2023年03月27日
2025年03月05日
上司が果たすべき役割のひとつとして部下の育成が挙げられます。しかし、その重要性を理解していても、現場での育成に課題を抱える方は多いのではないでしょうか。部下の育成手法にはコーチングや1on1などさまざまなものがありますが、手法を実践するだけの表面的な関わりでは、本当に社会で活躍する人材の育成にはつながりません。
本記事では、部下育成の基本を押さえた上で、部下が育つ上司の特徴やよくある失敗例、育成効果を高めるポイントや具体的な育成ステップまで解説します。
【調査レポート公開】部下育成の実態とは?管理職の本音を徹底解剖
部下の成長を促し、チームの成果を最大化することは、管理職にとって重要な役割です。しかし、「思うように部下が成長しない」「どこまで介入すべきかわからない」といった悩みを抱える管理職は少なくありません。
そこでパーソルグループでは、管理職 900人に調査を実施し、レポートを公開しています。
・部下の成長支援の内容
・部下への成長支援と注力度合い
このような部下との向き合い方をはじめ、管理職のリアルな声をまとめています。「他の管理職がどう育成に取り組んでいるのか知りたい」「効果的な育成のヒントが欲しい」という方は、ぜひご活用ください。
目次
部下育成の本質は「部下の成長を支援すること」です。部下育成は上司にとって重要な役割のひとつであり、上司には、その役割をしっかりと理解し、育成に取り組むことが求められます。
部下の育成にあたっては、「信頼関係(心理的安全性)」を築き、部下の話に真摯に耳を傾けること前提となるでしょう。部下育成が重要な理由と、育成の基本的な考え方について解説します。
将来の企業の中核を担う人材を育てる上で、部下の育成は非常に重要な取り組みです。優秀な人材の台頭は、生産性の向上や業績アップにつながるだけでなく、組織の活性化にも寄与します。
現代の日本企業において、管理職に求められる役割は増加傾向にあると言えるでしょう。育成した部下が成果を上げて組織に利益をもたらす状態をつくりあげる一方で、上司自身もプレイヤーとして成果を追う、プレイングマネージャーのような多角的な役割が求められます。
部下が育つことは組織の業績面でプラスになるだけでなく、上司にとっても自身の評価につながったり人材育成のノウハウが蓄積されたりと、非常に重要な意味を持ちます。
【関連記事】人材育成とは?基本の考え方や育成方法・具体例を解説
部下の育成は上司の重要な役割である以上、上司は組織内での自身の役割を理解して、育成に取り組むことが大切です。
「育成」と聞くと、つい「指導」に目が向きがちですが、育成の本質は「部下の成長の支援」にあります。そのためには、「信頼関係(心理的安全性)」の構築が重要な第一歩となるでしょう。部下の話によく耳を傾け、サポートする姿勢で接しましょう。
【お役立ち資料】管理職に求められるスキルとは?
組織がうまく機能し、会社が成長していくためには、リーダーの存在が不可欠です。しかし、近年の管理職を取り巻く環境は非常に厳しく、どの企業も優秀な管理職を育てることが必務となっています。 本資料では、管理職にとって必要なスキルと習得法、マネジメントのコツをまとめていますので、ぜひご活用ください。
多くの上司が「部下が言われた通りにしか動かない」と悩んでいますが、実はこのような部下の態度は、上司の行動に起因している場合も少なくありません。
部下育成に課題を抱える上司が陥りやすい失敗を5つ紹介します。自身の現状と比較して、必要に応じて改善しましょう。
部下に対して、簡単な業務や責任の軽い仕事しか任せない状況では、部下の成長は期待できません。
部下は「自分は期待されていない」と感じ、成長意欲を失ってしまうこともあるでしょう。経験済の業務ばかりでは、学びや育成にはつながりません。部下に新しい経験を積ませるためには、上司側にも「任せる」「挑戦させる」覚悟が必要です。
感情的で高圧的な態度は、部下に恐怖心を与えます。こうした関係性が築かれてしまうと、部下は怒られないように、上司に言われたことしかやらなくなってしまいます。これでは主体性を育むことはできません。このような悪循環は組織にとってもマイナスであるため、育成において感情的・高圧的な接し方は避けるべきでしょう。
さらに、2022年4月には、労働施策総合推進法の改正によりパワーハラスメント対策が全企業で義務化されました。そのため、高圧的な態度は「パワハラ」として厳しくみられるリスクがあります。
