人事評価制度とは
人事評価制度とは、社員の業績や意欲、会社への貢献度などを評価する制度です。
終身雇用・年功序列に代表される固有の雇用システムが根付いていた日本では、勤務時間の長さや勤続年数が主な評価の基準となっていました。しかし、昨今状況は変わってきており、評価制度の見直しを図る企業が増えています。
人事評価制度とは何か、どのような目的で設定する制度なのか、再確認しましょう。
人事評価制度の種類
評価に使用する項目は、多くの場合、職種や職位で変わりますが、一般的には次の3種類に分けられます。
・業績評価
評価期間ごとに社員の成果や目標への達成度を評価する
・能力評価
業務上求められるスキルや知識など、発揮した能力を評価する
・情意評価
社員の意欲や行動、勤務態度などから評価する。担当業務へのモチベーションや責任感、組織協力する姿勢などが評価の対象となる
賃金決定にも反映するため、評価は定められた基準に照らし合わせて客観的に行われます。評価者の好き嫌いなどの感情や、「頑張っているみたいだから」といったあいまいな感覚に基づくべきではありません。
また、職種や職位によって同じ項目を使用する場合でも、どの項目を重視するかの判断を変えることが多いでしょう。
人事評価制度で得られた結果は、その後の人材育成・能力開発や人員配置の指標となり、賞与や昇給に関する査定にも結びついていきます。
人事考課制度との違い
評価制度には、「人事考課制度」もあります。
評価の基準や項目には人事評価制度と通ずるものもありますが、人事考課制度は主に賞与や昇給、昇進などの待遇面を決めるための制度であり、人事評価制度の方が、視野が広い制度といえるでしょう。
人事評価制度が必要とされる背景
人事評価制度が求められる最も大きな理由は、企業を取り巻く環境の変化です。
人材不足の深刻化や市場競争の激化、成果主義の広がりにより、多くの企業では、これまでの終身雇用・年功序列を前提とした評価軸では、従業員のパフォーマンスを上げることが難しくなっています。
経営のかじ取りを行う中で、年齢や性別、労働時間にとらわれず、個々の能力や業務実績を正しく把握することは不可欠であり、そのための客観的な指標として、「誰が評価しても評価結果にブレのない」人事評価制度が求められるようになってきました。
人事評価制度の今
今では多くの企業が人事評価制度を取り入れています。しかし、勤務実態に沿った制度の整備、運用は簡単ではありません。特にテレワークをはじめとした、新しいはたらき方が浸透している今、人事評価の見直しが求められています。
パーソルプロセス&テクノロジーが2020年11月に行った調査「テレワーク中の評価に関する意識・実態調査」によると、テレワーク下で自分への評価に不安を覚えている社員は全体の約4割に達しています。また、自らの部下への評価に不安を覚えている管理職は半数以上にのぼりました。
特に管理職が自身の部下に対しての評価に不安を覚えている現状は、テレワークで部下の勤務実態が見えなくなっていることと深い関係があると考えられます。しかし、同調査が行われた2020年11月時点では、テレワーク導入にあたって人事評価の仕組みが変わったと回答した人は6%にとどまっています。
このように、テレワークを導入している・導入を検討している多くの会社では、実情に合わせた人事評価制度の整備を急ぐ必要があると考えられます。
人事評価制度のメリット
人事評価制度の重要な側面に、社員の能力の開発と育成があります。このときの「能力」とは、今後の「自社の成長を見据えたときに必要になる能力」を指します。社員の頑張りと会社の方向性を一致させたいときにも、人事評価制度は力を発揮します。
例えば、これまでルート営業を主としてきた企業が、「新規顧客を開拓する」という方向に経営のかじを切ったとします。しかし、主な評価基準がルート営業を前提とした「売上」のままの場合、新規顧客を開拓しても評価につながるとは考えづらく、社員はなかなか動かないでしょう。
この場合、新規顧客の開拓数や売上を評価基準として入れることが有効です。
人事評価は従業員にとって分かりやすく提示される基準なので、企業の求めていることが明瞭かつスピーディーに社員に伝わります。
特に従業員数が少ない中小企業では、一人ひとりの社員が会社に与える影響は必然的に大企業よりも大きくなります。評価というと、物事が終わった後から行うものというイメージが強いですが、前述のとおり、事前に「何を評価するのか」を明示することで、評価制度を具体的な目標設定に結びつけ、モチベーションの向上を図ることができます。
導入のポイント|評価手法や基準は? テレワーク下ではどう変える?
