2022年07月13日
2025年02月05日
日本企業にも徐々に根付いてきている「360度評価(多面評価、360度サーベイ)」。360度評価とは、被評価者に対して、その周囲の上司や部下、同僚といった立場の違う複数の人物が評価する評価手法の一つです。導入を検討している企業も多いのではないでしょうか。
本記事では、360度評価の目的や導入状況、360度評価を導入するメリット・デメリット、具体的な評価方法、導入までのステップ、効果的に取り組むポイントを解説します。
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目次
360度評価とは、被評価者を中心に置き、周囲(360度)を囲む上司や部下、同僚といった立場の違う複数の人を評価者とする評価手法です。複数の立場から被評価者の普段の行動について回答してもらい、結果をフィードバックすることで人材育成や能力開発を目指します。
従来の人事評価制度では上司が部下の人事評価を行いますが、360度評価では上司、同僚、そして部下が上司を評価するという点で異なります。これまで同僚や部下からのフィードバックを受ける機会がなかった人にとっては、多面的なフィードバックを受けることができる効果的な手段といえます。360度評価は中間管理職に対して実施されることが多いものの、一般社員の評価手法としても活用が広がっています。
360度評価を導入する企業は少しずつ増えています。パーソル総合研究所の調査によると、360度評価の実施率は約2割でした。特に大企業での導入率が高い傾向にあり、5,000人以上の企業では約4割の企業が導入しています。
360度評価を効果的に取り入れることで、以下のようなメリットが期待できます。各メリットについて解説します。
360度評価を通じて、上司一人だけでなく同僚や部下から評価を受けることで、異なる視点から被評価者を評価できるようになります。上司一人のみからの評価の場合は、上司と被評価者の関係性が評価に大きな影響を与えやすく、一面的な観察に基づいた評価になる点が難点です。
一方で、立場の異なる複数の人物からの評価は客観性が高まります。ある内容について、複数の人物が同じ意見を述べていれば、被評価者にはその評価を受け入れてもらいやすくなります。フィードバックの中にはネガティブな意見も含まれることがあり、ショックを受けることもあるでしょう。
しかし、実際に360度評価を体験した人からは「自分の考えと周囲からの見え方とのギャップに気づくことができてよかった」と、より広い視点からの評価を受け取れるようになったことに満足している人が多く見られます。被評価者の評価への納得感を高められることが、360度評価のメリットです。
単にマネジャーに対して研修を提供するよりも、360度評価を活用することで効果的なマネジメント育成につなげることができます。
なぜなら、360度評価では被評価者本人(マネジャー)も自分自身に対して評価を行います。周囲の認識と自身の認識とのギャップに気づくことで、今後の自身の行動について内省を深めるきっかけにもなるからです。
特に、部下からの評価のインパクトは大きいでしょう。通り一遍なマネジメント研修だけを提供するよりも、360度評価の結果を受けて実施するマネジメント研修への参加意欲は非常に高いものになります。
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360度評価は人材開発目的で取り入れられることが一般的ですが、ハラスメント対策で活用する場合もあります。
例えば、2019年より中央省庁すべての課長級の人事評価に360度評価が取り入れられています。部下を指導するマネジメント能力の向上とともに、セクシャルハラスメントやパワーハラスメントの防止にもつなげるべく、導入されました。また、中央省庁だけでなく、三菱電機やトヨタ自動車といった大手企業でも、パワーハラスメントの再発防止のために360度評価を取り入れています。
ハラスメント対策は、企業にとって大きな課題の一つです。パーソル総合研究所の調査によると、全就業者の34.6%が職場で過去にハラスメントを受けた経験があり、19.7%は過去5年以内にも被害を受けた経験があることがわかりました。
ハラスメントへの対応が遅れたり問題を放置してしまったりすると、はたらきにくい環境となり、生産性が低下してしまうだけでなく企業の責任が問われることもあります。
