2022年11月10日
2025年01月22日
VUCA時代の到来により、マネジメントに求められる役割が大きく変化しています。多くの職場で実施されている、上層部からの指示に基づいて仕事と人を管理する「PDCA型のマネジメント」ではなく、チームを目標の達成に導いていくリーダーシップを含んだマネジメント能力が求められています。
本記事では、経営環境が大きく変化する現代において求められる組織マネジメントとはどのようなものなのか、現代型の組織マネジメントを実現するためのポイントや管理職の役割について解説します。
組織マネジメントの実態とは?調査からみた、うまくいく組織の特徴
外部環境が大きく変化する中、組織マネジメントに求められる役割も大きく変わっています。
そこでパーソルグループでは、管理職および一般職1,000名を対象に組織マネジメントの実態について調査し、【組織マネジメントの実態調査レポート】を公開しています。 役職別、企業規模別での管理職の立場や、採用・離職に関する課題、さらに、上司・部下の認識ギャップなど、組織マネジメントにおける課題や取り組みについてまとめています。
組織作りやマネジメントに課題を抱える方は、ぜひご活用ください。
目次
組織マネジメントとは、ヒト・モノ・カネ・情報などの経営資源を効果的に活用することで、企業のミッションやビジョンを実現し、新しい価値を創造し続けるための組織管理を指します。
企業は、個人の努力だけでは達成が難しい目的や目標へ立ち向かうために、仲間を集めて組織を作ります。組織は構造化されることが多く、状況の変化にも柔軟かつ迅速に対応できるといった特徴を持ちます。
このような組織において、各単位をつなぐ“連結ピン”の役割を果たすのが管理職であり、組織マネジメントの実践者でもあります。
マネジメントは企業の永続的発展には欠かすことのできない役割・存在と言えます。「マネジメントの父」とも称されるP.F.ドラッカーは、マネジメントを以下のように説明しています。
事業に命を吹き込むダイナミックな存在であり、資源を生産的なものにすることを託された機関
「上位組織の方針に沿って計画を立てる」「手順書に沿って標準化された作業に取り組ませる」「PDCAを回す」といったマネジメントに対する考えや手法は、効果が認められ、多くの企業に取り入れられています。
しかし同時に、適切な運用がなされていないことによる弊害も指摘されています。このような現状について、経営学者のG.ハメルは「気ままで独断的で自由な精神を持つ人間を、標準やルールに従わせることによって、違いを見出し強みにもなり得る“創造力”や“自主性”をないがしろにしてきた」と表現しています。
【関連記事】マネジメントとは?意味や業務内容・必要なスキルを解説
7Sは、企業の経営資源とそれらの相互関係を示すフレームワークで、組織マネジメントを語る上では重要な概念です。7Sを用いることで、自社の経営資源や課題が明確になり、経営資源の選択と集中を行いやすくなります。また、現状のリソースを棚卸し、今後どのように組織マネジメントを進めればよいか立案する際に有用です。
7Sは、ハードの3Sとソフトの4Sに分けられます。
ハードの3Sは、組織構造に関する経営資源です。組織改革を行った場合、比較的変化がわかりやすい要素と言えるでしょう。
戦略:Strategy | 目標達成や競争優位性確保の方向性や道筋 |
---|---|
組織構造:Structure | 組織全体でパフォーマンスを最大にする組織構造・形態 |
システム:System | 組織のなかで従う制度やルール |
ソフトの4Sは、組織の「ヒト」に着目した経営資源です。組織改革を行った場合、変化がわかりづらいことが多い要素と言えるでしょう。
スキル:Skill | 他者と比べた自社の強み |
---|---|
人材:Staff | 組織に所属する人材全般の情報 |
価値観:Shared Value | 経営者の想いや会社の存在意義 |
スタイル:Style | 「社風」や「企業風土」 |
現代に求められている組織マネジメントはどのようなものでしょうか。
これまでのマネジメントは、「組織の決定事項を下位層へ展開(落とし込む)する」「管理職自身の過去の経験則に基づいて指示・命令を行う」といった、仕事と人を管理する“狭義のマネジメント”が主流でした。
しかし、先が見通しにくい現代においては、管理職自身が進むべき方向性を見出し、多様な価値観や多彩な能力を持つメンバーとビジョンを共有・合意したうえで、彼らを動機付け、チーム一丸となって課題に対峙していくことが求められています。これが、リーダーシップの要素を含んだ“広義のマネジメント”です。
現代の組織マネジメント(広義のマネジメント) | ||
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従来のマネジメント (狭義のマネジメント) |
