2023年08月03日
2025年05月23日
「2025年の崖」とは、多くの日本企業が抱えるレガシーシステムや人材不足が2025年以降にピークを迎え、それらの問題が解決できない場合に大きな経済損失を引き起こすことを指します。
今後もレガシーシステムが残存し続けた場合、業務改善やDX推進が妨げられ、競争力低下やリソース不足に陥る恐れがあります。
本記事では、2025年の崖の定義やレガシーシステムが残ってしまう要因、起こり得る問題と乗り越えるための解決策について解説します。
【お役立ち資料】2025年の崖を乗り越えるために取り組むべき8つの施策とは
「2025年の崖」によって発生する経済的損失などのリスクに備え、企業は2025年の崖への対策が急務となっています。
パーソルグループでは、2025年の崖に取り組む意義や思うように進まない理由、企業が取り組むべき8つの施策についてまとめた【レガシーシステムを刷新!2025年の崖を乗り越えるためにDX・IT部門が取り組むべき8の施策】を公開しています。
DX推進に課題をお持ちの方はぜひご活用ください。
目次
「2025年の崖」とは、日本企業が直面するITシステムの老朽化やDX(デジタルトランスフォーメーション)の遅れによる経済的損失の危機を指す言葉です。これは、経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」で提起されました。
多くの日本企業では、長年使われてきた基幹システム(レガシーシステム)が残っています。これらは古い技術や仕様に依存しており、改修や他のシステムとの連携が難しく、業務の非効率化を招く要因となっています。さらに、これらのシステムを支えるIT人材の高齢化や不足により、保守・運用が困難になるリスクも高まっています。
このままDXが進まなければ、企業の競争力が低下し、業務の停滞やセキュリティリスクの増大が避けられません。経済産業省の試算によると、これらの問題が解決されない場合、2025年以降に発生する年間経済損失は最大12兆円にのぼるとされています。そのため、この危機を指して「2025年の崖」と呼ばれています。
2025年の崖を乗り越えるためには、レガシーシステムの刷新やクラウド移行、AI・データ活用などのDX推進が不可欠です。また、IT人材の育成・確保も重要な課題となります。企業が2025年の崖を回避し、持続的な成長を遂げるためには、早急な対応が求められています。
【関連記事】レガシーシステムとは?問題点や脱却・移行プロセスをわかりやすく解説
DX(Digital Transformation)とは、デジタル技術によって業務やビジネスモデルを変革し、企業価値を高めるための取り組みを指します。経済産業省の「デジタルガバナンス・コード3.0」によって以下のとおり定義されています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
DXについて詳しくは以下の記事で解説しています。
【関連記事】DXとは?意味や必要とされる背景、進め方、事例を解説
2025年の崖を乗り越えるために取り組むべき8つの施策
「2025年の崖」によって発生する経済的損失などのリスクに備え、企業は2025年の崖への対策が急務となっています。
パーソルグループでは、2025年の崖に取り組む意義や思うように進まない理由、企業が取り組むべき8つの施策についてまとめた【レガシーシステムを刷新!2025年の崖を乗り越えるためにDX・IT部門が取り組むべき8の施策】を公開しています。
「DX動向2024」によると、日本でDXに取り組んでいる企業の割合は73.7%で年々増加しています。しかし、同調査によると日本企業の76%がレガシーシステムが残っていることがわかります。
なお、同調査によると、従業員数が多い企業(301人以上)では、レガシーシステムの刷新にあたって以下のような課題を抱えていることがわかります。
一方で、従業員数100人以下の中小企業ではこれらの課題を挙げる割合がいずれも10%未満と低くなっています。従業員数が多い企業ほど、システムの複雑さや現場の抵抗などが影響し、よりレガシーシステムの問題が表面化している傾向にあるといえます。
ここからは、なぜレガシーシステムが残ってしまうのか、考えられる3つの原因について解説します。
レガシーシステムが残る大きな要因の一つは、経営層がそのリスクを正しく認識していないことです。
