2023年08月03日
2023年11月15日
DX推進が叫ばれる中「2025年の崖」という用語を目にするようになりました。2025年の崖とは経済産業省がDXレポートで提示したキーワードで、2025年以降に予想されている膨大な経済損失に関する問題のことを指します。
2025年の崖の発生には多くの日本企業が保有しているレガシーシステムが起因しています。レガシーシステムが残存した場合、業務改善やDX推進の妨げになり、重大なリソース不足や競争力の低下に陥る恐れがあります。
本記事では、DX推進に大きな影響を与えるとされる2025年の崖について、経済産業省が示す定義や発生する原因、起こり得る問題とともに、乗り越えるための解決策について解説します。
【お役立ち資料】2025年の崖に備えて取り組むべきこととは
2025年の崖は既存システムの複雑化やブラックボックス化によって引き起こされる可能性があります。社内にシステムに詳しい人材を確保することで、既存システムの問題や改善点を見つけ出し、保守運用のコスト削減や現代に適したシステムの導入を推進することができます。
・どのような人材を育成すればいいかわからない
・ITやシステムに強い人材が社内にいない
・システムの保守運用費を抑えつつ、データ活用の環境を整えたい
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目次
2025年の崖とは、2018年に経済産業省が「DXレポート」内で提示したキーワードです。DXを推進できず国際競争力を失う問題を指しており、2025年以降に大きな経済損失が発生すると予測されることから、警鐘を鳴らす意味を込めて「2025年の崖」と呼ばれました。
2025年の崖では、主に次の2点が問題として取り上げられています。
これらの問題が解決できなければ、DXが推進できないだけではなく、2025年以降、年間で現在の約3倍である最大12兆円の経済損失が生じる可能性があるとされています。これが「2025年の崖」と呼ばれ、近年注目されているのです。
DXレポートでは、2025年の崖が発生する大きな原因として、レガシーシステムの存在を挙げています。
レガシーシステムとは、経済産業省にて「技術面の老朽化、システムの肥大化・複雑化・ブラックボックス化等の問題があり、その結果として経営・事業戦略上の足かせ、高コスト構造の原因となっているシステム」と定義されています。
例えば
などがレガシーシステムに該当します。
このようなレガシーシステムが残っていると、部門を横断したデータ活用ができなかったり、保守運用に高いコストがかかってしまったりと、事業成長の妨げになります。
またレガシーシステムではデータを正しく利活用できないことが多いため、DX推進を阻害する要素としても注意しなければいけません。「DX」とは、デジタル技術によって業務やビジネスモデルを変革し、企業価値を高めるための取り組みのことです。
「2025年の崖」を解決すると同時に、DX推進を進めるためには、このようなレガシーシステムからどのように脱却するかがポイントとなります。
【関連記事】DXとは?意味や取り組み内容・メリットをわかりやすく
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DXを推進せず、レガシーシステムを残したまま2025年を迎えた場合には、どのような問題があるのでしょうか。ここでは、システムを利用する企業(ユーザー企業)とシステムを提供する企業(ベンダー企業)でそれぞれ起こり得る問題について解説します。
ユーザー企業では、前述のとおりIT知識を持った人材が不足しがちなため、自社のシステムがレガシー化していることに気づきづらいという問題があります。システムが限界を迎えた段階になって、初めて発覚するというケースが少なくありません。
このような状態でDXを推進しても、データを利活用することができないため、以下のような問題が発生します。
レガシーシステムが残存した場合、システムの保守運用にコストが必要です。しかし、システムの肥大化・複雑化・ブラックボックス化などによって社内での保守運用が難しくなるため、メンテナンス費用が高額化することが予想されます。各種システムのサポート期間が終了することも問題です。
