DX推進指標とは?活用方法や自己診断で陥りやすい間違いを解説

DXの必要性は認識しているものの、具体的に何をすれば良いのか、何を手掛かりにKPIを設定・評価すればいいのか分からない、といった経営者は多いのではないでしょうか。

そのような時に役立つのが「DX推進指標」です。

DX推進指標とは、DXの取り組みを「経営面」と「ITシステム面」に分け、それぞれにおける自社の進捗を可視化するために活用される指標です。これらをもとに照らし合わせることで、自社のDX推進レベルがわかり、現状の良い点や改善が必要な点を明らかにできます。

本記事ではDX推進指標の概要や活用方法について紹介します。また、自己診断で陥りやすい間違いと対処法についても紹介していますので、ぜひ最後までお読みください。

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目次

DX推進指標の定義

DX推進指標とは、経済産業省が作成した「企業が自社のDXの進捗状況を評価するための指標」です。経済産業省の「DX推進指標とそのガイダンス」では、DX推進指標について以下のように定義されています。

DX推進に向けて、経営者や社内の関係者が、自社の取組の現状や、あるべき姿と現状とのギャップ、あるべき姿に向けた対応策について認識を共有し、必要なアクションをとっていくための 気付きの機会を提供することを目指すものである。

【出典】経済産業省「「DX推進指標」とそのガイダンス

またDX推進指標は、「経営体制」と「システム面の整備状況」に分けられ、それぞれには定性指標と定量指標があります。各項目には次のようなものがあります。

「経営体制」の一例 「システム面の整備状況」の一例
定性指標
・ビジョン
・経営トップのコミットメント
・マインドセット
定性指標
・ITシステムに求められる要素
・IT資産の分析・評価
・T資産の仕分けとプランニング
定量指標
・DXによる競争力強化の到達度合い
・DXの取組状況
定量指標
・ITシステム構築の取組状況

DX推進指標は、DX推進に向けて上例のような指標項目を設定することで、自社の課題と現状を明確にし、取るべきアクションにつなげやすくすることを目的としています。現状、日本企業の多くは、「DX推進によりどのような価値を創出するか」ではなく、「AIを使って何かできないか」といった発想に陥りがちです。しかし、DX推進指標を用いた自己診断により、自社の現状や具体的な行動、進捗を明確化・共有することが可能になります。

つまり、すでにDXに着手している企業だけでなく、「DXを推進したいけれど具体的に何をすれば良いか分からない」といった企業にも非常に有効な指標と言えます。

DX推進指標の構成

DX推進指標は、主に以下の項目で構成されています。

【出典】経済産業省「「DX推進指標」とそのガイダンス

この図で示されているように、DX推進指標は大別して経営体制(組織体制)とシステム面の整備状況という2つのカテゴリーから企業のDX状況を評価する点が特徴です。どちらの観点においても、定性指標・定量指標の双方で評価を行います。

1.DX推進のための経営のあり方、仕組み

経営体制(組織体制)からDX状況を評価する指標です。

このカテゴリーでは、経営者や組織全体がDXを推進するための体制や仕組みを整えられているかに焦点が当てられます。というのも、DXの目的が単にデジタル技術(ITツール)を導入することではなく、そのデジタル技術を活用して具体的な経営課題の解決やビジネス目標の達成を実現するところにあるからです。

そのため、このカテゴリーではDXを効果的に推進するためのビジョンやマインド、戦略を経営陣が持っているか、DXを実現するための組織体制や企業風土が醸成されているかなど、「組織の成熟度」が問われます。

下記の表に示されているように、DX推進指標の成熟度はレベル0~5の6段階で示されます。該当するレベルとその特性から自社が現在どの程度DXを推進するための組織体制を整えられているかを評価し、より上のレベルに達するために必要な要素を認識して改善に取り組むことが重要です。

【出典】経済産業省「「DX推進指標」とそのガイダンス

この組織体制を評価するための定性/定量評価で問われる内容は以下の通りです。

    • 定性指標:DX推進の枠組み
    • 定量指標:DX推進の取り組み状況

定性評価の場合、指標ごとに設定された設問に回答することで測られます。この設問には「経営者が回答すべきもの」と「経営者が他の経営陣やIT部門をはじめとする各部門と議論して回答すべきもの」の2種類があります。

定量指標の場合は、企業が定量指標をいくつか選択するとともに目標となる数値を設定することで、到達度合いの確認や進捗の管理に活用します。いずれの場合も、なぜそのような回答になったのか、根拠も含めて明確にすることで、より現状に対する理解を深めることが可能です。

