2025年06月04日
はたらき方が大きく変化している今、リーダーシップのあり方も見直されてきています。リーダーシップの定義やリーダーシップに関する理論を改めて整理し、これからの時代に求められる「指導力」「統率力」のスキルについて解説します。
【調査レポート】組織マネジメントの実態調査
はたらき方が多様化し、「組織マネジメント」の重要性が高まっています。パーソルグループでは、管理職および一般職1,000名を対象に調査を行い、 【組織マネジメントの実態調査レポート】を作成しました。
採用・離職、上司・部下の認識ギャップ、キャリアなどに焦点を当て、 組織マネジメントにおける課題や取り組みについてまとめたものです。
組織作りやマネジメントに課題を抱える経営・人事の方、管理職の方のご参考になれば幸いです。
目次
リーダーシップとは、目標達成のために、組織や集団、チームを導く力のことです。主に次の3要素からなります。
1 目標達成のためのビジョンや優先順位を示す
2 ビジョンに向けて、メンバーがモチベーション高く行動できるよう促す
3 到達点への障壁があれば、その障壁を明らかにして、取り除く
リーダーシップと聞くと、カリスマ性だったり、チームを引っ張ったり、そのようなイメージを持つかもしれません。しかし、この3要素から分かるように、リーダーシップとは、志や気質ではなく「役割」です。
経営学者のピーター・ドラッカーは「リーダーとカリスマ性は関係がない」と言っています。リーダーシップの定義とは「仕事」「責任」「信頼」です。設定された目標に向けて道筋の提示や支援を「仕事」として行い、メンバーを支えながらその仕事の「責任」を持つ。自身の行動により、メンバーからの「信頼」を獲得し、フォローされることがリーダーシップである、とドラッカーは説いています。
マネジメントを行うのはマネージャーをはじめ、複数人のメンバーを束ねる管理職の立場にある人が多いでしょう。しかし、マネージャーとして優秀であっても、リーダーシップに秀でていない場合も少なくありません。
マネージャーの役割は直近の業務進行や管理を行うことです。その役割を果たすために「将来」に注目するリーダーシップという視点とは、少し異なるのかもしれません。そのため、マネージャーにとってリーダーシップは必ず求められる要素ではないといえるでしょう。
一方で、リーダーシップを発揮できる人材がチーム内にいれば、チームの成果向上が期待できます。マネージャー以外のメンバーがリーダーシップを発揮したとしても、チームに良い影響を与えることができます。
リーダーシップの定義をより明確にするために、混同して使われる言葉「マネジメント」との違いを見てみましょう。目標の達成に向かって、組織やチームを導くという意味では、2つの言葉は似ていますが、マネジメントは日本語で「管理」「経営」などと訳されます。
リーダーシップ | マネジメント | |
---|---|---|
目的 | 目標に向かい、長期的視野でビジョンを示す。将来の目指す姿をメンバーにイメージさせる | 目標に向かい、どのように業務を進めるかを決めて管理する |
対象 | 人・チーム | 業務・プロセス |
特徴 | 動機付け・信頼関係構築 | 調整・コントロール |
現場でのマネジメントとは、メンバーのタスクやアクションを決めて、管理することです。例えば、戦術を細かく立てたり、リスクを予想して回避策を立てたり、人やお金の調整を行ったりします。マサチューセッツ工科大学博士であるシャーマーの「U理論(Theory U)」でも、リーダーシップとマネジメントの違いが示されています。シャーマーによれば、リーダーシップとは「より大きな視点に立ち、活動の場を創出して育む—共通の土壌を豊かにする—こと」。対してマネジメントは「ものごとをスムースに進ませる」ことを指すとされています。
前述のとおり、リーダーシップとマネジメントでは役割に明確な違いがあり、それぞれが企業発展のために必要な力といえます。
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かつては、リーダーシップは一部の管理職や経営層だけに求められる能力とされていました。しかし現在は、すべての社員にとって必須のスキルと考えられています。その背景には、以下のような変化があります。
技術革新や市場ニーズの変化が加速する中、企業にはこれまで以上に柔軟でスピーディーな対応を迫られています。このような環境では、従業員一人ひとりが現場で状況を判断し、自律的に行動することが求められます。
近年、組織のフラット化とプロジェクト制への移行が進む中、従来の役職にとらわれないリーダーシップが求められるようになってきています。フラットな組織構造は、迅速な意思決定や柔軟な対応、効率的なコミュニケーションを可能にし、プロジェクト制の導入を後押しします。プロジェクトチームの一人ひとりがリーダーシップを発揮し、互いに協力して目標を達成することが重要です。
