リスキリングとは?DXとの関連性、企業が推進すべき理由を解説

リスキリング(Reskilling)とは、新たな分野や職務におけるスキル習得を指す用語です。情報通信技術を中心としたICT産業構造のパラダイムシフトが起こる中、人材不足、人的資本経営へのシフトや自律的なキャリア形成が注目されたことで、職業能力の再開発、再教育であるリスキリングの注目度が高まっています。また、DXを推進する企業が、社内のDX人材育成のためにリスキリングを導入するケースも増えています。

本記事ではリスキリングの概要や企業が推進すべき理由、取り組み事例、DXとの関係性について紹介します。

【お役立ち資料】リスキリングを促進する3つのポイントとは?

企業を取り巻く環境が変化し続ける今、リスキリングが注目を集めています。

・リスキリングに取り組む機会を用意したものの、自ら学ぼうとする人が増えない
・リスキリングでの学びが活きる、人材配置・処遇ができていない

そのような方に向けて、リスキリングの基本や推進ポイントをまとめた「【チェックシート付き】リスキリングを阻む要因と3つの促進ポイント」を公開しています。これからリスキリングを始める方や施策の見直しを検討している方は、ぜひご活用ください。

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目次

リスキリングとは

リスキリングとは、現在とは異なる職務や新たな分野のスキルを獲得する/させることを指します。リスキリングについて、経済産業省は以下のように定義しています。

「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」


【出典】経済産業省「リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―

つまり、新しい知識やスキルを学ぶことによる、異なる職務への転換や新たな分野への挑戦を後押しする取り組みです。企業における従業員育成の取り組みとしても注目されています。従業員に新たなスキルを習得させることで、DX推進の加速や人材不足の解消、採用コストの削減、自律型人材の育成などが期待されます。

企業のリスキリング導入例

DX人材の創出など、時代のニーズに合った人材育成が求められる昨今。企業における人材課題解決の一つの手段としてリスキリングの導入が検討されていますが、実際にはどんな取り組みがあるのでしょうか。導入例としては以下の通りです。

【企業におけるリスキリング導入の取り組み】

    • 業務効率化を目的にAI活用に関するスキルを従業員に習得させる
    • 大規模な体制変更を目的に、印刷業務に携わる従業員にプログラミングスキルを習得させる
    • 顧客情報や在庫管理をデジタル化するため、全従業員に対してIT研修を行う
    • データを活用したマーケティング戦略のため、デジタルマーケティングのeラーニングを導入する
    • IT未経験の営業職社員をITコンサルタントへと職種転換させる
    • 管理部門スタッフを業務改善推進者へとリスキリングさせる

上記の通り、AIを活用するスキル、プログラミングスキル、ITシステムを扱うスキルの習得を目指す取り組みなどが主なリスキリングの導入例です。国を挙げてDX推進に力を入れている時代だけに、リスキリングにおいてもITスキル取得を検討する企業は多く見られます。

【関連記事】リスキリングの導入事例|他社の取り組み内容・取り組み状況【データあり】
【関連記事】リスキリングでプログラミングを学ぶ方法|おすすめ言語と学習方法

「リカレント教育」「社内教育」「アップスキリング」との違い

リスキリングと似た言葉としては、「リカレント教育」「社内教育」「アップスキリング」が挙げられます。リスキリングの違いは以下の通りです。

項目 概要
リカレント教育 従業員のキャリア・人生の充実化のため自己学習を支援する取り組み。「教育」というよりも「推奨・支援」の側面が強い。
社内教育 各企業がその従業員に対して提供する教育すべてを指す(アップスキリング、リスキリングを包括)。
アップスキリング 現在の分野・業務に必要なスキルや専門性を高める取り組みを指す。例えば「研修担当者がより高度な教材開発スキルを習得する」など。
リスキリング 企業主導での人材開発。主に成長領域において新たなビジネスを創出し、より付加価値の高い職務を担える従業員を育成するための人材戦略の一環として行われる。DXやIT、AI関連のスキルの習得などが最たる例。

