ダイバーシティとは?意味や取り組みをわかりやすく解説

統一性や画一性を重んじてきた日本社会において、近年ではその対極に位置するダイバーシティ――つまり「多様性」が重要視されつつあります。ビジネスシーンにおけるダイバーシティは、多様な人材を登用し受容できる体制づくりを指します。近年、人材不足やはたらき方の多様化によりその重要性が広く認識されてきました。

しかし、ダイバーシティという言葉が一人歩きし、表面的な意味だけで捉えている企業が増えています。そのため、ダイバーシティを正しく推進できていない企業も存在するのが実情です。ダイバーシティの推進を目指す企業に向けて、ダイバーシティの意味や推進により生まれる効果、注意点について事例とともに解説します。

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ダイバーシティ推進への取り組みは多くの企業で活発になっていますが、まだ取り組まれていない企業も多いのではないでしょうか。

・これからダイバーシティを社内で推進していきたい
・他社のダイバーシティへの取り組みを知りたい

そのような方に向けて、女性活躍推進、キャリア採用などについての調査結果をまとめた「ダイバーシティ&インクルージョン調査レポート」を無料で公開しています。

これからダイバーシティを推進していきたい方、情報収集したい方はぜひご活用ください。

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目次

ダイバーシティとは?

ダイバーシティとは、多様性を意味する用語です。ビジネスの分野では年齢や性別、キャリアや価値観などが異なる人材を登用し、個々の能力を最大限に生かす取り組みを行うことを「ダイバーシティの推進」に該当します。

例えば、以下がダイバーシティの推進に当たります。

    • 女性活躍の支援をすることで女性管理職の比率を増やす
    • 障害者雇用を促進する
    • LGBTQやダイバーシティ、偏見に関する研修を実施する
    • シェアオフィスやワーケーションの導入で、就労場所の選択肢を増やす など

企業で推進することで、優秀な人材の確保や生産性向上などの効果が期待できます。ダイバーシティには、大きく分けて「表面的」「深層的」の2つの意味が存在します。

表面的なダイバーシティ 国籍、性別、年齢、民族、宗教、障害
深層的なダイバーシティ 考え方、趣味、習慣、スキルや知識、職歴、コミュニケーション能力、性的志向

表面的なダイバーシティとは、自分の意志では変更できない、もしくは変更が難しいものが対象です。外見で識別できるものが多く、「目に見えるもの」として表面的なダイバーシティと呼ばれています。

一方、深層的なダイバーシティは「目に見えにくいもの」として、外見での識別が難しい点が特徴です。表面的なダイバーシティは、雇用の公平性など企業の社会的責任に影響するのに対し、深層的なダイバーシティは多種多様な人材を活かすことで企業の成長に結びつきます。

インクルージョンとの関係性(D&I)

ダイバーシティに近い用語としては、インクルージョンが挙げられます。インクルージョンとは「包括」「含有」「一体性」を意味し、発想や考え方、思想といった個々の内面的な特性を十分に活かした企業活動が行われている状態です。

インクルージョンの具体的な取り組み例は、以下が考えられます。

    • 女性の活躍推進や外国人雇用の促進を行い、意見交換や新しい提案を受け入れる環境にする
    • 高齢者や障害者の立場からの意見を取り入れ商品開発に生かす
    • 副業や兼業を許可し、そこで得た知識を企業に還元してもらう

日本では元々、インクルージョンも含んだ意味合いとしてダイバーシティが使用されていた経緯があります。「ダイバーシティ&インクルージョン(Diversity & Inclusion/D&I)」とセットで考えられており、切っても切り離せない関係にあります。

単純に国籍や性別、年齢が異なる人材を集めるだけでは、企業が直面している課題の解決にはつながりません。企業がダイバーシティを推進するためには、それぞれの個性を最大限に活かすインクルージョンの実現が必要です。

ダイバーシティとインクルージョンの取り組みが両輪でなされていないと、マイナスの効果を生む恐れもあります。多様性を活かすインクルージョンの取り組みとダイバーシティ推進をセットでの実行が不可欠です。

