2024年03月04日
2024年08月29日
VUCA時代では、組織のメンバー一人ひとりの主体的な行動が求められます。メンバーの主体性を育てるアプローチとして注目されているのがコーチングです。コーチングを取り入れることで、変化に柔軟に対応できる主体性を持ったメンバーの育成、ひいては組織の自律的な成長が期待できます。
しかし、組織のマネジメント手法としてコーチングの活用を検討している人の中には、効果があるのか分からず疑問や不安を感じている人もいるのではないでしょうか。
そこで本記事では、コーチングの本質にスポット当てて解説していきます。コーチング的なかかわり方と現在のかかわり方を比較しながら、お読みください。
【調査レポート】マネジメントの取り組み・実態調査
労働人口の減少など企業を取り巻く環境が大きく変化するなか、人材育成に課題を抱える企業が増えています。
パーソルグループでは、人材育成やマネジメントの実態について調査し「マネジメントの取り組み・実態調査レポート」を公開しています。レポートでは、離職、上司・部下の認識ギャップ、キャリアなどに焦点を当て、各社のマネジメント状況やパフォーマンスの高い企業の特徴をまとめています。
組織をどのように改善すべきか、ヒントを得られる内容になっていますので、人材育成に課題を抱えるマネージャー・人事の皆様はぜひご一読ください。
目次
コーチングとは、メンバー(指導を受ける側)の持っている顕在・潜在能力を引き出し、メンバーの抱える問題や課題の解決を支援する接し方の技法です。
体系化されたスキルとして専門的に学ぶことも可能ですが、部下の可能性を信じて支援する、マネージャーのマインドが大切です。
コーチングに似た技法に、ティーチングやカウンセリングがあります。コーチングとの違いを以下の表にまとめました。
コーチング | メンバー(受ける側)が持っているスキルや潜在能力を引き出す |
---|---|
ティーチング | マネージャー(教える側)が持っているスキルや能力を伝える |
カウンセリング | メンバー(受ける側)の悩みや困りごとを解決する |
ここからはコーチングとティーチング・カウンセリングの違いについて解説します。目的に応じて使い分けましょう。
ティーチングは、マネージャーが知識やスキルを提示し、メンバーがそれを学ぶというスタイルです。基本的にはマネージャーからメンバーへという一方向的なコミュニケーションになります。
一方でコーチングにおいては、マネージャーとメンバーは対等な関係性で、メンバーの持っているスキルや潜在能力を引き出し、課題解決や成長を支援します。
カウンセリングは、マネージャーとメンバーのコミュニケーションを通じて、メンバーの抱える悩みや困りごとを解決に導くプロセスです。カウンセリングでは、メンバーの心理状態やモチベーションの回復を重視します。
一方でコーチングでは、メンバーの中に眠る能力を引き出し、自律的に成長できるようサポートすることが重視されます。
昨今はVUCA時代、つまりビジネス環境が目まぐるしく変転する予測困難な時代です。VUCA時代の組織では、個の成長や個の主体的な行動により、組織の競争優位性を保つことができるといえます。
パーソル総合研究所の調査によると、他者とのかかわりによって内省支援を受けている従業員ほど、さまざまな観点から成長を実感していることが明らかになっています。一方で、業務支援や精神的支援を得ても、成長感にはつながりにくいことが確認されています。
このことからも、コーチング(もしくはコーチング的なかかわり方)がマネジメントにどれほど効果的かが理解できるでしょう。
【関連記事】VUCAとは?意味や時代に合わせた対策・必要な組織作りを解説
コーチングの主なメリットは、以下の3点です。
それでは一つずつ見ていきましょう。
コーチングでは、メンバーが自己理解を深めることを支援します。内省により、メンバーは自身の思考パターンや価値観・動機などに気づき、本当の強みや弱みを理解します。すると、強みを生かすだけではなく、弱みをカバーするために他者をどう巻き込むか、どのような支援が必要かを考えられるようになります。
このように、コーチングを通して自己理解を促すことは、メンバーの成長の土台となります。
前述の通り、内省を促すこと(内省支援)は、業務能力の向上に繋がるという調査結果が出ています。組織全体の底上げのためにも、組織全体でコーチング的な対話をおこなう風土を醸成するべきだといえます。
コーチングの最終的なゴールは、メンバーが自分自身でコーチングのプロセスを再現できるようになる、つまりセルフコーチングができるようになることです。
