2022年09月02日
2024年02月02日
Google、SAMSUNG、メルカリ、花王といった企業において導入されたことでも話題になったOKRですが、OKRがどのような制度で、従来の目標管理制度と何が違うのか疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
本記事では、自社にOKRを導入すべきか判断できるように、OKRとは何か、導入のステップ、形骸化させないための注意点といった基礎知識を分かりやすく解説します。KPIやMBOとの違いも解説していますので、あわせて参考にしてみてください。
【最新調査】組織マネジメントの実態レポートをご覧いただけます
人材やはたらき方が多様化し、「組織マネジメント」の重要性が高まっています。
パーソルグループでは、管理職および一般職1,000名を対象に調査を行い、 【組織マネジメントの実態調査レポート】を作成いたしました。
採用・離職、上司・部下の認識ギャップ、キャリアなどに焦点を当て、 組織マネジメントにおける課題や取り組みについてまとめたものです。
組織作りやマネジメントに課題を抱える経営・人事の方、管理職の方のご参考になれば幸いです。
OKR(Objective and Key Result)は、組織が設定する目標(Objective)と、目標達成のために必要な成果指標(Key Result)を結び付け、企業の方向性を明確にする目標設定・管理手法です。
具体的には、組織、部門、個人それぞれの階層ごとに目標と成果指標を設定し、連携・共有しながら達成へむけて取り組みます。
OKRが必要とされる背景には、多様な従業員がはたらく企業が当たり前になっていることがあります。彼らは、互いに国籍や文化が異なるため、異なる価値観があることを前提にマネジメントを行わなければなりません。
また、VUCA時代ともいわれる変化が激しい昨今においては、従業員と企業が一致団結して士気を高めながら業務を行っていくことが、ますます求められます。それらの課題を解決する手段として、OKRが必要とされているのです。
OKRとMBO、KPIは定義を見ると一見同じような考え方に見えますが、それぞれ違いがあります。
OKR:目標と主な成果 (Objectives and Key Results) |
組織が設定する目標(Objective)と、目標達成のために必要な成果(Key Result)を結び付け、企業の方向性を明確し管理すること |
---|---|
MBO:目標管理 (Management by Objectives and Self Control) |
会社の方針と従業員自身が目指したい方向性をすり合わせて一人ひとりに目標を設定し、成果までの道のりを管理すること |
KPI:重要業績評価指標 (Key Performance Indicator) |
目標達成までのプロセスを計測・把握するために設定する指標 |
OKRは、MBOやKPIに比べると、企業の方針が重視され、チャレンジングな目標を推奨する点が特徴的です。
関連記事:MBO(目標管理制度)とは?メリットや設定方法・具体例をわかりやすく解説
MBOもOKRも生産性の向上を目指している点は共通しています。ただし、OKRは従業員の評価に直接活用しないという点でMBOと異なっています。なお、KPIは目標の達成度をはかることが目的であるため、OKR・MBOと大きく異なります。
OKRはもともと組織として設定された目標をもとに部門・個人の目標が設定され、社内全体で共有します。一方、MBOでは個人の目標を評価に活用するため、限られたメンバーにしか共有されません。KPIも部門・チーム内での共有に留まることが多いです。
OKRは、1週間~1カ月に1回程度と高い頻度で継続的に評価を行います。設定した目標への到達度を測るためです。一方、MBOでは人事評価の意味合いを兼ねており、半年~1年に1回程度の頻度で評価が行われます。
MBOでは定性的、すなわち数値化して計測できない項目が設定されることもありますが、OKRとKPIでは、一般的に定量的な項目のみが設定されます。
