バックオフィスにおけるDXとは
バックオフィス業務とは、顧客と直接のやりとりを行わない業務のことを指します。代表的な職種には以下があります。
・経理、財務…会社のお金の収支管理、融資、株式発行など
・人事、労務…採用、教育、勤怠管理など
・総務…情報セキュリティ管理、設備・備品管理、株主総会運営など
・法務…社内規定整備、コンプライアンス対応など
これらの業務は直接的な利益をもたらすわけではありませんが、企業経営を管理する役割を担っているため、会社全体に関わる重要な業務にあたります。
そしてDXとは「デジタルトランスフォーメーション」を略した言葉です。経済産業省は2018年に「DXを推進するためのガイドライン」にて、DXを以下のように定義しています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
ここで注意したいのが、デジタル化=DX、ではないということです。DXとは本来、データやデジタル技術を使い、顧客視点で新たな価値を生み出し、競争力を強化するためにビジネスを変革していくことを指します。AIやツールの導入にばかり目が向いてしまいがちですが、「どのような価値を生み出すか」といった革新的な視点を持つ必要があります。
つまり、バックオフィスにおけるDXとは、経理や人事、総務といったバックオフィス業務を、デジタル技術の活用によって変革し、企業の競争力を強化することと言えます。
バックオフィスのDXが必要な背景
なぜバックオフィスにおいてDXが必要といわれているのでしょうか。それにはいくつか理由があります。
急激に変化するはたらき方に適応するため
働き方改革を推進するべく、厚生労働省は2019年に「働き方改革関連法」を策定し、柔軟なはたらき方を選択できる「フレックスタイム制」の拡充を規定しました。また、コロナ禍でテレワークを導入する企業も増えており、はたらき方が多様化しています。
しかし、2020年にアイティメディア株式会社が行った「アフターコロナのバックオフィス業務に関する読者調査」によると、バックオフィス業務に携わる社員の4人に1人が、テレワークを行うことができず出社しているという調査結果が明らかになりました。なかでも紙ベースの業務と、電話対応等の外部とのコミュニケーションが必要であるため、バックオフィス部門では一定の出社が要される傾向となっているようです。
また、日本オラクル株式会社の「職場におけるAI調査」によると、現在職場でAIを活用していると回答した人は日本では26%で、調査対象の11カ国の中で最下位(平均は50%)となっています。バックオフィスにおけるAI活用が世界では当たり前になりつつあるなか、日本ではまだまだ進んでいない状況です。
一方で、AIツールへの投資を加速すると回答した人は、経営者層では63%、部長クラスは58%と、多くの企業がデジタル技術を導入していくことを検討していることが伺えます。
このことから、バックオフィスのDX化にいち早く取り組むことで、新たなはたらき方へも柔軟に対応することができるでしょう。
コスト、工数の削減を図るため
バックオフィス部門は企業の根幹を支え維持するのに欠かせない業務ばかりですが、多くの人員を必要とする業務が多いことが課題として挙げられます。労働人口減少に伴って人手不足に拍車がかかっているいま、これらのバックオフィス業務に多くの工数がかかってしまうと、本来の業務に注力できなくなったり、より深刻な人材不足を招きかねません。
DXを推進することで、これまで人が行っていた業務を効率化できるため、結果的に人件費や、家賃や事務用品費のような経費といったコストの削減を図ることができます。
「2025年の崖」問題を解決するため
2018年、経済産業省が発表した「DXレポート」内に登場したキーワードに「2025年の崖」があります。
2025年の崖とは
多くの経営者が、将来の成長、競争力強化のために、新たなデジタル技術を活用して新たなビジネス・モデルを創出・柔軟に改変するDXの必要性について理解している。しかし、
・ 既存システムが、事業部門ごとに構築されて、全社横断的なデータ活用ができなかったり、過剰なカスタマイズがなされているなどにより、複雑化・ブラックボックス化
・ 経営者がDXを望んでも、データ活用のために上記のような既存システムの問題を解決し、そのためには業務自体の見直しも求められる中、現場サイドの抵抗も大きく、いかにこれを実行するかが課題となっている
→ この課題を克服できない場合、DXが実現できないのみでなく、2025年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)の経済損失が生じる可能性がある