コーチングを取り入れる前は、メンバー自身が独善的に目標設定を進めてしまいがちですが、コーチングを受けることで、自分の中にコーチを仮想できるようになり、より客観的な判断に基づいて目標達成までのプロセスを考えられるようになります。
コーチングは信頼関係の構築にも寄与します。
従来のトップダウン型のマネジメントやティーチング的な接し方は、マネージャーからメンバーへの一方的なものになりがちで、信頼関係を構築しにくい傾向にあります。そのため、メンバーの主体的な行動や率直な意見、潜在能力を引き出しにくい点がデメリットです。
一方でコーチングでは、目標達成に向けて双方がコミュニケーションを取り合います。メンバーが何を考え、どのような感情を持って、どのように行動したのかを尊重するため、信頼関係を築きやすく、より効果的なマネジメントを行えるでしょう。
コーチングには主に以下3つのデメリット・注意点があります。
しかし、これらはコーチングの特徴を理解することで解消できます。
コーチングにおいてメンバーは、マネージャーとのコミュニケーションを通じて目標を設定し、それに向かって主体的に行動することが求められます。また、マネージャーはメンバー自身が気づきを得て、問題解決ができるように促す必要があります。
マネージャーからメンバーへの一方向的なコミュニケーションである、ティーチングと異なり、コーチングはすぐに効果が出るものではありません。結果を急がず、長期的な目線を持って取り組む必要があります。
コーチングはメンバーの特性や考え方に合わせて、相手が受け止めやすいコミュニケーションを取ることが原則です。そのため、組織のメンバーが多ければ、その分マネージャーの時間的・精神的な負担も大きくなります。
一方で、相互にコーチングを行う風土が職場全体に定着すると、コンフリクトやコミュニケーションロスなどが軽減され、コミュニケーションの質が高まり、マネージャーの負担が減っていくことも期待できます。
コーチングは、マネージャーとメンバーの信頼関係の深度や、質問・傾聴・承認といったスキルの高さにより、成果にばらつきが出る場合があります。信頼関係の浅い状態だったり、やり方を間違ったりすると、逆効果になる可能性もあるため、成果が出ていないことを焦って、メンバーを急かすのは避けましょう。
コーチングに自信がない方は、自身もコーチングを受けたり、研修やセミナーで第三者のフィードバックをもらったりすると良いでしょう。
具体的なコーチングの進め方は以下の6ステップです。
なお、コーチングは必ずしも1回行なって終わるものではありません。メンバーの目標達成度合いなどを見つつ、各ステップを行き来しながら、慎重に進めていくことが大切です。
コーチングの前段階として、マネージャーとメンバーのラポールを形成し、関係性を構築します。
コーチングにおいて何よりも大切なことは、信頼関係を築くことです。これを心理学の用語で、ラポールと呼びます。ラポールの形成は、日常の小まめなコミュニケーションを通じ、相手に自分が「承認されている」という安心感を与えることが大切です。
ラポールの形成を手段と考える必要はありませんが、コーチングを効果的に進めるためにも、普段のコミュニケーションで承認や傾聴ができているかを振り返りましょう。
コーチングの最初のステップは、目標の確認です。設定した目標や自身が得たいと思っているものを確認します。
次は、メンバーに現在の自分の状態を評価してもらい、マネージャーがその評価の理由を深く掘り下げます。感情や価値観に焦点を当て、メンバーが自己認識を高められるよう支援します。
次に、これまでの取り組みや達成したことについて内省を促します。うまくいっていない場合は、その根本的な要因を探索させるステップです。
マネージャーは、メンバーが自身の行動パターンやつまずきやすいポイントに気づき、理解できるような質問をします。そして、メンバー自身で改善策を導き出せるよう促します。
マネージャーはメンバーの考えの重要なポイントを要約し、フィードバックします。これにより相互の理解が一致していることを確認します。このステップは、メンバーへ「話を理解してもらっている」と安心感を与える上でも重要です。
表面的な内容だけでなく、相手の感情にも焦点を当てたフィードバックを与えることで、さらにメンバー自身の考えを深めることにつながります。
【関連記事】フィードバックとは?実施手順と成長を促すコツをわかりやすく解説
相互理解が深まったら、具体的なアクションプランを考えるよう促し、目標達成に向けて高いモチベーションで臨めるよう、積極的に激励しましょう。そして、いつでも支援できると伝え、安心感を与えることも大切です。
【お役立ち資料】フィードバックの進め方ガイド