2.DXを実現する上で基盤となる IT システムの構築

システム面の整備状況を評価する指標です。

このカテゴリーでは、企業がDXに必要なIT環境を整備できているかに焦点が当てられます。ただしここで問われるのは、単にITシステムの構築がされているかどうかだけに留まりません。システムやデータの適切な管理運用に必要な体制、人材、ガバナンス、セキュリティなどが確保できているかも含まれます。

ITシステムの構築に関する定性/定量評価で問われるのは以下の事柄です。

    • 定性指標:ITシステム構築の枠組み
    • 定量指標:ITシステム構築の取り組み状況

ここで述べる定性指標には、DXを実現し、新たな価値を創出するために、既存のITシステムに必要な改善や対応策が講じられているかという視点が求められます。

例えば、データが必要なときに、リアルタイムで活用できるITシステムになっているかといった項目が挙げられます。

定量指標の具体的な内容としては、自社が必要とするシステムやデータの取得状況などが該当します。

ただし、DXの実施目的は企業ごとに異なります。具体的に何を指標として用いるかは、各企業がそれぞれの事情やニーズに合わせて設定しなければなりません。また、経営面・IT面のどちらのカテゴリーにおいて自社を評価する場合でも、経営陣が積極的に関与する必要がある点は共通しています。

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DX推進指標の活用方法

経済産業省では、DX推進指標は自己診断フォーマットを用いて活用していく方法が提示されています。自己診断フォーマットとは、「ビジョンの共有」「危機感とビジョン実現の必要性の共有」など各項目に関して、自社の状況を把握する上で活用できるフォーマットです。

自己診断フォーマットを用いて、自社の成熟度レベル、判定の根拠などを記入することで、自社がどこまでできていて、何ができていないのかなどを根拠立てて整理できます。

自己診断フォーマットの記入を基本として以下の3つの順序でDX推進指標を活用していくことが推奨されています。

    1. 認識共有・啓発をする
    2. アクションにつなげる
    3. 進捗管理をする

それぞれの詳細について見ていきましょう。

1.認識共有・啓発

自己診断フォーマットを参考に、経営者やDX担当部門、IT部門といった各関係者が議論をし、現状や課題を浮き彫りにし、その内容を組織で共有します。

2.アクションにつなげる

認識の共有化を図ったら、企業にとっての次の一手をどうするべきか議論します。DX実現のあるべき姿に向けて、実際のアクションにつなげることが重要です。

3.進捗管理

施策を実行したあとには、進捗管理です。年単位などで再診断を継続的に実施し、アクションの達成度合いを評価し、適宜改善していくようにしましょう。

DX推進指標の平均スコア

2022年に発表されたDX推進指標の平均スコアは、前年より0.76点低下し「1.19」でした。

しかし、大企業を見てみると、過去3年間で最も値の高かった昨年とほぼ同様に推移しており、中小企業も2019年より高くなっていることが分かります。分析対象数も3,956件と200~400件台だった過去4年間の中でも格段に増えており、前年にはなかった農林業や医療・福祉も含めたすべての業種においてDX推進指標の活用が見られたこと等から、日本のDXが着実に進展しているといえます。

こうした状況を踏まえると、DX推進の進捗が遅れている企業は、業務改革や技術革新において他社に遅れを取っているかもしれません。そのため、早急に指標を活用して現状把握をし、改善を進めていく必要があるでしょう。

DX推進指標を活用する効果

DX推進指標を活用するとさまざまな効果が得られます。本章では4つのメリットについて紹介します。

DX推進に向けた共通認識ができる

第一の効果は、企業内で組織階層や部署をまたいでの共通認識が生まれることです。例えば、IT部門とその他の部門では、自社のIT環境やデジタル活用に関する認識に大きな齟齬があることは珍しくありません。IT部門や経営者がDXの必要性を認識していても、現場レベルでは変化を求めていないケースもあります。

そのような課題に対し、DX推進指標を手掛かりにすることで社内での認識を共有することが可能です。これにより、DX推進に向けた議論が活発化し、認識の不一致を防ぎ、スムーズにDX戦略を進めやすくなります。

施策の進捗管理や評価ができる

DX推進指標を用いた自己診断を通して、自社のDXの状況を客観的に把握できます。企業がDXに不慣れな状況下で、自社のDXがどこまで進んでいるのか、うまくいっているのかといった評価を曖昧に実施してしまっては、課題の発見や改善は望めません。DX推進指標を適切に利活用することによって、自社のDX進捗状況や組織の成熟度を正確に把握し、施策の進捗管理や評価に役立てることができます。

