2021年05月26日
2024年11月01日
MBO(目標管理制度)とは、会社の方針と社員自身が目指したい方向性を擦り合わせることで一人ひとりに目標を設定し、成果までの道のりを管理するマネジメントの概念です。
社員自らが目標到達までを管理することで、業務効率の向上やモチベーション向上につながります。「経営学の父」と呼ばれるアメリカの経営学者、ピーター・ドラッカーが提唱しました。
本記事では、MBOの具体例を交え、概要から活用するメリット・デメリット、目標設定実践方法を解説します。自社に取り入れるべきかを判断できる内容になっているので、ぜひ参考にしてみてください。
【調査レポート】マネジメントの取り組み実態とは?
労働人口の減少など企業を取り巻く環境が大きく変化するなか、人材育成に課題を抱える企業が増えています。
パーソルグループでは、人材育成やマネジメントの実態について調査し「マネジメントの取り組み・実態調査レポート」を公開しました。レポートでは、離職、上司・部下の認識ギャップ、キャリアなどに焦点を当て、各社のマネジメント状況やパフォーマンスの高い企業の特徴をまとめています。
組織をどのように改善すべきか、ヒントを得られる内容になっていますので、人材育成に課題を抱えるマネージャー・人事の皆様はぜひご一読ください。
目次
MBO(Management by Objectives)とは、日本語で「目標管理制度」です。企業の経営方針と社員個々の目標を調整し、双方の方向性を擦り合わせながら、一人ひとりが達成すべき具体的な目標を設定し、その進捗や結果を管理する手法です。
MBOは、経営学において著名なアメリカの経営学者、ピーター・ドラッカーが提唱しました。彼の著作『マネジメント』でも詳しく述べられています。
日本では、「MBO=人事評価」と認識されがちですが、MBOは人事評価の手法ではなく、正しくはマネジメント手法です。
MBOが従来の目標管理と大きく異なるのは、社員自身が主体的に目標を設定し、達成に向けて自ら進捗を管理する点です。社員が目標を達成するまでのプロセスやアクションを考えることで、道筋が明確になり、業務効率の向上が期待できます。また、やりがいやモチベーション向上にもつながり、結果的に企業全体の業績やプロジェクトの成功などに寄与するとされています。
MBOでは、「新規顧客を毎月〇件獲得し、売上を〇〇円達成する」「〇月までにマニュアルを作成し、〇月までに運用を開始する」のように、設定する目標が具体的かつ、評価基準が明確であることが重要です。
日本でMBOが導入され始めたのは、1990年代後半です。バブル経済崩壊後、仕事の成果を評価基準とする成果主義が取り入れられたことで、MBOも同時に注目されました。
MBOは「時代遅れ」とされる論調もありますが、パーソル総合研究所の調査によると、導入企業は全体の3割を超えています。しかし、企業規模によるギャップが大きく、従業員数5,000名以上の大企業では5割弱が導入している一方で、中小企業では3割に満たない状況です。
正しい運用や評価基準の整備が課題となっているのも事実です。
【お役立ち資料】人事評価制度の見直しガイド
人事評価は社員の成長に必要不可欠ですが、自社の制度に不満を持つ社員は少なくありません。本資料では評価制度を見直すべきか悩んでいる方向けに、チェックリストや改善のコツをまとめています。
MBOと似た考え方や手法として「OKR」「KPI」が挙げられます。それぞれの違いについて解説します。
OKR(Objectives and Key Result)は、直訳すると「目標と主要な成果」を意味します。アメリカではGoogleやIntelが採用し、組織の一体化を強化する手法として大きな話題を集めました。
OKRは短期間での達成を目指す点で、MBOと異なります。OKRは企業全体の目標を全社員で共有し、達成率は70%程度を目標とするケースが一般的です。これは、成長を促すためにあえて高めの目標を設定し、チャレンジ精神を育むという意図に基づいています。
OKRについては、以下記事でも詳しく解説しています。
【関連記事】OKRとは?MBO・KPIとの違いやメリット、導入の流れを解説
KPI(Key Performance Indicator)は「重要業績評価指標」の略で、具体的な目標達成度を測定するための指標です。MBOやOKRがマネジメント手法であるのに対し、KPIは目標を定量的に評価するために使われます。
例えば、営業担当者が「新規顧客を〇件獲得する」という目標を立てた場合、その達成度は「営業数」「商談化率」などのKPIで評価できるでしょう。具体的には「新規顧客獲得数=営業数×商談化率×獲得率」という数式に沿って、目標の達成度合いを測ります。この「営業数」「商談化率」「獲得率」などの中間指標がKPIです。
【調査レポート】組織マネジメントの実態調査
はたらき方が多様化し、マネジメントに課題を抱える企業が増えています。パーソルグループでは、マネジメントや組織の実態について管理職および一般職1,000名を対象に調査を行いました。上司と部下の認識ギャップや、マネジメントがうまくいく企業の特徴・取り組みなどをまとめています。マネジメントに課題をお持ちの方はぜひご覧ください。
MBOの導入によって得られるメリットは以下の4点です。
