2023年03月23日
2023年11月27日
リスキリングとは、新たな分野や職務にて新しいスキルを習得することを指す用語です。業構造の変化や人材不足、人的資本経営へのシフトや自律的なキャリア形成など、ビジネス環境が変化したことによりリスキリングの注目度が高まってきました。
しかし、海外に比べると日本企業のリスキリング浸透度は高くありません。そのような状況を受け、国としてもリスキリングの推進に力を入れはじめています。
本記事では、リスキリングの必要性を感じている企業に向け、リスキリングの意味や日本における課題、進め方を事例とともに解説します。
リスキリングについてご相談いただけます
「リスキリングを進めたいが、人材配置・処遇との連動が難しい」
「リスキリングに取り組む機会を用意しているが、自ら学ぶ人が少なく、効果が見られない」
このような課題感をお持ちの方に向け、パーソルグループでは組織の課題感に応じたリスキリングを支援します。「戦略的なリスキリング」を推進したい方は、お気軽にご相談ください。
目次
リスキリングとは、現在とは異なる職務や新たな分野のスキルを獲得する/させることを指します。
たとえば、以下のような取り組みがリスキリングに該当します。
デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する人材の獲得や育成が声高に叫ばれる中、「リスキリング=デジタルスキルの習得」など、偏った認識で使われるケースも見受けられます。
ここでは、リスキリングの定義と、混同されがちな用語との違いについて解説するので参考にしてください。
リスキリングについて、経済産業省は以下のように定義しています。
「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」
つまり、新しい知識やスキルを学ぶことで、異なる職務への転換や、新たな職務をかけ合わせた異なる分野への挑戦を促す取り組みを指します。
リスキリングに対比する用語として、アップスキリングがあります。スキルアップ(和製英語)とも呼ばれますが、これは現在の分野・業務に必要なスキルや専門性を高める取り組みを指します。例えば、研修担当者がより高度な教材開発スキルを習得するのはアップスキリングに該当します。
リスキリングは、はたらく個人が自分のキャリアビジョン実現のために取り組むことも含みますが、企業の施策としてリスキリングを語る場合、自社の経営戦略実現のための重要施策の一つとして扱うべき要素を指します。
経済産業省がとりまとめた「人材版伊藤レポート(2020年9月公表)」では、人的資本経営の実践に向けて「人材戦略に求められる3つの視点・5つの共通要素(3P・5FFモデル)」が示され、リスキリングは共通要素の一つに掲げられています。つまり、企業におけるリスキリングは、事業を成長領域へシフトさせ新たな価値を創出するためのドライバーとして位置づけられており、従業員が成長領域でより付加価値の高い職務を担っていくための戦略的投資によるキャリア開発施策と言えるのです。
従業員にとっては、従来路線の成長とは一線を画した次なるステージでの活躍が目的となり、将来的には配置転換を含む新たなキャリアチャレンジが起こることも想定されます。
これからは既存の人材・スキルを起点に経営戦略を考えるのではなく、経営戦略を起点として、実現に向けて必要な人材やスキルを定義・確保する在り方に変化しています。つまり、経営戦略の実現のために必要なスキルを獲得するのがリスキリングだと言えます。
また近年、DXが世界的に加速していることもあり、リスキリングと言うと、デジタル技術やデータ活用に精通している「デジタル人材」の育成を指すケースが見受けられます。確かに、AIやデータの利活用といったデジタル領域のリスキリングは不可欠です。一方、その技術を活用した新たなビジネスモデルや業務プロセスを創出するイノベーティブ能力や、高難度かつアジャイルなタスクを着実に完遂するプロジェクトマネジメントスキルなど、非デジタル領域にもリスキリング・テーマは存在します。
脱酸素社会に向けたGX(グリーントランスフォーメーション)もますます重要度を増しています。環境変化の中で、今後も新たなリスキリング・テーマは登場し続け、それらと既存の強みと掛け合わせた新たな価値創出が常に求められていくでしょう。
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リスキリングと似た言葉に「リカレント教育」や「社内教育」があります。
これらの違いを明確にし、リスキリングへの理解を深めましょう。
リスキリングとリカレント教育の大きな違いは、誰が主導するかとその目的です。
リカレント教育は、はたらく個人が主体となり自ら学ぶことを言います。厚生労働省では、「学校卒業後もそれぞれのタイミングで学び直し、仕事で求められる能力を磨き続ける社会人の学び」をリカレント教育と呼んでいます。また、厚生労働省では学び・学び直しにおける「労使の協働」を促すガイドラインも策定されていますが、主軸は、労働者の「自律的・主体的かつ継続的な学び・学び直し」です。