リーダーシップ | |
役割 | 上位組織の方針に沿って 計画や予算を立てる |
進むべき未来(ビジョン)を示す |
視点 | ・短/中期 ・現実的、合理的 ・選択肢を絞る |
・中/長期 ・冒険的、情緒的 ・新しい考え、方法論を導入する |
コミュニケーション | ・指示、命令 ・コントロールする ・議論を通して決定する ・上司→部下の一方通行型 |
・協働、創発 ・動機付けて巻き込む ・対話ベースで思いを引き出す ・メンバーがオープンに話し合う |
従来のマネジメントとリーダーシップは補完的な役割であるため、どちらか一方を行うのではなく、両機能への対応が必要です。
管理職に求められている役割の変化は、調査結果からもとらえることができます。
株式会社ラーニングエージェンシーが発表した「組織・チームのあり方の変化に関する意識調査」の結果を見ると、10年前と現在で管理職に求められている役割が大きく異なっていることがわかります。
「決められたことを遂行する」「前例を踏襲する」といった指示・命令型の行動ではなく、「自ら何をすべきかを定義し、遂行する」といった主体性や部下の強みを引き出す、動機付けする、巻き込むなどの能力が求められています。
また、同調査では管理職に求められている役割(理想)と担っている役割(現状)の乖離についても明らかになっています。従来求められていた管理職の役割(狭義のマネジメント)は十分に果たせている一方、現在求められる役割、つまりリーダーシップの発揮を含む広義のマネジメントには課題があることを示しています。
管理を中心とする従来のマネジメント(狭義のマネジメント)を行っているマネージャーの価値はすでに低くなっており、オックスフォード大学の発表論文(2013)でも、管理しかしていない(できない)管理職は淘汰され、いずれAIに取って代わられると指摘されています。
これからの管理職には、自身が存在する意味や意義を自問し、担当する組織・チームおよび構成メンバー個々人に対して、どのような貢献ができるのかを考え、行動することが求められています。
ただ、こうした役割を理解し実践していくには、従業員が自ら学びながら取り組むだけでは時間がかかり、なかなか成果が出にくいのが現実です。場合によっては、誤った方法を実践してしまい、逆効果になる恐れもあります。
このようなリスクを避け、組織マネジメントを早期に、そして確実に組織に取り入れて効果を得るためには、リーダーシップ研修の活用がおすすめです。リーダーシップ研修は、リーダーとして必要な知識・能力を身につけるための研修です。組織の生産性を高めるために、メンバーの自主性を引き出すための関わり方や、対人関係スキルなどを学びます。
【関連記事】リーダーシップ研修とは?目的やカリキュラム例・得られるスキルを解説
これからの組織マネジメントは、従来のマネジメント(管理)に加えてリーダーシップの発揮が求められていることから、管理職の考え方自体を大きく変えていかなくてはなりません。以降は、効果的な組織マネジメントを推進するための4つのポイントについてご紹介します。
「自分はどんな存在でありたいのか」「妥協できないことは何か」という“思い”や、「組織マネジメントを担う管理職として何が期待されているのか」といった“ミッション”について自らに問いかけます。
これらが明確化できていなければ、「自分は仕事を通して何を実現したいのか」といった“マイビジョン”を職場メンバーなど他者に語ることはできません。
組織マネジメントは、「自分はどうありたいか」「どのような組織・チームを作っていきたいか」「その組織・チームで仲間と共に何を実現したいのか」という“思い”を持つところからスタートすると言っても過言ではありません。
一般的に、職場でホンネをさらけ出すことにはリスクが伴います。そのため、どうしても表面的な議論や対話になりがちです。しかし、よりホンネに近い対話を目指すことは重要です。そのために必要となる考え方が、「信頼」と「心理的安全性」です。
信頼という概念は、有能さなどに基づく“認知的信頼”や、情緒的な絆に基づく“情緒的信頼”などに分けてよく語られます。効果的にリーダーシップを発揮できるか否かは、相手からの信頼度合いで変わると言われていることからも分かる通り、管理職が組織・チームを構成するメンバーとの間で信頼関係が築けていないと、目標達成に向けた影響力(パワー)の発揮が不十分となります。
メンバーから信頼を得られるような行動ができているか、以下の7つの項目を使って自身をチェックしてみましょう。
項目 |
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1.他人のためにもはたらいている 個人目標達成のためにメンバーを利用しているのではなく、チームや部門、組織の利益を達成するために自身が活動している。 |
2.当事者としてかかわっている 第三者的にチームにかかわるのではなく、チームの問題を自分の問題として捉え、積極的・主体的に関与している。 |