リスキリングとリカレント教育は対比されることが多く見られますが、明確な違いは学びの主導者です。リカレント教育は個人、リスキリングは企業が主導者となります。主な目的は、リカレント教育はキャリア・人生の充実化、リスキリングは企業の事業成長のための人材開発です。

【関連記事】リカレント教育とは?意味や必要性・リスキリングとの違い

リスキリングがDXにおいて重要な理由

リスキリングと何かと関連づけて語られるのが「DX」です。「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)」の略称であることは、すでに世の中に広く浸透しつつありますが、デジタル技術によって業務やビジネスモデルなど従来の在り方やスタイルを変える取り組みを指します。

リスキリングがDXにおいても重要な理由は、DXを推進するにあたり、DX人材(デジタル人材)の育成が要になることにあります。デジタル技術を活用して、ビジネスモデルや業務プロセスの変革をしていく上では、デジタルツールやシステムを使いこなせる人材が不可欠です。しかし、多くの企業ではデジタル技術にたけた人材の確保に苦戦しています。

課題の解決策として注目されているのが、従業員の能力やスキルの再開発をするリスキリングです。DXに必要な以下のスキル、知識を新たに習得させることでDXが加速します。

スキル 概要
業務知識 ・既存の業務フローやプロセスを理解し、具体的に課題を把握できる
・すでに業務知識がある、または十分なインプットができ、課題への的確な施策を打てる
デジタルリテラシー ・デジタルの基礎知識や使い方について理解し、業務へ適切に活用できる
・最新のトレンドを把握し、適切なソリューションを選べる
推進力 ・組織全体を見据え、大きな枠組みで物事を捉えられる
・社内外の関係者を取りまとめ、組織全体の改革や業務改善に向けてマネジメントができる
・失敗やトラブルが発生しても、試行錯誤して取り組みを続けられる

パーソルホールディングスの調査では、多くの企業がリスキリングにおける重要な施策として、「全体底上げのためのデジタルスキル」の習得を挙げています。

【出典】パーソルホールディングス株式会社「【人的資本経営調査レポート】03.育成・リスキリング編

この結果からも、デジタルスキルの教育はDXを推進する上で特に重要なのは明らかです。DXの実現のためには具体的にどのようなスキルの開発が必要なのか、どのように取り組んでいけばよいのかなどについては、関連記事「DX人材とは?役割や求められるスキル・獲得方法【事例あり】」で詳しく解説しています。

【調査レポート】人的資本経営調査|育成・リスキリング編

パーソルグループでは、人的資本経営に関連する人事施策への取り組みや課題など、企業の実態を調査しました。本資料は、その中から「育成・リスキリング」についてまとめた内容を公開しています。

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リスキリングが注目される背景

リスキリングが注目されている要因は、DXとの関連性の高さだけではありません。産業構造の変化や人材不足、人的資本経営へのシフトへの対応にリスキリングの活用が期待されている点も大きな理由だといえます。それぞれの関連性の詳細を解説します。

産業構造・ビジネスモデルの転換

産業構造が大きく変化し、新しいビジネスモデルやサービスが創出されることで、新たな分野のスキルを獲得するリスキリングが注目されています。特にAIや各種システム・デジタル技術の活用などに明るいIT人材を確保するために、リスキリングを導入する企業が増加傾向にあります。

世界経済フォーラム「The Future of Jobs Report 2020」は、テクノロジーの進歩により2025年までに約8,500万人分の仕事が失われ、約9,700万人分の新しい仕事が生まれ、労働者の1/2にリスキリングが必要であるとの見解を示しました。

また、同団体の最新レポート「The Future of Jobs Report 2023」では、2027年までにAI・機械学習のスペシャリストの数が40%増加、データアナリストや科学者・ビッグデータのスペシャリストの役割の需要は30〜35%増加、情報セキュリティアナリストの需要は31%増加すると予想しています。