OKRにおいて求められる目標達成度は60~70%に留まります。MBOとKPIでは100%の目標達成が目指されますが、目標を100%達成することが目的になってしまうとチャレンジングな目標を設定しにくくなり、企業や従業員の成長を促すことができないためです。
株式会社パーソル総合研究所の「人事評価と目標管理に関する定量調査」によると、OKRによる目標管理は14%の企業で実施しています。
OKRは米国のIntelで開発され、今ではGoogleやSAMSUNGなど世界中の企業で活用されています。日本でも、花王や大日本印刷、メルカリといった大手企業がOKRを導入しています。
各企業がOKRを導入する背景には、以下のメリットが挙げられます。
OKRでは、会社・部門・個人の階層ごとに目標と目標に紐づく成果指標を設定します。設定した目標と成果指標は全社で共有され、可視化されます。
従業員一人ひとりの目標や成果が会社の目標と繋がっているため、会社における個人の業務の位置づけや影響が見えやすくなり、結果的にエンゲージメント向上につながります。
OKRでは部門を超えたコミュニケーションが生まれ、組織内の連携がとりやすくなります。「どのような成果を出そうとしているのか」「目標達成のためにどうすればよいか」といったコミュニケーションが期待されます。
チャレンジングかつ定量的な目標の設定によって、生産性の向上が見込めます。達成度が具体的に把握しやすいため、従業員一人ひとりのアクションが明確になり、業務の優先順位を付けながらチャレンジできる環境が作られます。
OKRは、具体的に以下の流れで導入します。
STEP1.組織→部門→個人の順で目標と成果指標を設定する
STEP2.設定した個人の目標と成果指標を社内で共有する
STEP3.チェックインやウィンセッションで進捗を確認し、成果を承認する
STEP4.振り返りと評価を行う
まずは組織のOKRを設定します。組織のOKRが完成したら全社に共有します。どのような背景や意図からOKRを設定したのか、共通認識をもつためにも密にコミュニケーションを取りましょう。
その後、部門、個人の順にOKRを設定します。
OKRでは、到達できる範囲で困難な、いわゆる「ストレッチゾーン」の目標を設定する必要があります。野心的な目標は新たな学習や挑戦を生み出し、成果を最大化するためです。
ちなみに、目標の難易度について「ルーフショット」「ムーンショット」と呼ばれる指標もあります。
「屋根(roof)に届くほどのショット」であり、容易ではないが達成可能な、ストレッチした目標を指します。いわゆる必達目標であり、100%の達成のみが成功といえます。
「月(moon)に届くほどのショット」であり、非常に困難な目標を指します。60~70%の達成が成功といえます。あえて高い目標を設定することで、新たな発想を引き出し、より大きな成果を目指します。
なお、目標設定の期間は、長期よりも短期が推奨されます。短期目標は長期目標に比べ成果を実感しやすく、従業員のモチベーションも高まるためです。もし長期で目標を設定したい場合には、短期目標に分解し、期間を区切るとよいでしょう。
OKRにおいて目標を達成できたかを判断する指標は、定量的に計測できる具体的な数値で表します。
目標に集中し、より高い成果を上げるためにも、1つの目標に対して2~5個の指標を設定することが望ましいでしょう。あまりにも成果指標が多すぎるとタスク化しやすくなり、本来のOKRの運用が難しくなるためです。
成果の指標を作成する際は、SMARTの法則を活用するとより効果的です。
従業員までOKRを設定したら、動機付けのため目標の共有を行います。
OKRでより良い成果を生みだすために、週1回、30分から1時間程度の短時間で進捗確認や成果の承認を行います。主なOKRの会議体としては、チェックインやウィンセッション、1on1が挙げられます。
チェックイン | 週の初めに行う。 OKRの進捗や自信度について確認し、課題があれば解決策を検討する。 |
---|---|
ウィンセッション | 週の終わりに行う。 一週間の進捗と成果を共有し、互いにポジティブな感想を共有する。 |
1on1 | 上司と従業員が一対一で行う面談。 従業員は自身のOKRの進捗や課題について伝え、上司はフィードバックや解決への助言を行う。 |