リーダーシップにはさまざまなスタイルがあり、画一的な定義は存在しません。どのリーダーシップのスタイルが最も効果的かは、一概に決めることはできませんが、それぞれの特徴を理解し、柔軟に対応することで、効果的なリーダーシップを発揮することができるでしょう。以下に代表的な4つのスタイルを紹介します。
強い信念と行動力で周囲を引っ張るスタイル。カリスマ性や影響力が大きく、危機時などに力を発揮しやすい一方で、属人的になりやすい傾向もあります。
「支えること」を重視するスタイル。部下やメンバーの成長を第一に考え、傾聴と共感をベースにした信頼関係を築きます。近年のコーチング型マネジメントと親和性が高いと考えられています。
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組織や個人の意識や価値観に変革をもたらすタイプ。ビジョンや未来を語り、人の心を動かして大きな方向転換を促すリーダーです。
相手や状況に応じて柔軟にスタイルを変えるリーダー。説明型、説得型、参加型、委託型の4つの型を使い分けながら最適な関わり方を選びます。詳細は後述のSL理論でも解説します。
実際にリーダーシップを発揮している人には、以下のような共通点があります。
リーダーとは、チームをどこに向かわせるかを示す存在です。目的や方向性を描き、共有する力がなければ、チームはばらばらに動き、成果につながりません。ビジョンを言語化できる人は、人を行動に導く影響力を持ち、チームを一つの方向へ動かす起点となれます。これは、「トランスフォーメーショナル・リーダーシップ 」や「カリスマ型リーダーシップ」にも共通する要素です。
リーダーシップは、他者との関係性の中で発揮されるものです。自分の言動が周囲にどのような影響を与えているかを理解し、自らの振る舞いを適切にコントロールできなければ、周囲からの信頼を得ることは難しいでしょう。
また、リーダーとして成長し続けるためには、自身を見つめ直す「自己認識力」と、他者の声に耳を傾ける「柔軟性」が不可欠です。
どれだけ優れた戦略を持っていても、関係構築ができないリーダーでは、周囲を動かすことができません。信頼関係を築ける人は、心理的安全性の高いチームをつくり 、協働・挑戦・変革を可能にする土台を持っています。これは「サーバント・リーダーシップ」の核といえます。
困難な状況こそ、リーダーの真価が問われます。焦って判断を誤ったり、感情的になって動揺を伝播させてしまえば、チーム全体に悪影響を及ぼします。こうした場面で問われるのが、状況を冷静に受け止め、自らの感情をコントロールしながら適切な行動をとる 力です。
このような力は、近年注目されている「レジリエンス(精神的回復力・安定性)」とも密接に関係しています。状況を俯瞰し、感情に流されずに冷静に判断・対応できるリーダーは、変化の激しい現代において特に求められています。これは「シチュエーショナル・リーダーシップ」など、柔軟な対応力を重視する理論にも通じる考え方です。
現代のリーダーに求められるのは、単に「成果を出す人」ではなく「人を育て、未来をつくる人」です。部下や後輩の成長に関心を持ち、日常的に声をかけたり、挑戦の機会をつくったりといった“育成行動”を自然に行える人こそ、チーム全体のパフォーマンスを底上げする組織的なリーダーといえるでしょう。これは「サーバント・リーダーシップ」や「トランスフォーメーショナル・リーダーシップ 」など、人の可能性を引き出すことを重視するリーダーシップ理論にも共通しています。
リーダーシップについて理解をより深めたい方は、提唱されている理論も知っておくとよいでしょう。リーダーシップは何十年も前からさまざまな有識者によって研究されてきました。ここでは有名な以下の3つの理論について解説していきます。
・PM理論
・マネジリアル・グリッド論
・SL理論
PM理論は、今から50年以上も前に提唱された日本生まれの理論です。この理論では、リーダーシップを2つの能力に分けています。生産性を高める「目標達成(P)機能」と、チーム内の関係構築やモチベーションづくりに注目した「集団維持(M)機能」から構成され、2つの能力それぞれの大きさにより、さらに4つに分類されます。
PM理論によるリーダーシップパターン
Pは、目標達成に向けてチームの生産性を高める機能です。以下のような能力を指します。
・目標を定める能力
・業務に優先順位をつける能力
・業務がうまく進まないメンバーを励ましたり指導したりする能力
Mは、チーム内のリレーションシップやメンバーのモチベーションに注目するもの。以下のような能力を指します。
・チームワークの質を高める能力
・各メンバーの問題を解決する能力