人事評価制度の構築において、適切な手法の採用と評価基準決めは重要、かつ、最も悩ましいポイントです。ここでは、導入または見直す場合のポイントをご紹介します。
手法や基準を決めるときは「自社の課題」を出発点に
人事評価制度を定める大きな目的の一つは能力開発・人材育成です。前述のとおり、育てたい能力、目指す人材像は、企業の経営戦略と一致している必要があります。
自社の今後を考えたときに、重視すべき成果や能力、行動など、考えられる項目を洗い出し、優先順位をつけていくと、評価の軸が見えやすくなります。
あるいは、今直面している課題を出発点にするのも効果的です。どのような課題があり、どうすれば解決できるのか。こうした部分を整理していくと、基準となる項目、重視すべき項目がおのずと見えてくるでしょう。
手法や基準を決めるときは「現場」とともに考える
手法や基準を決める時に、人事や経営者だけで検討するのではなく、現場とともに考えるという進め方もあります。
その際は、「会社をどのようにしていきたいのか」というビジョンや戦略を経営者・人事が共有し、さらに現場へしっかり伝えて、経営目線と現場の乖離を埋めていくことが重要です。
ともに制度設定をしていくことには苦労もありますが、事前に入念な擦り合わせをすることで制度そのものが自分事になり、新制度の運用開始、継続がスムーズに進むでしょう。
トレンドに惑わされない
人事評価制度には、さまざまな手法があり、トレンドもあります。しかし、何もかも自社と同じ企業というのは、一つとして存在しません。
だからこそ、人事評価制度は「自社のオリジナル」であるべきです。
人気企業が取り入れている、他の企業がこの方法で成功した、という情報は参考にするにとどめ、表層的な情報に惑わされずに、オーダーメイドの人事評価制度づくりを進めていきましょう。
テレワークでも効果的な人事評価制度設計のポイント
コロナ禍で、テレワークを導入した企業も増えました。
人事評価制度の今で紹介したとおり、テレワークが急速に浸透したことで、人事評価において「勤務態度が見えにくく、既存の軸では評価が難しい」という新たな課題が顕在化しています。多くの場合、人事評価制度における評価者は、部門の管理者であり、テレワークでの管理の難しさはそのまま評価の難しさへと結びついています。
テレワーク下でのコミュニケーションの特徴
・1対複数ではなく、1対1のほうが行いやすい
・口頭ではなく、文字ベースのやり取りが増える
・仕事の振り分けや進行はタスクとして行われることが増える など
これらを踏まえ、1対1での面談を増やす、報告やレスポンスの回数・業務スピードや質・業務の達成度を評価の項目に定めるなどの工夫を行うとよいでしょう。
また、テレワークの場合、成果主義的な評価手法の方が、運用がしやすいといえます。本人と上司の話し合いのもと目標を定め、実現のための方策や中間目標を設定しておくのも効果的です。ゴールが明確な分、互いに納得できる、客観的な評価がしやすいでしょう。
企画・開発など、短期的な数値化が難しい業務では、評価手法を変える必要性が出てくることも考えられます。実情に合わせて制度を検討しましょう。
評価は、人が人に対して行うため、ともすれば個人の感情や主観が入ってしまいがちです。評価のブレを防ぐために、制度の設計と併せて、評価者の育成も行いましょう。テレワークへの理解を含めた意識変容促進や、評価スキルを学ぶための研修を行うとよいでしょう。
テレワーク下でも導入しやすい人事評価手法3選
テレワーク下でも取り入れやすい、人事評価の方法を3つ紹介します。
1. 意欲を引き出す「目標管理制度(MBO)」
目標管理制度とは、社員個人や部署・部門などのグループ単位で評価期間内に目指すゴールを設定し、それをどのくらい達成したか、達成度で評価する手法です。ドラッカーが提唱した概念で、「MBO(Management By Objectives and self-control)」ともいわれ、中小企業から大企業まで幅広く導入されています。
目標は、本人や上司が勝手に決めるのではなく、話し合いを行い、企業・組織と個人の目標をすり合わせて決めます。目線の統一を図ることで、やらされ感をなくし、組織との一体感を高めます。