バックオフィス部門は、比較的DXしやすい定型的な業務が多く存在します。DXを進める必要性について理解しているものの、具体的な取り組みに至っていない企業もあるのが現状です。また、デジタル技術を導入することと、それをしっかりと運用・定着させて「変革し競争力を強化する」というDX本来の目的を達成することはまた別問題です。そのため、バックオフィス部門のDXはどの企業においても急務であるといえるでしょう。
【無料DL】バックオフィスのDXを推進するためのノウハウガイド
DXを推進するためには、まずは既存業務のプロセス可視化・効率化が必要です。しかし、バックオフィスにおいては、属人化やアナログ業務の残存といった特有の課題により一筋縄ではいきません。これを解決するためには、問題を切り分け、具体的に解決すべき事項を明らかにし打ち手を対応させていく必要があります。 本資料では、バックオフィスのDXを推進するための方針と行うべき打ち手、ソリューションについて解説します。バックオフィス部門の皆様はぜひご活用ください。
バックオフィスDXによるメリット
バックオフィスDXは、コスト削減と生産性向上のほか、多様な働き方を実現するなど、企業活動においてさまざまなメリットがあります。
コスト削減
業務の自動化やデジタル化は、人件費などのコスト削減につながります。
例えば、紙媒体メインの業務の場合、書類の印刷代や保管費用といった固定費に加え、稟議承認のための書類の受け渡しや押印に、担当者の工数がかかっています。ペーパーレス化を実現することで印刷代など固定費の削減につながります。
また、担当者の業務工数が削減されることで、重要な業務に注力することも可能になります。
生産性向上
バックオフィス業務の効率化は、企業の生産性向上に貢献します。
例えば、今まで手作業で行っていた経費精算に関するデータ入力作業を自動化することによって、1時間かかっていた業務を10分で終わらせるというようなことが可能になります。
作業を効率化することで別業務に専念できるようになるなど、生産性の向上が期待できるでしょう。
多様なはたらき方が実現
紙媒体メインでバックオフィス業務を行っている場合、作業するためにオフィスに出社しなければなりませんが、バックオフィスDXができればテレワークが可能になります。テレワークにより多様なはたらき方が実現すれば、優秀な人材の獲得にもつながります。
実際、会社のサイトの中途採用ページに「テレワークを導入している」と掲載すると、ライフステージに合わせて多様なはたらき方ができると認識されることで、新卒採用において優秀な人材が集まるという声が挙がっています。
正確性を担保
人の手による作業では、どこまでいってもミスが発生する可能性があります。しかし、お金や個人情報を取り扱うバックオフィスの業務は、いずれも重要度が高くミスが許されない領域です。
バックオフィスDXを推進し自動化を進めることで、ミスが発生する可能性を限りなくゼロに近づけ、業務の正確性を担保することにつながります。
属人化を解消
バックオフィス業務の多くは、専門性を求められ属人化しやすい傾向にあります。しかし、特定の担当者しか業務が分からない状態では、事故や休職、退職が出た場合業務が止まってしまうので、企業にとってはリスクです。
バックオフィスDXを進め、業務標準化をしてマニュアルをデータ化することで、この属人化によるリスクを解消することができます。
バックオフィスのDXを推進する方法3選
バックオフィスのDXを推進する方法について見ていきましょう。
ペーパーレス、脱ハンコ、電子署名等の活用
1つはペーパーレスの実現です。例えば会議のプレゼン資料、取引先との契約書、物品発注の際の請求書など、日々の業務を切り取ってみると、多くの場面で紙ベースでの情報のやり取りを行っています。
以前は法的に契約などの効力を持たせるには紙媒体が必要とされていたため、時間やコストがかかったとしてもアナログでのやり取り以外に選択肢がありませんでした。
しかし、2021年に「デジタル改革関連法案」が制定されたことにより、法律上でもデジタルでの手続きが認められるようになりました。ペーパーレスによって、これまで難しかった遠方での契約がスムーズに行える、押印や書類のやり取りのために出社する必要がなくなりテレワークにシフトできる、といった業務効率化を図ることが可能になりました。さらに、紙や切手などのコストの減少、重要書類の紛失リスク減少といった経費・リスク削減の成果も見込めます。
ノンペーパーに関する取り組み事例|株式会社野村総合研究所様
▼取り組み前の課題
業務上作成する紙資料が机上に山積みとなり、キャビネットも書類で溢れる状態でした。多くの社員が、多量の紙を使用することが日常化しており、使用量についても無頓着になっていました。
▼取り組み