また、上司の感情的な態度に対して「マネジメント能力がない」と感じる部下もいます。苛立ちやストレスを感じても、そのまま感情を露わにするのは得策ではありません。アンガーマネジメントをはじめとする、感情をコントロールする術を身に付け、対応しましょう。
【関連記事】パワハラとは?定義と6つの類型、企業が取り組むべき対策を解説
部下の対して逐一指示し、その通りに仕事を進めさせることが多い場合、部下は自分で物事を考えなくなってしまい、自発的に動かなくなってしまいます。仕事の方法を指示する教え方は「ティーチング」と呼ばれており、部下が知らないことを教え、できることを増やすためには効果的な育成方法です。しかし、ティーチングのみに頼った育成方法は、指示待ちの部下を生み出す原因になりかねません。
自発的に行動する社員を育てるには、部下に仕事のやり方を自分で考えさせたり、主体的に動く機会を与えたりする必要があります。そのためには「ティーチング」に加え、部下に考えさせる「コーチング」を取り入れ、バランス良く育成を行うことが重要です。
【関連記事】コーチングとは?意味やビジネスでの活用効果、3つの原則を解説
組織の人材育成に計画性がないと、育成は場当たり的になってしまいます。これでは、部下は思った通りには育ちません。しかし、育成の目標や計画を立てないまま、部下が成長しないことに悩む上司は多いものです。部下の育成計画を立てる方法は、後半の「部下育成のステップ」で詳しく解説します。
忙しさに追われて、部下の育成に十分な時間を割けていない上司は少なくありません。しかし、育成にはある程度の期間が必要です。日々の業務の中で部下と向き合う時間を確保できなければ、成長は期待できないと言えるでしょう。計画的に育成の時間を設け、1on1やOJTなどを通して部下としっかりコミュニケーションを取ることが、効果的な育成につながります。
部下の成長には、上司の関わり方が大きな影響を与えます。効果的な部下育成を行う上司が実践している取り組みについて、8つの特徴を紹介します。
どれも一見すると難しい取り組みではないように思えるでしょう。しかし、多忙な上司にとっては、傾聴の姿勢や適切な評価がおざなりになっている場合もあります。これらの取り組みを意識して育成に取り組むことで、部下の成長に対するより手厚いサポートが期待できるでしょう。
部下の行動に対して、成果だけでなくプロセスも評価する姿勢を持ちましょう。成果は外部要因によって左右される場合があるためです。
組織や上司として、成果に目が行くのは当然でしょう。しかし、部下の成長のためには、プロセスに着目して継続すべき点や改善すべき部分を確認し、フィードバックを行うことが大切です。
プロセスに着目し、振り返りを行うことで、適切でない思考や言動は修正され、良い思考や言動が再現されやすくなるでしょう。
【お役立ち資料】フィードバックの進め方5ステップとは?
フィードバックはただ信頼感を伝えるだけではいけません。メンバーが目標を達成するために軌道を修正することが大切です。本資料では、フィードバックの進め方を5ステップで詳しく解説していますので、ぜひご活用ください。
上司が約束を守ることは、部下との信頼関係構築において欠かせません。口先だけで言行不一致の上司には、部下も従いたいとは思えないでしょう。
とはいえ、部下との約束の時間に、後から決まった重要度・緊急度の高い仕事をかぶせせざるを得ないことも少なからずあるでしょう。どうしても予定が変更になる場合は、誠実に事情を説明し、次の機会には約束を守る姿勢が求められます。約束を守る誠実さは、社内外を問わず重要な姿勢です。
感謝と謝罪は人間関係の基本です。上司であっても、自分のミスや部下からのサポートに対しては、一社会人として役職や立場に関係なく感謝や謝罪を示しましょう。これによって、コミュニケーションが円滑に進められます。
また、感謝や謝罪は相手に伝わって初めて意味を成すものです。気持ちが意図通り伝わっているか、部下や周りからどのように見られているかといった客観的視点で、定期的に自身の言動を見直しましょう。
相手の話をしっかりと聴くことは、部下との信頼関係を構築し、成長をサポートする上で不可欠です。仕事の話だけでなく、雑談を通してもコミュニケーションを深め、部下に「この人なら話を聴いてくれる」と感じさせることを意識しましょう。こうした姿勢は、心理的安全性の向上にもつながります。
