2021年04月07日
2025年05月15日
女性活躍推進法とは、企業が雇用している、または将来雇用する女性の活躍を推進する法律です。正式名称は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」であり、企業には女性が仕事と生活を両立する上でのワーク・ライフ・バランスを実現するための環境づくりが求められます。
本記事では、女性活躍推進法の詳細や定められた背景、改正のポイント、企業がすべき対策について詳しく解説します。
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近年、女性活躍推進の動きが活発化しており、優秀な女性人材の確保や育成は企業にとって切実な課題の一つといえます。しかし、女性管理職が増えない、どう進めたらいいか分からないなど、目標と現実とのギャップに頭を抱えている企業も多いのではないでしょうか。
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目次
女性の社会進出は着実に進んでいます。厚生労働省が公表した「令和4年版働く女性の実情」によると、女性の労働力人口は3,096万人にのぼり、労働力人口総数に占める割合は44.9%でした。しかし、出産や育児などライフステージの変化に伴う離職は多く、女性管理職の割合や所得水準において男女間で差がある状況です。
「女性活躍推進法」は、キャリア形成をしたいと考える全ての女性が仕事で個性や能力を存分に発揮する社会を実現することを目的に、2015年8月に成立しました。2016年4月に施行され、時代の変化やニーズに合わせて、2019年6月、2020年6月、2022年4月、2022年7月に改正法が施行されています。ちなみに、女性活躍推進法は2015年度から10年間の時限立法(期限付きで制定された法律)であり、2026年3月31日に失効する予定です。
女性活躍推進法では、国・地方公共団体や一定規模以上の企業に対して以下3点を義務付けています。
女性活躍推進法の対象は「国・地方公共団体・常時雇用する労働者が101人以上の民間事業主」とされています。
期間 | 対象企業 |
---|---|
2022年3月まで | 常時雇用する労働者が301人以上 |
2022年4月以降 | 常時雇用する労働者が101人以上 |
当初は「国・地方公共団体・常時雇用する労働者が301人以上の民間事業者」が対象で、従業員300人以下の中小企業については努力義務とされていました。しかし、2022年4月に施行された改正法により、対象が拡大されました。
女性活躍推進を成功させるための組織づくりノウハウBOOK
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女性活躍推進法が成立した背景には、日本が他国と比較して女性の社会的・経済的な地位向上が遅れている点が挙げられます。1986年に男女雇用機会均等法が施行されて以降、日本社会でもジェンダーの平等を目指した動きが徐々に広がってきているものの、諸外国に比べて後れを取っているのは、各統計結果からも明らかです。
世界経済フォーラム(World Economic Forum:WEF)が発表している「ジェンダーギャップ指数2024」によると、日本は146カ国中118位です。分野別では、教育分野(72位)、健康分野(58位)が健闘するものの、経済分野(120位)、政治分野(113位)で特にジェンダー格差が目立ちます。
順位 | 国名 | 値 |
---|---|---|
1位 | アイスランド | 0.935 |
2位 | フィンランド | 0.875 |
3位 | ノルウェー | 0.875 |
4位 | ニュージーランド | 0.835 |
5位 | スウェーデン | 0.816 |
~ | ||
117位 | ネパール | 0.664 |
118位 | 日本 | 0.663 |
社会における女性の活躍度を測る上で、一つの指標になるのが指導的地位にある女性の割合です。
内閣府・男女共同参画局によると、日本の女性役員比率は過去10年間で徐々に上昇してきており、2023年の東証プライム市場上場企業における女性役員の割合は13.4%でした。一方で、日本を除くG7諸国の平均が38.8%、OECD(経済協力開発機構)諸国の平均が29.6%であり、依然として世界各国との間のギャップは大きいといえます。東証プライム市場上場企業においても、約1割の企業には女性役員がいないが現実です。
