2022年07月13日
2024年01月31日
日本企業にも根付いてきている「360度評価(多面評価、360度サーベイ)」。これから導入を検討している企業も多いのではないでしょうか。360度評価は、被評価者に対して、その周囲の上司や部下、同僚といった立場の違う人間が評価をする評価手法です。
本記事では、360度評価を導入するメリット・デメリット、具体的な評価方法、導入までのステップ、効果的に取り組むポイントを解説します。
360度サーベイ&フィードバックセッション
「LDR-ATLAS(リーダー・アトラス)」
LDR-ATLAS(リーダーアトラス)は、リーダーシップ・マネジメントをご専門とされる滋賀大学経済学部の小野善生教授監修のもと、中間管理職(部長・課長クラス)の能力開発を目的に、パーソル総合研究所が独自開発した360度サーベイ・フィードバックセッションです。
被評価者(中間管理職者)のことをよく知る上司・同僚・部下から、被評価者の日常の言動についてアンケートを実施し、 その結果を本人にフィードバックすることで、中間管理職としての意識や行動の変容につなげるための能力開発ツールです。
マネジメント育成に課題をお持ちの方はぜひ一度ご確認ください。
目次
360度評価とは、被評価者を中心に置き、周囲(360度)を囲む上司や部下、同僚といった立場の違う複数の人を評価者とする評価手法です。複数の立場から被評価者の普段の行動について回答してもらい、結果をフィードバックすることで人材育成や能力開発を目指します。
従来の人事評価制度では上司が部下の人事評価を行いますが、360度評価では上司、そして同僚、何と言っても部下が上司を評価するという点で異なります。これまで同僚や部下からのフィードバックを受ける機会がなかった人にとっては、多様な意見を知ることができる効果的な手段といえます。360度評価は中間管理職に対して実施されることが多いですが、一般社員の評価手法としても活用が広がっています。
360度評価のコメント例 | |
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上司から部下 | 「店内の清掃と整理整頓を日々行っており、店の印象を良くするための努力が見られる。また、お客様の問い合わせに対しても丁寧かつ迅速に対応しており、顧客対応の質の向上に貢献している。」 |
部下から上司 | 「日々、明確な指示と的確な助言を与えてくれるため、効率的に業務を進められている。繁忙期でも落ち着いて指揮を執る姿勢がチームの士気を高めている。」 |
同僚から同僚 | 「新しいプロモーションのアイデアを積極的に出し、チームワークを高めるための取り組みに熱心。特に、顧客サービスの質を向上させるための提案が多く、店舗運営において大きな役割を果たしている。」 |
自己評価 | 「店舗の売り上げ目標を達成し、顧客からの肯定的なフィードバックを多数得た。スタッフ同士のコミュニケーションを促進し、円滑な業務運営に寄与した。チームとしての成果につながったと自負している。」 |
360度評価を導入する企業は少しずつ増えています。パーソル総合研究所の「人事評価制度と目標管理の実態調査」によると、360度評価の導入実績がある企業は約2割でした。
360度評価を効果的に取り入れることで、以下のようなメリットが生まれます。
360度評価を通じて上司一人だけでなく、同僚や部下から評価を受けることで、異なる視点から被評価者を評価できるようになります。上司一人のみからの評価の場合は、上司と被評価者の関係性が評価に大きな影響を与えやすく、一面的な観察に基づいた評価になる点が難点です。
一方で、立場の異なる複数の人物からの評価は客観性が高まります。ある内容について、複数の人物が同じ意見を述べていれば、被評価者にはその評価を受け入れてもらいやすくなります。フィードバックの中にはネガティブな意見も含まれることがあり、ショックを受けることもあるでしょう。
しかし、実際に360度評価を体験した人からは「自分の考えと周囲からの見え方とのギャップに気づけてよかった」と、より広い視点で評価を受け取れるようになれたことに満足感を抱く人が多いです。被評価者の評価への納得感を高められるのは、360度評価の利点です。
単に、マネジャーに対して研修を提供するよりも、360度評価を活用することで、効果的なマネジメント育成につなげることができます。
