リカレント教育とは
リカレント教育とは、学校教育から離れた後も生涯にわたって学び続け、必要に応じて就労と学習を交互に繰り返すことを指します。リカレント(recurrent)は「循環する」「再発する」といった意味です。
リカレント教育は、スウェーデンの文部大臣で後に首相となったオロフ・パルメによって提唱されました。1969年のヨーロッパ文相会議で発表され、翌年には経済協力開発機構(OECD)が推進することを決定しています。
具体的なリカレント教育の例は、下記のようなものです。
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- 語学力をアップさせるために学び直しをする
- ビジネスの専門性を磨くために資格取得を目指し学び直しする
リカレント教育は、スキルアップはもちろん、キャリア形成にも役立ちます。従来の研修の枠組みを超え、リカレント教育を促す制度を整える企業も増えてきました。従業員のスキルアップによりさらなる活躍が期待できるだけでなく、人材の流出防止にもつながります。
リカレント教育と生涯学習の違い
リカレント教育は、もともと1965年にユネスコの成人教育長だったポール・ラングランが示した「生涯学習」の概念が基本となっているものです。より広義な意味をもつ「生涯学習」とは目的が異なります。生涯学習の具体例は、仲間を作る目的や健康維持のため、スポーツクラブなどで体操やヨガを習う事などです。
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- 生涯学習:豊かな人生を送るために学ぶ
- リカレント教育:仕事で求められる能力を磨き続け、自己実現につなげる
リカレント教育は、得られた知識やスキルを「仕事・キャリアで活かすこと」が目的です。人生100年時代において生涯働き続けられることを目指して、仕事やキャリアで役立つ知識やスキルを習得します。
一方、生涯学習の目的は「充実した人生を送ること」です。仕事に限らず、趣味やスポーツボランティア活動、文化活動など、人生を豊かにするために学習に励みます。
リカレント教育とリスキリングの違い
リカレント教育とリスキリングの大きな違いは、誰が主導するかにあります。
リカレント教育は、はたらく個人が能動的に学ぶことを示す概念です。個人が任意のタイミングで学習をし、仕事や生きていく上で役立つ知識・スキルの習得に努めます。
対してリスキリングでは、学びを主導していくのは従業員個人ではなく企業です。デジタルやAIの需要・供給の拡大により、一部の事業領域では大きな変化・発展が見込まれ、求められる職務内容も変化していきます。リスキリングは、そうした職務を担える従業員を育成するため、人材戦略の一環として実施されます。例えば、デジタルスキルを持つ人材の強化のために、企業がDX研修を行う場合などはリスキリングに該当するでしょう。
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リカレント教育の重要性が高まる背景
なぜ今、日本でリカレント教育が注目されているのでしょうか?背景について説明します。
人生100年時代の到来
リカレント教育の重要性が増している背景には、平均寿命が伸び、人生100年時代に突入したことにあります。
これまで日本人のライフステージは、「教育」「仕事」そして「引退」の3つで、各段階が時の流れとともにまっすぐつながる“単線型”といわれるものでした。
ところが、人生100年時代や少子高齢化の時代を迎えたことにより、生涯現役で活き活きと暮らすライフスタイルへの変化が求められるようになりました。その結果、”単線型”と言われていたライフステージは、“マルチステージ型”に転換していきます。「教育」「会社勤め」「学び直し」「組織に雇われないはたらき方」といった段階を何度も繰り返した後、ようやく「引退」に至る流れに変化していったのです。
自分自身の市場価値を維持もしくは高めるためには「学び直し」が必須になってきます。「学ぶ人」と「学ばない人」のスキル差は広がっていくことが予想されるので、リカレント教育が注目されているのです。
単線型からマルチステージ型への変化
何歳になっても学び直し、新たな段階にチャレンジできる社会の実現が求められており、リカレント教育を受ける制度の充実に大きな期待が寄せられています。
雇用のあり方の変化
スキルアップやキャリア形成を目的とした転職が当たり前ともいえる時代になり、雇用の流動化が加速しています。キャリア意識が高い人は自ら学びの機会を求める一方で、企業は優秀な人材が流出しないよう、対策を打ち出さなければなりません。その一つが教育制度の充実であり、両者にとってリカレント教育の浸透はメリットがあるといえます。
例えば、従業員が取り組めるeラーニングを導入することで教育制度を充実させることが可能です。
また、新卒一括採用、年功序列、終身雇用といった従来から続く雇用のあり方も見直しが進んでいます。時代が求める新たな専門能力を身につけるためにも、リカレント教育の制度化は企業にとって優先度が高まっています。
急速な技術革新
IoTやビッグデータの活用促進、人工知能といった技術革新が進み、2030年ごろに起こると言われているのが「第4次産業革命」です。
第四次産業革命とは、「人工知能(AI)」「ロボット工学」「ナノテクノロジー」「バイオテクノロジー」「量子コンピューター」などの技術が急速に進歩し、社会・経済の構造が大きく変革する時代のことです。変化に対応するための新たな知識やスキルの習得が必要となり、リカレント教育に注目が集まっています。
特にリカレント教育が必要とされているのは、100年に一度の変革期を迎えていると言われる自動車業界、AIやキャッシュレス決済の普及により人員削減を迫られている金融業界などです。
第4次産業革命後は、すべての業界がデジタル化の傘の下に入ると言っても過言ではありません。成長分野の仕事として生き残るために、リカレント教育による学び直しは重要な人事戦略の一つとなります。