レガシーシステムから脱却できない状態でシステムのサポート期間が終了すれば、技術的負債を抱えるとともに、現状の業務プロセスにも支障をきたすことが考えられるでしょう。その結果、業務基盤そのものの維持や継承が困難になってしまいます。
また、ITやAI技術の進歩により、市場ではますますデジタル化が進行しています。レガシーシステムが残存した場合、新しい技術への対応ができず、顧客データを正しく取得・活用できない、市場に合ったサービスを提供できない、といった問題が起こります。市場に合ったサービスを提供できなければ、競争力を失う可能性があるでしょう。
ベンダー企業においては、運用や保守といったレガシーシステムへの対応に社内のリソースを奪われ、成長が見込まれるクラウドベースのサービス開発などの、注力すべき他のサービスへ割く余力が不足するという問題が生じます。
IT技術は絶えず更新を繰り返しているため、古いプログラミング言語を使ったシステムの需要は年々減少しています。長期的には業績悪化や競争力の減少、人材不足につながる恐れがあります。過去のプログラミング言語を理解できる従業員も年々減少するため、保守業務が属人的になり技術の継承も難化します。
また、レガシーシステムのサポートを継続し、それが主力業務となることにより、下請けとしての立場から脱却できないという事態が起こります。これもベンダー企業にとっては望ましくありません。
【関連記事】レガシーシステムとは?問題点や脱却・移行プロセスをわかりやすく解説
「DX白書2023」によると、日本企業の87.8%はレガシーシステムを保有しています。
同調査によると、日本でDXに取り組んでいる企業の割合は毎年増加しており、2021年度の55.8%から2022年度は69.3%に増加しています。しかしながら、レガシーシステムは未だ企業に残存しているのが現状です。
なぜこのようにレガシーシステムが残っているのか、考えられる3つの原因を紹介します。
レガシーシステムを解消し、データを利活用するためには、IT部門などの一部だけでなく、全社的な取り組みをすることが重要です。そのためには経営層がDXの必要性を理解し、リーダーシップを発揮することが求められます。しかし、経営層のデジタルリテラシーが不足している場合、2025年の崖が示すリスクに理解を示さないため、必要な対策がなされません。
既存システムにどのような問題があり、どのように克服していくべきかを経営層が理解できないことは、2025年の崖を引き起こす一因となります。
日本企業独自の要因として、ユーザー企業とベンダー企業の関係性が挙げられます。システム開発において、ユーザー企業は要件定義段階からベンダー企業へ依頼請負契約を締結することも少なくありません。
何を開発するかをベンダー企業に丸投げする形となるため、ユーザー企業側はシステムについての知識が乏しく、またベンダー企業側も、リテラシーが低いユーザー企業側の要望をそのまま受け入れてしまうという問題があります。国内にはスクラッチ開発や汎用パッケージでもカスタマイズを好むユーザー企業が多く、個々のシステムに独自ノウハウが存在するケースが多く見受けられます。
また、依頼請負契約に当たっては、ユーザー企業とベンダー企業との間の責任関係や作業分担が明確になっていないこともあり、その結果、損害賠償請求などのトラブルに発展するケースもあり、多くの時間とコストを要することとになります。
DXにおけるシステム開発では、まず「システムで何を実現したいか」という要件をユーザー企業側が定義し、現在のシステムが持つ課題を把握したうえで対応することが必要です。
IT業界の技術の進歩は目覚ましく、過去のプログラミング言語を新たに取得する人は多くありません。レガシーシステムは過去のプログラミング言語で構築されている場合が多いため、当時の技術者が定年退職した場合、レガシーシステムを理解し対応できる技術者が減少します。
また、部分的なカスタマイズを繰り返した結果、システムの操作が属人化してしまい、扱える人材が既に会社に残っていないということもよくあります。
レガシーシステムのメンテナンスは、新しい技術を身につけた若手エンジニアにとって成長が感じられるものではないため、対応する人材が定着しにくいという問題もあるでしょう。
経済産業省の「DXレポート」は、2025年には導入から21年以上経過した基幹システムが6割となり、IT人材の不足は約43万人まで拡大するとして警鐘を鳴らしています。そのような状況の中でレガシーシステムに対して十分に対応できる人材を確保するのはより困難になることが想定されます。