【関連記事】女性管理職の比率はなぜ低いのか|原因と対策について解説
日本では雇用形態においても男女で大きな差があります。内閣府・男女共同参画局によると、令和2年の非正規雇用労働者の割合は、女性が54.4%、男性が22.2%でした。年齢が上がるごとに女性の非正規雇用労働者の割合が高くなっているのが特徴です。
ジェンダーギャップ指数、指導的地位にある女性の割合、非正規雇用比率の割合など各統計結果を参照すると、日本における女性がはたらく環境づくりが道半ばであることは明白です。少子高齢化を背景に、今後も労働者人口が減少することが予想されるだけに、女性の労働参加は国の将来のためにも欠かせません。
女性活躍推進法はこうした日本の現状を変えるために制定された経緯があり、改正を繰り返してブラッシュアップすることで現状の打破を目指しているという背景があります。
女性活躍推進法は2019年6月、2020年6月、2022年4月、2022年7月に改正法が施行されています。改正のポイントとしては、「女性の活躍に関する情報公表項目の追加2022年7月8日施行)」「一般事業主行動計画策定義務の対象拡大(2022年4月1日施行)」「女性活躍に関する情報公表の強化(2020年6月1日施行)」「特例認定制度(プラチナえるぼし)の創設(2020年6月1日施行)」の4点が挙げられます。
3で紹介する2020年6月の改正法の内容に加え、2022年7月からは常時雇用する労働者が301人以上の事業主に対して、女性の活躍に関する情報公表項目が追加されています。
「職業生活に関する機会の提供に関する実績(採用した労働者に占める女性労働者の割合、男女別の採用における競争倍率など)」に「男女の賃金の差異」が新設され、公表必須項目となりました。男性の平均賃金に対する女性の平均賃金をパーセントで示します。以前より男女の賃金差を明確にする動きが強まっています。
一般事業主行動計画の策定・届け出義務及び自社の女性活躍に関する情報公表の義務の対象が、「常時雇用する労働者が301人以上の事業主」から「常時雇用する労働者が101人以上の事業主」へと拡大されました。義務の対象となる企業規模の範囲を広げることで、より社会に浸透させることが狙いです。
2020年4月1日以降に一般事業主行動計画を策定する場合、「➀女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供(採用した労働者に占める女性労働者の割合、男女別の採用における競争倍率など)」「②職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備(男女の平均継続勤務年数の差異、男女別の育児休業取得率など)」の各区分からそれぞれ1項目以上を選択し、関連する数値目標を定める必要があります。
上記の対象が、2016年の施行時点では常時雇用する労働者が301人以上の事業主だったものの、労働者101人以上300人以下の事業主にも範囲が拡大した形になります。
常時雇用する労働者が301人以上の事業主に対して、2020年6月から情報公表項目を強化しています。
対象の事業者は、「➀職業生活に関する機会の提供に関する実績(採用した労働者に占める女性労働者の割合、男女別の採用における競争倍率など)」「②職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績(男女の平均継続勤務年数の差異、男女別の育児休業取得率など)」の各区分から1項目以上、合計2項目以上を公表する必要があります。
2020年6月から女性の活躍推進に関する状況等が優良な事業主の方への認定(えるぼし認定)よりも水準の高い「プラチナえるぼし」認定が創設されました。「プラチナえるぼし」は、えるぼし認定を受けた事業主の中でも一般事業主行動計画の目標達成や女性の活躍推進に関する取り組みの実施状況が特に優良である場合に認定を受けられるようになります。
「プラチナえるぼし」に認定された事業主は、一般事業主行動計画の策定・届け出が免除されます。また、厚生労働大臣が定める認定マークを自社の商品や備品、広報活動などに利用できるため、認定企業としてのPRやブランディングにもつながります。
2022年に改正された女性活躍推進法では従業員101人以上の企業に、課題分析や行動計画の策定、届け出が義務付けられ、従業員100人以下の企業には努力義務とされました。対象の企業は具体的にどんな対応が必要なのでしょうか。女性活躍推進法への対応ステップを確認しましょう。