リカレント教育が企業にもたらすメリット
リカレント教育が企業にもたらす代表的なメリットは以下の3つです。
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- 従業員満足度が向上する
- 人材流出防止につながる
- 生産性の向上が見込める
人材流出の防止や生産性の向上により、競争が激化している現代においても、企業を持続的に発展させていきやすくなります。
従業員満足度が向上する
リカレント教育の導入に成功すれば、従業員満足度の向上が期待できます。
従業員が新たなスキルや知識を習得すれば、キャリアは広がっていきます。新しいスキルや知識の習得により、こなせることが増えるのはもちろんのこと、それまでなかった見方から物事を捉えられるようにもなるためです。
それにより、組織の中で自身が活躍していくキャリアを複数描けるようになり、結果としてはたらくことへの意欲も向上します。また、成長機会を与えてくれた会社への帰属意識も高まり、企業への満足度も高まるでしょう。
人材流出防止につながる
リカレント教育を推進することで、従業員のスキルやキャリアの進展、会社へのエンゲージメントが向上します。また、離職防止にもつながります。
自社に長く在籍していても、スキルの向上やキャリアの進展が見えなければ、自社で長期的に勤続するメリットを見いだしづらくなります。近年では終身雇用の崩壊がささやかれており、長年勤めた後に会社から退職を推奨されるケースも見受けられるようになりました。そうした状況下では、「自身も万が一のケースを覚悟しなければならない」と不安が募りやすいでしょう。
しかし、リカレント教育を通して、従業員の将来を支援する姿勢を見せれば、知識やスキルの習得だけでなく、「この会社は自身を大切にしてくれている」という安心感も得られるはずです。それにより、長期的に長く勤続してもらえる可能性が高まるでしょう。
生産性の向上が見込める
リカレント教育の推進は、ひいては組織全体の生産性向上も期待できます。
従業員が新しい技能や知識を身につけ、職務の専門性を磨いていけば、業務をより効率的にこなせるようになります。また、既存業務の無駄を見つけ出したり、イノベーションの創出をしたりするのにも役立ちます。
業務効率化や無駄の削減、1人ひとりの従業員の生産性の向上は、最終的には企業全体の生産性向上につながるでしょう。
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日本のリカレント教育の現状
日本におけるリカレント教育は、まだ意識的にも制度的にも十分に進んでいません。パーソル総合研究所の「グローバル就業実態・成長意識調査」によると、勤務先以外で自分の成長を目的に行っている学習・自己啓発について、日本はグローバルと比較し、「何も行っていない」割合が突出して高い数値となりました。
【社外の学習・自己啓発の活動状況】
また、パーソル総合研究所の「はたらく1万人の就業・成長定点調査」によると、学びに取り組んでいる人はそうでない人に比べ、成長の重要度を強く意識しており、仕事を通じた成長の実感を得ている人の割合が高いことがわかっています。
学習と成長意欲は比例しており、学びを促進することは組織や企業にとって有益と考えられます。
リカレント教育を導入するポイント
リカレント教育は生涯にわたって学習を続けることで、仕事での成長につなげることが目的です。したがって、学び直すべき領域は役職によって異なります。
厚生労働省が発表した「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」によると、労働者の学び・学び直しを促進するために以下の4点が重要であるとされています。
- 個々の労働者が自律的・主体的に取り組むことができるよう、経営者が学び・学び直しの基本認識を労働者に共有
- 管理職等の現場のリーダーによる、個々の労働者との学び・学び直しの方向性・目標の「擦り合わせ」や労働者のキャリア形成のサポート。併せて、企業による現場のリーダーへの支援・配慮
- キャリアコンサルタントによる学び直しの継続に向けた労働者に対する助言・精神的なサポートや、現場のリーダー支援
- 「労働者相互」の学び合い
ただ学びたい領域を従業員に自由に学んでもらうのではなく、まず企業(経営者)が学びを促進している理由を周知し、マネジメントなどと共に学び直しの方向性や目標のすり合わせを行っていくことが推奨されています。
企業が従業員の自律的・主体的な学びを促すためには、学びの機会や方向性を示すことが重要です。
具体的には、下記の3つのポイントを意識して導入しましょう。
勤務時間の調整
基本的に就業時間外の通学であっても、講義開始に間に合うように就業時間の配慮をするなど制度設計を行う必要があります。
無理のない時間配分ができるよう、企業側も制度を充実させるなどの対策が必要です。
教材の提供
従業員の自律的・主体的な学びを促すためには、教材の提供も効果的です。具体的には、e-ラーニングの実施などがあげられます。
例えば、ベネッセでは「学ぶための環境整備」を実現させるために2019年6月から「企業版Udemy」の提供を開始しました。Udemyは、4,000万人以上が利用する世界最大級の動画学習プラットフォームであり、5万人以上の講師による50万時間以上、約3,200の講座から、自身の必要なスキル、業務課題に合ったテーマを取捨選択して、必要なだけ学習できます。
コンテンツと学習履歴データの可視化により企業のスキル定義、仕組化、文化の醸成にもつながります。
費用の支援
促進事例で紹介するSCSK株式会社の事例のように、月5,000円の学び手当を出したり、資格取得に応じて報奨金を出したりするなどの金銭的支援も必要です。
具体的な金額や支援内容は検討する必要がありますが、企業としても金銭的支援が行える制度づくりを目指しましょう。