【出典】経済産業省「ダイバーシティ2.0一歩先の競争戦略へ

上記の図は、ダイバーシティ推進で多様性が増加しても「取り組み」がなければ生産性は低下することを示しています。多様性を高めることで何をしたいのかという「計画・ビジョン」をはっきりさせる必要があります。

また、多様性を高めると同時に、時短勤務や在宅勤務などの「柔軟なはたらき方」の整備も必要です。ダイバーシティ推進とインクルージョンを同時に行うことで、生産性の向上につながります。ダイバーシティとインクルージョンの頭文字を取り「D&I」と表現されるケースが増えています。

【関連記事】インクルージョンとは?意味や具体例・ダイバーシティとの違いを解説

エクイティとの関係性(DE&I)

近年では「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」の考えに、さらに「エクイティ(公平性/公正性)」を加えた「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)」という概念が企業間で広がりを見せています。

「エクイティ」とは、一人ひとりがパフォーマンスを出せるよう、個々に合わせて支援内容を調整することです。企業内においても、個人のスタート地点に不均衡がある中では、すべての人に同じ支援を行っても、不均衡がそのまま持続します。そのため、誰もが同じ土俵に立っているわけではないことを理解し、一人ひとりの違いや特性に配慮することが重要です。はたらく人に公平になる環境を整備することで、どんな状況に置かれている人でも活躍でき、多様性と包括性を含んだ企業風土が生まれます。

【関連記事】社内外の“Diversity, Equity & Inclusion”の広がりを目指して

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ダイバーシティが推進される背景

「みんなと同じ」を求める画一性を重んじていた日本社会でダイバーシティが推進される背景には、日本の少子高齢化と労働力減少が関係しています。労働力が減少しているため、企業が生産性を高めるにはさまざまな人材の採用・活用が不可欠です。

具体的にダイバーシティが推進される背景には、下記の3つの要素があります。

    • 人材不足
    • はたらき方の多様性
    • 女性の社会進出

特にひとつめの人材不足は、企業の人材確保の難易度に大きく影響します。人材が足りない現状を踏まえ、はたらき方の多様性や女性の社会進出によってどう労働力を補えるかが、現在の日本社会における焦点になっています。

人材不足

【出典】パーソル総合研究所「労働市場の未来推計2030

人口オーナス期(※)に突入した日本では少子高齢化が進み、労働人口が減少しました。その結果、人件費が高騰し優秀な人材確保が困難になり、人材要件を見直す必要が出てきました。その一例として、近年では日本国内でも海外在住の人材の採用も増えています。国籍や性別、年齢に縛りを設けず、広く人材を確保するための手段として、ダイバーシティ推進が注目されています。

※人口オーナス期とは、全人口に対し、はたらく人が少なく経済が成長しにくい状態

はたらき方の多様化

かつての日本では、全員が決まった場所で決まった時間にはたらくことが、生産性を高める最適な手法と考えられてきました。しかし、日本が人口オーナス期に突入したことで、労働に対する考え方が変化しました。現在では、仕事と私生活の両立を重視する「ワーク・ライフ・バランス」の考えが浸透しつつあります。

従業員側の意識も、残業をして頑張る時代から、「ワーク・ライフ・バランスをとりながら、やりがいを持って、安心してはたらける」ことを重視する価値観へ変化しています。時短勤務やテレワーク、就業時間を自分の裁量で決めるフレックスタイムの導入も、ワーク・ライフ・バランスを考慮した企業の取り組みです。労働総量が少ない人口オーナス期においては、時間や場所に縛られない柔軟なはたらき方を受け入れることが、生産性を高める勝ち筋と言えます。

こうしたはたらき方の多様化も、ダイバーシティ推進につながっています。

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はたらき方が多様化する今、変化に柔軟に対応できるあり方が企業に求められています。本資料では、テレワーク環境や評価制度、副業活用など、今おさえておきたいはたらき方のトレンドや取り入れ方を解説しています。

