2023年01月12日
2024年01月17日
70歳定年法とは、改正高年齢者雇用安定法のことです。2021年4月に施行され、企業に65歳までの雇用確保を義務づけるとともに、65歳から70歳までの就業機会を確保するための施策を講じることを努力義務としています。
本記事では、改正高年齢者雇用安定法とはどのような法律か、この変化に企業はどう対応すべきかについて解説します。
【調査レポート】70歳までの就業機会確保の対応状況は?
70歳までの就業機会確保が努力義務となり、ミドル・シニア層の活躍施策に取り組んでいる方も多いのではないでしょうか。
・他社はどのように考えているのか知りたい
・ミドル・シニア層に向けた施策を検討し、組織活性化を図りたい
そのような方に向け、70歳までの就業機会確保への印象・対応策について調査した
「70歳までの就業機会確保についての対応状況」を公開しています。
ミドル・シニア層への施策を検討する際に、ぜひご活用ください。
目次
2021年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法のポイントは、企業に65歳までの雇用確保を義務づけるとともに、65歳から70歳までの就業機会を確保するための施策を講じることを努力義務としたことです。
なお、改正高年齢者雇用安定法の正式名称は「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」です。
希望する社員はなんらかの形で70歳まで就業する機会が増えるため、改正高年齢者雇用安定法は「70歳定年法」、または「70歳就業法」とも呼ばれます。以後便宜的に「70歳定年法」とします。
70歳定年法は、希望する社員には70歳まではたらける環境を提供する努力義務を企業に課す法律ですが、あくまでも企業の努力を求めるものです。
・定年を65歳以上70歳未満に定めている事業主
・65歳までの継続雇用制度(70歳以上まで引き続き雇用する制度を除く)を導入している事業主
高年齢者雇用安定改正の背景には、少子高齢化と人口減少があります。
日本の総人口は2008年をピークに減少しはじめ、10人に約3人が65歳以上高齢者という状態です。さらに2025年には団塊世代が75歳以上となり、4人に1人が後期高齢者という超高齢化社会が到来し、労働力不足とともに、医療費・介護費の増大とそれに伴う現役世代の負担増も懸念されています。
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70歳までの高齢者の雇用・就業機会を確保するためには、従来の65歳までとは異なり、一人ひとりの特性に応じて活躍してもらうため、取りうる選択肢を広げる必要があります。
特に、加齢による影響は個人差が大きいため、多様な個性や能力に応じた就業形態が求められます。加齢によりどうしても身体機能や記憶力、情報処理のスピードは衰えていくものです。しかし、年を重ねることで成熟していく知的能力があることもわかっています。
国立長寿医療研究センターの研究では、知識の豊かさを表す「知識力」については、40歳から70歳を過ぎるころまで向上し続け、その後、緩やかに低下しますが、90歳を目前にしても40歳よりも高得点であることが明らかにされました 。
こうした高齢者ならではの長所をいかせるよう、企業には65歳から70歳までの就業機会確保について、どのような選択肢を用意するかを労使で話し合う仕組みや、どの選択肢を適用するかを相談・選択できるような仕組みを検討しましょう。
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70歳定年法の施行に、企業はどう対応するべきなのでしょうか。
70歳までの就業機会確保は「努力義務」ですが、国に対しては年に1回、高年齢者・障害者雇用状況報告の中で実施状況を報告する必要があります。検討を始めただけで制度設計をしていないと、努力義務違反となります。
そのため、70歳までの雇用を見据えた制度や仕組みづくりを、できるところから少しずつ進める必要があります。大切なのは、高齢者を理解した上での仕組みづくりです。
1.トップ自ら高齢者雇用の意義を理解し主導する
2.高齢者を知る
3.高齢者が活き活き働ける仕組みをつくる
4.社員全体の意識啓発をする
高齢者雇用の成否のカギを握るのは、トップの積極的な関与です。
多くの先進企業では、経営者がトップダウンで定年廃止や定年延長といった施策を推進しています。人事総務部門に任せきりにせずにトップが決断する必要性があります。
