レガシーシステムとは?問題点や脱却・移行プロセスをわかりやすく解説

企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するにあたり、レガシーシステムの問題は避けて通れません。

しかし、レガシーシステムという言葉は聞いたことがあるものの、実際はどのようなものなのかを知らない経営者や部門責任者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

レガシーシステムが何かを把握しておかなければ、現在のシステムが稼働を続けることによって引き起こされる影響やリスクに備えることができません。最悪のケースでは、大規模なシステム障害が発生するといったような事業存続に関わる重大な事案となり得ます。

本記事では、レガシーシステムの例やリスクを知り、脱却プロセスについて解説します。

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目次

レガシーシステムとは?

レガシーシステムとは「過去の技術や仕組みで構築され、老朽化・ブラックボックス化してしまっているシステム」のことを指します。

導入から長い期間が経過しているため保守・サポートが難しい上、新しいシステムや環境に対応できなくなっている、というケースが非常に多い状況です。そしてそれは経営・事業戦略上の足かせ・高コスト構造の原因となる他、企業のDX推進を妨げる要因にもなっています。

「2025年の崖」との関係

経済産業省では、日本企業がレガシーシステムの刷新を推進できずDXの実現が遅れることによって、2025年以降に年間最大12兆円もの膨大な経済損失が発生すると予測しています。これが「2025年の崖」と呼ばれるものです。

「2025年の崖」を乗り越えるためには、レガシーシステムからの脱却が急務となっています。レガシーシステムから脱却できずDXが進まない場合、企業の競争力や収益性、持続的な成長などに悪影響を及ぼすだけでなく、現在の業務プロセスの維持が出来なくなる可能性があるのです。

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レガシーシステムの例

レガシーシステムの代表例として、メインフレームと呼ばれる大型コンピューターやオフィスコンピューターがよく挙げられますが、近年構築したシステムでも「レガシーシステム化」している場合があります。例えば以下のような状況です。

    • 事業部門ごとに構築され、柔軟なカスタマイズができない
    • サポートの終了が発表されている、もしくは既に終了している
    • 部分的な改修を繰り返した結果、複雑化し特定の人しか利用できなくなってしまっている

一部のニーズに最適化して設計されていたり、長年にわたって小さな修正や機能追加が繰り返されたりした結果、非常に複雑になってしまったシステムを使っていないでしょうか?

このようなシステムは、保守や設計を一部の担当者に依存した結果、システムがブラックボックス化しがちです。また全体の一貫性や互換性も失われてしまう可能性が高いため、最新の技術に対応することが難しくなります。

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レガシーシステムの問題点・リスク

レガシーシステムを残したままにしておくと、企業にさまざまな問題やリスクをもたらします。特に以下の点は、企業への大きな打撃となる可能性があります。

    • 大規模なシステム障害
    • セキュリティの脆弱化
    • システムの複雑化・属人化
    • 運用コストの増大
    • 競争力の低下

大規模なシステム障害

古い技術基盤のレガシーシステムでは、システムの統合や連携を行うときに大規模なシステム障害が発生する可能性が大きくなります。例えば、新しいシステムと連携した際にシステム全体がダウンし、顧客データへのアクセスが一時的に不可能となるケースは多くみられます。

また、システムの障害は、単に内部運用に影響を及ぼすだけでなく、顧客サービスの停止や個人データの漏えいなど、顧客に直接的な影響を与える危険性もはらんでいます。

セキュリティの脆弱化

レガシーシステムのように古いシステムでは、現代のセキュリティ要件に対応できないことが多く、セキュリティ面で大きなリスクをもたらします。当然ながら、システムが古いほどサイバー攻撃に対して脆弱となります。

セキュリティ技術が進歩するに連れて、古いシステムのセキュリティリスクは増大していきます。

システムの複雑化・属人化

システムの部分的な改修は、それを繰り返すことで徐々に複雑化し、最終的には特定の人物にしか理解や操作ができない状態になってしまいがちです。システムを部分最適していくことは短期的に問題ありませんが、長期的には問題が発生しやすくなります。

システムが高度に複雑化してしまうと、メンテナンスやアップデートは特定の技術者に依存するようになります。この特定の技術者の異動や退職などにより過去の経緯やシステム構造を把握している人がいなくなると、システムの維持や管理は困難になり、結果として業務に大きな支障をきたすでしょう。