取り組みへの第一歩は、自社の現状把握です。各項目に従って女性が活躍できる環境にあるか否かを把握し、自社の課題を分析しましょう。指標となるチェック項目は「➀採用割合」「②勤続年数」「③労働時間」「④管理職」の4点です。
自社の状況把握・課題分析の結果を踏まえて、事業主は女性の活躍を推進するための「一般事業主行動計画」を策定します。この行動計画には「計画期間」「数値目標」「取組内容」「取組の実施期間」を盛り込みます。
また、策定した行動計画は、自社の労働者に周知しましょう。この際は雇用形態にかかわらず、全ての労働者に周知し、自社の女性の活躍度合いに関する社内での共通認識を持つことが大切です。
行動計画を策定したら、「一般事業主行動計画策定・変更届」を都道府県労働局に提出します。届け出様式は都道府県労働局のページ等でダウンロード可能です。控えが必要な場合は正副2部と切手を貼った返信用封筒を同封の上、郵送しましょう。
なお、行動計画の策定・届け出を行った企業のうち、女性活躍推進に関する取り組みの実施状況などが優良な企業は、都道府県労働局への申請により、厚生労働大臣の認定を受けられます。認定を受けるには、「採用」「継続就業」「労働時間等の働き方」「管理職比率」「多様なキャリアコース」の5項目において、一定の基準を満たす必要があります。
認定を受けた企業は、厚生労働大臣が定める認定マーク「えるぼし」の商品などへの印刷が可能です。「えるぼし」はいわば「女性活躍が進んでいる企業」の証しで、企業イメージの向上や優秀な人材の確保などに役立ちます。
策定した行動計画を実施した結果、得られた成果を社外向けに公表します。具体的には、自社のホームページで掲載するほか、厚生労働省が運営する『女性の活躍推進企業データベース』を掲載先として活用できます。
正しい情報を公表することで、就職活動中の学⽣など求職者の企業選択の際の判断材料の一つになるかもしれません。職業生活に関する機会の提供に関する実績における「男女の賃金の差異」は公表における必須項目なので留意しておきましょう。公表範囲そのものが事業主の⼥性活躍推進に対する姿勢だと捉えられているという意識が重要です。
女性活躍推進の取り組みは、経営陣が主導することが大切です。経営陣自らが女性の活躍推進を社内外に発信することで従業員に本気度を伝え、企業全体として取り組みましょう。女性活躍を推進するポイントとしては、「社内の意識改革」「多様なキャリアを選択できる仕組みづくり」「教育体制の強化」の3点です。
まずは社内において、はたらくことに関する固定観念を打破することが大切です。社内に「男性社会だから」などの無意識な区別や思い込みがある場合は、そうした潜在意識を改革することから始めましょう。ジェンダー平等や女性がはたらきやすい環境を当たり前だと考える人材が増えれば、そうした考え方が自社の新しいスタンダードに変化するはずです。特に男性管理職層に古い時代の考え方が根づいている場合は、優先的に意識改革を実施しましょう。
女性は妊娠・出産などにより、ライフステージが大きく変化する可能性があるので、はたらき方を選べるように多様なキャリアプランを選択できる仕組みづくりを徹底しましょう。社員がキャリアチェンジや配置転換の希望を出した際に、提案できる選択肢を増やす努力が企業側には求められます。女性スタッフに寄り添い、キャリアを尊重した環境・制度づくりを率先して行いましょう。育児との両立に悩むマミートラックなどに陥る女性が一人でも少なくなるような取り組みが大切です。
社員への意識付けや制度改革を行う上で、企業として取り組みたいのが教育体制の強化です。女性社員向けに実施するキャリアデザイン研修などを通して、意欲と能力のある人材の積極的な発掘が求められます。そうした有望な女性社員を選抜し、集中的な育成を行うことで将来的な管理職候補になる可能性もあります。また、女性活躍推進法の改正内容や自社で取り組む女性活躍推進法への対応内容の周知なども、自社教育の一環としてカリキュラムに組み込むことでより全社への意識付けができるでしょう。
【関連記事】女性活躍を推進したい企業が取り組むべき6つの施策│事例を交えて解説
女性の活躍を企業主体で取り組むことは現代において不可欠な要素ではありますが、具体的に何をすればいいのかわからない事業主も多いでしょう。厚生労働省では、女性活躍推進において模範的かつ先進的な取り組みをしている企業を紹介しています。その中でも「株式会社丸亀製麺」「三承工業株式会社」の2社の成功事例を紹介します。