産業構造が変化すれば、労働者に求められるスキルも変わるのは必然です。決められたことを忠実に実行する役割はAIやロボットが担えるだけに、労働者は新しい付加価値を生み出すイノベーティブな方向へのリスキリングが必要となります。

【関連記事】IT人材とは?育成・採用する方法や求められるスキルを解説

人口減少による労働力不足

少子高齢化による労働力人口減少もリスキリングが求められる要因です。パーソル総合研究所の調査「労働市場の未来推計2030」によると、日本では2030年には「644万人の人材不足」となることが想定されています。同調査では、その不足を解消する鍵として4つの対策を紹介しています。

【労働力人口減少を解消する4つの対策】

  • はたらく女性を増やす
  • はたらくシニアを増やす
  • はたらく外国人を増やす
  • はたらく一人ひとりの生産性を上げる

一方で、デジタル技術による自動化・機械化の進展に伴い、一部の職種では人材過剰となるかもしれません。三菱総合研究所の調査によれば、事務職は2030年までには120万人が人材余剰になると予測しています。担当業務が失われつつある従業員に対し、新たなスキルを取得させ配置転換を行う意味でもリスキリングが注目されています。

これからの時代は、労働力人口減少に伴い、新たな人材獲得がますます厳しくなるでしょう。企業にとって、多様な従業員が環境に適応しながらより長く活躍し続けられるキャリア支援を行うことは、生き残りを懸けた施策ともいえるでしょう。
【関連記事】2030年問題とは?高齢化や人材不足がもたらす影響や対策をわかりやすく解説

【お役立ち資料】労働力不足対策に効果的な組織づくりのポイント

少子高齢化は企業の深刻な人材不足を招くといわれており、2030年には600万人以上もの人手不足が予測されています。本資料では、労働力不足への対策として今から取り組むべき2つの施策例、組織づくりのポイントを紹介します。

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人的資本経営へのシフト

人的資本経営とは、「人材を“資本”として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営の在り方」を指します。経済産業省の「人材版伊藤レポート」では、人的資本経営の実践に向けて「人材戦略に求められる3つの視点・5つの共通要素(3P・5Fモデル)」が示され、リスキリングは共通要素の一つに掲げられています。

つまり、企業におけるリスキリングは、事業を成長領域へシフトさせ新たな価値を創出するためのドライバーとして位置づけられており、従業員が成長領域でより付加価値の高い職務を担っていくための戦略的投資によるキャリア開発施策といえるでしょう。従業員にとっては、従来路線の成長とは一線を画す次なるステージでの活躍が目的となり、将来的には配置転換を含む新たなキャリアチャレンジが起こることも想定されます。

人材戦略に求められる3つの視点・5つの共通要素(3P・5Fモデル)

【参考】経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~人材版伊藤レポート2.0~」を基にパーソル総合研究所にて作成

今後は既存の人材・スキルを起点に経営戦略を考えるのではなく、経営戦略を起点として実現に向けて必要な人材やスキルを定義・確保するやり方にシフトしていくでしょう。つまり、経営戦略の実現のために必要なスキルを獲得するのがリスキリングだといえます。

【関連記事】人的資本経営とは|注目の背景やすべきことを具体例とともに解説

自律的なキャリア形成

個人がキャリアについて自分なりの考えを持ち、自身の力でキャリアを切り開く「キャリアオーナーシップ」という考え方も、リスキリングと強く結びついています。人生100年時代と呼ばれる長寿社会となり、はたらく個人の就労期間は長期化しています。日本の定年制度をさかのぼると、かつては55歳定年が主流でしたが、年金受給年齢の引き上げや高年齢者雇用安定法の度重なる改正によって、今では70歳までの雇用確保が努力義務となり、定年延長や定年廃止の動きもあります。