フィードバックはいきなり実施するのではなく、メンバーの情報収集や信頼性の確保から始める必要があります。本資料では5つのステップでフィードバックの進め方を詳しく解説します。
コーチングはさまざまなテクニックや方法論が公開されていますが、メンバーの可能性を信じ、寄り添い、成長を支援するという在り方・マインドが何よりも重要です。
どんなにテクニックを学んでもメンバーとの信頼関係がなければ、マネージャーからのコミュニケーションが負担になったり、立てた計画通りに進捗していない場合はプレッシャーを感じたりすることもあるでしょう。
そのためコーチングを成功させるには、日頃から「相手を尊重し成長を支援しようとする姿勢が伝わるコミュニケーション」を行う必要があります。
例えば、コーチングのためにセットされた1on1だけではなく、会議後に声をかけたり、進行中の業務の困りごとを聞いたり、普段から積極的にコミュニケーションをとることがおすすめです。
【関連記事】1on1とは?目的や話す内容・面談との違い【取り組み調査あり】
コーチングを成功させるためには、以下のようなスキルを身に付けましょう。
効果的なコーチングには、メンバーを承認する、つまり相手を認め、尊重することが大切です。承認は、コーチングのベースとなる信頼関係を築く第一歩といえます。
「相手を認める発言をしている」というマネージャーの主観では不十分であり、メンバーが承認されているという安心感を持つことが重要です。
例えば挨拶やチャットへの小まめなリアクション、メンバーの行動に対して細かな評価やフィードバックによって、「承認されている」という感覚を与えることができ、モチベーションの向上につながるでしょう。
傾聴とは耳や目、心を相手に傾けて話を聴くことを指します。相手の目を見て「聴いている」態度を示すことや、発言への共感、驚きや喜びを顔に出すことも含まれます。
傾聴では相手が伝えたい本質的な部分や感情を汲み取り、積極的に内容を把握しようとする、アクティブリスニングの考え方も重要です。
傾聴ができていると、相手も話しやすくなり、より率直な考えを引き出せます。
質問をする際は、承認や傾聴を通じて自ずと出てくる疑問を問いかけることが大切です。
ポイントは、メンバー自身で問題の背景を探求できるような具体的な質問をすることです。例えばスケジュールが遅れているときは、どの作業に時間がかかったのか質問すると、状況が詳細化・具体化でき、原因が明確になるでしょう。
ただし問題の原因を掘り下げる質問は、場合によっては詰問されていると感じる可能性があります。マネージャー自身が判断・解決・評価するために必要な情報を得るための自分本位な質問が続くと、メンバーの主体性を引き出すことができません。
コーチングでは、以下3つの原則を覚えておくと良いでしょう。
コーチングは、マネージャーとメンバーがインタラクティブ(双方向)に対話を重ねるプロセスです。
メンバーだけが能動的になるのではなく、マネージャーも相手の話を積極的に聴く姿勢を見せ、フィードバックを与えることで初めて、メンバーの主体性が養われます。
テーラーメイド(個別対応)であることも、コーチングの基本原則です。なぜなら、メンバーによって課題や目標、さらに能力やマネージャーとの関係性は異なるからです。課題の深刻度や能力などに応じて、コーチングセッションの期間や環境(時間や場所など)、1on1の頻度などを調整するよう心がけましょう。
コーチングは一度1on1をやって終わり、というものではありません。継続的に働きかけることで、徐々にメンバーは潜在的な力を発揮できるようになります。数ヶ月で目に見えて効果が現れる人もいれば、何年も継続して効果が出る人もいるでしょう。
メンバーを信じ、時間をかけて向き合う忍耐力も必要です。
コーチングのプロセスを踏んでいても、失敗してしまうことがあります。本章では、よくある失敗例を紹介します。
コーチングでは質問を通じて相手の考えを引き出すことが重要です。しかし、場合によっては「誘導尋問されている」とプレッシャーを与え、自由な意見や発想を妨げることがあります。
このような失敗は「ラポールの構築」のステップを飛ばしてしまうことによって起こります。信頼関係がなければ、「なぜそのような質問をされるのか」「どう答えればマネージャーは納得するのか」といったように、相手の意図を先回りして考えてしまう可能性があります。しかし、承認されているという安心感があれば、自分の素直な考えを述べられるでしょう。
マネージャーは、成果を上げることのみ優先されていないか、メンバーに寄り添ったかかわり方ができているか、といった点を振り返るように心がけましょう。