東京都渋谷区に本社を構える飲食業界大手トリドールグループの丸亀製麺。日本全国、並びに海外9の国と地域で1,000店舗以上を展開し、讃岐釜揚げうどんを主力とする外食チェーンです。正規・非正規合わせて約6割が女性と人数割合においては男性を上回るものの、女性の管理職がいないという課題を抱えていました。
丸亀製麺では女性管理職を育成するために、「女性活躍推進プロジェクト」を発足。管理職として必要な知識やノウハウについて1ヵ月に1〜2回の頻度でプロジェクト勉強会を開催しました。そして、2023年1月の管理職登用試験で現場担当(営業)部門で初めて女性が管理職に昇進しました(本部機能部門では、全体の女性管理職比率は7.7%)。
今後の主な施策は、現場で働く女性が育休や産休を取りやすい環境づくりです。店長クラスの女性でも育休や産休を遠慮なく取得でき、復帰の際には以前と同じ役職に就ける体制を目指しています。子育てと両立しながら働ける仕組みの整備を進めることで、男性より女性の平均賃金が高いという実績を作ることに成功しました。
具体的な取り組みとしては、仕事と育児の両立支援のため、短時間勤務制度の期限は法律で定められた「3歳未満まで」を、社内規定として「10歳まで」に延長しています。今後もさらに女性が活躍し、ライフステージの変化があっても安心して長く働ける環境を強化する方針です。
岐阜市にある、建設業を営む三承工業。創業当初は完全な男社会だったようですが、変わるきっかけとなったのは社員アンケートでした。「こんな会社、早く辞めたい」など赤裸々につづられた回答を踏まえて一念発起。さらに代表の西岡徹人さんが脳梗塞で倒れるという事態もあり、一気に会社全体で風土改革に動き出したようです。
ブランド推進室を中心に「カンガルー出勤」と名付けた子連れ出勤制度やノー残業デーなどの改革に乗り出しました。さらに女性管理職比率の向上や職能系資格取得の推進など、国や県が示した女性活躍推進の指標にもとづいて取り組みを進めたところ、社内の女性社員が躍動。会社の売り上げも5倍以上に高まったようです。
現在は女性社員が50%以上になるなど、女性が活躍する会社に変貌を遂げた三承工業ですが、成功の秘訣は「多様な視点を入れること」だと代表の西岡さんは語ります。時短勤務やフレックス勤務を取り入れることで、それぞれの状況に合わせて柔軟にはたらける環境の整備に取り組んだことが大きかったようです。
現在では女性社員を対象としたキャリアプランの面談も実施しているようで、特に非正規の働き方を選択しているメンバーに対しては、今後のプランやキャリア転換なども踏まえた提案の強化を目指しています。
【関連記事】女性活躍推進の成功事例10選│取り組み内容・共通点を解説
女性活躍推進法には罰則規定がありません。しかし、女性がはたらきやすい環境を整えることは、優秀な人材の獲得、従業員の定着率、企業のブランディングなど、企業が抱えるさまざまな経営課題の解決に寄与するものです。女性活躍推進法は、女性従業員のみならず、男性従業員や事業主にとっても良い影響をもたらします。組織体制を見直すきっかけとするためにも、女性活躍推進法の理解に努めましょう。
【お役立ち資料】女性活躍推進を成功させるための組織づくりノウハウBOOK
近年、女性活躍推進の動きが活発化しており、優秀な女性人材の確保や育成は企業にとって切実な課題の一つといえます。しかし、女性管理職が増えない、どう進めたらいいか分からないなど、目標と現実とのギャップに頭を抱えている企業も多いのではないでしょうか。
パーソルグループでは、女性活躍推進の社会的背景から具体的な施策、進め方までを網羅的にまとめた【女性活躍推進を成功させるための組織づくりノウハウBOOK】を公開しています。
女性社員の長期的なキャリア形成に課題を抱える方は、ぜひご活用ください。
A.対象となる企業は、女性の活躍に関する状況把握・課題分析を行い、行動計画の策定・届け出・公表などが求められています。
パーソルグループでは、女性活躍推進に向けた取り組みの実態などをまとめた調査レポートを公開しています。レポートの詳細は、以下のリンクよりどなたでも無料でダウンロードしていただけます。
>>女性管理職比率と組織運営傾向に関する調査レポート
A.女性活躍推進法とは「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」のことで、企業において女性が活躍しやすい環境をつくることが目的です。
>>女性活躍推進法とは