2021年05月19日
2023年03月06日
激変する市場環境下、新規事業創出は多くの企業にとって重要課題となっています。本記事では、短期・中長期の資金調達方法や、リーンスタートアップ、ゼロ・トゥ・ワンといった手法を紹介します。さらにオープンイノベーション、CVC、社内ベンチャーの課題と注意点をまとめました。
目次
現代の市場環境は激変しています。新しい科学・情報技術が人々の消費行動を変え、製品ライフサイクルは短くなり、なかには市場から淘汰される製品・サービスもあります。激化する環境下で、多くの企業が必要としているのが新規事業です。
では、そもそも新規事業とはどのようなものでしょうか。中小企業庁によると、企業の事業展開は以下の5つに分類されます。うち、新市場開拓戦略、新製品開発戦略、多角化戦略、事業転換戦略の4つが新事業展開であるとしています。
戦略 | 説明 |
---|---|
1.市場浸透戦略 | 既存市場で既存製品・サービスを展開する戦略。競合他社との競争に勝つことにより、マーケットシェアを高めていくことが主となる |
2.新市場開拓戦略 | 新市場で既存製品・サービスを展開する戦略。新たな販路を見いだすことが主であり、例えば、海外展開を実施していくことが挙げられる |
3.新製品開発戦略 | 既存市場で新製品・サービスを展開する戦略。既存製品に新たな機能を付与したり、新製品・サービスを開発したりするものの、あくまでも既存顧客への展開を目指す |
4.多角化戦略 | 既存の事業を維持しつつ、新市場で新製品・サービスを展開する戦略。新たな分野で成長を図る戦略であり、高リスクを伴う場合が多い |
5.事業転換戦略 | 既存の事業を縮小・廃止しつつ、新市場で新製品・サービスを展開する戦略。多角化戦略よりも、高リスクとなる場合が多い |
新規事業の手法として、よく話題にのぼるのが、リーンスタートアップとゼロ・トゥ・ワンです。
戦略 | 説明 |
---|---|
リーンスタートアップ | 立案したビジネス案に対し構築・検証を行い、納得のいかない検証結果が出た場合は軌道修正する手法。事前にあまり計画せず、できるだけ早くつくるべき製品・サービスをつきとめるべく行われる |
ゼロ・トゥ・ワン | 1をnにするのではなく、ゼロから1をつくり出す、まったく新しい誰も見たことがないものを産み出す手法。競争を避け、独占できるようなコンセプトを事前に計画し、そこにすべてを賭ける |
このような新規事業の手法、新事業展開の戦略をどう選択していけばよいかを考えていきます。
日本企業の新事業展開の状況はどうなっているのでしょうか。下図は2013年から2018年に新事業展開を行った企業の割合です。実施した企業は製造業で18.3%、非製造業で16.1%と、あまり高いようには見えません。
新事業への進出状況(2013年〜2018年)
中小企業に限って新事業分野へ進出したかどうかを見てみると、「進出した」企業は製造業が16.6%、非製造業は14.2%と、さらに低くなっています。
国際的に見ても、日本の起業・スタートアップ数は少ないことが知られています。下図はGDPに占めるベンチャー・キャピタル投資額の割合で、32カ国中トップのイスラエルと比べると、日本は10分の1程度です。
GDPに占めるベンチャー・キャピタル投資額の割合
また、ユニコーン企業と呼ばれる創業10年以内で評価額10億ドル以上、かつ未上場の企業も少ないことが知られています。
ユニコーン企業の国際比較
ただし、中小企業白書によると、設備投資を行った企業の目的が「新事業への進出」である割合は2007年度が14.5%、2012年度が11.8%、2017年度が11.1%と減少傾向にあるのに対して、M&Aを行った企業のうち目的が「新事業展開・異業種への参入」である割合は、2009年以前が16.1%、2010〜2014年が17.5%、2015年以降が24.6%と増加傾向にあります。
ここから、日本企業が自社のみならず社外の人材・技術といった経営資源をも活用するオープンイノベーション、協業やM&Aによって新事業への展開を模索していることがわかります。
総務省の「事業計画作成とベンチャー経営の手引き」によると、新規事業計画には以下のような問題点が多く見られるそうです。
・技術やアイデアへの過信、思い込み
・その事業ビジョンをなぜ追求するのかの検討不足
・競争優位性、売上計画、消費行動パターン・顧客ニーズの検討不足
・数値の計画だけ
・社長自身の事業計画遂行への強い意志・熱意の不足
激変する市場環境におかれている困難な状況下、新規事業の起ち上げを検討する企業は少なくないでしょう。しかし、前述のような過信や検討不足を避けなければ、新規事業は成功に至らないでしょう。
事業計画の策定方法については、「事業計画書を作成する目的と読み手を納得させる書き方のポイント」で詳しく説明しています。
新規事業展開においては、資金繰りやどの市場をどういう商品・サービスで目指すか、販路開拓が課題として挙げられます。ここでは、決してショートしてはならない資金繰りに絞って課題解決の仕方を見ていきましょう。新規事業の資金繰りには以下の手段が知られています。
・政府系金融機関・外郭団体による融資や支援
・補助金・助成金、給付金
・クラウドファンディング