テクニックが先行することも失敗の原因になります。例えば1on1でマニュアルを見ながら「相手の回答に対して、このように承認する」などと考えながら進めても、表面的な回答しか返ってこないでしょう。一緒に目標達成に向かっているという意識を持ちづらく、結果として気づきや行動の変化を促すことにはつながりません。
テクニックではなく、目の前にいるメンバーが今どう考え、どういう思いを持って、どう行動したのかに集中し、本音や自由な意見・発想を引き出すことが重要です。
コーチングが必要とされている背景は主に以下の2つです。
昨今は価値観が多様化しており、世代間のギャップが拡大しています。こうした状況で従来のトップダウン型で一方向的なマネジメントでは、メンバーのモチベーションを維持し、組織を持続させることは困難です。
そのためメンバー一人ひとりの考えや意見を尊重したマネジメント手法である、コーチングが注目されています。
また、VUCA時代では、メンバー一人ひとりが状況変化を素早く察知し、主体的に行動することが求められます。内省を促し、メンバー自身の気づきに基づいて進めるコーチングのプロセスは、メンバーの主体性を養う上で効果的です。メンバーが主体的に動けるようになると、組織の自律的な成長にもつながります。
コーチング、またはコーチ的なかかわり方は、すぐにでも日常で取り入れることができます。ここでは、コーチングを身につける方法を3つ紹介します。
コーチングを身につける第一歩として、実際にコーチングを受けることが最も効果的です。プロがどのような関わり方をしてくれるのか、またコーチングを受けて、自身の気持ちや行動がどのように変化するのか、身をもって体験できます。
など、自身の変化をよく観察してみましょう。
コーチングに関する書籍は多く出版されています。本で学ぶメリットは、短時間で幅広い知識を身につけることができる点です。コーチングにはさまざまなモデルがあるため、どこのコーチングを受けるかの判断にも活用できるでしょう。
ただし、本には一般的なことは記載されていますが、実践の場では個人に寄り添ったかかわり方をする必要があります。そのため、一般的な知識に捉われず、状況に応じてより良い方法を模索することが大切です。
本だけでイメージしづらい部分は、YouTubeなどの動画コンテンツで補うこともできます。YouTubeでは、プロのコーチなどがコーチングの考え方を解説したり、実際のコーチングセッションを公開したりしています。
eラーニングとは、パソコンなどのデジタル機器、またインターネットを活用して行う研修プログラムです。再現動画などを通じ、起こりがちな失敗例や成功例を学ぶことができるため、より実践的なスキルを身に付けられるでしょう。
セミナーや研修では、コーチングのスキルや知識を学ぶだけでなく、その場で実践し、フィードバックをもらうこともできます。より短期間で実践的なスキルを身に付けたい方におすすめの方法です。
【調査レポート】マネジメントの取り組み・実態調査
労働人口の減少など企業を取り巻く環境が大きく変化するなか、人材育成に課題を抱える企業が増えています。
パーソルグループでは、人材育成やマネジメントの実態について調査し「マネジメントの取り組み・実態調査レポート」を公開しました。
レポートでは、離職、上司・部下の認識ギャップ、キャリアなどに焦点を当て、各社のマネジメント状況やパフォーマンスの高い企業の特徴をまとめています。
組織をどのように改善すべきか、ヒントを得られる内容になっていますので、人材育成に課題を抱えるマネージャー・人事の皆様はぜひご一読ください。
コーチングは、マネージャーがメンバーの潜在能力を引き出し、目標達成を支援するマネジメント手法です。
多様性が重視され、めまぐるしく環境が変化するVUCAの時代において、どのような組織においても取り入れるべきアプローチといえます。
さまざまなテクニックや方法論が公開されていますが、コーチングではメンバー一人ひとりの可能性を信じ、寄り添い、成長を支援するという「在り方・マインド」が何よりも重要です。
メンバーの育成やマネジメントに課題を感じている方は、ぜひ積極的にコーチングを取り入れてみてください。
株式会社パーソル総合研究所
組織力強化事業本部 コンサルティング部 Hoganグループ
山元 ゆう子
大手内資製薬メーカー(営業、社員教育・研修、マネジメント、マーケティング)を経て、現職。一人ひとりの「強み」を活かした育成を通じた、リーダーシップ開発、ワークエンゲージメントやパフォーマンス向上を実現するためのワークショップおよびコーチ経験が豊富。ビジネス総合スキル全般のスキル向上に関するコンテンツ開発および講師を担っている。