システム刷新には多額のコストと時間がかかるため、後回しにしがちです。しかし、老朽化したシステムは保守が難しくなり、リスクが高まります。また、DXの遅れによって競争力が低下し、事業継続に支障をきたす可能性もあります。さらに、古いシステムはセキュリティリスクも高く、情報漏洩などの深刻な問題につながることもあります。
経営層がこれらのリスクを理解し、システムの刷新を経営課題として捉えない限り、抜本的な対策は進みません。
レガシーシステムの刷新には、ユーザー企業(システムを利用する企業)と、ベンダー企業(システムを開発・保守する企業)の協力が不可欠です。しかし、多くの企業ではこの協力体制が不十分であるため、問題が解決しにくくなっています。
例えば、ユーザー企業が現行システムの仕様を十分に把握しておらず、ベンダー企業に依存しすぎるケースが見られます。また、ベンダー企業側も、既存システムの保守契約が収益源となっているため、大規模な刷新を提案しづらいことがあります。さらに、長年の付き合いにより契約関係が固定化し、新しい技術を持つベンダーへの切り替えが進まないことも課題です。
こうした状況が続くと、結果的にレガシーシステムの維持が優先され、DXの推進が遅れてしまいます。
新たなプログラミング言語が次々生まれている一方で、レガシーシステムの多くは、数十年前に開発された古いプログラミングを用いています。そのため、システムの構造を理解し、適切に保守・運用できるエンジニアの確保が難しくなっています。特に、これらのシステムを担当してきたベテラン技術者が退職すると、社内に知見が残らず、トラブル時の対応が困難になるケースが増えています。
また、場当たり的なカスタマイズを繰り返した結果、システムのメンテナンスが属人化し、社内にシステムを扱える人材が残っていなかったというケースも少なくありません。
新しい技術を身につけた若手エンジニアにとってキャリア形成につながらないため、人材が定着しにくいのが現状です。経済産業省の「DXレポート」では、2025年には導入から21年以上経過した基幹システムが6割となり、IT人材の不足は約43万人まで拡大するとして警鐘を鳴らしています。そのような状況でレガシーシステムに対応できる人材を確保するのは、より困難になることが想定されます。
【お役立ち資料】DX人材の育成に課題をお持ちの方に
本資料は、DX・IT人材を社内で育成する際のポイントや準備すべきことについてまとめています。
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このような課題をお持ちの方は、ぜひご活用ください。
【関連記事】IT人材不足の原因とは?企業に必要な対策と解決方法を解説
レガシーシステムを残したまま2025年を迎えると、どのような問題があるのでしょうか。ここでは、ユーザー企業とベンダー企業でそれぞれ起こり得る問題について解説します。
ユーザー企業では、IT人材が不足しているため、自社のシステムがレガシー化していることにすら気付きにくいといった問題があります。システムが限界を迎えたときに初めて問題が発覚し、対応が後手に回るケースも少なくありません。
この状況が続くと、以下のような問題が発生します。
また、レガシーシステムが残存する場合、システムの複雑化・ブラックボックス化が進み、社内での保守・運用が難しくなるため、高額なメンテナンス費用が発生します。また、システムのサポート期間が終了することで、技術的負債が増える可能性もあります。
さらに、ITやAIの進歩により、企業のデジタル化は加速しています。レガシーシステムを使い続けた場合、顧客データを正しく取得・活用できず、市場の変化に即したサービスを提供できなくなるでしょう。これが競争力低下につながり、企業成長の妨げとなる恐れがあります。
ベンダー企業では、レガシーシステムの保守・運用といった対応に多くのリソースが割かれることで、クラウドサービスの開発など成長が見込まれる新規事業に注力できないという問題が生じます。
IT技術は常に進化しており、古いプログラミング言語を用いたシステムの需要は年々減少しています。そのため、レガシーシステムの保守・運用を続けるだけでは、企業の競争力が低下し、業績悪化や人材不足につながるリスクもあります。さらに、過去のプログラミング言語を理解できるが減少することで、業務が属人的になり、技術の継承も難しくなります。
ここからは、2025年の崖を乗り越えるために企業が取るべき8つの対策について解説します。