・ファクタリング
・民間金融機関による融資
・家族や親戚、知人などからの借入
特に急ぎの資金が必要で、借り入れる先の家族や親戚などが見込めない場合は、ファクタリングが検討できます。しかし、これは給与ファクタリングという金融庁によって違法となった制度と混同しやすく、後述します。まず、多くの場合に必要となる中長期を見据えた資金繰りについて解説します。
日本政策金融公庫や中小機構、商工組合中央金庫(商工中金)が融資・支援を行っています。
まずは日本政策金融公庫による融資を見てみましょう。
融資限度額は直接貸付6億円まで。高い成長性が見込まれる新たな事業を行う企業向けの融資です。新事業を事業化させておおむね5年以内、他企業に利用されていない知的財産権や中小企業技術革新制度に係る特定補助金などの交付を受けて開発した技術を利用して新事業を行う予定であるといった条件があります。返済期限や返済の利率(年)は上限3%というように、信用リスクなどにより変わります。返済期限は設備資金が20年以内(うち据置期間5年以内)、運転資金7年以内(うち据置期間2年以内)です。
融資限度額は1社あたり3億円。(ただし事業承継・集約・活性化支援資金(企業活力強化貸付)は1社あたり別枠3億円)新規事業や企業再建などに取り組む中小企業の財務体質強化を図るための融資です。新企業育成貸付、企業活力強化貸付または企業再生貸付と、利用する貸付制度により、それぞれの返済期限と利率(年)が適用されます。
続いて、経済産業省主管の外郭団体である中小機構による新規事業展開の支援策を見ていきます。
中小機構では、民間企業と中小機構がパートナーシップを結び、地域の活性化・ブランド化を推進するプロジェクト「NIPPON MONO ICHI」を推進しています。このプロジェクトでは、中小企業が地域の産品や技術を活かし、新商品・新サービスを開発することを支援しています。
例えば、次のような支援を行っています。展示会主催、同展示会展示ブースの専門家による装飾アドバイス、セミナー開催(業界知識の取得セミナー、ウェブ活用セミナー、知的財産に関するセミナーなど)、展示会出展商品に対する評価・アドバイス、商談機会提供、広報PR支援、販路提供など。
補助金や助成金についてもいくつか紹介します。最新情報と異なる可能性があるため、各制度の詳しい情報については公式サイトも併せてご確認ください。
新商品・新サービスの開発、生産プロセス改善に必要な設備投資・システム構築などに関して支援が受けられます。次の3つの要件を満たす3~5年の事業計画を策定・実行する中小企業であることが条件です。
①付加価値額 年平均成長率+3%以上増加
②給与支給総額 年平均成長率+1.5%以上増加
③事業場内最低賃金(1人当たりの時間給)が地域別最低賃金+30円以上。
小規模事業者等が経営計画を自ら策定し、商工会・商工会議所の支援を受けながら取り組む「販路開拓」を支援する補助金です。補助対象の経費としては、販路開拓のための、チラシ・パンフレット、ホームページやウェブ広告、店舗の改装、展示会の出展、新商品の開発費用などが含まれます。
なお、持続化補助金は年度等によって、申請要件・対象経費等が異なります。
IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者等が自社の課題やニーズに合ったITツールの導入を支援する補助金です。 対象となるITツール(ソフトウェア、サービス等)は事前に事務局の審査を受け、補助金HPに公開(登録)されているものとなります。また、相談対応等のサポート費用やクラウドサービス利用料等も補助対象に含まれます。
インターネットを介して不特定多数の人々から資金を調達する方法がクラウドファンディングです。民間金融機関が不確実性の高い新規事業に対する融資に消極的になるような景況下、中小企業・小規模事業者といった非上場企業が資金を調達するために使える、従来型の融資などに代わる資金調達法として注目を集めています。クラウドファンディングには、主に以下3つのタイプがあります。
資金需要のある企業が資金使途・返済期間などをウェブサイトに掲載し、これを出資者が閲覧、当該企業のリスク・金利などを考慮して融資するものです。また現在は金融緩和されて一定の非上場株式の勧誘が可能になったため、クラウドファンディングで株式投資を勧誘できるようになっています。
サービス例)イークラウド、FUNDINNO、CF Angels
資金需要のある企業・個人が商品・サービスや権利を販売し、得た代金をもとにプロジェクトを実行するものです。J-Net21(中小機構)によると、東日本大震災の被災者が製造した製品が購入型クラウドファンディングを介して購入されることにより、復興支援に寄与したと評価されています。
サービス例)READYFOR、Makuake、CAMPFIRE
資金需要のある企業・個人が資金を必要とするプロジェクト詳細をウェブサイトに掲載、これを見た個人などが自らプロジェクトを選んで支援するものです。
サービス例)GoodMorning、GIVING 100
ファクタリングとは、売掛金などの債権を譲渡するといった方法で現金を調達できる資金繰り手法です。未回収の売掛金のリスクを軽減することもできるため、企業の強い味方といえます。以下に述べる貸金業無登録業者が行うものでなければ合法ですので、短期資金が必要な企業には検討しうる選択肢となるでしょう。