一方、シニア人材側の就労意欲も高まっており、内閣府の「令和5年版 高齢社会白書」によれば、全国の60歳以上で収入のある仕事をしている人の約4割は「働けるうちはいつまでも仕事をしたい」と考えているようです。生涯現役のライフスタイルへの変化が求められる中、年齢で一律のキャリアから、それぞれの意思に基づき「教育」「就労」「リスキリング」「就労」「組織に雇われないはたらき方」などの段階を繰り返して「引退」に至る“マルチステージ型”のキャリアへの転換が進んでいます。

個人主導だと「リカレント教育」にあたるわけですが、勤務先から提供されるリスキリング機会も、個人にとっては市場価値を高める絶好の機会です。企業視点でいえば、有益なリスキリング機会を含むキャリア開発支援を提供できる企業は、従業員のエンゲージメントが高まり、優秀な人材獲得を有利に進めやすいといえます。

【調査レポート】企業のキャリア自律施策の実態調査

社員が自発的にキャリア開発を行っていく「キャリア自律施策」を取り入れ、優秀な人材を確保している企業が増えてきています。本資料では、各企業のキャリア自律施策の重視度や取り組み有無など、実態調査の結果をまとめました。

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企業がリスキリングを導入するメリット

職業能力の再開発、再教育を行うリスキリングは、導入することで企業にどんなメリットがあるのでしょうか。「人材不足の解消」「採用コストの削減」「自律型人材の育成」という3つのメリットについて詳しく解説します。

人材不足の解消

自社に不足しているスキルを持った人材の育成にリスキリングは役立ちます。例えば、データを活用した業務改善やマーケティングを行う企業が増えていますが、AIや各種システム・デジタル技術の活用などに明るい「IT人材」をリスキリングの導入により社内で育成する企業が増えています。

なお、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「DX白書2023」によると、IT人材の量が「やや不足している」「大幅に不足している」と答えた企業の割合が8割以上、IT人材の質が「やや不足している」「大幅に不足している」と答えた企業の割合も8割以上でした。IT人材は需要に対して供給が不足しているため、採用難の側面があります。そうした状況において自社に必要な人材を確保する上でも、リスキリングが有効です。

リスキリングの導入を早い段階から進めることで、将来起こり得る人材不足への対策にもなります。

採用コストの削減

リスキリングによって社内で人材育成ができれば、採用コスト削減にもつながります。IT人材を例に挙げると、各社でIT人材が不足しているため、今後はそれに伴い採用コストが高くなることが予想されます。採用よりも社内での育成に力を入れた方が、効率良く優秀なIT人材を確保できるケースもあるでしょう。

また、外部から新しい人材を採用すると、会社になじむまで時間がかかるというデメリットもあります。リスキリングで社内人材を教育する場合は、すでに会社の文化や体制を理解しているケースもあるため、新しく採用するよりも体制変更やDXなどへの活用が行いやすいというメリットもあります。

自律型人材の育成

リスキリングによって従業員に新しいスキルを学ぶ機会を提供することで、従業員自らキャリアを形成する意識を高められます。キャリアへの意識が高い従業員が「積極的に業務改善を図る」「事業成長につながる提案を行う」ようになる可能性もあるでしょう。

リスキリングは単なるスキルの習得ではなく、従業員の自発的な行動を促す環境をつくり、会社全体の革新性と柔軟性を向上させる手段としても有効です。

【関連記事】キャリア自律とは?定義や必要性・企業のメリット【調査あり】

リスキリングを導入する上で考慮すべきデメリット

リスキリングによる社内人材の職業能力の再開発、再教育は、企業の成長にも大きく寄与する可能性を秘めています。しかし、リスキリング導入には当然ながらデメリットもあるので、導入の際には慎重に検討することが重要です。「企業による費用負担」「費用対効果の懸念」「従業員のモチベーション低下」という3つの考慮すべきデメリットを紹介します。