2025年の崖を乗り越えるためには、経営層の意識改革が不可欠です。多くの企業では、レガシーシステムの問題が深刻化しているにもかかわらず、経営層がそのリスクを十分に認識できていません。その結果、DXの必要性が理解されず、システム刷新への投資が後回しにされるケースが多く見られます。
経営層がDXの重要性を理解するためには、具体的な事例やデータをもとに現状のリスクを可視化し、IT部門との対話を強化することが重要です。また、DX推進を経営戦略の一環として位置づけ、継続的なIT投資や人材育成に取り組むことが求められます。
全社でDXを推進するために、DX推進の専任部門を設置しましょう。
DX推進部門は、経営層と現場の「つなぎ役」となることが役割です。メンバーは現場から数名抜擢し、さらに外部から実績のあるITの専門家をアサインすることで、プロジェクトをスムーズに進めることができます。
このした体制を整えることで、経営層の方針が現場に浸透しやすくなり、また現場の課題やニーズを経営層に的確に伝えることが可能になります。
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DXの具体的な施策は企業ごとにさまざまですが、どの場合にも共通して重要なポイントがあります。本資料では、DX推進を成功に導くステップやDX人材の採用・育成についてまとめた資料を無料で公開しています。これからDXに取り組む・DXにお悩みの方はご活用ください。
2025年の崖を乗り越えるためには、自社が抱える課題を洗い出し、DX推進の現状を評価するためのガイドラインを策定することが重要です。
ガイドラインの策定には、経済産業省が提示した「デジタルガバナンス・コード2.0」が活用できます。これは企業が自主的にDXを進めるための指針として、経営者が取るべき対応が記載されています。
デジタルガバナンス・コード2.0は、以下の4つの要素によって構成されています。
企業はDXによる変革を見据え、ビジネスとITシステムを統合的に捉えて、経営ビジョンやビジネスモデルを設計することが求められます。これを自社だけでなく、ステークホルダーにも共有することが重要です。たとえば、DX推進に向けたビジョンを定め、実現するためのビジネスモデルを策定することが一例です。
企業は、自社の環境変化を踏まえ、ビジネスモデルを実現するためにデジタル技術を活用した戦略を立て、ステークホルダーに示す必要があります。具体的には、DX推進に向けた戦略を明確にすることが求められます。
企業は、デジタル技術を活用した戦略がどれだけ達成されたかを測る指標(KPI)を設定し、その成果をステークホルダーに評価してもらうことが求められます。例えば、企業価値の向上に関するKPIを開示することが挙げられます。
ガバナンスシステムでは、経営者が取るべき行動が示されています。DX推進の戦略を実行する際、経営者はステークホルダーに対して適切な情報を開示し、リーダーシップを発揮することが求められます。
さらに、経営者は社内の事業部門やIT部門と連携して、DX推進における課題を把握・分析し、その結果を戦略に反映させることが必要です。また、サイバーセキュリティ対策やリスク管理を行うことも重要な役割となります。
具体的な取り組み例としては、IT人材の育成や確保を目的に、経営戦略と人材戦略を連動させて進めることが挙げられます。
先述の通り、複雑化・ブラックボックス化した既存システムは、DX推進の妨げとなります。
そのため、システム刷新を客観的に判断できるよう、レガシーシステムの放置により生じるセキュリティリスクや経営上の不利益については、経営者が正しく認識できるようにしましょう。これを実現するためには、既存システムの調査と「見える化」が求められます。
具体的には、以下のようなフローで調査・見える化します。
また、自社のDX推進指標の検討や診断を行う分析スキームの構築も、経営者が自社の現状把握をする際に役立ち、2025年の崖を克服するための一助となります。
既存システムの全体像を把握できたら、今後のDX推進における大方針を固めましょう。
ビジネスモデルや業務そのものを大きく変える必要があるならば、大規模なシステム刷新や業務プロセス改善などを検討しなければなりません。一方、現行の業務を変えない方針であれば、ツール導入による解決も選択肢のひとつとなるでしょう。
DX推進には経営上の投資判断が大きく関与するため、DX推進システムガイドラインで定めたビジョンや、解決すべき課題の優先度などに鑑みて、今後の方針を決めていきます。