上司に理解され、受け入れられたと感じた部下は、心理的な安全性が担保され、仕事への意欲やパフォーマンスが向上します。また、部下への理解度が深まれば、適切な評価や指導へとつながりやすく、結果として部下の成長のサポートもしやすくなるでしょう。
そのような環境をつくり出すためにも、発言や行動の背景にある感情にも関心を抱いて接することが重要です。
部下が成長するためには、上司が指示を与えるだけなく、部下自身が問題を考え、解決策を見つける機会が不可欠です。部下に自らの判断で行動できる余地を与えることで、主体性や責任感が生まれるでしょう。問いかけを通して考える習慣を育て、主体性を引き出しましょう。
また、失敗を恐れずに挑戦できる環境も大切です。部下が失敗をしても指摘のみで終わらせるのではなく、なぜそのような結果になったのかを一緒に振り返り、次に活かせる学びを引き出しましょう。そのためにも、上司が適度なリスクを許容し、実践を通して部下が学べる機会を提供することが重要です。
部下育成には、上司が時間を割いて向き合う必要があります。多忙な日々の中でも、1on1や進捗確認の時間を確保し、しっかりとコミュニケーションをとることが、部下の成長につながります。育成が後回しにならないよう、スケジュールに余裕を持たせましょう。
また、部下とコミュニケーションをとる際は、業務の進捗確認に終始せず、部下が抱える課題や不安を理解し、適切なアドバイスやフィードバックを提供できるのが理想的です。このように、上司が自分の時間を投資して部下と向き合う姿勢を示すことは、部下との信頼関係の強化にもつながります。
上司自身が成長を止めず、常に学び続ける姿勢を持つことは、効果的な部下育成において欠かせません。学ぶことは、部下の悩みや課題に対処しやすくなるメリットがあるほか、成長志向の企業文化を醸成するきっかけにもなり得ます。
管理職として部下を育てる立場にある上司が知識やスキルを磨き続ける姿勢は、部下にとって良い手本となるはずです。学びを通して管理職としての視野を広げ、柔軟なリーダーシップを発揮し続けましょう。
【関連記事】管理職に必要なスキルとは|階層別の役割と育成のポイントを解説
部下育成には、上司がリーダーシップを発揮し、ロジカルシンキングを活用して指導しながら、適切な目標を設定することが重要です。部下の成長を加速させ、組織や事業を成功に導くリーダーとなるためにも、3つのスキルを身に付けましょう。
部下育成においてリーダーシップは重要なスキルです。リーダーシップの本質は単にトップダウンで命令を下す行為ではなく、部下に信頼され、チームを導く力にあります。
リーダーシップを発揮するためには、まず部下との信頼関係の構築が重要です。部下の意見を尊重し、適切なフィードバックを提供できれば、部下は上司に対する信頼を深めると同時に、成長意欲を高めるでしょう。
さらに、リーダーシップには「ビジョンを伝える力」も必要です。部下が迷ったときにはどの方向に進むべきかを明確に示し、チーム全体を一丸にできるようはたらきかけましょう。
【関連記事】リーダーシップとは?3つの理論や求められる能力、高める方法
ロジカルシンキング、つまり論理的思考も、部下育成に役立つスキルのひとつと言えるでしょう。ロジカルシンキングは、複雑な問題を分解し、優先順位をつけて解決に導く力です。
例えば、部下が難しい業務に直面した際、上司がロジカルシンキングによって課題を整理することで、部下は適切な対処が可能となります。この思考プロセスの重要性を伝え、繰り返し実践することで、部下は自らの問題解決力を向上させて自主的に行動できるようになるでしょう。
【関連記事】ロジカルシンキング研修とは|プログラム例や得られるスキル・目的
目標管理能力も、部下育成には欠かせません。部下の成長には、明確な目標設定が不可欠です。そのためには、まず個々の強みや課題を把握し、それに基づいた具体的な目標を設定する必要があります。さらに、それをスモールステップに分解して進捗を管理することも重要です。
目標設定後は、進捗に応じてフィードバックや軌道修正を行いましょう。目標に向かって着実に進んでいるか、定期的に確認しながらサポートすることで、部下は目標達成に向けて意欲が高まりやすくなるでしょう。
【お役立ち資料】管理職に求められるスキルとは?