企業による費用負担

講習や研修、教育プログラムなどの学びの場を提供するリスキリングは、無償でできるものばかりではなく、実施の費用がかさむケースもあるでしょう。従業員の職業能力の再開発や再教育には、ある程度の投資は欠かせません。しかし、外部講師を呼んだり、セミナー参加の費用を負担したりする場合は、あらかじめリスキリングにかけられる予算をきちんと捻出する必要があります。

特に質の高い学びの場を提供し、自社への還元を期待するのであれば、投資を惜しんではいられません。企業でいくら費用負担しなければならないのかを導入前にシミュレーションしたり、予算取りをしたりする下準備が重要になります。

費用対効果の懸念

リスキリングを導入することで従業員が新たな学びを得たからといって、仕事ですぐに成果を上げられるとは限りません。すぐに役立つ実践的なスキルや知識であればそれに越したことはありませんが、自社のビジネス戦略や顧客のニーズに合致しないこともあるでしょう。

学んだことを活かせない状況は、宝の持ち腐れ状態でもあります。企業としてはリスキリング導入という投資に対する効果が見込めないのであれば、長期的に取り組みを継続することは困難です。リスキリング導入によって何を期待するのかを、企業としては明確にすることが求められます。

従業員のモチベーション低下

新しいスキルや知識を習得するためには、多くの時間や労力を費やすことになります。もちろん、社会人になっても学ぶことに貪欲で、意欲的にリスキリングに取り組んでくれる従業員もいるはずですが、すべての社会人が職業能力の再開発、再教育を好意的に捉えているとは限りません。

中には、リスキリングに時間や労力を取られることにストレスを感じる従業員も出てくる恐れがあります。そうなると、企業が成長するために導入したリスキリングによって、従業員のモチベーションが低下する事態もあり得るでしょう。施策が逆効果となるのを避けるためにも、導入の際は綿密な計画が重要になります。

リスキリング推進における課題

日本でリスキリングを推進する上では少なくない課題もあります。主には「ミドル・シニア層の学習意欲の低さ」「従業員の理解不足」が挙げられます。リスキリングを導入する際は、これらの課題を認識した上でケアすることが重要です。

ミドル・シニア層の意識が低い

【出典】パーソル総合研究所「学び合う組織に関する定量調査

リスキリングは世代を問わない課題ではあるものの、学び直す意味ではミドル・シニア層ほど重要度が上がります。ミドル・シニア層はある程度の成功体験やスキルを身につけているため、長年の経験と新しいスキルを組み合わせた価値創出が期待できるからです。

その半面、ミドル・シニア層は新しい分野を学ぶことに抵抗感を持つ傾向にあります。パーソル総合研究所の「学び合う組織に関する定量調査」では、従業員の学習時間は30代をピークに下降傾向にあり、特に「学んでいない」割合は年齢を重ねるにつれて高まっています。こうしたミドル・シニア層の学習意欲の低さが、リスキリング推進における課題の一つです。

しかしながら、日本の企業では40代以上の従業員が全体の約8割を占めています。ビジネスの変化に対応し生き残りを図るために、企業は若年層以上にミドル・シニア層のリスキリングを強化する必要があるでしょう。

従業員の理解が得られにくい

リスキリングは、従業員自身が学び直す意義やメリットを感じていなければ成功しません。どれだけ素晴らしい研修メニューを用意しても、日々の業務に忙殺されて学ぶ時間を取れず、スキルを獲得しても使い道が見いだせないケースもあるでしょう。

特に短期間でのスキルアップを目指す場合や、研修の内容が高度である場合、通常の業務時間内だけでは十分な学習時間を確保するのが難しくなります。本業に時間を割けなくなったり、従業員からの不満の声が上がったりすることも考えられます。リスキリングは企業の競争力を高めるための重要な取り組みですが、導入に際しては従業員のワーク・ライフ・バランスを損なわないよう、計画的に実施しなければいけません。