3.開放性を実行している メンバーとの情報格差を維持することで自身の影響力を保持するのではなく、必要な情報を適時・的確にメンバーへ共有している。 |
4.一貫性を示している 自身の確固たる価値観や信念を持ち、それに沿って日々意思決定を行うことで、判断に対する一貫性を確保している。 |
5.感情を言葉に表している 自分の気持ちを乗せて会話することで、相手に「自分の思い」が伝わっている(人間味ある心を込めた会話)。 |
6.秘密を守っている 人は頼りにできる相手に対してのみ秘密を打ち明ける。その秘密を守るという「期待を裏切らない行為」を徹底している。 |
7.能力を示している 他者よりも優れた専門技術や特殊なスキル、知識を有していることをメンバーに示し、称賛や尊敬が得られている。 |
また、多様な価値観や多彩な経験・能力を持ったメンバーを活かすためには、やらされ感を生む「指示・命令のマネジメント」ではなく、各自の持つ強みが引き出され、効果的に組み合わされるような「協働・創発のマネジメント」が求められます。そういった状態を作り出すための土台となる考えが、「心理的安全性の担保」です。
管理職は、メンバーの心理的安全性を確保し、地位や経験に関わらず率直な意見や素朴な質問を投げかけられる環境を意識的に構築することが求められています。
無知だと思われる不安 | 業務遂行上の不明点を確認したいが、「この程度のこともわかっていないのか」と思われてしまいそうで不安になり、必要な質問ができなくなってしまう。 |
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無能だと思われる不安 | 担当業務がうまく進められないときに、「こんなこともできないのか」「使えない人だ」と思われないか不安になり、ミスの報告や必要な支援要請ができなくなってしまう。 |
ネガティブだと思われる不安 | 目の前の議論を聞いていて、懸念点があるから指摘したいのだけど「ネガティブな人だ」「否定的な発言で和が乱れる」と思われないか不安になり、反対意見が出せなくなってしまう。 |
邪魔をしていると思われる不安 | 意見があっても、「ここで発言すると、収束しかけた考えが、また発散してしまうのではないか」「皆の邪魔になってしまうのでは」と不安になり、せっかく思いついた考えが述べられなくなってしまう。また他者にフィードバックの依頼も遠慮してしまう。 |
相互理解が進み信頼関係が構築されるとこれらの不安が解消され、本音で話せる関係が徐々に作られます。とはいえ、メンバーの価値観や思考・コミュニケーションのタイプは一人ひとり異なります。一律の対応を良しとするのではなく、相手に合わせた効果的な関わりを持つことが重要です。
【関連記事】モチベーションマネジメントとは|低下する原因と具体的な改善施策
管理職自身のビジョンが明確になり、メンバーとホンネに近い対話が可能となった段階で、仲間と共に目指したい「チームビジョン」を紡いでいきます。まず、管理職が「自身の思い」や「ミッション」、そこから導き出した「マイビジョン」を語ります。このマイビジョンは「チームビジョン案(以下仮説)」でもあります。あわせて各メンバーの“思い”や“マイビジョン”を聴きだします。この対話の過程で、チームビジョン案と各自のビジョンとの重複箇所やギャップが浮かび上がってきます。
次に、対話を通じて拡大した重複部分を再度チームビジョンとして設定し、改めて管理職から語ります。ここで語られるチームビジョンにはメンバー各自の思いやビジョンが反映されているため、「我々が尊重されたチームビジョン」として捉えられることができ、実現に向けて共に頑張ろうという意欲が職場に芽生えます。これが、チームビジョンの“自分ゴト化”プロセスです。
【関連記事】組織活性化とは|実現への5ステップ、取り組みの効果
チームビジョンが合意されると、動機づいたメンバーはビジョンの実現に向けて主体的に行動します。この実行過程で管理職は必要に応じて従来型のマネジメント(狭義のマネジメント)を行うことがあります。また、目的を成し遂げるために影響力(パワー)を発揮する場面も出てきます。
影響力を適切に発揮するには、前述の「相手からの信頼」が大切です。信頼が得られていないと、自身が発したことに対し反発されてしまったり、聞いてもらえなかったりする状況が生まれ、チームが崩壊することもありえます。
リーダーシップにおけるパワー論についても多くの研究がなされ、着眼点も明らかになっています。ここでは意識すべき影響力について4つ紹介します。組織マネジメントを行う上での参考にしてみてください。
パーソルグループがコンサルティングを行った事例として、調剤薬局の運営などを行う、株式会社メディカルシステムネットワーク様の事例を紹介します。