また、DX進捗管理と評価を毎年実施することで、各アクションの達成度合いを継続的に評価し、DX推進の経年変化を把握し、DX取り組みの進捗の管理ができます。

自社の状況を客観的に把握できる

企業ごとに置かれた状況が違う点や、他社の詳細な内部事情などが分からない点を考慮すれば、他社のDX事例を参考にすることには限界があります。しかし、DX推進指標を活用すれば、自社の現状や取り組むべき課題を把握できます。また、DX推進指標に基づいて行った自己診断の結果をIPA(情報処理推進機構)が運営する「DX推進ポータル」に提出すると、他企業の診断結果を取りまとめた「ベンチマーク」の資料を無償で入手できます。「ベンチマーク」は、DX先行企業の特徴から業種・産業・売上別の特徴など、さまざまな情報が記載されています。

また、IPAにより公表されている「DX推進指標 自己診断結果 分析レポート」を参照すれば、他社の動向をより詳細に把握できるので、興味がある場合は確認をしてみるとよいでしょう。

DX先行企業や業界内企業と比較した自社の位置づけを客観的に知ることで、次に何をすべきかを戦略的に考えられるようになるはずです。

【参考】独立行政法人情報処理推進機構「DX推進指標 自己診断結果 分析レポート(2022年版)

DX推進指標を活用する際に陥りやすい間違い

DX推進指標を効果的に使うためには、以下のような失敗に陥らないようにすることが重要です。

一度の実施で終わってしまう

DX推進指標を用いた診断は、一度の実施だけでは、持続的なDXの実行につながりません。「自己診断→課題解決のための戦略立案→アクション実施→達成度合いを見るために再度診断」のPDCAを繰り返すことが大切です。

自己診断を定期的に行えば、自社のDX推進の取り組みを経年変化で追うことができます。年に一度、健康診断のような形で実施することで、デジタル競争での優位を確立できる可能性が高まります。

一部の担当者のみで回答してしまう

DXの目的は、データやデジタル技術を使って、顧客視点で新たな価値を生み出すことです。そのためには、経営の仕組みから変革・構築していくことが求められます。

DX推進指標の自己診断を行う際、一部の担当者のみで回答してしまうと、結果をうまく活用できないで終わってしまうことが多々あります。例えば経営者視点のみで回答してしまうと、本来のビジョンや目的が伝わらず、「AIを導入して何かしよう」など、手段の目的化が起こってしまって本末転倒になることも考えられます。

経営者・事業部門・IT部門など、部門の垣根を越えて自社のDX推進に向けた議論を行い、認識の共有を図ることが大切です。

評価にこだわりすぎる

DX推進指標の目的は、企業の現状把握や課題の洗い出しをサポートすることです。また、DX推進指標は企業のビジネスモデル自体を評価するためのものではなく、企業の変化に対する適応力をどの程度備えているか可視化することに焦点を当てています。つまり、DX推進指標はDXを効率的に遂行するためのツールのひとつに過ぎません。

その点を失念して、DX推進指標で高い点数を取ることにこだわりすぎると、本来の目的を見失う可能性があります。そのため、DX推進指標を活用する際には目先の点数ではなく、その先にある具体的な経営課題や施策の実施にフォーカスするようにしましょう。

DX推進が目的になってしまう

目的と手段の転倒という意味では、DX推進自体にも落とし穴があります。DXの最終的な目標は、企業価値の向上や市場における競争優位性の確保です。DXあるいはデジタル技術の活用はこれらの目標を達成するための効果的な手段ではありますが、必須ではありません。その点を見失ってしまうと、ITツールを導入しただけで目的を果たしたような錯覚をするなど、本来の目的から外れた結果に陥ってしまいます。

DX推進指標をもとにDXを推進する方法

続いては、DX推進指標の活用を通してDXを推進する方法とポイントを解説します。

1.DX推進指標のガイダンスを読み込む

経営陣やDX推進者が「「DX推進指標」とそのガイダンス」の資料を熟読し、DXの意義やその流れ、必要となる取り組み、各種評価項目などについて深く理解することです。本資料にはDX推進指標に関する説明だけでなく、指標策定の意図や留意点、成熟度判定のエビデンス例などが詳細に記載されています。例えば、成熟度判定のエビデンスとして、自社のIR資料や中長期経営計画、プレスリリースを用いることなどが挙げられています。