使わない・残さない、ではなく、紙にとらわれないはたらき方の構築により、業務の効率化を図りました。紙で保管する必要のないものは電子化したり、ノートPCを全社員に配布しどこでも仕事が出来るような体制を整えたり、会議資料もプロジェクターやスクリーンを活用したりという変革を実行。結果的に、環境整備だけでなく意識改革にもつながり、紙にとらわれないはたらき方を実現しました。
アウトソーシング・RPAの活用
バックオフィスのDX推進に向けて検討できる他の手段に、アウトソーシングの活用があります。
バックオフィスには定型的な業務が多く存在します。例えば電話やメール対応といったカスタマーサポートや、データ入力といった業務をアウトソーシングすることにより、本来注力したい業務への時間を生み出すことが可能です。
また、RPAの導入も1つの手段です。例えばデータ入力・分析、社内のQ&Aチャットボットなど、定型的で単調な業務はRPAの得意とする分野です。RPAを導入し業務の自動化を図ることも、バックオフィスのDX推進への一歩となるでしょう。
クラウドサービスの利用
バックオフィスのDXを実現するにあたり、クラウドサービスの利用も重要です。例えば、経費精算や勤怠管理など、クラウドサービスによって自動化することができます。また、ネットワーク環境さえあればどこでも利用できるのも、クラウドサービスのメリットでしょう。従来であれば出社してタイムカードを押していたのを、どこからでも打刻できるようになれば、テレワークなど多様なはたらき方にも柔軟に対応していくことができます。
バックオフィスのDXを推進する際のポイント
最後に、バックオフィスのDXを推進する際のポイントを2点紹介します。
既存システムとの兼ね合い
バックオフィスのDXを推進するにあたり、システムの導入を検討する方も多いのではないでしょうか。しかし、システムにはさまざまな種類があるため、導入に失敗しないためには導入前にしっかりと検討を重ねる必要があります。
日本トレンドリサーチが2021年に行った「社内へのシステム導入に関するアンケート」によると、社内へのシステム導入で25.7%の人が「失敗したことがある」と回答しています。理由の1つに、既存システムとの互換性による失敗があげられています。例えば、会社のフローにマッチしていなかったり、新たに導入したシステムが社内システムとの統合ができず断念してしまったり、という失敗事例があります。
また、システムの導入=ゴールではない、という部分も忘れてはいけません。システムは、自社の課題を解決したり効率化を図ったりするための手段として活用するものです。
・導入したものの、使いこなせずにいる
・逆に生産性が落ちてしまった
といった結果になってしまうと、既存業務の改善のために導入したものが、かえって自社にネガティブな影響を与えてしまう可能性もあります。導入によって本当に効率化につながるのか?何を実現したいのか?といった、明確な目的を定めてからシステムの精査を行いましょう。
「DX推進指標」の活用
2018年に経済産業省が発表した「DX推進指標」を活用することも検討しましょう。
DX推進指標は、
・DX推進のための経営のあり方、仕組みに関する指標
・DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築に関する指標
の2つから構成されています。
指標の項目は以下のようなものがあり、企業ごとに自己判断をします。それぞれ「未着手の状態」から「競争を勝ち抜くことのできるレベル」までの6段階評価となっています。
この指標を有効活用することによって、自社の現状や課題に対する認識を共有し、何から取り組むべきかのアクションにつながる気づきを得ることができます。また、DX推進には必須ともいえる、経営者と現場の意識の擦り合わせにも効果的です。
まとめ
バックオフィス部門のDXを推進する方法として、ペーパーレス化やアウトソーシング、クラウドサービスの活用を紹介しました。また、自社のバックオフィス業務の見直し方法として、推進指標の有効活用が効果的ということもお分かりいただけたかと思います。
自社の競争力を強化させるためにも、今一度バックオフィス部門の在り方を改革してみませんか。
バックオフィスのDXを推進するためのノウハウガイドをご覧いただけます
テクノロジーの進化が、あらゆる業界に変革をもたらしており、企業の競争力維持・強化のためにも、DXによるビジネスの変革と新たな価値創出が求められています。DXを推進するためには、まずは既存業務のプロセス可視化・効率化が必要です。
しかし、バックオフィスにおいては、属人化やアナログ業務の残存といった特有の課題により一筋縄ではいきません。これを解決するためには、問題を切り分け、具体的に解決すべき事項を明らかにし打ち手を対応させていく必要があります。
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バックオフィス部門の皆様はぜひご活用ください。