また、従業員に自主的に取り組んでもらうためにも、企業はリスキリングが「なぜ必要なのか」というマインドセットにアプローチする必要があります。

リスキリングの効果的な進め方

リスキリングを推進するにあたり、カリキュラムの選定や学習環境の整備には力を入れる企業が多い一方、現状把握とフィードバックの機会提供は怠りがちなので注意が必要です。リスキリングの進め方を理解することにより、自社での導入に向けて動き出せます。ここでは、それぞれの手順について解説します。

自社の現状を把握し、リスキリングのテーマを決める

リスキリングは自社の経営戦略と連動している必要があるため、対象となるスキルや人材は企業によって異なります。そのためにも、はじめに自社の現状を把握する必要があります。まずは経営戦略を実現する上で必要なスキルと、従業員が現在持っているスキルを洗い出しましょう。この2つのギャップにあたる部分が、自社のリスキリングで取得すべきスキルです。

従業員がどのようなスキルを保有しているのかを、事前に見える化できると運用がスムーズになります。従業員のスキルを把握するには、スキルマップの利用がおすすめです。

【参考】経済産業省・中小企業庁・厚生労働省による例示を編集

リスキリング施策を設計する

リスキリングの学習方法には、社内研修やオンライン講座、eラーニングといった座学以外に、実際のプロジェクトでOJTとしての指導などが存在します。ただし、リスキリングの対象となるスキルは専門性を求められるものが多く、社内だけで準備することは簡単ではありません。講師を外部から招いたり、外部の学習コンテンツを利用したりすることも視野に入れ、コストや運用の負担に合わせて選択しましょう。

リスキリングの学習方法としては以下の例が挙げられます。

学習方法 詳細
リスキリング支援サービス Reskilling Camp
オンラインコンテンツを活用し、デジタルスキルやDX推進に必要なスキルを習得する。ただ学習を行うだけではなく、各社の課題や目的に応じたカリキュラム設計や、スキル定着まで見据えた伴走支援をしてもらえる。
オンラインセミナー IT経営ストラテジ(IT戦略コース)
IT経営推進のために必要な、IT経営実現領域の「IT戦略プロセス」および「IT利活用プロセス」 をメインに学習。企業ケース事例を見ながら、IT経営実現領域のITサービスやIT利活用のための戦略を立て実行する方法などを学ぶ。

また、法人向けのコンサルティングサービスを受けるのもおすすめです。リスキリングに精通した企業が、クライアントの課題や展望をヒアリングした後、どのような方法で、どのような取り組みをすべきかを提案してくれます。

いずれの方法を採用するにしても、学習に際して注意が必要です。どれだけ質が高い内容でも、量が多かったり、はじめから難易度が高かったりすれば、受講者が離脱する可能性があります。はじめに立てた経営戦略を基に、獲得スキルの優先順位をつけましょう。

学習環境を整備する

教育カリキュラムを決定したら、学習環境を整備します。リスキリングは、はたらきながら学ぶことが前提です。しかし、業務時間外に学習する仕組みにした場合、従業員は負担を感じ離脱する可能性が考えられます。就業時間の中に学習時間を組み込めば、従業員の負担が軽減できるだけでなく、業務への必要性を実感しながら学習できるでしょう。

また、学習管理システムの導入も有効です。学習管理システムにより、学習プログラムへ簡単にアクセスできる仕組みで進捗管理をすれば、学習に取りかかりやすくなります。従業員が学習しやすい環境を整えることが大切です。

実践で活用する機会を提供する

学習環境を整備したら、実践で活用する機会を提供しましょう。実践では学習時には想定しなかったことが多々発生します。実践の中で試行錯誤を繰り返すことで徐々にスキルを使いこなせるようになります。

ただし、実践できる業務が存在しないケースもあります。その場合は、シミュレーションや予定している業務を実験的に実施する環境を準備しましょう。スキル習得には、学習と実践がセットである点を理解することが大切です。