評価期間をどう設定するか、またどのくらいの期間を適切と見なすかは、業務によって異なります。プロジェクトであれば設置期間で定めてもいいでしょう。ただ、あまりに短い期間だと、かえって評価が難しくなるため、半年程度の長さで設定するのがおすすめです。
1年単位など評価期間が長くなる場合は、中間面談・報告・評価を行います。まめに状況を共有することで、問題の特定や業務フォローができ、評価が低くなってしまった場合でも、納得して受け入れてもらいやすくなります。
2. 人柄もつかめる「360度評価」
「360度」という言葉どおり、上司だけでなく、部下や同僚も評価者となる制度です。一つひとつの業務についてというよりは、相対的な業務遂行能力や、コミュニケーション能力の評価に役立ちます。
360度評価のみで待遇面の査定をするのは現実的ではありませんが、さまざまな立場、目線で評価がされるので、社員の強み、弱み、特性を多面的に知ることができ、公平性も高くなります。
なお、評価者が評価する対象は、評価の質を担保する意味で、周囲にいる数人にとどめましょう。また、社員数が数十人の企業では、評価がそのままフィードバックされると評価と評価者が推測しやすくなるため、注意が必要です。
3. 全社一丸の意識を生み出す「OKR」
企業としての達成目標(OKR:Objectives and Key Results)を決め、それに基づき部署・部門の目標を決めます。さらに、そこから個人の目標を決め、達成度で評価する制度です。
MBOに似ていますが、MBOでは現実的な目標を定めるのに対し、OKRは理想に向けた目標を設定します。その分OKRの方が、よりハードルが高いと言えます。また、MBOは目標を本人と上司の間で管理しますが、OKRでは全社で共有するという違いもあります。
OKRでは、達成度の比重はそれほど高くなく、どちらかといえば成長度合いに評価の軸が置かれます。このため、評価者には、普段から部下の動向を気にかけることが求められます。自分の仕事が企業全体の目標に直結しているという意識が強くなるので、組織としての一体感の醸成につながります。
人事評価制度の制定フロー
人事評価制度を制定する際は、次の手順で行います。
STEP1.評価基準を決める
まず評価基準を決めるときは、ゴールとなる「求める社員像」を決めるところから始めましょう。次に、その社員はどういった要素から成り立つのか、前述の「導入のポイント」を参考に評価基準を設定します。
このとき、社員が設定した評価基準を見て、「求める社員像」を想像できるかを考えながら決めていきます。期待する成果、能力、行動、態度など、それぞれの項目で具体的に表現することを心がけましょう。
STEP2.(運用開始前)社内に評価制度の概要を伝える
運用開始前には、社内に評価制度の変更と制度の概要を周知します。
変更や改訂の目的、誰が評価者となるのか、どういうステップや流れで行うのか、基準は何かなど、全体像をつかめるように説明しましょう。
STEP3.(評価後)結果は本人にフィードバックする
評価結果は、本人のその後の成長の糧になるものです。評価結果は本人にフィードバックすることで価値を発揮します。
書面で通知するのではなく、評価者と社員の1対1の面談で伝えるようにし、疑問点が出てきた場合はできるだけ早めに解消しましょう。
評価を伝えるなかで、制度の不備に気づくこともあります。それを加味して制度を整備していくと、より自社に適した制度へとブラッシュアップされていくことでしょう。
まとめ|人事評価制度で会社を強くしよう!
外部環境の変化により、多くの企業では従来の評価軸では、従業員のパフォーマンスを上げることが難しくなっています。また、社員の頑張りと会社の方向性を一致させたいときにも、人事評価制度は有効です。制度がうまく作用し、社員の意識が変わっていけば、受ける恩恵は非常に大きいといえるでしょう。
コロナ禍におけるテレワークの普及で情緒的な評価は難しくなりましたが、逆に好機と捉え、より会社を強くする成長戦略の一環として、評価制度の運用を見直してみるのがおすすめです。
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