なぜなら、360度評価では被評価者本人(マネジャー)も自分自身に対して評価を行います。周囲の認識と自身の認識とのギャップに気づくことで、今後の自身の行動について内省を深めるきっかけにもなるからです。
特に、部下からの評価のインパクトは大きいです。通り一遍なマネジメント研修だけを提供するよりも、360度評価の結果を受けて実施するマネジメント研修への参加意欲は非常に高いものになります。
360度評価は人材開発目的で取り入れられることが多いですが、ハラスメント対策で活用する場合もあります。
例えば、2019年秋から、中央省庁すべての課長級の人事評価に360度評価を取り入れることが公表されました。部下を指導するマネジメント能力の向上とともに、セクシャルハラスメントやパワーハラスメントの防止にもつなげるべく、導入されました。また、中央省庁だけでなく、三菱電機やトヨタ自動車といった大手企業でも、パワーハラスメントの再発防止のために360度評価を取り入れています。
ハラスメント対策は企業にとって大きな課題の1つです。パーソル総合研究所が2022年に実施した「職場のハラスメントについての定量調査」によると、全就業者の34.6%が職場で過去にハラスメントを受けた経験があり、19.7%は過去5年以内にも被害を受けた経験があることがわかりました。
ハラスメントへの対応が遅れたり、問題を放置してしまったりすると、はたらきにくい環境となり生産性が低下してしまうだけでなく、企業の責任が問われることもあります。
ただし、ハラスメント対策を目的として360度評価を導入する場合は、実施目的を社員に正しく伝え、マネジャーへの結果のフィードバックを適切に行わなければ逆効果になることもあると心得ておく必要があります。
近年、ビジネスにおいては、さまざまなデータを基にしたマネジメントや経営が求められるようになってきています。
前述しましたが、360度評価は、人材育成や能力開発への活用が本来の目的です。しかし経営的視点から、例えば次世代リーダー選抜の基準を360度評価により見いだすというように、選抜目的で使われることもあります。
選抜目的で360度評価を使用する場合に注意したいのは、必ずしも成果につながるマネジメントが部下から高く評価されるわけではないということです。そのため、単体で選抜目的で使うことは推奨できません。複数の選抜基準の一つとして用いるのであれば、数値化された評価データをマネジメントや経営に役立てることが可能です。
360度評価には、メリットだけでなく設計・運用コストが大きいというデメリットもあります。通常の人事評価よりも評価者の数が多くなるため、一人ひとりの評価をするのに時間がかかりやすいです。とくに自社でゼロから設計する場合は、評価シートや項目を考え、PDCAを回してブラッシュアップし続けていくことに多くの時間を要するでしょう。
また、ただ複数の立場から評価をすれば効果が見られるわけではなく、やり方を間違えると、評価者のモチベーションを大きく下げてしまうリスクもあります。評価者としての専門トレーニングを受けていない人物が他者を評価することにはリスクが伴います。そのため、戦略的に360度評価を設計して、被評価者が評価を受けた後に意欲的に取り組めるようになる仕組み作りも重要です。
360度評価の設計・運用上の課題を克服するには、専門家が設計したソリューションを活用するのがおすすめです。例えば、パーソル総合研究所が独自開発した「360度サーベイ・フィードバックセッション」では、中間管理職(部長・課長クラス)を対象に360度評価を実施するために必要なノウハウ・ツールが提供されています。運用上のリスクを避け、効率的・効果的に成果を出したい場合は、こうしたツールを検討するとよいでしょう。
360度評価は、各評価項目に対して、5段階評価(そう思う・ややそう思う・どちらとも言えない・あまりそう思わない・そう思わない)で設問を設計します。ここでは、以下2つのパターンに関して、一例をご紹介します。
階層によって求められる行動や期待役割が異なるため、360度評価の設問は、対象者に合ったものを用意しましょう。
勤務態度 | ・仕事への責任を持ち、期日までに遂行しているか ・周囲からのフィードバックを積極的に受け入れ、業務品質の向上に活かしているか |
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コミュニケーション | ・顧客とのコミュニケーションで、明るくポジティブな姿勢を保っているか ・気の難しい顧客との対応でも、落ち着きを保ち、解決に導くことができているか |
