企業からも大注目のアンガーマネジメントとは?プロが実践法まで徹底解説

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アンガーマネジメントとは、怒りをコントロールするための心理トレーニング。パワハラ防止策として企業からも注目を集めています。アンガーマネジメントとは何か、そしてその実践法と重要性について、アンガーマネジメントのプロが解説します。

目次

アンガーマネジメントって何?

いま、多方面で話題になっているアンガーマネジメント。そもそも、いつ、どこから生まれてきたのか、どのように働くものなのかを解説していきましょう。

米国発・アンガーマネジメントには約50年の歴史が

アンガーマネジメントは、1970年代に米国で生まれた心理トレーニングであり、もともとはDVやマイノリティのメンタルヘルスプログラムから発展したという説が有力です。2001年に起きた世界同時多発テロ事件による社会不安により、米国国内で一気に普及しました。誕生から約50年経った現在、アメリカ全土の企業や教育機関などに導入され、プロアスリートのメンタルトレーニングなどにも取り入れられています。

日本でアンガーマネジメントが知られるようになったのはこの約10年ほど。特にパワハラが社会的に問題となっていること、そしてコロナ禍で不安が広がる情勢を背景に、現在さらに広く浸透しつつあります。

そもそも人はなぜ怒る?

アンガーマネジメントとは何かを知るために、まず、人が怒るときのメカニズムを見ていきましょう。

人が怒るメカニズムは、ライターに例えることができます。ライターは、燃料として入っている可燃性のガスに、着火操作の摩擦で起きる小さな火花が引火することで火が付きます。

怒りにとっての燃料は、「不安」「心配」「焦り」「悲しい」といった「マイナス感情」や「眠い」「疲れた」「空腹」といった「マイナス状態」です。そして、「〇〇は~であるべき」という自分が大切にしている価値観が裏切られたとき、人は苛立ちを感じます。これが火花となり、燃料であるマイナス感情やマイナス状態に引火すると怒りの炎が燃え上がるのです。同じ出来事に対しても強い怒りを感じる時とあまり気にならない時があるのは「自分の中にどのくらい燃料が多くたまっているか」に関係しています。

また、自分の「べき」(大切な価値観)を把握し、その「べき」をゆるめる、手放せる「べき」は手放していくということが、感情を上手にコントロールするために重要となります。

人の怒りが生まれるメカニズム

人の怒りが生まれるメカニズム

【出典】一般社団法人日本アンガーマネジメント協会

「怒り=悪」じゃない 「怒り」の5つの性質とは

このように、「『~べき』が裏切られた」と感じたときに人が抱く感情である怒り。しかし、「怒り=悪いもの」というわけではありません。怒りは別名「防衛感情」と言われ「大切なものを守るため」の重要な感情です。

また、怒りには以下の5つの性質があります。

怒りの5つの性質
1 高いところから低いところへ流れる
2 身近な対象にほど強くなる
3 矛先を固定することができない
4 伝染しやすい
5 エネルギーになる

1つ目から3つ目の性質は、まさしく職場でのパワハラ発生の要因に直結します。ポジションが高い人から低い人に怒りはぶつけられやすく、期待も甘えも強くなる身近な部下に対しては、より強い怒りを感じます。もともとの怒りの原因が当人になくても部下に当たってしまうことも、「矛先を固定できない」という怒りの性質に由来します。

そして、4つ目の性質にある通り、怒りは人と人との間で伝染しやすいため、怒りをコントロールできない人がいると周囲の人も気が立ってしまい、職場環境が悪化していく負のスパイラルに陥ってしまうのです。

しかし、性質の5つ目に挙げた通り、怒りという感情は、自分自身や世の中をよりよく変えようとするエネルギーにもなります。この性質を上手に使えるようになるためのトレーニングが、アンガーマネジメントなのです。

3つのステップで実践!アンガーマネジメント

アンガーマネジメントの基本的なステップは、次の3つです。

アンガーマネジメントの3つのステップ
1 「衝動」のコントロール
2 「思考」のコントロール
3 「行動」のコントロール

それぞれの方法について解説していきます。

まずは「6秒」!怒りの温度計をつけてやりすごす

1つ目のステップは「衝動」のコントロールです。これは怒りを感じた瞬間に、すぐに反射しないトレーニングをするというもの。怒りを感じた時に衝動にまかせた言動をすると、さらに事態を悪化させてしまい、後悔につながります。