中間レビュー | 中間時点での進捗状況を共有し、方向性のずれがないか確認する。 |
期末レビュー | OKRの成果をスコアリングする。 結果をもとに、次期OKRを設定する。 |
関連記事:1on1とは?目的や面談内容・従来との違い【取り組み調査あり】
自身の最終的な達成度を確認し、自己評価とともに振り返りを行います。このとき、0~100%など具体的な数値で達成度を表し評価します。
OKRでは、あえて高い目標を設定することでより大きな成果を得ようとするため、目指す達成度は60~70%です。達成度が高すぎたり低すぎたりするならば、目標の再設定を行い、次のOKR設定へとつなげます。
OKRの効果を最大化させるためには、以下4つのポイントに注意しながら運用すると良いでしょう。
OKRが人事評価に反映されてしまうと、管理職含め多くの従業員が自身の評価を高めるために、達成が容易な目標を設定してしまいます。
OKRではストレッチ目標を設定することで従業員の成長を促すことが求められるため、人事評価とは結びつけないようにしましょう。
成果指標(Key Result)は、目標(Objective)に基づいて、「何をもって目標達成といえるか」を具体的かつ定量化して把握することが求められます。
このとき、成果指標を行動ベースではなく、価値ベースで設定するようにしましょう。
例えば「顧客満足度が最高なサービスを提供する」という目標があるとします。これに対し「満足度を測るアンケートを実施する」など行動ベースの成果指標を設定してしまうと、本来の目標ではなく、アンケートを実施するといった手段が目的になってしまうことがあります。「サービス利用のリピート率を30%に増やす」など価値ベースでの成果指標であれば、数値で成果を捉えることができ、進捗が把握しやすくなります。
〇 価値ベースの成果指標 | △ 行動ベースの成果指標 |
---|---|
行動によって組織やお客様に与える価値を測る | 行動そのものを測る |
・~を増やす・減らす ・~を高める ・~を○件獲得する など |
・~を導入する ・~を始める ・毎日~する など |
OKRでは進捗管理・課題共有の場として、週に一度チェックインミーティングを行いますが、毎回30分から1時間程度とし、従業員の工数負担とならないようにしましょう。
OKRでは目標を共有することが求められるため、部署の垣根を超えたコミュニケーションが多々発生します。
GoogleにOKRを提案したジョン・ドーア氏によると、「対話」「フィードバック」「承認」の3つのコミュニケーションを密に行うことが良質なコミュニケーションを促すとされます。
対話 | パフォーマンス向上を目的に、マネージャーとコントリビューターの間で行われる真摯で深みのある意見交換 |
---|---|
フィードバック | プロセスを評価し、将来の改善につなげるための、同僚と双方向あるいはネットワーク型のコミュニケーション |
承認 | 大小さまざまな貢献に対して、しかるべき個人に感謝を伝える |
具体的には、定期的な1on1やチェックインの活用や、日常的な感謝が挙げられます。
この3点を意識したコミュニケーションを行うことで、従業員の不安や負担にいち早く気づいたり、貢献を認められているとモチベーションが高まったりとOKRの成功に寄与するでしょう。
OKRを形骸化させないためには、組織マネジメントの考え方を取り入れることも有効です。特に昨今の組織マネジメントでは、VUCA時代で先々を予想しづらい社会になっていることを前提に、管理職が自ら組織が進むべき方向を示す必要があります。それには、メンバーがそれぞれ有する多様性や価値観を尊重しつつ、チームにビジョンをもたらすことが必要です。
また、組織マネジメントの成功には、管理職自らが、自身の想いを部下にわかりやすく示し、本音で部下との対話を繰り返すことが欠かせません。こうした地道なコミュニケーションを通じてチームのビジョンを共有することが重要になります。
ここからは実際の導入事例を見ていきましょう。OKRを導入した企業の具体例を3つ紹介します。