DXの方針を固める際に役立つのが、経済産業省が提示した「DX推進指標」です。これは、自社のDX推進状況を評価し、あるべき姿と現状のギャップを明確にするための指標です。経営層や事業部門、IT部門などの関係者が共通認識を持ち、解決に取り組むことを目的としています。
DX推進指標は、「経営体制(組織体制)」と「システム面の整備状況」という2つのカテゴリーに分けて、企業のDX推進状況を評価する点が特徴です。
DX推進指標を活用してDXを推進する際は、以下の手順で進めていきます。
DX推進指標を活用することで、共通認識が生まれ、施策の進捗管理や評価の可視化といった効果が期待できます。関係者全員で議論し、具体的な行動を起こし、定期的に達成度合いを評価することが重要です。
【関連記事】DX推進指標とは?活用方法や自己診断で陥りやすい間違いを解説
DXを実現するために、レガシーシステムを刷新し、ビジネスモデルの変化に対応できるシステムを構築することは重要ですが、注意すべきポイントがあります。それは、システムの刷新にはコストと時間がかかり、リスクを伴うということです。
特に大規模なDX投資を行う場合、ブラックボックス化した既存システムを仕分けたり、残すシステムに対しては刷新を図ったりする必要があり、多大なコストと時間がかかります。また、刷新したシステムが時間の経過とともにレガシー化する可能性も否定できません。
システム刷新の際には、リスクを最小限に抑えつつ、目的を実現できるものにする必要があります。
システムの刷新には、ベンダー企業の支援が必要ですが、ベンダーに丸投げしてしまっては、DXは思うように進みません。自社の業務やシステムを深く理解している人材と、ITシステムの構築に長けた人材が揃ってこそ、本来の目的であるビジネス変革を実現できます。
そのため、ベンダー企業との関係の見直しも2025年の崖を乗り越える解決策のひとつです。
従来の「ウォーターフォール開発」では、上流工程から順番に下流工程へと開発が進む手法が一般的でしたが、これは既存システムの再構築を想定しておらず、柔軟なシステムの提供に適した形式とは言えません。今後はアジャイル開発などDXに適した手法を採用し、契約の形態も見直す必要があります。
具体的には、要件定義やシステム全体の設計といったシステム構築の各工程で、ユーザー企業側も有識者を配置し、ベンダーと積極的にコミュニケーションを図ることでより建設的な関係を築くことができます。
DX推進には、デジタル技術やデータ活用ができるDX人材が不可欠ですが、DX人材の需要は急増しており、獲得競争が激化しています。そのため、採用だけではなく、既存社員をDX人材として育成することが重要です。
DX人材を育成する方法のひとつとして、専門的な知識やスキルを学ぶ研修の導入があげられます。研修プログラムは、DX人材に求められるスキルやマインドセットを習得する座学と、習得した知識を実践によってブラッシュアップするOJTを組み合わせることが効果的です。また、研修後の評価と振り返りを行うことで、スキルの定着と応用につながります。
【関連記事】DX人材とは?役割や求められるスキル・獲得方法【事例あり】
【お役立ち資料】DX人材育成を成功させる39項目のTODOリスト
多くの企業では、DX人材の育成において 「即戦力となるDX人材が不足している」「自社に合ったプログラムが無い」「研修成果が不透明」といった課題を抱えています。 そのような方に向けて、DX人材の育成を成功させるためにチェックすべき39項目のTODOリストを公開しています。 DX人材育成にお悩みの方はぜひご活用ください。
【お役立ち資料】2025年の崖を乗り越えるために取り組むべき8つの施策とは
「2025年の崖」によって発生する経済的損失などのリスクに備え、企業は2025年の崖への対策が急務となっています。
パーソルグループでは、2025年の崖に取り組む意義や思うように進まない理由、企業が取り組むべき8つの施策についてまとめた【レガシーシステムを刷新!2025年の崖を乗り越えるためにDX・IT部門が取り組むべき8の施策】を公開しています。
DX推進に課題をお持ちの方はぜひご活用ください。
2025年の崖を引き起こす大きな要因としては、レガシーシステムの残存があります。
自社が抱えている課題を放置したまま2025年を迎えると、セキュリティリスクの増加やDX推進の難化といった致命的な問題につながりかねません。
2025年の崖を乗り越えるためには、DX推進システムガイドラインの策定や既存システムの調査・見える化、DX人材の育成・確保などの効果的な対策を計画的に実施しましょう。