チームワーク | ・チームの問題や対立に対して建設的なアプローチを取れているか ・チーム内で報・連・相がしっかりとできているか |
モチベーション | ・商品やサービスに関する最新の知識をインプットできているか ・目標に対して意欲的に取り組めているか など |
リーダーシップ | ・組織のビジョン(未来像)をメンバーにとって魅力的に語っている ・組織で大切にする価値観や行動、考え方を自らが率先して示している ・組織全体の目標をメンバーに説明している |
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マネジメント | ・事実や出来事を踏まえたうえで、評価をフィードバックしている ・メンバーがお互いになんでも言えるような職場となるように工夫している ・特定の者に対して、業務遂行上で必要な情報やものを与えないといった行為はない |
ファウンデーション | ・問題を環境や他人のせいにせず、自分の課題として捉えている ・学びへの意欲が高く、周囲の人や経験、書籍などから積極的に学び続けている |
設計した設問は、事前に評価者30名程度へトライアルをして試してみると良いでしょう。極端にスコアが高い、低い、回答できないといった設問の発見につながります。そういった設問は評価に役立てられないため、質問の仕方や回答方法を変えて調整します。
さまざまなメリットがある360度評価ですが、ポイントを押さえて取り組むことでより一層の効果が期待できます。ここでは効果的に実施するポイントを5つ紹介します。
事前に360度評価の導入を回答者全員にアナウンスしましょう。被評価者は「何のためにやるのか」「悪い評価だと将来に影響するのではないか」、評価者は「悪く評価したら、あとで何か言われるのではないか」「評価結果はどう扱われるのか」といった不安や懸念を抱えています。
社員の理解・納得を得ることができれば安心して評価に臨むことができるようになるため、より評価の質を高めることができるでしょう。だからこそ「なぜ導入するのか」を明確にし、実施目的や結果の扱い方についても周知します。
特に、被評価者に対してフィードバックの場を設定すること、評価結果は人事評価には用いず、あくまでも能力開発の目的で行うことは丁寧に伝えましょう。
パーソル総合研究所の「人事評価制度と目標管理の実態調査」によると、360度評価をはじめとする多面評価を実際のアクションにつなげられていないと考える企業は半数を超えていることがわかっています。
360度評価は本来、主体的な改善を促しやすい仕組みです。しかし、評価結果を本人にフィードバックし、ネクストアクションにつなげ、経過や結果をフォローするまで考慮しないと、なかなか育成にはつながりません。
どのようなスケジュールでフィードバックを行うのか、フィードバックをするのは人事部か外部に依頼するのか事前に検討しましょう。本来、360度評価は人材育成や能力開発が目的であるため、直属の上司から結果をフィードバックするのが最適です。しかし、時間的に余裕がない、適任者がいない、上司には難易度が高いといった理由から外部に依頼するケースも多くあります。
また、評価結果を被評価者に一方的にメールで送付するだけでは不十分です。初めて評価される立場になった人には、どのような部分を360度評価で見たのかといった内容の説明と併せて結果の見方についても丁寧にガイドし、評価結果をもとに被評価者の今後の成長課題について一緒に考えていくのが理想的です。評価されるのが2回目以降の人にも、フィードバックの機会を提供するのが理想です。マネジャーは多忙なので、放っておくと結果をみるだけで終わってしまいます。
なお、フィードバックは個別でなくグループで行うこともおすすめです。グループによるフィードバックは一見、自分の評価を人に見せたくない気持ちが働くのではないかとも思えますが、意外なことに対象者どうしの対話は盛り上がり、他者の結果を知ることで、自らを余計に客観視でき、結果としてより良い行動計画の立案につながります。
被評価者・評価者の双方が目線を合わせる機会を持つことも忘れてはいけません。
パーソル総合研究所の「人事評価制度と目標管理の実態調査」によれば、評価者、被評価者ともに定期的に研修やトレーニングを受けているという層は少数派でした。
評価者の研修経験実態
被評価者の研修経験実態