メディカルシステムネットワーク様では、企業の方針や目標に対して、現場が主体性を持てず、やるべきことが徹底されていないという課題を抱えていました。
そこで、ミドル層(ブロック長・薬局長)のマネジメントスキルを向上させるため、パーソルの研修を導入しました。まずは、現場の課題に合わせたマネジメントプロセスを構築し、ブロック長向けの研修を実施。ブロック長から「組織として成長する必要がある」という発言が出るようになり、主体性が向上しました。ブロック長向けの研修の成果を受け、薬局長への研修も実施しています。
薬局業界自体が受け身の業界で、薬剤師の多くはマネジメントという概念自体に馴染みがなかったため、組織マネジメントの重要性に気づいても、組織や業界全体でその理解がないと容易に導入できません。しかし、この事例では、研修を通じて意識改革が進み、組織の成長を促進するための第一歩を踏み出したことが示されています。今後は人事制度をはじめとする他の仕組みと連動させ、組織マネジメントを自社の文化にしたいそうです。
先々が見通しにくい現代の組織マネジメントは、管理を中心とする従来型のマネジメント(狭義のマネジメント)ではなく、多様な価値観・多彩な能力を持ったメンバーを動機付けて巻き込む、リーダーシップに軸足を置いた広義のマネジメントが求められています。
そして、広義のマネジメントを効果的に推進するためは、メンバー個々人が何を求めているのか?今どのような気持ちなのか?など相手を詳しく知り、それぞれに合わせた適切な関与がポイントであると言えます。
得られた情報をうまく取り込み、皆さんの職場に合うマネジメントスタイルを確立してみてください。
組織マネジメントの実態とは?調査からみた、うまくいく組織の特徴
外部環境が大きく変化する中、組織マネジメントに求められる役割も大きく変わっています。
そこでパーソルグループでは、管理職および一般職1,000名を対象に組織マネジメントの実態について調査し、【組織マネジメントの実態調査レポート】を公開しています。 役職別、企業規模別での管理職の立場や、採用・離職に関する課題、さらに、上司・部下の認識ギャップなど、組織マネジメントにおける課題や取り組みについてまとめています。
組織作りやマネジメントに課題を抱える方は、ぜひご活用ください。
株式会社パーソル総合研究所
組織力強化事業本部 組織力強化コンサルティング部 コンサルグループ
内田 智之
情報システムを扱う商社にて、新規市場の調査や開拓営業、特許出願などを経験したのち、コンサルティング業界へ転身。複数のコンサルティングファームに在籍し、組織診断やコンサルティング(組織風土変革、人事制度設計、教育体系策定、教育システムの導入など)、各種研修業務に従事しながら新サービスや変革技術の開発を行ってきた。専門は組織行動論(指導教官:城戸康彰 産業能率大学名誉教授)であり、その源流にあたる心理学の各種理論を取り入れた組織や個人の変革・成長支援を強みとしている。また、データ分析にも強く、多変量解析を駆使した現状分析なども手掛けている。
所属企業内に組織開発研究所(現在は閉鎖)を立ち上げ、主席研究員として運営にも携わってきた経験を持っており、上記業務・活動を推進する一方で、自らのビジネス領域に関係する調査・研究を行い、研究結果の現場活用にも取り組んでいる。
●ICMCI (国際公認経営コンサルティング協議会) コンサルタント
●公益社団法人全日本能率連盟 マスター・マネジメント・コンサルタント
●MBA & MSc
●公益社団法人日本心理学会 認定心理士
A1.これまでは、組織の決定事項を下位層へ展開(落とし込む)したり、自身(管理職)の過去の経験則に基づいて指示・命令を行うといった、狭義のマネジメントが主流でした。
しかし、先が見通しにくい現代においては、管理職自らが進むべき方向性を見出し、多様な価値観・多彩な能力を持ったメンバーとチームビジョンを合意し、彼らを動機付け、チーム一丸となって課題に対峙していく “広義のマネジメント”が求められています。
>>現代の組織マネジメントで管理職に求められる役割
A2.管理を中心とする従来のマネジメント(狭義のマネジメント)を行っているマネージャーの価値はすでに低くなっており、管理しかしていない(できない)管理職は淘汰され、いずれAIに取って代わられるといえます。
そのため管理職には、自身が存在する意味や意義を自問し、自身が担当する組織・チームおよび構成メンバー個々人に対して、どのような貢献ができるのかを考え、行動することが求められています。
>> 管理職に求められる役割の変化
A3.これからの組織マネジメントは、従来のマネジメント(管理)に加えてリーダーシップの発揮が求められています。効果的な組織マネジメントを推進するために、以下4つのポイントを意識してみましょう。
1.自身の内面に問いかける
2.ホンネに近い対話ができる環境を構築する
3.思いを紡ぐ
4.必要に応じた影響力の発揮
>>現代型の組織マネジメントを実現する4つのポイント