「それぞれのタイミングで」とある通り、はたらく個人のライフキャリアに応じて取り組まれるものであり、広くとらえると、職業には直結しない生涯学習もリカレント教育には含まれます。
一方、リスキリングを主導するのは、さきほど説明した通り、企業です。成長領域において新たなビジネスを創出し、より付加価値の高い職務を担える従業員を育成するために、人材戦略の一環として行われるのがリスキリングです。リカレント教育とは異なり、こちらは、職業に直結するものを指します。
社内教育とは、各企業がその従業員に対して提供する教育すべてを指します。既存分野に対し専門性を深めるアップスキリングもあれば、新しい分野のスキルを獲得するリスキリングもあるでしょう。また、社外で学ぶ教育機会を企業が用意することもあります。
つまり、社内教育とリスキリングは、対比させるものではありません。
リスキリングが注目される背景として、産業構造の変化や人材不足、人的資本経営へのシフトや自律的なキャリア形成などが挙げられます。ここでは、これら4つの背景について解説します。
産業構造が大きく変化し、新しいビジネスモデルやサービスが創出されるようになったことで、新たな分野のスキルを獲得するリスキリングが注目を集めています。
特に、AIや各種システム・デジタル技術の活用などに明るい「IT人材」を確保するために、リスキリングを導入する企業も増えています。
世界経済フォーラム「Tne Future of Jobs Report 2020」では、テクノロジーの進歩により2025年までに約8,500万人分の仕事が失われ、約9,700万人分の新しい仕事が生まれ、労働者の1/2にリスキリングが必要であることが報告されています。
また、同団体の最新レポート「Future of Jobs Report 2023」では、2027年までにAI・機械学習のスペシャリストの数が40%増加、データアナリストや科学者・ビックデータのスペシャリストといった役割の需要は30〜35%増加・情報セキュリティアナリストの需要は31%増加すると予想しています。
産業構造が変化すれば、労働者に求められるスキルも変化します。決められたことを忠実に実行する役割はAIやロボットが担うようになるため、労働者は新しい付加価値を生み出すイノベーティブな方向へのリスキリングが必要となっています。
少子高齢化による労働人口減少もリスキリングが求められる要因です。パーソル総合研究所の調査「労働市場の未来推計2030」によると、日本では2030年には「644万人の人材不足」となることが明らかになりました。同調査では、その不足を解消する鍵として4つの対策を掲げています。
また、そのような人材不足の中、デジタル技術による自動化・機械化の進展に伴い、一部の職種では人材過剰となる可能性も指摘されています。三菱総合研究所の調査によれば、事務職は2030年までには120万人の人材余剰となるそうです。担当業務が失われつつある従業員に対し、新たなスキルを取得させ配置転換を行うといった点でもリスキリングが注目を集めています。
労働人口減少に伴い、新たな人材獲得がますます厳しくなる時代、企業にとって、多様な従業員が環境適応しながらより長く活躍し続けられるキャリア支援を行うことは、生き残りをかけた施策とも言えるでしょう。
人的資本経営とは、「人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方(経済産業省)」を指します。
人的資本の情報開示に向けた議論は、世界各地で急速に進んでおり、例えば、2020年8月にアメリカでは上場企業に対して人的資本の開示が義務化されました。
こうした背景から、企業価値を生み出す人材の能力や経験への投資が国際的に評価される時代に移り変わっていること、また従業員のエンゲージメント向上に寄与できることからも、リスキリングは必要不可欠なものとして注目されています。
また、国としての重要性が高まっていることも背景の1つです。2022年10月、岸田総理は政策の1つに、リスキリングの支援制度を予算に盛り込む計画を表明しました。
世界的に人材資本経営へのシフトが進んでいること、日本国内でもリスキリングの施策が推進されていることが注目されている理由に挙げられます。
個人がキャリアについて自分なりの考えを持ち、自身の力でキャリアを切り開く「キャリア・オーナーシップ」という考え方が広がってきていますが、これも、リスキリングと強く結びついています。
人生100年時代と呼ばれる長寿社会となり、はたらく個人の就労期間は長期化しています。日本の定年制度を遡ると、かつては55歳定年が主流でしたが、年金受給年齢の引き上げや高年齢者雇用安定法の度重なる改正によって、今では70歳までの雇用確保が努力義務となり、定年延長や定年廃止の動きも出てきています。
