1年12カ月すべて45時間の残業が許されるわけではない、ということです。

2)臨時的な特別の事情があっても、
時間外労働…… 年720時間以内
時間外労働+休日労働…… 月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内
臨時的な特別の事情は年に6回までで、労使合意のもと36協定にその理由を具体的に書かなければいけません。

36協定に書かなければならない「臨時的に限度時間を超えて労働させる必要のある場合の事由」の例

36協定に書かなければならない「臨時的に限度時間を超えて労働させる必要のある場合の事由」の例

【出典】厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」

3)「所定外労働時間」ではなく、「法定外労働時間」を超えるか超えないかが、合法か違法かのわかれめ
法定の労働時間は1日8時間です。たとえば、1日7時間30分の会社の場合は8時間までの30分の残業は所定外労働時間といって、36協定の残業時間には入りません。

時間外・休日労働に関する協定届(36協定届)はこちらからダウンロードが可能です。

年休(有給休暇)取得の義務化

年に5日の有給休暇取得の義務化も、今回の改正の目玉のひとつです。これも、違反となるケースはさまざまです。

違反した場合の罰則

違反した場合の罰則

【出典】厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」

よく問題になるケース

年5日の有給休暇を取得させない
年10日以上の有給休暇を付与される人には、年5日の有給休暇を確実にとらせるようにしなければいけません。なお、パートのように年10日以上有給休暇が付与されない場合は対象外です。

休日なのに出勤日扱いとして有給休暇に振り替える
もともと休日だった土日のうち、1日を有給休暇に振り替えるようなことをしてはいけません。

計画年休が事業主の意思ばかりを反映している
計画年休による場合は、就業規則の規定と労使協定が必要となります。したがって、会社が勝手に計画年休の日にちを決めることは避けなければいけません。

就業規則で規定されていない
年5日の有給休暇の義務化については、就業規則に必ず記載しなければいけません。

年5日の年休取得の義務化についても、人事担当者がおさえるべきポイントをまとめておきましょう。

1)労働者ごとに有休管理簿をつくる必要がある
基準日を年初や年度初日、月初などに決め、労働者全員に取得日数・日付を管理する書類(年次有給休暇管理簿)をつくり、3年保存しなければいけません。なお、労働者全員ですので、管理監督者も例外ではありません。

有休管理簿の例

【出典】厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」

2)就業規則に規定する
休暇については、必ず就業規則に記載されなければいけません(絶対的必要記載事項)。
使用者が有休の時季を指定する場合は、その対象となる労働者の範囲、時季指定の方法などを就業規則に盛り込む必要があります。

就業規則に盛り込む条項の例

就業規則に盛り込む条項の例

【出典】厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」

3)年5日の有休取得をさせなかったときと就業規則に規定しなかったときは、罰則が科せられることがあります。
このように、有休5日の取得義務化にあたっては、どうしても人事の作業が増えてしまいます。そこで、基準日を年始や年度初めなど1つにまとめるか、難しければ月初などにまとめることが推奨されています。また「計画年休」でも、労務管理の手間を減らすことができます。これは、年末年始やお盆などに前もって有休を計画的に割りあてておく、という方法です。祝日のあいだをブリッジホリデーとして、連休にするという方法もあります。

これは前述のとおり、あまりに事業主の意向ばかりを反映して、はたらく側の意向を無視しているのは好ましくありません。取得義務化された5日以外の日数は、労働者が確実に自由に日にちを選ぶことができるようにしておかなければいけません。

計画年休の例

計画年休の例

【出典】厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」

ほかにもある労働基準法違反のケース

36協定と有休取得の義務化の違反のほかにも、違反のケースはあります。主なものをあげてみましょう。

・法定の制裁限度額を超えた額を、給与から差し引いてしまった(労働基準法第91条)
制裁のための減給する場合、1回の減給額が1日の平均賃金の半分を超えてはいけません。また、1カ月の総額がもともとの給与額の1/10を超えてはいけません。そもそも制裁を科す場合、その旨が就業規則(懲戒規定など)に記載されていなくてはいけません。

・残業代の未払い(労働基準法第37条)
時間外労働、休日労働、深夜労働をさせたときには、決まった割増賃金を支払わなければいけません。

・予告なしの解雇(労働基準法第20条)
解雇するときには、少なくとも解雇日の30日前に予告しなければいけません。できない場合は、予告日数に不足する日数分の給与賃金額を支払わなければなりません。ただし、天変地異や倒産などのやむを得ない場合、または従業員の責任に帰する理由のときは、この限りではありません。

・休憩時間の違反(労働基準法第34条)
1日あたり労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩時間を与えなければいけません。たとえば短時間勤務者が早く帰りたいから休憩時間をとらず、終業時間を早めてほしいといったからといって、終業間際に休憩時間を設定したり、休憩をとらないことを認めたりすると違反になります。

従業員に指摘されたり、労働基準監督署にかけこまれたりしてしまった場合、「うっかり」や「知らなかった」では通用しません。労働基準法を十分理解して、法違反となるようなことは避けたいものです。

まとめ|労働基準法の正しい知識を身に着けて法令遵守の意識を

労働基準法は事業者として労働者を雇う際に最低限守られるべき基本のルールです。社内で起きる労働者とのトラブルや問題を適切に対処するには、人事や法務の担当者が労働基準法について把握しておくことが重要です。また、社内が違法な状態になっていないか人事労務管理を行い、法令遵守の意識を常に持つように心がけましょう。

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インタビュー・監修

中村俊之(なかむら・としゆき)

中村俊之(なかむら・としゆき)

中村社会保険労務パートナーズ代表、特定社会保険労務士・人事コンサルタント。人事労務畑の仕事に40年の経験、会社の実態に沿ったベストソリューション(問題点の解決)を得意とし、企業研修は年50回程度行う。人事制度・賃金制度等処遇制度の構築、人事考課制度の構築・考課者研修、労働相談、就業規則その他規程の作成・見直し、目標管理制の構築・研修、階層別(部長級・課長級・係長級・新入社員)教育訓練ほかに対応。主著に『やさしくわかる労働基準法』(監修、ナツメ社刊)ほか