インクルージョンとは?
「インクルージョン(inclusion)」は、日本語では「包括」「含有」「一体性」などと訳されます。ビジネスシーンにおいては、多様な人々の個々の特性が十分に活かされて企業活動が行われている状態のことを言います。
ダイバーシティとの違い
インクルージョンに近い言葉として「ダイバーシティ」があげられます。「ダイバーシティ(diversity)」は、「多様性」「相違」「種々」などと訳され、個人または集団の間の「さまざまな違い」を示す意味合いが強い言葉です。
企業がダイバーシティを推進するためには、単に国籍や性別、年齢が異なる人材を集めるだけではなく、個人の力を最大限に生かすインクルージョンの実現が必要です。
ダイバーシティとインクルージョンの取り組みが両輪でなされていないと、ダイバーシティ推進はマイナスの効果を生むことも分かっています。内閣府と経済産業省のデータによれば、性別・国籍の多様性は企業業績にプラスの効果を生むものの、多様性を活かすための取り組みなしにダイバーシティを推進することで、生産性が低下するという結果が見られています。
多様な人材と収益率

多様性の増加が生産性に与える効果

つまり、インクルージョンとダイバーシティは切っても切り離せない関係にあります。近年では、ダイバーシティとインクルージョンの頭文字をとり「D&I」と表現している企業もあります。
インクルージョンが重要視される背景
グローバル化や技術の進化、DXの進展などにより、個人の価値観や消費ニーズが多様化する中、企業が競争優位を獲得するためには変化を察知し、新たなビジネスを生み出すイノベーションが重要です。同質的な組織ではイノベーションが生まれにくいため、さまざまなキャリアや価値観を持つ多様な人材を活かす組織が求められています。
また、少子高齢化により労働人口が減少していると同時に労働市場の流動化が進み、転職が当たり前の時代になっています。そのような中で優秀な人材を確保していくためには、多様な人材が活躍できる環境を整えることが必要です。
これらの背景から、一人ひとりの違いを認め合い、個々の能力を最大限に活かす「インクルージョン」の重要性が高まっています。
インクルージョンを推進するメリット
インクルージョンの推進により、以下の3つのメリットが得られます。
それぞれ具体的に解説します。
生産性の向上
多様な人材の個性に着目し、活躍できる環境づくりを目指すことで、一人ひとりの生産性が向上します。結果的に組織全体の生産性向上にもつながるでしょう。
個性が認められ、受け入れられていることを従業員が実感できれば、モチベーションも向上します。
企業イメージの向上
インクルージョンを推進し、多様性が認められている企業であることは、顧客や社会からも高く評価され、企業イメージが向上します。社会的に高く評価されている企業に所属していることで、従業員の責任感や帰属意識が高まり、エンゲージメントが向上します。
さらに、求職者にとってもプラスに影響するため、優秀な人材の獲得にもつながるでしょう。
イノベーションの創出
異なる分野の知識、経験、価値観を持つ人材が意見を出し合うことで、新しい発想が生まれやすくなり、イノベーションの創出につながります。結果、業績向上や競争力強化も期待できます。
ダイバーシティ&インクルージョンの具体的な施策
では、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を推進するために、どのような取り組みが行われているのでしょうか。具体的な施策を紹介します。
施策1.D&Iの啓発、理解促進イベントの開催
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- D&Iの浸透に向け、ランチ会やディスカッション、ワークショップなどを開催
- 育児中の社員同士、家族の介護を担っている社員同士など、ターゲットを絞ったイベントを開催
イベントを実施することで、参加者が有用な情報を得られるほか、社員同士の交流が促進され、コミュニティが生まれるという効果もあります。
施策2.研修やセミナーの開催
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- 多様なキャリア観を育み、自身のキャリア形成にも役立つキャリア研修
- 多様な人材と関わるときのテクニックを鍛えるマネジメント研修
- LGBTをテーマとした研修
いずれも、参加者自身の気づきや学びにつながるとともに、多様性を尊重する精神を育む機会になっています。管理職を対象としたマネジメント研修は、社内の行動変容を加速化させるという点でも意義ある取り組みです。
施策3.はたらき方などの選択肢の増加
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- 時短やフレックス制、テレワークや時間単位有休の導入
- 海外人材、シニア層の雇用拡大
- 副業・兼業の解禁
- ドレスコード/服装の自由化
- オフィスのフリーアドレス化
テレワークの導入や副業・兼業の解禁により、多様なはたらき方やライフスタイルを受容する体制を整える企業も出てきています。
ダイバーシティ&インクルージョンの施策が企業全体にプラスの効果が波及したという事例も出ています。例えば、体格や体力を問わず作業ができる環境を整えたことで、作業工程内の重労働の割合が軽減し、社員の労働状況が改善した事例があります。また、経験豊富なシニアや海外人材の雇用が、固定化されていた制度や無駄な慣習の改善・撤廃、社内の活性化に結びついた事例もあります。
施策4.適材適所の人員配置
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- 女性の家事を減らすための新商品の開発を、女性のみのチームを編成して実施
- 育児中の人々に対するサービス開発に、育児経験のある社員を任命
- ICT活用に際し、大規模な中途採用を行い、ICTに関する知見の豊富な人材を専門部署に配置
- 障害のある社員のために使用していた技術を活用し、対外的な商品を開発
一人ひとりの経験やキャリアを尊重した人員配置を行うことで、従業員のモチベーションだけではなく、事業にもプラスの効果が期待できるでしょう。
ダイバーシティ&インクルージョンの企業事例
ここでは、ダイバーシティ&インクルージョン推進に取り組む企業の事例について紹介します。
事例1.カルビー株式会社
カルビーでは、全員活躍(性別のみならず国籍、年齢、障がいの有無や、個々の価値観、ライフスタイルなどの垣根を越えた多様な人財が活躍する企業)を目指しており、これによって従業員と組織の力が最大化し、会社が成長するための原動力になると考えています。特に従業員の約半数を占める女性の活躍なしにカルビーの成長はないという信念のもと、女性活躍推進を最優先課題と捉えています。
女性リーダー候補の選抜型研修やワークショップの実施、はたらきやすさやはたらきがいのある職場環境の整備などに取り組んでいます。その結果、2010年4月時点では5.9%であった女性管理職比率が、2022年4月時点では23.3%まで向上しています。
事例2.株式会社商工組合中央金庫
中小企業専門の金融機関である商工組合中央金庫は、トップ自らが ダイバーシティ&インクルージョン推進を従業員に説明し、組織全体への浸透を図った点が特徴です。
多様な人材が自由に発言できる風土を醸成するため、ビジネスカジュアルの導入や、従業員を役職ではなく「〇〇さん」で呼ぶ「さん付け運動」などの施策を実施。
さらに、一人ひとりが能力を最大限に発揮できる制度や環境を整備すべく、従業員のキャリア開発をサポートする「キャリアサポート部」や「D&I推進部」を設置するなど本部組織の見直しも行いました。