360度評価を効果的に実施する5つのポイント
さまざまなメリットがある360度評価ですが、ポイントを押さえて取り組むことでより一層の効果が期待できます。ここでは効果的に実施するポイントを5つ紹介します。
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- 査定や評価ではなく、人材育成を目的にする
- 導入目的と結果の活用方法を周知する
- 被評価者へのフィードバックを行う
- 被評価者、評価者それぞれへの研修を行う
- 時間と工数を削減するための工夫をする
1.査定や評価ではなく、人材育成を目的にする
360度評価を効果的に実施するためには、人材育成や能力開発を目的に取り組むことが大切です。
なぜなら、360度評価の結果が高得点だとしても、実際に良いマネジメントを行っているとは限らないからです。
そもそもマネジメントとは、目標管理や行動管理を伴うため、成果をあげるために必要な行動であっても、ときに部下にとってはネガティブに捉えられてしまうことがあります。反対に、部下受けの良いマネジメントにより、360度評価の点数は高いが、組織成果は全く出ていないというケースもあります。実際に行っているマネジメントと360度評価の点数は直結しないからこそ、点数や結果だけを鵜呑みにして査定や評価へ反映させるのはおすすめできません。
360度評価は、1年から2年に一度の頻度で繰り返し実施されるのがおすすめです。評価結果の上がり下がりを見るというよりは、健康診断的な位置づけとして、今の自分が今の組織からどのように見られているのか認識し、その時の能力課題をみつけるために行うと良いでしょう。
2.導入目的と結果の活用方法を周知する
事前に360度評価の導入を回答者全員にアナウンスしましょう。被評価者は「何のためにやるのか」「悪い評価だと将来に影響するのではないか」、評価者は「悪く評価したら、あとで何か言われるのではないか」「評価結果はどう扱われるのか」といった不安や懸念を抱えています。
社員の理解・納得を得ることができれば安心して評価に臨むことができるようになるため、より評価の質を高めることができるでしょう。だからこそ「なぜ導入するのか」を明確にし、実施目的や結果の扱い方についても周知します。
特に、被評価者に対してフィードバックの場を設定すること、評価結果は人事評価には用いず、あくまでも能力開発の目的で行うことは丁寧に伝えましょう。
3.被評価者へのフィードバックを行う
パーソル総合研究所の「人事評価制度と目標管理の実態調査」によると、360度評価をはじめとする多面評価を実際のアクションにつなげられていないと考える企業は半数を超えていることがわかっています。
360度評価は本来、主体的な改善を促しやすい仕組みです。しかし、評価結果を本人にフィードバックし、ネクストアクションにつなげ、経過や結果をフォローするまで考慮しないと、なかなか育成にはつながりません。
どのようなスケジュールでフィードバックを行うのか、フィードバックをするのは人事部か外部に依頼するのか事前に検討しましょう。本来、360度評価は人材育成や能力開発が目的であるため、直属の上司から結果をフィードバックするのが最適です。しかし、時間的に余裕がない、適任者がいない、上司には難易度が高いといった理由から外部に依頼するケースも多くあります。
また、評価結果を被評価者に一方的にメールで送付するだけでは不十分です。初めて評価される立場になった人には、どのような部分を360度評価で見たのかといった内容の説明と併せて結果の見方についても丁寧にガイドし、評価結果をもとに被評価者の今後の成長課題について一緒に考えていくのが理想的です。評価されるのが2回目以降の人にも、フィードバックの機会を提供するのが理想です。マネジャーは多忙なので、放っておくと結果をみるだけで終わってしまいます。
なお、フィードバックは個別でなくグループで行うこともおすすめです。グループによるフィードバックは一見、自分の評価を人に見せたくない気持ちが働くのではないかとも思えますが、意外なことに対象者どうしの対話は盛り上がり、他者の結果を知ることで、自らを余計に客観視でき、結果としてより良い行動計画の立案につながります。
4.被評価者、評価者それぞれへの研修を行う
被評価者・評価者の双方が目線を合わせる機会を持つことも忘れてはいけません。
パーソル総合研究所の「人事評価制度と目標管理の実態調査」によれば、評価者、被評価者ともに定期的に研修やトレーニングを受けているという層は少数派でした。
評価者の研修経験実態
被評価者の研修経験実態
【参考】株式会社パーソル総合研究所|「人事評価制度と目標管理の実態調査」
例えば、評価者が「こんなことを書いたら後で何か言われるのではないか」というように思うと、差し障りの無い回答しか書けなくなってしまいます。また、普段評価する立場の被評価者側である管理職が、必要以上に評価を重く受け止めてしまうことで、部下に配慮しすぎた指導に陥ってしまうこともあり得ます。
そのため、以下のポイントについてはあらかじめ被評価者と評価者の目線を合わせる機会を設けましょう。
事前に擦り合わせておくべきポイント
- 評価の目的
- 具体的な言い方の例
- 評価基準
- 匿名性などの説明
- 結果の受け止め方 など
5.時間と工数を削減するための工夫をする
360度評価は評価をチェックする人事担当者だけでなく、評価を行う社員の負担も発生します。できるだけ運用ルールを明確にし、想定される質問についてのQ&Aを準備しておいたり、ツールやサービスを活用したりといった工夫が必要になります。
360度評価の事例
最後に、360度評価を実際にマネジメントに取り入れている企業の事例を紹介します。
360度評価をフル活用したマネジメント変革を推進|株式会社山梨中央銀行様
山梨中央銀行様は、従来のマネジメントのあり方を変革する1つの取り組みとして、360度評価の実施に踏み切りました。
実施にあたって、現場のマネジャーからは「評価に影響するのでは」という不安の声がありました。しかし、実施前に「評価には使わない」ことを強調し発信することで、不安を払拭して取り組むことができました。
実際に360度評価を行い、丁寧なフィードバック機会を設けたことで、結果的にマネジャーの方々が自身のマネジメントを振り返り、部下との評価のギャップを埋められるようになりました。
【参考】株式会社パーソル総合研究所「360度サーベイとタレントマネジメントシステムをフル活用したマネジメント変革を推進」
まとめ
人材育成や能力開発に効果的とされる360度評価について解説しました。
使用には慎重さが必要ですが、適切に活用し、特に丁寧なフィードバックを行うことで、被評価者は自らの強みに気づいたり、改善点を見いだすことで今後の業務への取り組みに活かしたりすることができます。
360度評価を効果的に活用し、企業の持続的な成長を図りましょう。
株式会社パーソル総合研究所
ラーニング事業本部 組織・人材開発支援部 部長
種部 吉泰
異業種での営業経験を経て、1999年に人材開発業界に転職。それ以来、人や組織が抱えるパフォーマンス上の課題解決支援を、集合研修登壇および各種コンサルティング業務を通じて提供。現在は、部門マネジメント、人材・組織開発に関するコンサルティング、大学との協働によるソリューション開発を担当。 専門テーマは「組織マネジメント」と「リーダーシップ」。ミドルマネジャー(部長・課長)を対象に、集合研修やサーベイ・フィードバックに数多く登壇。