リスキリング導入時の2つのポイント

リスキリングの実施は、それだけでは社内戦略との連動は望めません。企業のはたらき方を通して、リスキリングを推進する土壌をつくることが成功のポイントです。リスキリング導入時の2つのポイントを解説します。

企業側が主体となって取り組む

リスキリングは、従業員自身が学び直す意義やメリットを感じていなければ成功しません。従業員も業務以外にやることが増えたと感じ、会社への不信感を持ってしまうケースも考えられます。

従業員に前向きに取り組んでもらうためにも、経営層が「なぜリスキリングが必要なのか」「リスキリングをするとどうなるのか」といった必要性や将来像を従業員に伝え、理解してもらうことが大切です。

リスキリングは人材戦略の一つであり、経営戦略と連動しています。そのためリスキリングの必要性や将来像の発信は、経営層からトップダウンで行いましょう。具体的には、経営計画の中に記載したり、社内の方針発表会で経営層がリスキリングについて発信したりする手段が挙げられます。一度だけではなく、常に発信し続けることが大切です。

また、学習時間の設定もポイントとなります。学習時間を就業時間内に設定すれば、業務に必要な学習であることを実感してもらいやすくなります。あくまでも企業が主体であることを忘れないようにしましょう。

継続的に取り組める仕組みをつくる

従業員が、継続的に取り組める仕組みをつくることもポイントです。リスキリングの対象となるスキルは、IT関連の分野などのため、簡単には習得できません。どれだけモチベーションを維持して継続できるかで効果が変わってきます。

そのためには、以下の仕組みをつくることをおすすめします。

    • インセンティブを用意する
    • 評価制度を見直す
    • コミュニティをつくる

インセンティブや公平な評価制度を整えることで、リスキリングに対する動機づけになるでしょう。また、1人で学習する上ではモチベーションの維持は簡単なことではありません。誰かと一緒に学んだり情報交換したりできる社内コミュニティがあれば、人とつながりながら学習できるため、孤独を感じずに学習できるはずです。従業員が自主的に取り組めるような仕組みを企業側がつくることが重要になります。

【お役立ち資料】リスキリングを阻む要因と3つの促進ポイント

リスキリングの効果を高めるには、企業主体の組織づくり・仕組みづくりが重要です。本資料では、リスキリングの実態と促進のための3つのポイントを紹介します。リスキリング実施に課題を持つ方はぜひご覧ください。

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企業でのリスキリングの取り組み事例3選

リスキリングの方法は企業によって異なります。従業員のキャリア形成にアプローチした事例や、学習環境を整備してリスキリングを推進した事例などさまざまです。リスキリング導入の好事例を3つ紹介します。

通信業界の変化に対応|AT&T

米国のAT&Tは、業界に先立ってリスキリングに取り組んだ企業です。約25万人の従業員のうち約50%が今後の通信業界の変化に対応できるスキルを持ち合わせていないことを大きな課題と捉え「ワークフォース2020」という教育プログラムを実施しました。

具体的には、企業から新たな業務や今後必要となるスキルを開示します。従業員は開示された情報と自身のスキルを比較し、足りないスキルを認識した上でリスキリングに取り組みました。

スキルを獲得した従業員は、新たな部署や人員不足の部署への異動に対応。その結果、社内で不足していた技術職のうち8割の人材を社内異動で補充することに成功しました。リスキリングに取り組んだ従業員と取り組まなかった従業員を比較すると、リスキリングに取り組んだ従業員の昇進率が高いという数値も公開しています。

AT&Tは、従業員に自律的なキャリア形成を促すことで、リスキリングに成功した事例といえるでしょう。

人材の配置転換に成功|西川コミュニケーションズ

西川コミュニケーションズは、学習環境の整備や経営層自身の実践でリスキリングを推進した企業です。メインの印刷事業から、AIソリューションやビジュアル制作といったデジタル技術を活用したビジネスモデルへの転換を決めました。