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ここからは、2025年の崖を乗り越えるために企業が取るべき解決策について解説します。
「2025年の崖」を解決するために、デジタルガバナンス・コードの活用が挙げられます。経済産業省は、DX推進に向けた企業の自主的な取り組みを促すために、経営者が取るべき対応をデジタルガバナンス・コードとして提示しました。デジタルガバナンス・コードは、自社が抱えている課題を洗い出すことや、DX推進への取り組み状況を評価する際のガイドラインとして利用することも可能です。
デジタルガバナンス・コードを構成する要素は、以下の4つです。
ここではそれぞれの考え方を詳しく解説します。
ビジョン・ビジネスモデルは、ビジネスと IT システムを一体的に捉え、DX推進による変化が自社にどのような影響をもたらすかを踏まえたうえで経営ビジョン策定やビジネスモデル設計を行うことを企業に求めます。あわせて、ステークホルダーへ提示することも必要です。取り組みの一例としては、DXを推進すべくビジョンを定め、実現に向けたビジネスモデルを設計することが挙げられます。
戦略は、企業に対し、自社を取り巻く環境の変化を踏まえ、ビジネスモデル実現のためにデジタル技術を活用した戦略を策定し、ステークホルダーへ提示することを求めます。DX 推進に向けた戦略を具体化することが取り組みの一例です。
成果と重要な成果指標は、企業に対し、デジタル技術を活用する戦略がどれだけ達成したかを測る指標を定め、それに基づき測定した成果に関する自己評価をステークホルダーへ提示するべきとしています。企業価値の向上に関する KPIをステークホルダーに対して開示することは、成果と重要な成果指標の取り組みとして挙げられます。
ガバナンスシステムは経営者が行うべきことを挙げる項目です。DX推進に向けた戦略を実施する際、経営者はステークホルダーへの情報開示も含めリーダーシップを発揮して行うべきとされています。また、経営者は社内の事業部門やITシステム部門などと協力して、自社が保有するDX推進における課題の把握および分析を行い、戦略へ反映させていくことや、サイバーセキュリティリスクなどへ必要な対応をすることも求められています。取り組み例としては、IT人材の育成や確保を目的とした、経営戦略と人材戦略の連動や、社内に存在する人材面でのギャップを埋める方策の明確化などが挙げられます。
「DX推進指標」とは、経済産業省が作成した「企業が自社のDXの進捗状況を評価するための指標」です。経営者や社内の関係者が自社のあるべき姿と現状の間にあるギャップに気づき、取るべき対応策に関する共通認識を持って必要な行動ができるよう、気づきの機会を提供する目的で経済産業省により策定されました。この指標は各項目について、経営幹部や事業部門、IT部門などの関係者が集まり議論をしながら回答することを想定しており、自社のDX推進状況を自己診断することに役立ちます。
DX推進指標は、主に以下の項目で構成されており、大別して経営体制(組織体制)とシステム面の整備状況という2つのカテゴリーから企業のDX状況を評価する点が特徴です。
DX推進指標を活用してDXを推進する際は、以下の手順で進めていきます。
DX推進指標を活用することにより、企業内で組織階層や部門をまたいでの共通認識が生まれる、施策の進捗管理や評価を客観的にできるといった効果を得られます。
この指標を活用する際に重要なのが、関係者が集まって行う議論を通して、共通認識を育むことです。担当者が一人で項目を確認し、次の部門へ回したり、特定の部門が診断した結果を他部門が確認したりといった方法では、望ましい結果が得られません。また、議論で終わらせず、具体的な行動を起こすことや、その達成度合いについて定期的および継続的に評価し、持続的なDXにつなげることも大切です。
【関連記事】DX推進指標とは?活用方法や自己診断で陥りやすい間違いを解説
レガシーシステムの放置により生じるセキュリティリスクや経営上の不利益について、経営者がしっかりと認識できるようにすることが必要です。例えば、既存システム刷新などの必要な決断を経営者が行えるようにするには、情報の「見える化」が求められます。