このトレーニングのポイントは、「6秒」をやりすごすこと。怒りを感じてカッとなったとしても、6秒ほど経過すると、理性が介入して冷静な判断ができると言われています。

この6秒をやりすごすための方法の1つが「怒りの温度計をつける」ことです。0を自分の「穏やかな状態」、10を「人生最大の怒り」とすると、「いま自分が感じている怒りの温度(点数)は1~10のどれになるか」と自分に問いかけるのです。

「怒りの温度計」をつけてみよう

「怒りの温度計」をつけてみよう

【出典】一般社団法人アンガーマネジメント協会

多くの人にとって怒りをコントロールしにくい理由の1つは、尺度がないことです。怒りはとても幅広い感情です。しかし「怒っているか/怒っていないか」の二択のみで自分の怒りをとらえていると、「大したことのないはずのことに対しても怒りを爆発させてしまって、あとで後悔……」ということになりかねません。

そこでこのように、怒りを感じたらすぐに点数をつけることを習慣化し、自分なりの尺度をもって怒りをとらえることが有効なのです。理性が働くまでの時間をやりすごせるうえ、自分の怒りを客観視できるようになり、自分の怒りの傾向、対処法が考えやすくなります。

「気分屋」はもう卒業!「許容できる」か「許容できない」かで対処を決めよう

衝動をコントロールするだけでは、怒りをコントロールしたとは言い切れません。さらに次のステップとして、「思考」のコントロールと、「行動」のコントロールを行います。

2つ目のステップである思考のコントロールは、自分にとって「怒る必要のある」ことか、「怒る必要のない」ことなのかを線引きすることから始まります。「そもそも人はなぜ怒る?」の項目で解説したように、まず自分の「べき」を明確にしてみるのです。

たとえば、相手が締め切りに遅れることに怒りを感じる人は、自身の「締め切りは守るべき」という「べき」の許容範囲を以下の3つのゾーンに分けて線引きしてみましょう。

  • 「許せる」=自分が信じている「べき」と全く同じ
  • 「まあ許せる」=自分の「べき」とは異なるが許容できる範囲
  • 「許せない」=自分の「べき」とは大きく異なる上に、受け入れられない、許容できない範囲

締め切り日の定時までの提出は「許せる」、締め切り当日深夜の提出は「まあ許せる」、締め切り日以降の提出は「許せない」、というように自身の「べきの境界線」を明確にします。

「まあ許せる」までのゾーンは「怒る必要のないこと」、「許せない」ゾーンに入ったことは「怒る必要のあること」になります。

そして、この「怒ること/怒らないこと」の境界線を明確にすることができたら、3つの努力に取り組みましょう。

「怒ること/怒らないこと」の境界線3つの努力
1 境界線を広げる努力
2 境界線を一定にする努力
3 境界線を見せる・伝える努力

怒りすぎを防ぐためには「まあ許せる」の範囲を広げることがポイント。怒りを感じやすい人ほど、「まあ許せる」ゾーンが狭いと言えます。自分がどこまで許せるのかを見極めるのに使うキーワードは「せめて」「少なくとも」「最低限」などの言葉です。先の例なら、「まあ許せる」ゾーンは「『せめて』締め切り翌日の朝9時まで」と見直せるかもしれません。

「心の許容量」(まあ許せる)の範囲を広げよう

「心の許容量」(まあ許せる)の範囲を広げよう

【出典】一般社団法人アンガーマネジメント協会

許容範囲は際限なく広げればいいというわけではありません。これは譲れないという「許せない」ゾーンに入ることもあるでしょう。それは「怒る必要のあること」です。

次に心がけるのは、いつでも、誰に対しても、同じ基準で怒ること。「怒ること/怒らないこと」の境界線がその日の気分、機嫌などによって変わってしまうと、「自分がなぜ怒られているのか」わからなくて関係性に悪影響を及ぼします。この境界線を一定に保つのが大切です。

最後に、自分の「怒ること/怒らないこと」の境界線を人に見せる・伝える努力をします。「べき」の三重丸は人によって異なります。また、その人の三重丸がどのような形や大きさなのかは他の人からは見えません。そのため自分の「べき」の境界線を見せるためには、具体的な言葉にして伝える必要があります。

たとえば前の図のように「まあ許せる」ゾーンを一定にしたならば、締め切りを相手に伝えるときに「せめて締め切り翌日の朝9時までには確認できるように提出をお願いします」というように、何をどうして欲しいのかを普段から伝えておくのです。

「言わなくてもわかるはず」という思い込みは禁物。どんなに身近な相手であっても、自分が何を大切にしているか、どの程度が許容範囲なのかは、言葉にしなければ理解してもらえません。