MBOでは、経営理念やチーム目標をベースに、社員一人ひとりが目標を設定します。目標達成に向けて自身に足りないものは何かを把握し、その上で何をすべきなのか、自身の役割を考え行動に移すことは、社員の主体性向上につながるでしょう。結果的に、組織全体のパフォーマンス向上も期待できます。
また、MBOでは企業の方針と社員自身が目指したい方向性を擦り合わせるため、目標設定を行う過程で経営理念や事業戦略が全社に浸透しやすくなります。また、設定した目標が最終的に組織の利益にどのようにリンクしているか明確になるのも、MBOのメリットです。
経営理念は、組織としてあるべき姿や社会貢献の価値などについて、抽象的に表されているケースも少なくありません。目標設定を行う際に、どのように実現していくか自身の業務へ具体的に落とし込むことで、経営理念や事業戦略への理解が深まるでしょう。
MBOでは、社員のスキルや目標に合わせて目標を設定するため、達成感を得やすく、結果的にモチベーションが向上します。また、自ら設定した目標の達成が評価や報酬に結び付くため、成果が認められたという実感が得られ、さらなる意欲向上につながるでしょう。
【関連記事】モチベーションマネジメントとは|低下する原因と具体的な改善施策
MBOでは、達成すべき指標や状態、期限が明確に定められており、目標の達成度をもとに公平な評価が可能です。そのため、評価に対する不満が減るでしょう。評価の透明性が高まることで、信頼感も生まれ、社員の納得感にもつながります。
また、社員は自分のパフォーマンスがどのように評価されるのかを理解できるため、改善に向けた取り組みを検討しやすい点もメリットです。
MBOでは、定期的な進捗確認やフィードバックが実施されます。上司から具体的なアドバイスを受けることで、社員は自分の強みや改善点に気づきやすくなります。これにより、社員一人ひとりの成長が促進され、組織全体のパフォーマンス向上につながります。
MBOの導入による失敗を防ぐには、下記のような手順でマネジメントに落とし込むと良いでしょう。
MBOの実践手順
MBOで最も大切なのは、社員一人ひとりが自ら目標設定を行うことです。
個々の目標は、企業や組織のビジョンを十分に理解した上で設定する必要がありますが、トップダウンでは単なるノルマの設定になってしまい、社員のモチベーションアップにはつながりません。
目標設定は、以下のポイントを押さえながら行いましょう。
目標が設定できたら、目標達成のための計画を決めていきます。期日から逆算して計画を設定し、Excelやスプレッドシート、あるいは専用ツールで目標管理シートを作成しましょう。
目標と計画が設定できたら、行動に移します。目標管理シートで期日までの時間や達成度を確認しながら行動し、不足があったり難度が上がり過ぎたりしている部分があれば、その都度修正を行います。
行動を振り返り、適切な成果へとつなげるためにも、進捗確認の1on1ミーティングは定期的に実施しましょう。
【関連記事】1on1とは?目的や話す内容・面談との違い【取り組み調査あり】
MBOは振り返りを行うことで初めてその効果を発揮します。上司と部下は、目標達成に向けたプロセスや結果を共有しながら、部下自身の自己評価と上司による客観的評価、フィードバックを行います。
この際、結果だけではなくプロセスも重視することが重要です。目標の内容や期限をいかに具体的に設定できるかが、振り返りの精度に影響します。そのためにも、目標と計画はできるだけ具体的に設定しましょう。
上司からのフィードバックでは、今後期待される組織内での役割についての議論を中心に行います。また、部下は振り返りを通じて、今後のスキルアップやキャリアアップ、次の目標設定などについて相談できると良いでしょう。
【お役立ち資料】フィードバックの進め方ガイド
フィードバックはいきなり実施するのではなく、メンバーの情報収集や信頼性の確保から始める必要があります。本資料では5つのステップでフィードバックの進め方を詳しく解説しています。
目標設定を行う際には、以下のポイントを押さえることが大切です。
目標設定時には、トップダウンで企業や組織の意見を押しつけるのではなく、社員の自主性を尊重しましょう。自身で定めた目標に対してはモチベーションが高まりやすく、また達成できれば自信にもつながります。
社員一人ひとりが自主性をもって目標設定できるよう、目標設定のワークショップを開催したり、目標設定に関する教育を実施したりすると良いでしょう。
個人目標は、組織の目標と一致していないと定める意味がありません。組織目標・経営理念の教育も同時に行い、個人目標の方向性に反映させられるようにしましょう。
MBOの目標設定時には、「いつまでに」「どの程度」といった具体的な数値を盛り込みましょう。具体的であればあるほど、目標達成に向けどのような行動をすべきかがクリアになります。
・新規顧客獲得率を、先月比〇%増やす
・商品開発にかかるコストを、〇月までに△%カットする など
・新商品の売上を上げる
・コミュニケーション能力を高める など
部下のモチベーションややりがい、動機づけのためには難易度の設定が重要です。少し頑張れば手が届きそうな難易度の「ストレッチ目標」を立てることを意識してみましょう。