管理職にとって必要なスキルと習得法、マネジメントのコツをまとめた資料を無料で公開しています。とくに、新任管理者の方におすすめです。ぜひご活用ください。
部下育成の効果を高めるポイントを、7つに分けて具体的に紹介します。自身が実践できているか振り返りつつ、育成の参考にしてください。
普段から部下と積極的にコミュニケーションを図り、意見交換や相談がしやすい関係性を築きましょう。信頼関係の土台が構築されると、上司と部下相互の意思疎通が円滑になり、組織全体の活性化にもつながります。
信頼関係の深さを測る指標として「部下の本音を引き出せているかどうか」があります。そのためには、例えば呼び水として上司がまず失敗談を語り、部下に「失敗しても良い」という安心感を与えることも効果的です。自身のエピソードを共有しつつ「最近どう?」と部下に声をかけることで、本音で話しやすい環境が生まれやすくなるでしょう。
上司が部下を育成する際には、部下の一人ひとりに関心を持ち、相手を理解しようとする姿勢が重要です。上司が真摯に耳を傾けようとする姿に対して、部下は信頼感を抱き、心を開いて本音で話しやすくなります。結果的に、育成効果はさらに高まるでしょう。
具体的な傾聴のポイントとして、以下の3つを意識しましょう。
【お役立ち資料】部下に適切な仕事を任せるためには?
メンバーへ仕事を割り振る際、マネージャーは部下の能力や動機を正しく理解していなければいけません。本資料では、部下へ仕事を任せる前に確認・観察すべきことを詳しく解説していますので、ぜひご活用ください。
部下に必要なサポートの内容は、一人ひとりのスキルや状況によって異なります。上司は部下の状況やスキルの習得度などを把握し、最適なサポートを行いましょう。
サポート方法の一例として「SL理論」が有効です。SL理論は相手の状況に応じて自身のリーダーシップのスタイルを変える考え方で、1977年に行動科学者であるハーシィ(P.Hersey)と、組織心理学者のブランチャード(K.H.Blanchard) によって提唱されました。SLはSituational Leadershipの略であり、相手の状況に応じて自らのリーダーシップ行動を合わせるという意味合いです。
SL理論では、リーダーシップを「説明型」「説得型」「参加型」「委託型」の4つの型に分類しています。以下の図では、部下は右下→右上→左上→左下へと成長していきます。
このように、部下の成長段階に応じてコミュニケーション量や業務指示の方法を変えながら、効果的なサポートを実践しましょう。
上司は、部下に自分の考えや価値観を押し付けないようにしましょう。部下は個性やスキル、キャリア志向など、それぞれ異なる属性を持っています。上司の仕事は、部下を説き伏せることではありません。上司が良かれと思って育成、指導する内容が、その部下にとってふさわしいかどうか、省察しながら接しましょう。
もし部下の考えや価値観が間違っていると感じた場合も、いきなり否定するのではなく、まずは共感を示してから対話を進めることが大切です。共感は必ずしも合意を意味しませんが、多様な考えを受け入れる姿勢を表せるでしょう。その上で違いを明らかにしつつ、合意形成を図ることが重要です。
部下のミスや間違いを指摘する際は、感情的に怒るのではなく、言動に対して指摘するようにしましょう。叱る際には部下の人格や人間性を否定せず、改善してほしい言動にフォーカスしましょう。
部下に成長を促すための叱り方について、3つのポイントを紹介します。
部下の行動に対して具体的な指摘を行います。その際、人格や人間性を持ち出すのは適切ではありません。「あなたは〇〇だからダメだ」のような部下の人間性を否定するような伝え方は、やる気や自信を削ぎ、信頼関係を崩す原因となります。
行動に対する評価は、状況に応じて異なるケースも多々あります。行動のみならず、状況とセットで判断し、説明することが重要です。
状況の説明がされていないと、部下は「どのような状況であってもこの行動はNGなのだ」と勘違いし、今後の成長につながらなくなってしまうかもしれません。「Aの状況下での、Bの行動はよくなかった」というように、状況と行動は必ずセットで指摘を行いましょう。
問題となる行動を続けた場合、ビジネスにおいてどのような影響が起こり得るかについて、上司から部下へ問いかけを行いましょう。その上で、自分自身で考える機会を与えます。
上司が問いかけても部下が考えられない場合は、「私はこう思うけど、あなたはどう思う?」のように、上司側から示唆を含む質問をするのも有効です。いきなり示唆したりティーチングしたりせず、まずは問いかけから始め、段階的に情報を伝えましょう。
部下の成長を促すためには、到達すべき目標を明確にし、部下との話し合いを通じて合意形成を図ることが重要です。これにより、部下は自律的に努力をし始めます。
目標を設定時には、「上司が部下に期待すること」「部下が自身で目指す姿」の2点を擦り合わせ、部下のモチベーションを高めましょう。まずは部下に対する期待を明確に伝えるとともに、会社やチームの方針や求める人物像についても共有すると効果的です。そして、部下の意見や希望を聞きながら現実的な目標を設定し、成長意欲を引き出します。
ただし、いくら部下の希望があっても、あまりにも実力から乖離しすぎた目標は、かえってやる気を損なう要因にもなりかねません。部下の業務内容や状況、習熟度などを加味して目標を決定しましょう。
部下の育成において、目標設定後の定期的な振り返りは極めて重要です。進捗状況を確認しながら、必要に応じてフィードバックを行い、目標達成に向けたサポートを続けましょう。
育成計画の段階で振り返りのタイミングや頻度を定めておくことで、計画的なサポートが可能になります。
【お役立ち資料】フィードバックの進め方5ステップとは?