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女性の社会進出

労働人口の減少により、女性の社会進出が後押しされるようになりました。DX推進も相まって、業務効率を重視したはたらき方が推奨されるようになったことで、女性がパフォーマンスを発揮しやすい業務が増えてきています。また、仕事に対する考え方も変化しており「仕事は男性、家庭は女性」といった価値観はすでに時代遅れになりつつあります。

これまでは、正社員としてはたらくためには一定の時間外勤務が求められ、結婚や出産、介護などの事情がある人は、断念せざる得ないケースもありました。現在でも、ダイバーシティ推進と同じく女性活躍推進に課題を感じている企業は約半数に上ります。

優秀な女性社員がキャリアを断念するのは、企業はもちろん日本社会における大きな損失です。企業には、女性がはたらきやすい環境を作ることが求められます。

【関連記事】女性活躍推進法とは? 改正ポイントと企業がすべき対策をわかりやすく解説

ダイバーシティ推進の取り組み状況

パーソル総合研究所の「【経営・人事最新調査レポート】ダイバーシティ・女性活躍推進編」では、各社のダイバーシティ推進の取り組み状況は、以下の通りでした。

調査に参加した企業の約4割が「十分に取り組みができている」ならびに「ある程度取り組みができている」という回答でした。一方で、2割以上が「取り組みができていない」と回答。また、企業規模別に調べた項目では、以下の結果が出ています。

企業規模が大きいほど取り組みが進んでおり、超大手企業は「十分に取り組みができている」「ある程度は取り組みができている」の回答の合計が6割以上でした。他方、中小企業は取り組みができているとの回答が、3割を下回っています。

ダイバーシティの推進は、中小企業と比較して大企業の取り組みが進んでいることが分かります。同調査では、取り組みが進まない背景として「どのように取り組んで良いかわからない」「取り組みが企業全体になかなか浸透しない」などが課題として上がっています。

【関連記事】ダイバーシティ経営とは?推進のメリット・事例をわかりやすく

ダイバーシティ推進のメリット

ダイバーシティの推進は、人材不足解消やはたらき方の多様化、女性の社会進出などに寄与するため、社会的意義が非常に大きいと考えられます。ではそれぞれの企業においてはどうでしょう。ダイバーシティの推進は、企業の経営面や人事面にも大きなメリットをもたらします。企業がダイバーシティを推進するメリットは以下の3つです。

ビジネスチャンスの拡大

ダイバーシティを推進すると、多様な価値観や考え方を持つ人材が集まります。異なる視点から意見を出しあう環境が生まれることで、新たなアイデアが出てくるようになります。意見に対して内容を膨らませたり、発展させたりもできるでしょう。消費傾向の変化も敏感に感じ取れるため、新たなビジネスを生み出せる土壌が生まれます。

また、公共事業を請け負う企業にとっては、ダイバーシティの推進が入札時に有利になるというメリットもあります。 2019年には女性活躍推進法の改正により、女性の活躍推進を目的とした取り組みが施行されました。常時雇用の労働者数が101人以上の企業では、一般事業主行動計画の策定や公表の実施、女性活躍に関する状況把握などが義務付けられ、国から「ワーク・ライフ・バランス等推進企業」に認定された企業は、国が発注する事業で加点を受けられるようになりました。

人材の確保

ダイバーシティの推進は、優秀な人材の確保にもつながります。これまでの日本企業では、正社員は1日8時間で週5日勤務が一般的でした。そのため、どれだけ優秀な従業員でも、育児や介護、遠方といった事情がある人は正社員として勤務できませんでした。

ダイバーシティを推進すれば、従業員に合わせた雇用形態を導入することになります。そのため、事情を抱える優秀な従業員を途中で手放す必要がありません。育休や時短制度を導入することで、育児と両立しながらパフォーマンスを発揮する従業員も生まれます。
採用面においても、優秀な人材を確保できる可能性が高まります。勤務時間や居住地に関係なく人材を募集するため、海外在住の人材や子育て世代の人材が応募しやすくなるでしょう。