①高齢者の多様性を知る
人は年を重ねるごとに多様性を増すとも考えられ、加齢が心身に与える影響も人それぞれです。高齢者の多様性を理解し、個々人の体力、視力、聴力などの身体能力や集中力、新しいことへの挑戦意欲などについて知る必要があります。
②高齢者や職場の思いを知る
高齢者の就業に対する意識を知ることも重要です。自身の通院や家族の介護、地域活動や社会活動、趣味に多くの時間を使いたい人もいるでしょう。職場の同僚からも話を聞き、当事者がどんな思いを抱いているか知る必要があります。
① やりがいのある役割や仕事を提供する
高齢者が持つ知識や経験、技術や技能といった強みを活かせる役割を担ってもらうことが重要です。ある企業の例では、技能伝承を高齢者の最重要任務として、そのための場(教室や塾)を提供しています。本人の名前を冠した場であれば、本人の意欲もいっそう高まります。
② 負担のかからない職場環境をつくる
機械化や自動化(RPAの導入)、器具の工夫、あるいは柔軟な勤務形態の導入により、体力低下や身体機能低下を補う必要もあります。職場の動線や通勤距離の短縮、心理的負担を下げるなど新たな視点で職場の状況を分析してみることも有効です。
➂ 多様性に応じたメニューを用意する
多様化するはたらき方のニーズに応えるため、午前中や午後だけの勤務、週前半・後半の勤務など、勤務形態メニューを増やすのも効果的です。中には20以上の勤務シフトを用意している企業もあります。高齢者だけでなく、全社員に向けた働き方改革にもつながります。
④ 誰もが納得する明確な基準で制度化する
継続雇用となった高齢者の意欲向上を妨げないよう、貢献度を見える化して、評価・処遇を行う企業もあります。誰もが納得する明確な基準で制度化することで、公平性や納得性も増します。
【関連記事】人事評価制度とは?必要性や評価項目の具体例・導入のポイント
高齢者雇用では、高齢者自身が意識を変えることが不可欠です。体力や健康など自身の変化に伴い、会社から求められる役割も変わります。
求められる役割を果たせるように事前に準備してもらう必要があります。50歳を迎えたころには、70歳までの20年間を見据えた研修を行うことが望ましいといわれています。
また、若手社員と高齢社員が一緒にはたらく仕組みなどを通じて、若手社員が抱く高齢社員への心理的距離を縮めるなど、高齢者が受け入れられやすい職場環境をつくることも重要です。
高齢者雇用の取り組みは、すべての世代の社員を含めた問題です。若い社員や中堅は、会社の高齢者施策を自分たちの未来をデザインするための重要な手がかりとして受け止めます。
会社がどのような高齢者雇用制度をつくるのか、全社員が注目していることを忘れてはいけません。
では、具体的にどのように取り組めば良いのでしょうか。まず着手すべきは、人事制度の見直しです。主な流れと、それぞれのポイントをご紹介します。
1.現状把握〜高齢社員の活用方針決定
2.制度の検討及び設計
3.実施段階
4.見直し・修正段階
まず、制度や人事管理の現状、議論のベースとなる実態について自社の現状を把握します。
その後、高齢者雇用への理解を求めて、トップや経営層の関与を促すと同時に、人事制度の改定について労働組合や労働者代表と協議する必要もあります。
また、高齢社員が活躍できる具体的な業務の洗い出しや、役割分担の決定、安全・健康への配慮、他の社員からの理解など、関係各部門の協力を得ながら体制整備を進めます。
このようなプロセスを経て、会社の都合や本人の希望に応じて高齢社員の基本的な活用方針を決定します。
将来の事業計画や人員配置計画も踏まえた上で、以下の要件について制度を設計します。制度を詳細に詰めて、導入スケジュールを決めます。
・導入する制度、雇用年齢の上限、対象者、引き上げ方、選択定年制
・仕事、役割、役職
・労働時間、配置・異動
・人事評価
・賃金制度、退職金制度
・労働者代表との協議
定年廃止や定年引上げをする場合、正社員としての立場が続くという前提に立って検討することが大切です。
業務内容が変わる場合は役割をしっかり伝えることが大切です。評価・面談に加え、意識啓発など、組織には以下のようなさまざまな対応が求められます。
・役割の明示
・評価・面談・コミュニケーション
・職域拡大、職務設計
・意識啓発・教育訓練
・マネジメント層に対する研修
・社員全体に対する意識啓発
・安全衛生、健康管理
・職場環境の整備 など