学習チームや表彰制度、はたらき方に柔軟性を持たせるといった、学習しやすい環境を提供することでリスキリングを推進。印刷業務に携わっていた従業員を、プログラマーや営業職へ配置転換することに成功しました。

また、経営層が従業員に対し、今後必要になるスキルを明示。経営層自身もディープラーニングの知識を習得することで発信内容に説得力を持たせ、リスキリングを社内に浸透させました。

マルチタスクと業務効率化を実現|陣屋

陣屋は、顧客満足度向上を目的として、IoTの活用に取り組んだ企業です。宿泊業を営む陣屋ですが、手書きの作業が顧客満足度の向上を妨げていると感じ、顧客情報や在庫の管理をすべてデジタルツール化。全従業員がツールを使いこなすための教育を実施しました。

経営側が「仕事を変えなければ、旅館は立ち行かない」と繰り返しIoTの必要性を伝えたほか、紙への台帳記入を禁止し実践でデジタル活用スキルを鍛えさせました。その一方で、操作ミスを許容し従業員の不安感や抵抗感を和らげた点が見習うべき工夫です。

従来はサービス係、清掃係、フロント係と分かれて業務を行っていましたが、データを共有することにより、役割の垣根を越えて、自分が取るべき行動を判断できるようになりました。その結果、マルチタスク化や業務効率化に成功。顧客満足度も向上し、リピーター客が増加しています。陣屋は、実践でのスキル習得と失敗を許容するマインドセットにアプローチすることで、リスキリングに成功した事例です。

【関連記事】リスキリングの導入事例|他社の取り組み内容・取り組み状況【データあり】

リスキリングに活用できる企業向け補助金・助成金

リスキリングの実施に際して、企業向けの補助金・助成金を利用できます。例えば、厚生労働省は「人材開発支援助成金」として、「事業展開等リスキリング支援コース」の助成金を提供しています。また、東京しごと財団雇用環境整備課は、都内中小企業に向けて「DXリスキリング助成金」を提供しています。

それぞれ給付には細やかな条件がありますが、条件に当てはまるようであればこうした助成金も積極的に活用しましょう。

【関連記事】リスキリングの助成金制度を紹介|コースの詳細や申請の流れも解説

リスキリングのご相談はパーソルグループへ

「リスキリング」は人的資本経営における人材戦略の一つです。単に学び直すことにとどまらず、学んだことを職場で実践したり、異動・配置に反映させたりして事業成長を図らなければ、意味がありません。

パーソルグループでは、一人ひとりのキャリア開発支援はもちろん、学びへの動機づけや目標管理など包括的に取り組む「組織としての戦略的なリスキリング」を支援します。

    • 選択可能な学習メニューを増やしても、自ら学ぶ人が少ない
    • 多くの社員にDXに関する研修を実施しているが、職場が何も変わらない
    • 社員のリスキリングが、企業としての新たな価値の創出や、キャリア充足によるエンゲージメントにつながっていない

このような悩みをお持ちの方はパーソルグループにご相談ください。

パーソルグループに相談する

また、パーソルグループでは、誰でも無料でリスキリングを始められるサービス「PERSOL MIRAIZ」をご提供しています。PERSOL MIRAIZでは、スキル獲得に向けた学習コンテンツやキャリア相談など、充実した支援が受けられます。詳細はこちらよりご確認ください。

まとめ|リスキリング推進の鍵は動機づけと環境づくり

リスキリングは、企業が「戦略の一つ」として、新しい業務や変化に対応するための新しい知識やスキルの学習です。現代はビジネスモデルの変化やはたらき方の変化が加速しているため、リスキリングの必要性が高まっています。

企業によって実施すべきリスキリングの施策は異なります。そのため、リスキリングを進める際は、企業側が主体となり「なぜ」「何を」「どのように」の順番でリスキリングの必要性や将来像を伝えることを徹底しましょう。また、リスキリングに継続的に取り組むためにも、動機づけや環境づくりを意識した施策が不可欠です。