生産性の向上

ダイバーシティの推進は、生産性の向上につながります。多様な能力や価値観を持った人材が集まり、それを受け入れる文化があることで、お互いの能力を生かしあえるのです。

ただし、前述したとおり国籍や性別、年齢が異なる人材を集めただけの、表面的なダイバーシティを推進しても生産性は上がりません。個々の能力が最大限に発揮される状態「インクルージョン」さらに公平な支援を行う「エクイティ」と組みあわせることで、生産性が高まることを覚えておきましょう。

【関連記事】生産性向上とは?メリットや具体的な6つの施策を解説

ダイバーシティ推進における課題

ダイバーシティを推進するうえでは、少なくない課題にも直面するでしょう。企業としてダイバーシティ推進を目指す上では以下の課題を事前に知っておくことが重要です。どういう課題が発生しうるのかを把握して注意点を押さえ、必要な対策を講じることで成果が出しやすくなります。

無意識の差別や偏見によるハラスメント

ダイバーシティマネジメントを正しく導入し意識改革ができていないと、無意識の差別や偏見によるハラスメントの発生や増加をもたらすことがあります。価値観や考え方の違いから、褒め言葉を送ったつもりでも従業員にとっては差別的な発言と捉えられてしまう恐れもあるでしょう。

こうした無意識の差別やハラスメントは気づくことが難しい側面があり、トラブルが発生してしまう状況ではダイバーシティの実現とは程遠い状況です。ダイバーシティへの理解促進を積極的に行い、差別やハラスメントが発生しない社内風土を醸成することが求められます。

価値観の違い

ダイバーシティマネジメントを行う際には、価値観の違いによる対立が生まれることもあります。例えば、グローバルな職場環境では言語、文化、就労環境など従業員一人ひとりの価値観は異なります。こうした環境では円滑なコミュニケーションが取れなかったり、予期せぬ認識のズレなどが発生したりすることも日常茶飯事です。こうした対立を防ぐためには、あらかじめ価値観や感覚の違いがあることを理解する必要があります。

ダイバーシティを推進する7つのステップ

ダイバーシティを推進するためには、適切な手順を踏む必要があります。多様な人材を受け入れるだけでダイバーシティを実現した気になるのではなく、しっかりとその考え方や重要性を組織内に浸透させることが重要です。ダイバーシティを推進する上での7つのステップを紹介します。

    1. 経営戦略への組み込み
    2. 推進体制の構築
    3. ガバナンスの改革
    4. 全社的な環境・ルールの整備
    5. 管理職の行動・意識改革
    6. 従業員の行動・意識改革
    7. 労働市場・資本市場への情報開示と対話

特に重要なのは経営トップが自らの責任で取り組みをリードすることです。推進体制を構築し、取締役会で適切に監督する必要があります。管理職や従業員の行動や意識改革も求められます。また、多様なキャリアパスを構築し、従業員⼀⼈ひとりが⾃律的に⾏動できるよう、キャリアオーナーシップを育成することも重要です。ダイバーシティ推進の内容や成果については、定期的に発信や対話を行うことが望ましいでしょう。

【関連記事】ダイバーシティ経営とは?推進のメリット・事例をわかりやすく

ダイバーシティ推進につながる施策例

パーソルホールディングスの調査によると、ダイバーシティ推進の取り組みに際し、「どのように取り組んで良いかわからない」という懸念点が多く挙げられていることが明らかになりました。

ダイバーシティ推進につながる施策をまとめています。取り組みや考え方を自社にどう浸透させるかが定まっていない場合は、「労働環境を整備する」「評価制度を整備する」「従業員の理解を高める」の3つを意識的に実践しましょう。

労働環境を整備する

多様な人材が能力を発揮するためには、短時間勤務や在宅勤務などの多様なワークスタイルに対応できる労働環境を整備しましょう。育児や介護を理由とした休業制度の整備とあわせて、活用しやすい制度になるような環境整備も同時に進めることが大切です。例えば休業制度であれば、相談窓口や復職支援システムを設置することが挙げられます。

また、労働環境の整備には、心理的安全性の醸成も欠かせません。多様な価値観を持った人材を受け入れれば、意見の相違が常に発生します。意見の相違がポジティブな方向に向かえば良いものの、ネガティブな方向に進んでしまう可能性も考えられるでしょう。