一方、シニア人材側の就労意欲も高まっており、内閣府「令和5年版 高齢社会白書」によれば、全国60歳以上で現在収入のある仕事をしている人の約4割は「働けるうちはいつまでもはたらききたい」と考えています。このように、生涯現役のライフスタイルへの変化が求められる中、年齢で一律のキャリアから、それぞれの意志にもとづき「教育」「就労」「リスキリング」「就労」「組織に雇われないはたらき方」などの段階を繰り返して「引退」に至る“マルチステージ型”のキャリアへの転換が進んでいます。
前述の通り、個人が主体となると「リカレント教育」にあたるわけですが、勤務先から提供されるリスキリング機会も、個人にとっては市場価値を高める絶好の機会です。企業視点で言えば、有益なリスキリング機会を含むキャリア開発支援を提供できる企業は、従業員のエンゲージメントが高まり、優秀な人材獲得を有利に進めやすいと言えます。
ここでは、リスキリングを行うことで企業にとってどのようなメリットがあるのかを解説します。
リスキリングにより、自社に不足しているスキルを持った人材を育成することができます。
例えば、現在ではデータを活用した業務改善やマーケティングの強化を行う企業が増えています。それに伴って、AIや各種システム・デジタル技術の活用などに明るい「IT人材」を、リスキリングにより社内で育成する企業も増えてきているのです。
なお、独立行政法人情報処理推進機構の「DX白書2023」によると、IT人材の量が「やや不足している」「大幅に不足している」と答えた事業会社の割合が7割以上、IT人材の質が「やや不足している」「大幅に不足している」と答えた企業の割合も7割以上でした。
IT人材は需要に対して共有が不足しており、採用が難しいという側面があります。そのような状況でも自社に必要な人材を確保するために、リスキリングが有効になるのです。
リスキリングの導入を早い段階から進めることで、将来起こりうる人材不足への対策にもなります。
リスキリングにより社内で人材育成ができれば、採用コストを削減できます。
こちらでもIT人材を例に挙げると、前述の通り各社でIT人材が不足しているため、今後はそれに伴い採用コストが高くなることが予想されます。採用よりも社内での育成に力を入れた方が、効率良く優秀なIT人材を確保できるケースも多いでしょう。
また外部から新しい人材を採用すると、会社に馴染むまで時間がかかるというデメリットもあります。リスキリングで社内人材を教育する場合は、既に会社の文化や体制を理解しているケースもあるため、新しく採用するよりも体制変更やDXなどへの活用が行いやすいというメリットもあります。
リスキリングによって従業員に新しいスキルを学ぶ機会を提供することで、従業員自らキャリアを形成する意識を高められます。
キャリアへの意識が高い従業員が「積極的に業務改善を図る」「事業成長に繋がる提案を行う」といったことができるようになる可能性もあるでしょう。
リスキリングは単なるスキルの習得ではなく、従業員の自発的な行動を促す環境を作り、会社全体の革新性と柔軟性を向上させるためにも有効です。
日本のリスキリング推進における課題として、ミドル・シニア層の学習意欲や社内の理解不足が挙げられます。これらの課題を認識した上でリスキリングを導入することが重要です。ここでは2つの課題について解説します。
リスキリングは世代を問わない課題ではあるものの、学び直すという意味ではミドル・シニア層ほど重要度が上がります。ミドル・シニア層はある程度の成功体験やスキルを身につけているため、長年の経験と新しいスキルを組み合わせた価値創出が期待できるからです。
その反面、ミドル・シニア層は新しい分野を学ぶことに抵抗感を持つ傾向にあります。パーソル総合研究所の調査では、従業員の学習時間は30歳前後をピークに下降傾向にあり、特に「学んでいない」割合は年齢を重ねるにつれて高まっています。こうしたミドル・シニア層の学習意欲の低さが、推進における課題の1つです。
しかしながら、日本の企業では40代以上の従業員全体の約8割を占めています。ビジネスの変化に対応し生き残りを図るために、企業は若年層以上にミドル・シニア層のリスキリングを強化する必要があるのです。
リスキリングは、従業員自身が学び直す意義やメリットを感じていなければ成功しません。どれだけ素晴らしい研修メニューを用意しても、日々の業務に忙殺されて学ぶ時間を取れず、スキルを獲得しても使い道が見いだせないといったケースが発生します。
特に、短期間でのスキルアップを目指す場合や、研修の内容が高度である場合、通常の業務時間内だけでは十分な学習時間を確保するのが難しくなります。本業に時間を割けなくなったり、従業員からの不満の声が上がったりすることも考えられます。
リスキリングは企業の競争力を高めるための重要な取り組みですが、導入に際しては従業員のワークライフバランスを損なわないよう、計画的に実施しなければいけません。