フィードバックはただ信頼感を伝えるだけではいけません。メンバーが目標を達成するために軌道を修正することが大切です。本資料では、フィードバックの進め方を5ステップで詳しく解説していますので、ぜひご活用ください。
部下育成は、ただスキルや知識を伝授するだけでは不十分です。上司が注意すべきポイントを把握した上で、意識的にサポートを行うことができれば、部下は成長に向かって安心して取り組めるでしょう。部下育成を効果的に進めるために、上司が注意すべきポイントを解説します。
部下の成長を促すためには、目標の明確化やモチベーションの引き出しが重要です。しかし、過度なプレッシャーをかけると逆効果になってしまう場合もあるでしょう。プレッシャーを感じた部下は自己保身に走りやすくなり、積極的なチャレンジを避けるようになる恐れがあります。
プレッシャーを和らげるためにも、目標は段階的に分けて設定したり、挑戦の過程でサポートがあると伝えたりすることが効果的です。また、失敗が許容される環境を整え、部下が試行錯誤できる雰囲気を作れているかどうかも確認しましょう。こうした安心感を与えることで、部下は自分のペースで成長しやすくなります。
部下の育成計画を立てる際には、上司が一方的に計画を押し付けないように気をつける必要があります。部下それぞれが異なる目標やキャリア志向を持っているため、彼らの意見や希望を尊重しながら計画を立てることが重要です。
部下が自身の意欲を反映できるような目標を設定できれば、自律的な学びや成長しようとする姿勢が育まれます。また挑戦により達成が現実的な目標設定は、部下の長期的なモチベーション維持にもつながるでしょう。
部下の育成において、日々のコミュニケーションは欠かせません。上司が積極的にコミュニケーションを図ることで、部下の業務状況や困りごとを把握し、適切なサポートを提供できる可能性が高まるでしょう。また、コミュニケーションを通して信頼関係が構築されれば、部下は安心して本音を話しやすくなり、スムーズな意思疎通が可能になります。
効果的なコミュニケーションを図るには、まず部下の話を傾聴し、意見や感情を尊重することが重要です。1on1をはじめとする定期的な面談やフィードバックの機会を設け、日常の中で小さなコミュニケーションを積み重ねながら、部下との信頼関係を築きましょう。
コーチングや1on1など、部下を育成する際に活用できる具体的な手法を6つ紹介します。しかし、これらの手法は、ただ実践するだけでは、効果的な育成にはつながりません。それぞれの特長を理解し、部下が置かれた環境や状況に適した手法を展開することが重要です。
MBO(Management by Objectives)とは、社員一人ひとりに目標を設定し、達成までのプロセスを管理する取り組みです。部下は、組織の方針と自身の方向性を擦り合わせながら、上司とともに目標を設定します。社員自らが目標達成までのプロセスを管理することで、主体的な取り組みにつながりやすいため、業務効率の向上も期待できるでしょう。
【関連記事】MBO(目標管理制度)とは?手法や目標設定の例・メリット
OJTとはOn-the-Job Training(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)の略で、日本で多くの企業が取り入れている育成手法のひとつです。実際の現場に存在する知識・スキルを、実務を通して身に付けます。