制度の導入直後は、高齢社員はもちろん、ほかの年齢層のモチベーションも上がります。より効果を高めるためには、制度を導入する理由を全社的にしっかりと伝える必要があります。
また、運用が定着することで新たな課題が生じることもあります。高齢社員の割合が急増する時期を迎えることもあります。
きめ細かい情報収集によって定期的に現状を把握し、必要に応じて制度の見直し・修正を図るなど、適切にPDCAを回していくことが肝心です。
高齢者雇用の先進企業は、シニア人材が活き活きと活躍できる職場をどのようにつくったのでしょう。成功事例を紹介します。
業種:電子機器製造、システム開発
従業員数:5,000人以上(連結)
資本金:80億円以上(ホールディングス)
ベテランになると引退への意識が高まることを背景に人事制度を見直しました。重点施策として、ベテラン・シニア社員が専門性やスキルを継続的かつ自律的にアップデートするためのキャリア支援施策や引退まではたらくためのモチベーションを維持する賃金体系を導入しています。
・役職定年を56歳から60歳に引き上げ
・仕事が評価された人は60歳以降も賃金の減額なし
・50歳を過ぎた社員が引退モードにならずに定年まで活躍できるように学び直し、新しい分野のチャレンジを会社で支援
ベテラン社員を引退モードにせずに「活躍しきるモード」に意識改革することで、モチベーションの高いベテラン社員を生み出すことに成功しています。
業種:小売業
従業員数:2,000人以上
資本金:30億円以上
店舗の安定運営のため、勤務を長期間継続する人材を確保できる制度を導入しました。
・パートタイム社員、シニアパート社員の定年を引き上げ
・正社員は60歳の定年後に65歳まで嘱託社員、その後はシニアパート社員として勤務可能
・効率化や省力化を積極的に推進して、はたらき続けやすい環境を整備。例えばシニアパート社員が多い総菜部門では、運ぶものを小分けにして一度に運ぶ量を削減し体への負担を軽減
・加齢とともに健康不安が増すため、シニアパート社員の契約更新は6カ月ごと
結果、全社員の10人に1人がシニアパート社員に。75歳も数名在籍するほど、シニア人材が活き活きとはたらける職場づくりに成功しました。
業種:生命保険
従業員数:40,000人以上
資本金:9,000億円以上
顧客ニーズの多様化に伴って高度化・専門化する業務に対応できなくなりつつあったため、シニア人材の積極活用を決めました。業界では先駆けて65歳定年を導入しています。
・職制、職務に応じた処遇水準を設定し、同一職務同一賃金を導入
・部長、課長などの実能資格は廃止し、職種は転勤なしのシニア型総合職に一本化
・60歳定年を望む人は退職後、フルタイム、短時間などさまざまなはたらき方を選べる嘱託社員制度を用意
このような対応により、デスクワークでシニア人材が活躍しやすい環境をつくりました。
【調査レポート】70歳までの就業機会確保の対応状況は?
70歳までの就業機会確保が努力義務となり、ミドル・シニア層の活躍施策に取り組んでいる方も多いのではないでしょうか。
・他社はどのように考えているのか知りたい
・ミドル・シニア層に向けた施策を検討し、組織活性化を図りたい
そのような方に向け、70歳までの就業機会確保への印象・対応策について調査した
「70歳までの就業機会確保についての対応状況」を公開しています。
ミドル・シニア層への施策を検討する際に、ぜひご活用ください。
社会の大きな流れの中で、企業にとってシニア人材の活用は避けて通れない課題です。誰も経験したことのない新たな社会構造の中で競争力を維持するためには、シニア人材を活用することが重要になります。
自社で長くはたらきたいと感じてもらうにはどんな制度を設ければよいのか、シニア人材にとって魅力的な職場となるよう制度や環境をデザインする必要がありそうです。
A.70歳までの雇用を見据えた制度や仕組みづくりのポイントは以下4点です。
1.トップ自ら高齢者雇用の意義を理解し主導する
2.高齢者を知る
3.高齢者が活き活き働ける仕組みをつくる
4.社員全体の意識啓発をする
雇用延長時代の組織実態と具体的な施策について以下のガイドブックにまとめています。ガイドブックは、以下リンクよりどなたでも無料でダウンロードいただけます。
>>高年齢化する組織に求められる人材マネジメント
A.70歳定年法とは、改正高年齢者雇用安定法のことです。2021年4月に施行され、企業に65歳までの雇用確保を義務づけるとともに、65歳から70歳までの就業機会を確保するための施策を講じることを努力義務としています。