ただし、ハラスメント対策を目的として360度評価を導入する場合は、実施目的を社員に正しく伝え、マネジャーへの結果のフィードバックを適切に行わなければ逆効果になることもあることを心得ておきましょう。
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近年、ビジネスにおいては、さまざまなデータを基にしたマネジメントや経営が求められるようになってきています。
前述の通り、360度評価は人材育成や能力開発への活用が本来の目的です。しかし経営的視点から、例えば次世代リーダー選抜の基準を360度評価により見いだすというように、選抜目的で使われることもあります。
選抜目的で360度評価を使用する場合に注意したいのは、必ずしも成果につながるマネジメントが部下から高く評価されるわけではないということです。そのため、単体で選抜目的で使うことは推奨できません。複数の選抜基準の一つとして用いるのであれば、数値化された評価データをマネジメントや経営に役立てることが可能です。
360度評価には、メリットだけでなく設計・運用コストが大きいというデメリットもあります。通常の人事評価よりも評価者の数が多くなるため、一人ひとりの評価に時間がかかります。特に、自社でゼロから設計する場合は、評価シートや項目を考え、PDCAを回してブラッシュアップし続けていくことに多くの時間を要するでしょう。
また、複数の立場から評価をすれば効果が見られるわけではなく、やり方を間違えると、評価者のモチベーションを大きく下げてしまうリスクもあります。評価者としての専門トレーニングを受けていない人物が他者を評価することには、リスクが伴います。そのため、戦略的に360度評価を設計して、被評価者が評価を受けた後に意欲的に取り組めるようになる仕組み作りも重要です。
360度評価の設計・運用上の課題を克服するには、専門家が設計したソリューションを活用するのがおすすめです。パーソルグループが独自開発したソリューションについて詳しくは、「パーソルグループの360度評価サーベイ『LDR-ATLAS(リーダー・アトラス)』」で紹介します。
360度評価は、各評価項目に対して、5段階評価(そう思う・ややそう思う・どちらとも言えない・あまりそう思わない・そう思わない)で設問を設計します。ここでは、以下2つのパターンに関して、一例をご紹介します。
階層によって求められる行動や期待役割が異なるため、360度評価の設問は、対象者に合ったものを用意しましょう。
勤務態度 | ・仕事への責任を持ち、期日までに遂行しているか ・周囲からのフィードバックを積極的に受け入れ、業務品質の向上に活かしているか |
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コミュニケーション | ・顧客とのコミュニケーションで、明るくポジティブな姿勢を保っているか ・気の難しい顧客との対応でも、落ち着きを保ち、解決に導くことができているか |
チームワーク | ・チームの問題や対立に対して建設的なアプローチを取れているか ・チーム内で報・連・相がしっかりとできているか |
モチベーション | ・商品やサービスに関する最新の知識をインプットできているか ・目標に対して意欲的に取り組めているか など |
リーダーシップ | ・組織のビジョン(未来像)をメンバーにとって魅力的に語っている ・組織で大切にする価値観や行動、考え方を自らが率先して示している ・組織全体の目標をメンバーに説明している |
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マネジメント | ・事実や出来事を踏まえたうえで、評価をフィードバックしている ・メンバーがお互いになんでも言えるような職場となるように工夫している ・特定の者に対して、業務遂行上で必要な情報やものを与えないといった行為はない |
ファウンデーション | ・問題を環境や他人のせいにせず、自分の課題として捉えている ・学びへの意欲が高く、周囲の人や経験、書籍などから積極的に学び続けている |
設計した設問は、事前に評価者30名程度へトライアルをしてみると良いでしょう。極端にスコアが高い、低い、回答できないといった設問の発見につながります。そういった設問は評価に役立てられないため、質問の仕方や回答方法を変えて調整します。