ネガティブな方向に進んだ場合、価値観の対立や人間関係の悪化、最悪の場合は離職に発展することも考えられます。ダイバーシティ推進を効果的な取り組みにするためにも、コミュニケーションを取る機会を設け、お互いの価値観や文化を理解し尊重しあうことが重要です。従業員がお互いの考え方を理解しあうことで、意見を受け入れやすくなり、はたらきやすい労働環境を醸成できるでしょう。

▼労働環境の施策例

職場環境の見直し ・職場内のバリアフリー化
・座席のフリーアドレス制導入
・テレワークの導入
各種制度の見直し ・フレックスタイム制度の導入
・育休制度の拡充
・育児・介護休業からの復職支援
・時短勤務など、はたらき方の選択肢を増やす
コミュニケーション機会の創出 ・談話室の設置
・社内レクリエーション活動の開催
・1on1の導入

関連記事:1on1とは?目的や面談内容・従来との違い【取り組み調査あり】

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ダイバーシティ推進には、互いの価値観を理解し、認め合うことが欠かせません。本資料では、はたらくうえで重視しているポイントや満足度、今後取り入れてほしいはたらき方など実態調査の結果をまとめています。新しいはたらき方に課題をお持ちの方はぜひご覧ください。

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評価制度を整備する

労働環境を整備しただけでは、ダイバーシティの推進は軌道に乗りません。短時間勤務や在宅勤務といった雇用形態を導入しても、公平な評価制度がなければ従業員の不満は溜まるからです。実際に、パーソルプロセス&テクノロジー株式会社の調査によると、テレワーク環境下で自身への評価に不安を覚えている社員は全体の約4割に達しています。

【出典】パーソルプロセス&テクノロジー株式会社「テレワーク中の評価に関する意識・実態調査

柔軟なはたらき方には多くのメリットもありますが、勤務状況が見えづらく、これまでの評価方法を踏襲するのが難しいといった課題も散見されています。そのため、環境の変化に応じた評価方法への見直しが必要です。

▼評価制度の施策整備例

  • 人事評価制度の見直し(MBOや360度評価、OKRの実施)
  • ジョブ型雇用の導入
  • 評価に対するフィードバックの実施

また、かつて多くの企業で採用されていた評価制度は、期間当たりの成果で評価する仕組みでした。この評価制度では、長い時間をかけてでも成果を大きくした人の評価が高くなり、短時間勤務の人の評価は低くなる傾向があります。そのため、従来の評価制度は、ダイバーシティ推進を阻害する要因となります。

ダイバーシティを推進する企業では、時間当たりの生産性で評価する制度を導入しましょう。この制度では、1時間当たりでどれだけパフォーマンスを発揮できたかが評価の基準になっています。そのため、短い時間で価値を出している人が評価されます。時間に捉われない評価をすることで公平な評価ができ、従業員の意欲も上がるでしょう。

従業員の理解を高める

ダイバーシティの推進と同時に、社内理解を得ることも重要です。多様な価値観を受け入れる準備ができていない状態でダイバーシティを推進した場合、これまでと異なる価値観に対して摩擦や対立が発生します。

ダイバーシティに対する理解度を上げるためには、コミュニケーションを取る機会を増やすことに加え、異なる価値観を受け入れるための教育の実施が必要です。従業員に対し「なぜ多様性が必要なのか」「どのような効果があるのか」「なにをすればいいのか」を伝えることで、多様性を受け入れる準備ができるでしょう。

特に教育が必要なのは管理職です。管理職がダイバーシティを理解していない場合、差別や誤解から部下へのハラスメントが発生する恐れもあります。また、育児休暇や介護休暇といった制度を整備しても、管理職が制度を受け入れていなければ、従業員は休暇を申請しにくくなります。どんなに制度を整備しても、利用されなければ意味がありません。多様なはたらき方や価値観を理解してもらうことが、ダイバーシティ推進につながります。