単に難易度を上げ下げすればいいわけではなく、努力することで達成可能な適切な数値を定める必要があります。簡単に達成できてしまう目標では社員は成長できず、反対に極端に達成が難しい目標だと、かえってモチベーションが低下してしまうケースも考えられます。適切なチャレンジを要するラインを見極め、目標設定を行いましょう。
ストレッチ目標の達成は、社員の自信にもつながります。「次はもう少し高い目標を掲げてみよう」と、よりレベルの高い目標の達成へのチャレンジへと導いていきましょう。
定量的な数値目標を設定しても、実際の行動計画が漠然としている場合があります。この場合、取り組みのアプローチが間違っていることに気づかなかったり、何から取り組めばよいか自身で判断できなかったりと、目標達成の妨げになってしまうかもしれません。
プロセスを分解・逆算した行動計画を立案し、目標に至るまでの間にいくつかチェックポイントを設けられると良いでしょう。
MBOの振り返りは、半期から1年に1度の実施など、比較的スパンが長めに設定されているケースが大半です。そのため、せっかく目標を設定したのに忘れてしまっていたり、早い段階で達成してしまい、成長機会を失ってしまっていたりする恐れもあります。
MBO実施とあわせてあらかじめ1on1を設定するなど、定期的な目標の振り返りや、進捗度合いを確認できる場を設けることが大切です。
MBOを形骸化させないためにも、MBOとあわせて以下の施策も検討しましょう。
MBOを導入する際は、評価者となる上司に対する研修も実施するのが理想的です。
パーソル総合研究所の調査では、上司の研修経験の実態として、評価者研修を受けたことがない割合は37.4%、目標設定に関する研修・トレーニングを受けたことのない割合は46.7%と、約半数が評価に関する研修の受講経験がないことを示しています。
MBOでは、社員が設定した目標に対してどの程度達成できたか、どういったプロセスを歩んだのか、といった点を評価します。一人ひとりの自主性が尊重されるべきですが、MBO本来の目的を上司自身が理解していないと、目標の押しつけが発生してしまうかもしれません。
MBOを導入する際は、目標設定における上司のかかわり方や、評価スキルを学ぶための研修をあわせて取り入れるようにしましょう。
被評価者(部下側)への教育も、実施すべき施策のひとつです。
MBOでは被評価者が目標設定を行いますが、組織の方針と自身の方向性を擦り合わせた上での目標立案が求められます。そのため、組織における成果とは何か、どのような行動が自身に求められるのかなどについて、事前に把握しておかないと正しい目標設定ができません。
例えば自社の経営理念や組織目標を学ぶ機会や、自身のキャリアについて考える機会を設け、自身の将来の姿をイメージして目標設定ができるように支援することが大切です。
【お役立ち資料】”人が育つ組織”の作り方
人材不足が深刻化する中、さまざまな階層やキャリアにおける課題にあわせた人材育成が欠かせません。 30年・21,000社の人材育成を支援してきたパーソルグループが提供する、研修のポイントやプログラムをご案内します。
MBOは人事評価を目的としたものではありません。社員のはたらきがいに直結し、上司と部下の円滑なコミュニケーションにも役立つ、マネジメントの“手段”です。効果的に活用し、社員一人ひとりのやりがいやモチベーション向上につなげましょう。
【調査レポート】マネジメントの取り組み実態とは?
労働人口の減少など企業を取り巻く環境が大きく変化するなか、人材育成に課題を抱える企業が増えています。
パーソルグループでは、人材育成やマネジメントの実態について調査し「マネジメントの取り組み・実態調査レポート」を公開しました。レポートでは、離職、上司・部下の認識ギャップ、キャリアなどに焦点を当て、各社のマネジメント状況やパフォーマンスの高い企業の特徴をまとめています。
組織をどのように改善すべきか、ヒントを得られる内容になっていますので、人材育成に課題を抱えるマネージャー・人事の皆様はぜひご一読ください。
A.MBOを効果的に実施するポイントは、評価者向けの研修の実施です。公正な評価やフィードバックを行うことで、部下の目標達成に対するモチベーションを高めます。評価者研修では評価の手順や方法、面談の進め方などを学びます。
パーソルグループでは評価者研修をはじめ、キャリアや階層ごとにさまざまな研修プログラムを用意しています。研修プログラムの詳細は、以下リンクよりどなたでも無料でダウンロードいただけます。
>>人材育成課題を解決する“社員研修”のススメ
A.MBO(目標管理制度)とは、会社の方針と社員自身が目指したい方向性の擦り合わせによって一人ひとりに目標を設定し、成果までの道のりを管理するマネジメントの概念です。社員自らが目標到達までを管理することで、業務効率の向上やモチベーション向上につながります。
>>MBO(目標管理制度)とは
A.MBOとOKRは「目標管理」という意味合いの元では似た概念ですが、次の3点において違いがあります。
・目的
・共有対象範囲
・目標達成率の設定
MBOとOKRを併用することで、目標設定や手段がさらに具体的になるといった相乗効果が期待できます。
>>MBOとOKR・KPIとの違い