Google社は、世界最大の検索エンジンサービス「Google」を提供しているビッグ・テック企業です。2000年の初頭からOKRを導入しており、OKRの代表的事例といえます。
課題 | 従業員が、優先度の高い業務に集中できる環境づくり |
---|---|
得られた成果 | 従業員や組織の活性化を促し、Googleが世界的企業に成長した原動力になった |
今後の展望 | 目標管理スパンを3ヶ月に1回とし、OKRが社内で浸透することを図っている |
Googleでは、70%を達成すれば成功とするOKRを設定しています。また、OKRでの評価は全従業員に公開され、誰もが互いの作業状況を確認可能です。
名刺管理システムなどを提供しているSansan株式会社が、会社や部署の方針を明確化させて目標管理を行うため、OKRを導入した事例を紹介します。
課題 | 今までは目標管理にMBOを使っていたものの、プロダクトの方向性や仕事の意味を、エンジニア向けに説明することが難しかった |
---|---|
得られた成果 | MBOよりもプロダクトの方向性などを詳しく示せるため、エンジニアからも高評価を得ている |
今後の展望 | 名刺管理に留まらず、企業に加えて個人のビジネス戦闘力を高めるためのサービスを提供したい |
Sansan株式会社は、働き方の革新を自社のテーマにしています。よって、OKRを含めて自社の働き方についても、新しい取り組みに積極的であることが特徴です。また、導入時には元Googleの従業員を招聘し、OKRについて基礎から学んでいったことも、OKRの導入に成功した要因といえるでしょう。
消費財化学メーカーである花王株式会社は、2020年12月に開始した中長期経営計画の方針に、「社員活力の最大化」を明記しました。それを実現すべく、従業員と組織の活性化を目的に、OKRを導入した事例を紹介します。
課題 | 規模が大きくなるにつれ、部門最適化が進んでいた |
---|---|
得られた成果 | 全従業員のOKRを公表することで、部署や職種を超えて、同じ志をもつ従業員同士がつながりやすくなった |
今後の展望 | 従業員同士が、役職関係なくチャレンジを讃えあう環境を醸成し、チャレンジがしやすい活発な組織を作り上げる |
花王では、頑張れば6〜7割程度実現できるような、高い目標を設定することでワクワクする挑戦的な雰囲気を作り出しています。昔ながらの大企業でも、OKRを活用できる事例として、参考になる部分が多いのではないでしょうか。
OKRは、従業員のエンゲージメント向上や組織内の連携強化など、多くのメリットが期待できます。組織、チーム、個人がチャレンジングな目標に向けて同じ方向を向くことで、企業成長につながるでしょう。
ぜひ本記事で解説したOKRの進め方や形骸化させないポイントをもとに、自社ならではのOKRを進めてみてください。
【最新調査】組織マネジメントの実態レポートをご覧いただけます
人材やはたらき方が多様化し、「組織マネジメント」の重要性が高まっています。
パーソルグループでは、管理職および一般職1,000名を対象に調査を行い、 【組織マネジメントの実態調査レポート】を作成いたしました。
採用・離職、上司・部下の認識ギャップ、キャリアなどに焦点を当て、 組織マネジメントにおける課題や取り組みについてまとめたものです。
組織作りやマネジメントに課題を抱える経営・人事の方、管理職の方のご参考になれば幸いです。
A1.OKR=Objectives and Key Resultsの略です。
組織が設定する目標(Obhectives)と、目標達成のために必要な成果(Key Results)を結び付け、企業の方向性を明確にする目標設定・管理手法の一つです。
>>OKRとは
A2.OKRを導入することで、以下3つのメリットが期待できます。
1.従業員のエンゲージメントが向上する
2.部門を超えたコミュニケーションが促進される
3.生産性が向上する
>>OKRを導入するメリット
A3.OKRは以下のようなステップで導入~運用します。
1.組織→部門→個人の順でOKRを設定する
2.設定した個人のOKRを社内で共有する
3.チェックインやウィンセッションなどによる進捗確認、成果の承認
4.振り返りと評価
>>OKR導入の流れ