OJTでは、担当者となる先輩社員がマンツーマンまたはそれに近い体制で指導を進める方法が一般的です。多くの場合は、新入社員や未経験者、未熟練者に対して行われます。
【関連記事】OJTとは?メリットや進め方、効果を高める6つのポイント
Off-JT(Off-the-Job Training)とは、研修やセミナーといった活動を通し、職場を離れたところで業務に必要な知識やスキルを学ぶ手法です。職場では学べない内容や職場外で習得したほうが効果的、効率的である場合に用いられます。
例えば、DX推進の一環として、事務系社員がAI・IOT・RPAといった新しい技術を学ぶケースがあります。こうした専門知識は、業務の中で習得するのが難しく、体系的に学ぶ機会を設けることで実務への適応がスムーズになります。
また、新入社員研修もOff-JTの代表的な例です。ビジネスマナーや業務の基本知識は、職場での経験だけで身につけるよりも、研修を通じて体系的に学ぶほうが効率的です。
さらに、昇格時に行われる階層別研修もOff-JTの一つです。昇格に伴い、組織が社員に期待する役割は変化するため、普段とは異なる環境で新たな役割への理解を深め、必要なスキルを学びます。
こうしたOff-JTは、職場内で教育の機会を設けるよりも、外部の研修を利用したほうが、リソースや学習効果の面で効率的である場合が多いと言えるでしょう。
そのため、事業部門の担当者が現場の課題や必要なスキルを明確にし、人事担当者に実施してほしいOff-JTを提案するのが望ましいでしょう。管理部門からは見えにくい現場の実態を具体的に示すことで、より実践的で効果的なOff-JTの実現につながります。
コーチングとは、部下の主体性を引き出し、自発的な成長を促す育成手法です。部下が理想とする姿と現状について関心をもって傾聴し、これからの行動を引き出すために問いかけを行います。コーチは部下の考え方や自主性を引き出す効果的な質問を投げかけていきます。
コーチングには一定の知識やスキルが必要ですが、部下の自主的な行動を導くため育成には時間がかかります。しかし、コーチングの効果は大きく、部下はモチベーションを触発され、自ら考え、行動意欲を高めるといった、本質的な成長が望めます。
コーチングを行う際に基本となるスキルや原則、コーチング力を身に付ける方法については以下の記事で詳しく解説しています。
【関連記事】コーチングとは?意味やビジネスでの活用効果、3つの原則を解説
1on1は、上司と部下がマンツーマンでミーティングを行い、部下の成長を促す育成手法です。定期的な対話を通して、部下の考えを整理し、新たな気づきを与えることで、上司は部下をサポートします。
定期的な1on1の実施により、部下は自身の成長に気づきやすくなり、また上司から認められることでエンゲージメントも向上するでしょう。
【関連記事】1on1とは?目的や話す内容・面談との違い
上司から部下にテーマを与え、学習を促す方法も有効な育成手法のひとつです。最初は上司の指示によって始める外発的動機であっても、学習を続けるうちに「これは役に立ちそうだ」「これならできそうだ」「もっと学びたい」といった内発的動機付けへと変化することがあります。部下が主体的に取り組むようになると、習熟の速度が上がるでしょう。
また、上司は単に学習を促すだけではなく、進捗を確認し、プロセスに応じたフォローをすることが重要です。
【お役立ち資料】管理職に求められるスキルとは?