運用コストの増大

レガシーシステムのように老朽化したシステムは、不具合の発生頻度が高くなるため、メンテナンスにかかる費用も増えます。

メンテナンスによって古いシステムを使い続けることはできますが、その運用コストは莫大なものとなり、企業全体のコストを圧迫しかねません。

レガシーシステムを継続して運用することは、コスト面の問題だけではなく、企業の成長にも悪影響をおよぼす可能性があるのです。

競争力の低下

レガシーシステムでは、ビッグデータや最新データを活用できないため、市場ニーズの変化に対して迅速に動くことが難しくなります。その結果として、企業の競争力が低下していく可能性があります。

大量のデータや細分化された顧客データを分析してパーソナライズされたサービスを提供することは、現代のビジネス戦略において有効です。しかし、古いシステムでは大量のデータを分析して活用することが難しいため、顧客満足度が低下したり、新規顧客が獲得しづらくなったりといったことが起こりやすくなります。

また、データを活用できないとDXを進める上での障害にもなり、競争力の低下に拍車がかかってしまう可能性もあります。

レガシーシステムから脱却する方法

レガシーシステムから脱却する方法は、大きく以下の3つに分かれます。

    • モダナイゼーション:既存のシステムを刷新する
    • マイグレーション:既存システムから新システムに移行する
    • クラウド活用:グラウドベースのソリューションに移行する

モダナイゼーション

モダナイゼーションは、老朽化したシステムを現在のビジネス要件や技術環境に合わせて更新することです。既存のデータやプログラムを活かしながら、ソフトウェアやハードウェアを最新の製品や設計に置き換えます。

また、モダナイゼーションの代表的な方法として、以下の3つがあります。

リプレイス 既存の基幹システムを新たなシステムに置き換える方法
リホスト ソフトウェアのプラグラムはそのままで、サーバーやミドルウェアなどを新システム基盤に移行する方法
リライト 既存のシステムと同等のシステムを新たなプログラミング言語によって再開発する手法

モダナイゼーションを実施する際は、現在のシステムの詳細な分析を行い、どの部分を残し、何を刷新する必要があるのかを明確にしましょう。

マイグレーション

マイグレーションは、既存システムのデータや機能、ソフトウェアを、新しいシステムに移行する方法です。

要件や機能、データを変えることなく、リスクやリソースを抑えながら、より安全で使いやすいシステムへ段階的に移行できます。

マイグレーションには、以下の2種類があります。

    • レガシーマイグレーション:システムの移行が目的
    • データマイグレーション:データの移行が目的

対象となるシステムやデータ、全体的な規模に応じて適切なマイグレーションを行うために、事前に要件を明確にした上で、計画を立てて慎重に進めましょう。

クラウド活用

レガシーシステムから脱却する方法の一つとして「クラウド活用」が注目されています。既存のシステムをクラウドベースのソリューションに移行することで、保守や維持管理の費用を大幅に削減することが可能です。

物理的な自社サーバーを保有する必要がないため、サーバー管理にかかる費用や人件費を抑えられます。

クラウド型システムの利用により、システムのアップグレードや拡張も容易になり、自社ビジネスの将来的な成長にも柔軟に対応できるようになるでしょう。

レガシーシステムから移行するプロセス

レガシーシステムから脱却するにあたっては、さまざまな関係者を巻き込みながら新システムへの移行を目指す必要があります。

    1. 現状システムやデータの把握
    2. システム移行のスケジュールを決定
    3. テストと実装
    4. 運用担当者や業務担当者への教育

1.現状システムやデータの把握

システムを移行する前に「新しいシステムに移行するデータ」と「既存システムに残すデータ」を明確にする必要があります。同時に、重複データや不要データの削除、データの整合性の確認なども行いましょう。

これらの作業をしておくことで、システムの移行にかかる時間を短縮することができます。

また、現在使用されているシステムのデータやファイルの形式、運用、メンテナンス、トラブル対応の方法などを把握しておくことも重要です。

さらに、既存システムの技術的な制約や運用上の課題を明らかにすることで、新しいシステムの設計時に、これらの課題を解決するための要件を定義することができます。

2.システム移行のスケジュールを決定

既存システムの現状やデータ内容を把握できたら、前述した「モダナイゼーション」や「マイグレーション」「クラウド活用」などから、どの移行方法を採用するか検討しましょう。