▼従業員の理解を高める施策例

  • 多様性に理解のあるリーダーの育成
  • ダイバーシティに関する研修の実施
  • 専用の相談窓口の設置

ダイバーシティ推進を成功させるポイント

ダイバーシティを推進するには、企業トップの取り組みや深層的なダイバーシティを重視することがポイントです。以下のポイントを押さえることで、スムーズなダイバーシティ推進が期待できます。

経営陣が主導する

企業としてダイバーシティを推進するためには、経営陣と人事部が共に推進に参画してトップダウンとボトムアップを響き合わせることが大切です。

経営陣がダイバーシティの推進を経営戦略に組み込み、KPI・ロードマップを策定するなどして、取り組みを牽引できるようにしましょう。推進に必要な基盤を経営陣が作って、リソースを確保することで、従業員はダイバーシティ推進を円滑に進められるようになります。

深層的なダイバーシティを重視する

ダイバーシティを推進する際は、キャリアや能力、価値観が異なる人材を登用する「深層的ダイバーシティ」を重視しましょう。表面的なダイバーシティ推進は、コミュニケーションコストや社員間の軋轢の増加を招き、かえって生産性の低下につながってしまうことがあります。

国籍や性別、年齢が異なる人材を集めてもダイバーシティが推進されるわけではないことを理解し、キャリアや能力、価値観が異なる人材をどう生かすのかを検討することが重要です。

研修を実施する

推進に際して、経営陣だけでなく従業員の協力も不可欠です。社内でダイバーシティに関して周知・教育し、意識改革を図るようにしましょう。その方法として、ダイバーシティに関する研修を一般社員、管理職、それぞれを対象に実施することが有効です。

人には「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見や思い込み)」があり、無意識に「短時間社員は仕事への意欲が低い」「女性は管理職にすべきではない」といった、偏見を抱いてしまうことがあります。

研修を通じて、そうした偏見が組織に悪影響を与えることや推進で得られるメリットを教育することで、推進担当者だけでなく、全従業員がダイバーシティ推進の意義や必要な行動を理解できる可能性が高まります。結果、ダイバーシティの取り組みが全社的に浸透しやすくなるでしょう。

ダイバーシティ推進に取り組む企業事例

ダイバーシティ推進の取り組みは企業によって異なります。女性登用に注力しているケースや組織編成から取り組んでいるケース、業務プロセスの改善により労働環境を整備したケースなどさまざまです。ダイバーシティ推進に取り組む企業事例について紹介します。

カルビー株式会社:女性管理職比率を12年で5.9%→23.3%に

女性が従業員の約半数を占めているカルビーは、「女性の活躍なしにカルビーの成長はない」という信念のもと、女性の活躍推進を最優先課題と捉えていました。管理職の女性比率を従業員の女性比率と同等にすることを目指し、2024年3月期までの目標として、女性管理職比率を30%超にすることを掲げています。

対策として、選抜型研修やワークショップといった女性の活躍を支援する取り組みを実施し、はたらきやすさやはたらきがいのある職場環境の整備などに取り組んでいます。その結果として、2010年4月時点では5.9%に過ぎなかった女性管理職比率は、2022年4月時点では23.3%まで向上しました。

また、多様な人材が能力を発揮できるダイバーシティ経営を目指し、D&Iの専任部門を発足。本社部門のD&I・スマートワーク推進室と、事業体ごとの人事推進担当が連携しながらダイバーシティを推進してきました。

ほかにも、管理職を対象としたeラーニング導入や障害者雇用の促進、LGBTQに関する取り組みなど、多様な人材が活躍するための支援に取り組んでいます。その取り組みが評価され、経済産業省と東京証券取引所が共同で女性活躍推進に優れた企業を選出する「なでしこ銘柄」に選定されています。