さまざまなメリットがある360度評価ですが、ポイントを押さえて取り組むことでより一層の効果が期待できます。ここでは効果的に実施するポイントを5つ紹介します。
事前に360度評価の導入を回答者全員にアナウンスしましょう。被評価者は「何のためにやるのか」「悪い評価だと将来に影響するのではないか」、評価者は「悪く評価したら、あとで何か言われるのではないか」「評価結果はどう扱われるのか」といった不安や懸念を抱えています。
社員の理解・納得を得ることができれば安心して評価に臨むことができるようになるため、より評価の質を高められるでしょう。だからこそ「なぜ導入するのか」を明確にし、実施目的や結果の扱い方についても周知します。
特に、被評価者に対してフィードバックの場を設定すること、評価結果は人事評価には用いず、あくまでも能力開発の目的で行うことは丁寧に伝えましょう。
パーソル総合研究所の調査によると、360度評価をはじめとする多面評価を実際のアクションにつなげられていないと考える企業は、半数を超えていることがわかっています。
360度評価は本来、主体的な改善を促しやすい仕組みです。しかし、評価結果を本人にフィードバックし、ネクストアクションにつなげ、経過や結果をフォローするまで考慮しないと、なかなか育成にはつながりません。
フィードバックのスケジュールや、フィードバックの担当者を社内(人事部や上司)にするか、外部に依頼するかを事前に検討しましょう。本来、360度評価は人材育成や能力開発が目的であるため、直属の上司から結果をフィードバックするのが最適です。しかし、「時間的に余裕がない」「適任者がいない」「上司には難易度が高い」などの理由から外部に依頼するケースも少なくありません。
また、評価結果を被評価者に一方的にメールで送付するだけでは不十分です。マネジャーは忙しいため、放っておくと結果をみるだけで終わってしまいます。初めて評価を受ける人には、360度評価でどのような部分を見ているのかといった内容の説明と結果の見方についても丁寧にガイドし、結果をもとに被評価者の今後の成長課題について一緒に考えることが理想的です。評価を受けるのが2回目以降の人にも、フィードバックの機会を設けるのが望ましいでしょう。
なお、フィードバックはグループで行うこともおすすめです。グループによるフィードバックは一見、自分の評価を人に見せたくない気持ちが働くのではないかとも思えるかもしれません。しかし、意外なことに対象者同士の対話は盛り上がる傾向にあります。他者の結果を知ることで自らを客観視でき、結果としてより良い行動計画の立案につながるのです。
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【関連記事】フィードバックとは?実施方法や効果を高めるコツをわかりやすく
被評価者・評価者の双方が、目線を合わせる機会を持つことも忘れてはいけません。
パーソル総合研究所の調査によれば、評価者、被評価者ともに、定期的に研修やトレーニングを受けているという層は少数派でした。
例えば、評価者が「こんなことを書いたら後で何か言われるのではないか」と思うと、差し障り無い回答しか書けなくなってしまいます。また、普段評価する立場の被評価者側である管理職が必要以上に評価を重く受け止めてしまうことで、部下に配慮しすぎた指導になってしまうこともあり得ます。
そのため、以下のポイントについてはあらかじめ被評価者と評価者の目線を合わせる機会を設けましょう。
360度評価は評価をチェックする人事担当者だけでなく、評価を行う社員の負担も発生します。できるだけ運用ルールを明確にし、想定される質問についてのQ&Aを準備しておいたり、ツールやサービスを活用したりといった工夫が必要です。
管理職に対する360度評価を効果的に実施するためには、人材育成や能力開発を目的に取り組むことが大切です。360度評価の結果が高得点だとしても、実際に良いマネジメントを行っているとは限らないためです。
そもそもマネジメントとは、目標管理や行動管理を伴うため、成果をあげるために必要な行動であっても、時に部下にとってはネガティブに捉えられてしまうことがあります。反対に部下受けの良いマネジメントにより、360度評価の点数は高いが、組織成果は全く出ていないというケースもあります。実際に行っているマネジメントと360度評価の点数は直結しないからこそ、点数や結果だけを鵜呑みにして査定や評価へ反映させるのはおすすめできません。