また、移行作業に必要なリソース(人材、時間、費用)を見積もり、リスク(データ損失、ダウンタイム、セキュリティ問題など)についても評価を行います。

これらの情報をもとに、実行可能なスケジュールを作成し、プロジェクトのマイルストーンを設定しましょう。

スケジュールの決定には、当然ながら「関係者全員の合意」が必要です。プロジェクトチーム、IT部門、経営層など、システムの移行に関わるすべての関係者を巻き込んで、スケジュールを確定します。また、移行プロセス中に発生する可能性のあるリスクについて、対処するための計画も立てておきます。

3.テストと実装

システム移行のスケジュールが決定したら、移行作業をスタートします。この時、リスクを最小限に抑えるため段階的に移行作業を実施し、各段階で新しいシステムの機能性、パフォーマンス、セキュリティを徹底的にテストし、品質を確保しましょう。

具体的には、まず小規模なテスト環境で新システムの基本的な機能を検証し、問題がないことを確認します。次に、より実際に近い環境でのテストを行い、システムが実運用に耐えうるかを評価します。

このプロセスは、新システムへの移行にともなうリスクを管理し、移行後の運用におけるトラブルを未然に防ぐために重要です。

4.運用担当者や業務担当者への教育

新システムを利用する業務担当者向けに、マニュアルの作成や説明会を実施しましょう。

そうすることで新システム移行後の業務もスムーズに対応できるでしょう。

また、新システムに関するFAQやトラブルシューティングガイドも作成しておき、従業員が日常業務で直面する可能性のある問題に対応できるようにします。

レガシーシステムから脱却・移行するときの注意点

レガシーシステムから脱却・移行する時の注意点として、以下の3つが挙げられます。

    • セキュリティやデータ損失リスク
    • 現場業務への影響
    • 社内のIT人材確保

セキュリティやデータ損失リスク

新しいシステムへの移行では、重要なデータを大量に取り扱うため、厳格なセキュリティ対策が求められます。

データの安全な移行方法の選定はもちろん、移行中に発生する可能性のあるセキュリティリスクへの対応策も必要です。

また、データのバックアップと復元プロセスを確立し、万が一のデータ損失にも備えておきましょう。

現場業務への影響

現場業務への影響を最小限に抑えるためには、事前のコミュニケーションが重要です。

移行にともなう新しい業務プロセスやシステムの操作方法について、現場の従業員向けに説明会を実施し、疑問や不安を解消するためのサポート体制を整えておきましょう。

社内のIT人材確保

システム移行プロジェクトでは、ITスキルを持つ社内人材が必要とされます。

ベンダー企業に移行作業を任せることも一つの解決策ですが、外部に委託すると自社にノウハウが残りにくく、移行後の運用管理に影響が出てしまいます。外部に委託する場合でも、社内にIT人材を確保し、システム移行前後の取り組みを把握できる体制を整えておきましょう。

例えば、社内にシステム移行プロジェクトを推進するリーダーの役割を置き、プロジェクト全体の進行に責任をもって指揮・管理できる体制を構築することが重要になります。

プロジェクト進行時には、実際に現場で移行作業を行う担当者と、プロジェクト全体を統括するプロジェクトリーダーの連携が肝となります。計画にあたって社内人材が不足している場合は、リスキリングなどの社員研修も検討しましょう。

まとめ|まずはレガシーシステムからの脱却方法を知ることが重要

レガシーシステムからの脱却は、企業がDXを推進する上で避けては通れない課題です。

既存の古いシステムから新しいシステムへの移行には、モダナイゼーション、マイグレーション、クラウド活用といった複数の方法があるため、自社のニーズや予算などに応じて移行方法を検討しましょう。

また、新しいシステムへ移行するにあたって、移行するデータと残すデータの整理、移行作業に必要なリソース確保、リスク管理なども必要となります。

既存の古いシステムからの脱却には、セキュリティリスクや現場業務への影響などの注意点もあるため、事前準備や対策が不可欠です。