管理職にとって必要なスキルと習得法、マネジメントのコツをまとめた資料を無料で公開しています。とくに、新任管理者の方におすすめです。ぜひご活用ください。
部下の育成における具体的なステップを紹介します。抽象的な「育成」という言葉に対して具体的なアプローチを示すことで、部下育成は効果的に進めやすくなるでしょう。何をすべきか迷っている際は、以下のステップに沿って実践してください。
まず、育成対象となる部下の育成における目標を設定します。企業や組織が求める人材像を目標におき、部下にいつまでにどの状態までを目指してもらうのか、将来像を具体化します。自社が必要とする人材の確認は、人事制度の職能等級や職務記述に基づいて検討するのがよいでしょう。
仮に設定した目標については、部下と面談を行った上で、きちんと合意形成することが大切です。
部下との面談を通して、部下の現在のスキルや課題などを深掘りしましょう。このステップにおける目的は、目標達成のための障壁やボトルネックを特定することです。スキルや心理的な問題といった現状の把握が、次のステップで役立ちます。
目標と現状を確認したら、育成計画を立てます。「いつまでに」「何を」「どのレベルまで」できるようにするかを具体化し、部下の意見も反映させましょう。育成計画に部下自身の考えが盛り込まれることで、納得感が高まり、主体的な取り組みが促されます。
育成計画に基づいて、具体的な手法を選びます。人材育成には、前述したOJTやOff-JT、ティーチング、振り返りとフィードバック、コーチングなどさまざまな手法があります。育成の対象者と目的に合った、適切な手法を選びましょう。
実務を通した育成を行います。部下に仕事を割り振ってからも任せきりにはせず、必要に応じてフォローやサポートを行います。部下の成長を後押しするためには、少し難易度の高い業務を課するのも有効です。成果が出れば大きな自信につながるでしょう。
最後に、実施した内容に対してフィードバックを行います。フィードバックを基に改善点を洗い出し、次のPDCAサイクルへとつなげることで、持続的な成長を促します。
【調査レポート公開】部下育成の実態とは?管理職の本音を徹底解剖
部下の成長を促し、チームの成果を最大化することは、管理職にとって重要な役割です。しかし、「思うように部下が成長しない」「どこまで介入すべきかわからない」といった悩みを抱える管理職は少なくありません。
そこでパーソルグループでは、管理職 900人に調査を実施し、レポートを公開しています。
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このような部下との向き合い方をはじめ、管理職のリアルな声をまとめています。「他の管理職がどう育成に取り組んでいるのか知りたい」「効果的な育成のヒントが欲しい」という方は、ぜひご活用ください。
部下の育成には多様な手法や意識すべきポイントがあり、上司の関わり方が成果に直結します。
パーソルグループでは、上司のマネジメント力や人材育成に関する研修プログラムを豊富に用意しています。部下育成の実践や運用にあたって困っていることがありましたら、お気軽にご相談ください。
株式会社パーソル総合研究所 ラーニング事業本部
トレーニングパフォーマンスコンサルタント
渡邉 規和
大手人材サービス業にて営業管理職(東京・仙台・大阪)、BPO事業のプロジェクトマネジメントに従事。9つの新規受託案件の立ち上げ~運用に関わる。その後、合弁会社の人事(採用・研修)を経て、2018年 富士ゼロックス総合教育研究所(現パーソル総合研究所)入社。
トレーニングパフォーマンスコンサルタントとして、営業力強化・コミュニケーション力強化を中心に組織人材開発に従事。 対面集合・オンライン合わせて年間約140日のトレーニング・ワークショップをファシリテーション。
自身のリカレントのために、専門職大学院である社会構想大学院大学 実務教育研究科に在籍。研究テーマは「『越境学習としての集合研修』を起点とした組織外知識の組織内転移」
資格等:・PMP®
・Points of You® Expert
・DiSC®認定ファシリテーター
・ブレンディッドラーニングデザイナー (一般社団法人 日本フューチャーラーナーズ協会)
・認定ワークショップデザイナー (一般社団法人 ワークショップデザイナー開発機構)
・国家資格キャリアコンサルタント (登録番号17060950)
・アクションラーニングコーチ (NPO法人日本アクションラーニング協会)
A1.部下が育つ上司の特徴として、以下の8つを挙げています。どれも難しいことではありませんが、実際の現場では、育成担当者の多忙により、傾聴姿勢や評価がおざなりになる場合があります。今一度、正しく実践できているか確認しましょう。
1.プロセスを評価する
2.約束を守る
3.感謝と謝罪ができる
4.相手の話を聴く
5.部下を理解し受容する
6.自身で考えるきっかけを多く与える
7.十分な時間を確保する
8.管理職自身も学び続ける
A2.部下育成の際にやりがちな失敗として、以下の5つが挙げられます。自身の現状と比較し、必要があれば改善しましょう。
1.簡単な仕事しか任せない
2.感情的・高圧的な態度を取る
3.育成ではなく「指示」になっている
4.育成に計画性がない
5.育成に十分な時間がかけられていない
A3.育成の効果を高めるポイントとして以下の7つが挙げられます。ポイントを押さえて実践に取り入れてみてください。
1.部下とコミュニケーションを図り、対等な関係を築く
2.部下に関心を持ち、傾聴する
3.部下一人ひとりに合わせたサポートを行う
4.自分の考えや価値観を押し付けない
5.怒るのではなく「叱る」
6.目標を明確にする
7.振り返りを行う