ガイダンスを読み込むことで、現状を分析するための考え方やどのような進め方をすればいいのかなどを判断できるようになります。

DXは全社をあげた大規模なプロジェクトですが、変革には反発が付き物です。特にITになじみが薄い業種や現場では、新しい技術や方法が忌避される傾向にあります。そのような事態に直面した場合、企業の中でもっとも強い影響力を持つ経営者が、自分自身の言葉で、DXの必要性や現状維持を続けた場合のリスクなどを力強く説得できるようにすることは非常に重要です。

2.現状把握を行う

ガイダンスを読み込んだら、実際にDX推進指標を用いて、自社の置かれた現状を確認します。「DXの推進指標とそのガイダンス」には、9つのキークエスチョンと26のサブクエスチョンが記載されています。

キークエスチョン: 経営者が自ら回答することが推奨されているもの

サブクエスチョン: 経営者が経営幹部や事業部門、DX部門、IT 部門などと話し合いをしながら回答するもの

関係者の議論を通じ、1つ1つの質問に回答していき、自己診断を進めていきましょう。

【出典】経済産業省「「DX推進指標」とそのガイダンス

前述の通り、各指標には以下6段階の成熟度がありますが、それぞれ判定理由と証拠を提示することが推奨されています。

【出典】経済産業省「「DX推進指標」とそのガイダンス

自己診断が済んだら、IPAの「DX推進指標自己診断回答フォーマット」に記載し、「DX推進ポータル」に提出します。

3.目標設定を行う

自己診断の結果を提出すると、後日「ベンチマークレポート」が入手できます。客観性のあるベンチマークレポートと自社の診断結果をもとに、DXの目標設定を実施しましょう。自己評価では自社のDXが十分なレベルに達していると認識していても、結果を見ると達していなかった、ということもありえます。また、今後DXを進める上で明確な目標設定ができていないと、「AIを使って事業を興そう」など、手段が目的化する可能性があります。

これらの誤認識を回避するためにも、ベンチマークレポートと自社の診断結果をもとにした目標や評価指標の設定は重要です。

4.戦略を立案する

目標に対して具体的な取り組み方をDX戦略として立案します。DX推進に伴う変革を事業レベルで具体化する際には、経営トップのビジョンやコミットメントだけでなく、現場レベルの戦略やロードマップとして具体化させていくことが重要です。

DX推進指標の一項目「戦略とロードマップ」などを活用することで、DX戦略に関する成熟度を判定することができます。ビジネスモデルや業務プロセス、働き方をいかに変革するか、戦略とロードマップが明確になっているかを、前述の成熟度判定表や各種エビデンスを用いて確認しましょう。

自社の状況を判定する際のエビデンスとしては、中期経営計画、事業計画、アクションプラン、バランスト・スコアカードが有用です。

また戦略の策定後は、経営者やDX担当者だけでなく、その他の従業員にも全社的にDXの必要性や目標に対する理解を促進することが重要です。DXの実現に向けた理解や連帯感を醸成し、組織全体でDX推進に取り組む意識を高められます。

【参考】経済産業省「「DX推進指標」とそのガイダンス

5.体制や仕組み作りに活用する

DXを推進するためには、そのための体制や仕組みを整えることも重要です。DXを推進する専門部門の設置をはじめ、DX部門内で効果測定や効果検証を行うための体制や仕組みの構築を検討しましょう。適切な組織体制とプロセスを確立することで、DX推進の効果を最大化できます

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DXを推進する具体的な施策は企業ごとに様々ですが、DX推進に成功している企業は共通して、ある重要なポイントを押さえています。

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まとめ|DX推進指標を活用して変革を進めよう

DX推進指標を活用することにより、組織全体でのDX推進を促進し、効果的な戦略の立案や目標設定が可能となります。ただし、DX推進指標はあくまで一般的な目安に過ぎないため、その活用に際しては自社の状況に合わせて適宜修正を加えることが重要です。DX推進指標を手がかりに、ぜひDXを進めていきましょう。

インタビュー・監修

パーソルイノベーション株式会社
『Reskilling Camp(リスキリング キャンプ)』(旧:学びのコーチ)事業責任者/Founder

柿内 秀賢

法人向けリスキリング支援サービス『Reskilling Camp(リスキリング キャンプ)』(旧:学びのコーチ)事業責任者としてリスキリングを支援。
自身も人材紹介事業の営業部長から、オープンイノベーション推進部立ち上げやDXプロジェクトの企画推進、新規事業開発を担う過程にてリスキリングを体験。