また、従業員に自主的に取り組んでもらうためにも、企業はリスキリングが「なぜ必要なのか」というマインドセットにアプローチする必要があります。
リスキリングを推進するにあたり、カリキュラムの選定や学習環境の整備には力を入れる企業が多い一方、現状把握とフィードバックの機会提供は怠りがちなので注意が必要です。リスキリングの進め方を理解することにより、自社での導入に向けて動き出せます。ここでは、それぞれの手順について解説します。
リスキリングは自社の経営戦略と連動している必要があるため、対象となるスキルや人材は企業によって異なります。そのためにも、はじめに自社の現状を把握する必要があります。
まずは経営戦略を実現するうえで必要なスキルと、従業員が現在持っているスキルを洗い出しましょう。この2つのギャップにあたる部分が、自社のリスキリングで取得すべきスキルです。
従業員がどのようなスキルを保有しているのかを、事前に見える化しておくと運用がスムーズです。従業員のスキルを把握するには、スキルマップの利用がおすすめです。
リスキリングの学習方法には、社内研修やオンライン講座、eラーニングといった座学以外のほか、実際のプロジェクトでOJTとして学習するなどさまざまなものが存在します。ただし、リスキリングの対象となるスキルは専門性を求められるものが多く、社内だけで準備することは簡単ではありません。
講師を外部から招いたり、外部の学習コンテンツを利用したりすることを視野に入れ、コストや運用の負担に合わせて選択しましょう。
また、どれだけ質が高い内容でも、量が多かったり、はじめから難易度が高ければ受講者が離脱する可能性があります。はじめに立てた経営戦略を元に、獲得スキルの優先順位をつけましょう。
教育カリキュラムを決定したら、学習環境を整備します。リスキリングは、はたらきながら学ぶことが前提です。しかし、業務時間外に学習する仕組みにした場合、従業員は負担を感じ離脱する可能性が考えられます。
就業時間の中に学習時間を組み込めば、従業員の負担が軽減できるだけでなく、業務に必要であることを実感しながら学習できるでしょう。
また、学習管理システムの導入も有効です。学習管理システムにより、学習プログラムへ簡単にアクセスできる仕組みや進捗管理をすれば、学習に取りかかりやすくなります。従業員が学習しやすい環境を整えることが大切です。
学習環境を整備したら、実戦で活用する機会を提供しましょう。実践では学習時には想定しなかったことが多々発生します。実践のなかで試行錯誤を繰り返すことで徐々にスキルを使いこなせるようになります。
ただし、実践できる業務が存在しないケースもあります。その場合は、シミュレーションや予定している業務を実験的に実施するといった環境を準備しましょう。スキル習得には、学習と実践がセットであることを理解することが大切です。
リスキリングを実施するだけでは社内戦略と連動したものにはなりません。企業のはたらき方を通して、リスキリングを推進する土壌をつくることが成功のポイントです。ここでは、リスキリング導入時のポイントについて解説します。
リスキリングは、従業員自身が学び直す意義やメリットを感じていなければ成功しません。従業員も業務以外にやることが増えたと感じ、会社への不信感を持ってしまうケースも考えられます。
従業員に前向きに取り組んでもらうためにも、経営層が「なぜリスキリングが必要なのか」「リスキリングをするとどうなるのか」といった必要性や将来像を従業員に伝え、理解してもらうことが大切です。
リスキリングは人材戦略の1つであり、経営戦略と連動しています。そのためリスキリングの必要性や将来像の発信は、経営層からトップダウンで行いましょう。具体的には、経営計画の中に記載したり、社内の方針発表会で経営層がリスキリングについて発信するといった手段が挙げられます。一度だけではなく、常に発信し続けることが大切です。
また、学習時間の設定もポイントです。前述したように、学習時間を就業時間内に設定すれば、業務に必要な学習であることを実感してもらえます。あくまでも企業が主体であることを忘れないようにしましょう。
従業員が、継続的に取り組める仕組みをつくることもポイントです。リスキリングの対象となるスキルは、新たな分野のものになるため、簡単には習得できません。どれだけモチベーションを維持して継続できるかで効果が変わってきます。
そのためには、以下のような仕組みをつくると良いでしょう。
インセンティブや公平な評価制度を整えることで、リスキリングに対する動機付けができます。また、一人で学習してモチベーションを維持することは簡単ではありません。誰かと一緒に学んだり情報交換したりできる社内コミュニティがあれば、人とつながりながら学習できるため、孤独を感じずに学習できます。
このように、従業員が自主的に取り組めるような仕組みを企業側が作っていくことが重要です。
リスキリングの推進にお悩みはありませんか?