360度評価は、1年から2年に一度の頻度で繰り返し実施するのがおすすめです。評価結果の上がり下がりを見るというよりは、健康診断的な位置づけとして、今の自分が今の組織からどのように見られているのか認識し、その時の能力課題を見つけるために実施すると良いでしょう。
【関連記事】人材育成とは?基本の考え方や育成方法・具体例を解説
最後に、360度評価を実際に取り入れている企業の事例を紹介します。
山梨中央銀行様は、従来のマネジメントのあり方を変革する一つの取り組みとして、360度評価の実施に踏み切りました。
実施にあたって、現場のマネジャーからは「評価に影響するのでは」という不安の声がありました。しかし、実施前に「評価には使わない」ことを強調し発信することで、不安を払拭して取り組むことができました。
実際に360度評価を行い、丁寧なフィードバック機会を設けたことで、結果的にマネジャーの方々が自身のマネジメントを振り返り、部下との評価のギャップを埋められるようになりました。
最後に、パーソル総合研究所でご提供している、360度サーベイ&フィードバックセッションツール「LDR-ATLAS」を紹介します。
「LDR-ATLAS」は、中間管理職(部長・課長クラス)の能力開発を目的に、被評価者(中間管理職者)のことをよく知る上司・同僚・部下から、被評価者の日常の言動についてアンケートを実施し、その結果を本人にフィードバックすることで、中間管理職としての意識や行動の変容につなげるための能力開発ツールです。
サーベイ内容は、中間管理職に必須とされている、3つの要素で構成されています。
各項目は、それぞれ以下のサブ項目から構成されています。
前述の通り、ただ評価結果を返すだけでは、被評価者がサーベイ結果を誤って理解したり、職場内コミュニケーションが悪化したりする恐れがあります。これを防ぐためにも、十分な時間を確保し、フィードバックの場を設けることが重要です。
LDR-ATLASではフィードバックセッションもあわせてご提供しており、形式は個別でもグループ単位でも開催可能です。具体的なサーベイの流れは以下の通りです。
詳しいサービス資料は以下からダウンロードいただけますので、ぜひご活用ください。
人材育成や能力開発に効果的とされる360度評価について、解説しました。360度評価を導入するには慎重さが必要ですが、丁寧なフィードバックを行うことで、被評価者は自らの強みに気付いたり、改善点を見出して今後の業務に活かしたりしやすくなります。
360度評価を効果的に活用し、企業の持続的な成長を図りましょう。
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管理職の実態について知りたい方はぜひご活用ください。
株式会社パーソル総合研究所
ラーニング事業本部 組織・人材開発支援部 部長
種部 吉泰
異業種での営業経験を経て、1999年に人材開発業界に転職。それ以来、人や組織が抱えるパフォーマンス上の課題解決支援を、集合研修登壇および各種コンサルティング業務を通じて提供。現在は、部門マネジメント、人材・組織開発に関するコンサルティング、大学との協働によるソリューション開発を担当。 専門テーマは「組織マネジメント」と「リーダーシップ」。ミドルマネジャー(部長・課長)を対象に、集合研修やサーベイ・フィードバックに数多く登壇。
A1.360度評価とは、被評価者を中心に置き、周囲(360度)を囲む上司や部下、同僚といった立場の違う複数の人を評価者として、被評価者の普段の行動について回答してもらい、結果をフィードバックすることで人材育成や能力開発に活かすといった人事評価手法の一つです。
>>360度評価(多面評価)とは
A2.360度評価を効果的に取り入れることで、以下のようなメリットが生まれます。
・より効果的なマネジメント育成が期待できる
・パワーハラスメントの早期発見・組織風土の改善につながる
・データに基づくマネジメント、経営の実現につながる
>>360度評価を導入するメリット
A3.360度評価は、ポイントを押さえて取り組むことでより一層の効果が期待できます。効果的に実施するためのポイントは以下の5つです。