注意が必要なのが給与ファクタリングです。給与ファクタリングとは、従業員に支払う給与を債権とみなし、これをファクタリング業者に一定の手数料を支払って買い取ってもらう仕組みです。
給与ファクタリングは金融庁により貸金業とされており、貸金業登録業者のみ行うことができます。貸金業登録を受けていないファクタリング業者(ヤミ金融業者)が行う給与ファクタリングは違法で、また高額な手数料を支払わされるケースもありますので、注意しましょう。
日本でも、オープンイノベーションやCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)といった、外部資源とともに起ち上げる新規事業が増えています。CVCとは、事業会社がベンチャー企業に対して株式投資を行うことで、企業がいち早くベンチャー企業の新技術にアクセスする方法として注目を浴びています。
ここでは、オープンイノベーションとCVC、社内ベンチャーについて解説します。
オープンイノベーションとは、社内のみならず他の企業・団体の人材・アイデア・知的財産などのライセンスを連携・活用することにより新たな価値を創出する活動です。従来のクローズドイノベーションとオープンイノベーションには、以下のような違いがあるとされています。
要素 | オープンイノベーション | クローズドイノベーション |
---|---|---|
人材 | 自社で最優秀の人材を抱えているわけではなく、社内外に限らず優秀な人材と連携する | 自社内で最良の人材を有する |
研究開発 | 外部研究開発も付加価値を創出することができる。一方、その価値の一部を享受するには内部研究開発も必要である | 研究開発から収益を得るためにも、自社で研究開発から販売まですべて行う |
市場化 | 市場化よりビジネスモデルの構築が優先 | イノベーションを早く市場投入した企業が優位に立つ |
マインド | 社内外のアイデアを効果的に活用することができるかが鍵 | 最良のアイデアを最も多く製品化できれば優位性を築くことができる |
知的財産 | 他社間とのライセンスアウト/ライセンスインを積極的に行うべき | 自社の知的財産は厳重に保護すべき |
オープンイノベーションは、従来のクローズドイノベーションに代わる企業成長・価値創出の方法として注目を浴びています。しかし、何でも自前主義を排してオープンイノベーション、すなわち外部の企業や研究機関などと提携すればよいというわけではありません。「オープンイノベーション白書・第三版」によると、オープンイノベーションとは「創出したい価値を実現するにあたって、自社の技術やリソースを活用することを前提としつつ、足りない技術やリソースに関して「自前で行うべきか」「他社から借りた方が良いか」を検討することと同義」とされています。
一方CVCとは、前述のとおり事業会社がベンチャー企業に対して株式投資を行うことで、企業がいち早くベンチャー企業の新技術にアクセスする方法でもあります。つまり、オープンイノベーションの一形態であるといえるでしょう。
日本で成功したベンチャー企業の数が諸外国よりも少ないことは前述のとおりですが、理由の一つとして、CVCが十分に認知されず、普及していないことが指摘されています。以下ではオープンイノベーション・CVCの参考となるサイト・資料を紹介します。
・NEDO「オープンイノベーション白書」初版・第二版・第三版
・特許庁「オープンイノベーションポータルサイト」
・経済産業省「新たなイノベーションエコシステムの構築に向けて」
・経済産業省「平成30年度産業技術調査事業(研究開発型ベンチャー企業と事業会社の連携加速に向けた調査・最終報告書)」
・経済産業省「我が国のコーポレートベンチャリング・ディベロップメントに関する調査研究〜CVC・スタートアップM&A活動実態調査ならびに国際比較〜」
学問的にはさまざまな見解がありますが、一般的に社内ベンチャーとは既存企業のなかにあって新商品を開発したり新市場へ進出を検討したりする試みであるといえます。新規事業の展開を目指す場合、利益が出ないかもしれないリスクを負いますが、オープンイノベーションやCVCといった外部資源を用いないメリットとしては、人材育成が可能である点、革新性を重視する企業風土が醸成できる点があげられるでしょう。
最近の研究では、両利きの経営という視点から、知の深化と知の探索を両立させる組織形態として社内ベンチャーを捉える考え方があります。ただし、知の探索に傾注すると失敗につながりかねないため、トップやマネジメント層との関係構築を巧みに行い、知の深化をもバランス良く行うことが社内ベンチャーの生存率を高めるとされています。
激変する市場環境下で重要性が高まる新規事業。自社技術への過信やニーズの検討不足が成功を妨げます。国も融資・支援策を数多く設け、新規事業を後押ししようとしています。短期・中長期の資金繰り手法を検討して有効活用し、リーンスタートアップやゼロ・トゥ・ワン、オープンイノベーションやCVC、社内ベンチャーの課題を知って、自社に適した、強みを活かすことができる新規事業を展開していきましょう。