2つの軸で怒りを整理、怒りを上手に行動に移そう

思考のコントロールで「許容できない/怒る」と判断したら、次は3つ目のステップである「行動」のコントロールです。「怒り」の感情のままに行動するのではなく、自らの意志でどのように行動すればよいのかを考え、選択します。

「行動」のコントロールでは、下の図のように4つのゾーンに整理して考えます。まずはこの状況を自分の力で「変えられる」か「変えられない」か、次に、今置かれている立場において「重要」か「重要ではない」か、の2つの軸で対処の仕方を考えます。

2つの軸で考え、行動を選択する

2つの軸で考え、行動を選択する

【出典】一般社団法人アンガーマネジメント協会

どんなに怒りを感じても、天気や交通機関の遅延など自分の力で変えられないこともあります。一方で、働きかけ、努力をすることによって変えられることもあるでしょう。怒りを感じたらその対象は「自分の力で変えられるか、変えられないか」を見極めて線引きします。次に「今自分がいる場所、役割、立場において、それは重要なことか、重要でないか」を見極めて線引きします。

たとえば今、あなたが怒っていることがあり、それが十分「変えられる余地のあるもので重要」だと考えるならば、今すぐ取り組まなければならない課題です。「変えることはできるけれど、今はそれほど重要でない」と考えるならば、余力がある時に取り組めばよいという課題になります。

あなたが怒っていることが「変えられないけれど、重要なこと」だという時は、変えられないという状況を受け容れ、その上で現実的な選択肢を探します。怒りを感じていることが、「変えられなくて重要でもない」のであれば、それは放っておけばいい問題です。

そして、怒りを感じた時に行動を選択する基準は、「ビッグクエスチョン」です。

アンガーマネジメントの「ビッグクエスチョン」
「自分にとっても周りの人にとっても、長期的に見て健康的な選択は何だろうか?」

自分が選択した行動によって起こる結果が、この基準に沿ったものであるかどうかが重要です。

パワハラ防止だけじゃない!アンガーマネジメントがビジネスで重要な理由

アンガーマネジメントは、現在多くの企業で研修等に取り入れられています。

特に、『「怒り=悪」じゃない 「怒り」の5つの性質とは』で紹介した通り、怒りというのは高いところから低いところに流れる性質を持っているもの。トップ、管理職層の研修からアンガーマネジメントを取り入れていくことで、組織全体のパワハラ防止に役立つと言えるでしょう。

最終的には全ての社員一人一人がアンガーマネジメントを身に付け、感情のコントロールができる状態を目指すのが理想的です。それはまさに「アンガーマネジメント経営」です。「アンガーマネジメント経営」を行うことによる効果は、単に「パワハラの防止」というだけではありません。

いま企業の多くが心を砕いているのが、レピュテーション(評判)マネジメント。SNSが発達した昨今、「あの企業は社内の雰囲気が悪い」「古い価値観にこだわり、変化を受け入れない」という評判が広まれば、業績に悪影響が出るでしょう。アンガーマネジメントが浸透している組織では、一人一人の価値観が尊重されることでイキイキとはたらくことができる環境が醸成され、おのずと好業績につながります。

かつては社員全員が同じ価値観を持つ同質性の高い企業がよしとされていた日本でも、現在では多様性を重視した組織への変革の必要性に迫られています。アンガーマネジメントは誰もが簡単に取り組むことができ、再現性が高い体系的なメソッドです。チームビルディングのプロセスにおいても、メンバーの価値観を可視化し、他者の価値観を受容できるようになるためのトレーニングがしっかりとつくられています。価値観の大きな転換期となるこれからの時代の組織づくりに必須と言えるのではないでしょうか。

アンガーマネジメントはトレーニング!継続して効果を高めよう

アンガーマネジメントは、怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニングです。筋トレなどと同じように、学ぶだけでなく、継続して取り組み続けることが何よりも重要。「衝動」のコントロール、「思考」のコントロール、「行動」のコントロールの3つのステップを習慣化することにより、効果が高まります。

企業においても、まずは職場全員で研修を受講し、その後も皆で継続的にトレーニングに励み、お互いにフィードバックできる環境を作るなど、習慣化するための工夫を行うことが重要だと言えるでしょう。

インタビュー・監修

阿井優子(あい・ゆうこ)

阿井優子(あい・ゆうこ)

一般社団法人日本アンガーマネジメント協会認定トレーニングプロフェッショナル。大手証券会社にて投資相談、証券営業に従事。その後、研修講師として民間企業、官公庁の研修・講演の仕事を歴任し、講師歴は20年を超える。人材育成、職場内指導者育成、コミュニケーション能力開発、リーダーシップ開発、感情心理トレーニングを数多く担当。

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