例えば、ITシステムの現状を把握できるよう、技術的負債の対象と度合いを具体化するなど、経営上の課題として認識しやすい指標を作成します。指標が望ましい値にならなかった場合に取るべき行動まで設計すると効果的です。
また、自社のDX推進指標の検討や診断を行う分析スキームの構築も、経営者による自社の現状把握に役立ち、2025年の崖克服の一助となり得ます。
レガシーシステムを刷新し、ビジネスモデルの変化に迅速に対応できるようなシステムを構築することもDX実現のためには重要ですが、注意しなければならないポイントがあります。それは、システムの刷新には多大なコストと時間がかかり、リスクを伴うということです。また、刷新したシステムが再度レガシー化する可能性も否定できません。ITシステム刷新の際には、こういったコストやリスクを抑えながら、設定した目的を実現できるものにする必要があります。
レガシーシステムから脱却するための具体的なプロセスや注意点については、関連記事「レガシーシステムとは?問題点や脱却・移行プロセスをわかりやすく解説」で詳しく解説しています。
解決策の一つとして、ベンダー企業との関係見直しが挙げられます。従来、ウォーターフォール開発と呼ばれる、滝が流れるように上流工程から順番に下流工程へと開発が進められる開発手法が日本ではよく利用されており、経済産業省が公表したモデル契約も存在します。しかし、この契約は既存システムの再構築を想定しておらず、ウォーターフォール開発自体も柔軟なシステムの提供に適した形式ではありません。
そのため、今後は継続的なシステムの再構築やアジャイル開発などのDXに適した形態へと契約を見直し、ベンダー企業との新たな関係を構築することが求められます。
DX人材の育成・採用を行うためには、まず必要な人材スキルを整理し、明確化することが求められます。DX人材には「デジタル技術・データ活用のスキル」といった技術的なスキル以外にも、発想力や論理的思考力、マネジメントスキルのほか、対人関係や思考のスキルなど、業務を推進するためのスキルも必要です。
例えば、システムの刷新とビジネスの変革をリンクさせ、経営改革においてリーダーシップを発揮できる人材や、ITリテラシーが高く経営改革実現するために必要なITシステムを構築できる人材などがユーザー企業で求められる人材の例として挙げられます。
このような人材の確保・育成には情報処理技術者試験の活用や、産学連携による人材育成も有効です。また、アジャイル開発の実践も、社内に開発手法の知識が蓄積され、必要な人材育成につながります。
自社での教育が難しい場合は、DX人材を採用するのもひとつの方法です。その際は、採用ターゲットを明確化し、自社の魅力をアピールすることがポイントです。
DX人材の需要はここ数年で急増し、獲得競争が激化しています。「待ち」の姿勢ではなく「攻め」の姿勢でアプローチすることを心がけましょう。
また、教育や採用により社内に人材を保有するだけではなく、外部人材を活用するという手段もあります。必要な時に必要なスキルを持った人材を活用できるため、短期的に見れば最も効率が良い方法と言えるでしょう。
【関連記事】DX人材とは?役割や求められるスキル・獲得方法
2025年の崖を引き起こす原因には、レガシーシステム化やIT人材の不足などがあります。自社が持つ課題を放置したまま2025年を迎えると、セキュリティリスク増加やDX推進の難化といった問題につながりかねないため、デジタルガバナンス・コードやDX推進指標の活用などの対策を取ることをおすすめします。
【お役立ち資料】2025年の崖に備えて取り組むべきこととは
2025年の崖は既存システムの複雑化やブラックボックス化によって引き起こされる可能性があります。社内にシステムに詳しい人材を確保することで、既存システムの問題や改善点を見つけ出し、保守運用のコスト削減や現代に適したシステムの導入を推進することができます。
・どのような人材を育成すればいいかわからない
・ITやシステムに強い人材が社内にいない
・システムの保守運用費を抑えつつ、データ活用の環境を整えたい
パーソルグループでは、上記の課題を抱える方に向けて【DXをリードする人材を育成するポイントとは】を公開しています。2025年の崖への対策を検討されている方はぜひご活用ください。