パーソルグループでは、一人ひとりが自ら取り組むリスキリングを実現するために「キャリア」「目標管理」「学びのコミュニティ化」の3つの観点から取り組みを支援します。リスキリングの実施にあたってお困りごとがあれば、お気軽にパーソルグループまでご相談ください。
リスキリングの方法は企業によって異なります。従業員のキャリア形成にアプローチした事例や、学習環境を整備してリスキリングを推進した事例などさまざまです。ここでは、リスキリング導入の好事例をご紹介します。
米国のAT&Tは、業界に先立ってリスキリングに取り組んだ企業です。約25万名の従業員のうち約50%が今後の通信業界の変化に対応できるスキルを持ち合わせていないことを大きな課題と捉え「ワークフォース2020」という教育プログラムを実施しました。
具体的には、企業から新たな業務や今後必要となるスキルを開示します。従業員は開示された情報と自身のスキルを比較し、足りないスキルを認識した上でリスキリングに取り組みました。
スキルを獲得した従業員は、新たな部署や人員不足の部署への異動に対応。その結果、社内で不足していた技術職のうち8割の人材を社内異動で補充することに成功しました。リスキリングに取り組んだ従業員と取り組まなかった従業員を比較すると、リスキリングに取り組んだ従業員の方が昇進率が高いという数値も公開しています。
AT&Tは、従業員に自律的なキャリア形成を促すことで、リスキリングに成功した事例と言えるでしょう。
西川コミュニケーションズは、学習環境の整備や経営層の実践でリスキリングを推進した企業です。メインの印刷事業から、AIソリューションやビジュアル制作といったデジタル技術を活用したビジネスモデルへの転換を決めました。
学習チームや表彰制度、はたらき方に柔軟性を持たせるといった、学習しやすい環境を提供することでリスキリングを推進。印刷業務に携わっていた従業員を、プログラマーや営業職に配置転換することに成功しました。
また経営陣が従業員に対し、今後必要になるスキルを明示。経営層自身もディープラーニングの知識を習得することで発信内容に説得力を持たせ、リスキリングを社内に浸透させました。
陣屋は、顧客満足度向上を目的として、IoTの活用に取り組んだ企業です。宿泊業を営む陣屋ですが、手書きの作業が顧客満足度の向上を妨げていると感じ、顧客情報や在庫の管理をすべてデジタルツール化。全従業員がツールを使いこなすための教育を実施しました。
経営側が「仕事を変えなければ、旅館は立ち行かない」と繰り返しIoTの必要性を伝えたほか、紙への台帳記入を禁止し実践でデジタル活用スキルを鍛えさせました。その一方で、操作ミスを許容し従業員の不安感や抵抗感を和らげました。
従来はサービス係、清掃係、フロント係と分かれて業務を行っていましたが、データを共有することにより、役割の垣根を超えて、自分が取るべき行動を判断することができるようになりました。その結果、マルチタスク化や業務効率化に成功。顧客満足度も向上し、リピーター客が増加しています。
陣屋は、実戦でのスキル習得と失敗を許容するマインドセットにアプローチすることで、リスキリングに成功した事例です。
「リスキリング」は人的資本経営における人材戦略の一つです。単に学び直すだけではなく、学んだことを職場で実践したり、異動・配置に反映させたりして事業成長を図らなければ、意味がありません。
パーソルグループでは、一人ひとりのキャリア開発支援はもちろん、学びへの動機づけや目標管理など包括的に取り組む「組織としての戦略的なリスキリング」を支援します。
このような悩みをお持ちの方はパーソルグループにご相談ください。
リスキリングのご相談はパーソルグループまで
「リスキリングを進めたいが、人材配置・処遇との連動が難しい」
「リスキリングに取り組む機会を用意しているが、自ら学ぶ人が少なく、効果が見られない」
このような課題感をお持ちの方に向け、パーソルグループでは組織の課題感に応じたリスキリングを支援します。「戦略的なリスキリング」を推進したい方は、お気軽にご相談ください。
リスキリングとは、企業が「戦略の1つ」として、新しい業務や変化に対応するために新しい知識やスキルを学ぶことです。ビジネスモデルの変化やはたらき方の変化が加速したため、リスキリングの必要性が高まってきました。
企業によって実施すべきリスキリングの施策は異なります。そのため、リスキリングを進める際は、企業側が主体となり「なぜ」「何を」「どのように」の順番でリスキリングの必要性や将来像を伝えることを徹底しましょう。また、リスキリングに継続的に取り組むためにも、動機づけや環境づくりを意識した施策を考えましょう。