株式会社商工組合中央金庫:企業トップが本気を示し新たな組織編成へ

中小企業専門の金融機関である商工組合中央金庫は、企業のトップが先導し、ダイバーシティ推進に対する施策を実施しています。

商工組合中央金庫では顧客企業の事業運営を通し、労働人口減少やコロナウイルス感染症、食料価格の高騰といった想定外の課題に対応することの難しさを感じていました。

そこで、顧客が抱える想定外の変化にともに対応できるパートナーとなるべく、「商工中金自身の企業変革」を戦略の一つとして捉えたのです。まずは、企業のトップが自ら支店長などへダイバーシティ推進を説明することで、本気度を伝えました。

また、ビジネスカジュアルの導入や、従業員を役職ではなく「〇〇さん」で呼ぶ「さん付け運動」といった施策を実施。多様な人材が自由に意見を発言できる組織風土の構築に成功しました。さらに、従業員が能力を最大限に発揮できる制度や環境を整備するため、組織編成にも着手。人事部をなくし「D&I推進部」と「キャリアサポート部」を発足しました。

商工組合中央金庫は、トップが本気度を示すことと、新たな組織編成により、ダイバーシティ推進に成功した事例です。

エーザイ株式会社:従業員の理解度を向上させ労働環境の整備を実現

エーザイは、シェアオフィスやワーケーションといった制度を導入し、就労場所の選択肢を増やしています。並行して従業員の意識改革にも取り組むことで、ダイバーシティを推進しています。

全従業員を対象にしたアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)に関する研修や、管理職対象の育児支援制度や育児、介護に対する配慮に関する研修を継続的に実施。社内の意識改革により、育児休暇を取得しやすい職場風土を実現しています。また、休職中の従業員に対し、保育園の情報提供や自己啓発の支援を実施し、スムーズな復職の支援に成功しています。

エーザイは、従業員の理解度向上により労働環境を整備し、ダイバーシティ推進に成功した事例です。

株式会社エーピーシィ:ターゲットを明確にした採用活動で人材を確保

エーピーシィは、総従業員のうち、女性は78%、外国人は44%(外国人女性含む)という多様な人材を抱えている企業です。しかし、多様な人材を抱えてはいるものの、その多くは経験の浅い従業員です。熟練工が不足しているため、生産管理や品質管理の不備により、重大クレームが発生することも少なくありませんでした。

そこで生産工程を見直し、休みやすい環境を実現するとともに、多様な人材が活躍できるよう、段階的な育成計画を立案。スキルアップを図る仕組みを作ったことにより、はたらきやすさとはたらきがいのある労働環境を構築しました。

また、2011年の東日本大震災後の影響により離職が相次いだものの、家庭を持つ女性パートタイマー達の多くは残留しました。それを機に人材戦略を経営計画の中心に位置付け、女性社員の登用に注力しています。ターゲットを明確にした採用活動の実施により、人材確保が容易になるとともに、従業員の定着率も向上。その結果として、品質と収益の向上につながっています。

社会的な評価も向上し、2017年には「あいち女性輝きカンパニー」、2019年には「愛知県ファミリー・フレンドリー企業」の認証を受けました。エーピーシィは、計画的な業務プロセス改善により、ダイバーシティ推進に成功した事例と言えるでしょう。

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まとめ|深層的なダイバーシティを推進しよう

ダイバーシティとは、多様性を意味する用語で、多様な人材を登用し、受容できる体制づくりを指しています。企業としてパフォーマンス向上を目指すためには、キャリアや価値観が異なる人材を登用する「深層的なダイバーシティ」の推進が効果的です。

また、ダイバーシティの推進は、企業にとってビジネスチャンス拡大や人材確保、社会的信用の向上といった効果をもたらします。多様性を受け入れる仕組みを作り、深層的なダイバーシティを推進しましょう。

インタビュー・監修

株式会社パーソル総合研究所
ラーニング事業本部 人材開発支援部 組織開発支援G マネージャー

深堀 雅史

スポーツ施設運営会社にて部下を持つ施設運営責任者や、コンサルティング会社にてコーチングを活用した組織開発プログラム等に従事する。2018年パーソル総合研究所へ入社。企業の人事制度改定や育成体系構築のコンサルティングに従事する傍ら、自身の経験をふまえたリーダーシップ研修や評価者研修の企画・設計にも携わる。

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