小文字のp・mは、2つの機能それぞれがより劣っていることを表します。例えば、Pm型はP機能が優れている一方でM機能が劣っている、ということです。PM型が理想的なリーダーシップです。また、シンプルな分類に限られるPM理論の特徴を活かし、「あの人はpM型だからP機能を磨くといい」など、分析材料としても役立ちます。
マネジリアル・グリッド論は、1964年にアメリカで提唱されました。PM理論のように2軸で考えるリーダーシップ理論です。これは、PM理論より細かく分類できるのが特徴です。「人への関心」「業績への関心」の2つを軸として、それぞれを9段階、81のグリッドで分類していきます。
81のグリッドがあるものの、大きな分類は5つ。最も理想的なリーダーシップのあり方は「業績への関心が高い」「組織の信頼も厚い」とされる上図の9.9型です。
実際、チームの状況によって9.9型のリーダーシップ・スタイルが最適とはいえないこともあるでしょう。ですが、この9.9型を目安や目標としながら、リーダーシップの現在地を視覚的に捉えられます。マネジリアル・グリッド論は、自己分析や他者分析を行いやすくする意義があります。
SLとは「Situational Leadership(環境対応型リーダーシップ)」で、チームのメンバーによってつくられる環境により、求められるリーダーシップは違う、という考え方です。前述の2理論と大きく異なるのが、SL論は「環境に対応する」という点です。
SL理論では、チームのメンバーによってつくられる環境を説明型リーダーシップ(S1型)、説得型リーダーシップ(S2型)、参加型リーダーシップ(S3型)、委託型リーダーシップ(S4型)の4つに分類します。
メンバーのスキルやモチベーションにより、リーダーの置かれる環境が変わります。この環境によって、リーダーのコミュニケーション・業務指示の必要性が変化する、という考え方です。
例えばS1型は、新入社員が多いチームなど、メンバーの成熟度が低い環境に当てはまるパターンです。仕事の方法を具体的に指示しますが、仕事の目的を伝えるコミュニケーションは少なめでも問題はなく、教わったとおりに仕事を進めればチームや会社に貢献できるので、メンバーはやりがいを感じることができる、と提唱されています。
テレワークやDX(デジタルトランスフォーメーション)が急速に推進され、はたらく環境も大きく変化しています。これを組織改革の機会と捉え、より良い方向へ導くことが、現代に求められるリーダーシップといえます。具体的には、以下2つの能力が求められます。
1.メンバーの力を最大限に引き出す力
2.変化を予測し、仮説・検証しながら行動できる力
顔を合わせたコミュニケーションが減るなか、カリスマリーダーが引っ張るタイプのチーム運営では難しい状況も発生します。そこでリーダーがメンバーの力を最大限に引き出す力が求められます。
メンバーの能力を引き出す力については、「1on1ミーティング(以下、1on1)」が有効です。1on1とは、上司と部下が1対1で行う対話です。上司ありきの対話になりがちですが、部下、すなわちメンバーを主体にした1on1にすることが大事です。そして、部下発信で目標に向けて話し合えると理想的です。
・話す内容・テーマをメンバー自身が決める
・リーダーはメンバーが困っていることに答える
・「目標に対して、どの位置まで来たかな?」などと、メンバー自身が考えられるよう導く
リーダーは1on1を定期的に行えるように、チームに働きかけましょう。1on1の頻度としては、2~4週間に1回程度が目安です。頻繁な実施が難しいときには、時間を短くしてでも頻度を高めるほうが効果的です。例えば、1回60分の1on1だと月1回はできないなら15分にするなど、できる範囲で実施するといいでしょう。
一方、メンバーは自らの権限でチームの仕組みを変えることが難しいケースもあるかもしれません。そんなときは「フォロワーシップ」を意識するといいでしょう。「リーダーを支えるにはどうしたら良いだろう」と日頃から考えることで、チームの業務推進力が向上するのはもちろん、自身のリーダーシップも磨かれます。
【関連記事】1on1とは?目的や話す内容・面談との違い
不確定な時代であるだけに、「変化を予測し、それを仮説・検証しながらチームの行動を舵取りできる」スキルが強みとなります。
例えば営業職であれば、「お客さまは3年後にどういう問題を抱えるだろうか」という問いをリーダー自身が持つことが訓練のスタートになります。「今ではなく、3年後の問題は?」と自分に問い続けることで、先を見る力が養われていきます。もし、仮説どおりにいかなくても大きな問題ではありません。先を見通すことで、不測の事態に遭遇したときにも「仮説から外れているな。では、このように軌道修正をしていこう」と気づき、対応できるかどうかが重要です。
前述のとおり営業職を例にしましたが、変化を予測することはすべてのポジションにおいて大切なことです。自分のポジションに置き換えて、「先を見るとはどういうことか」を考えてみましょう。
最後に、経営者や幹部が、リーダーを育てる方法についてご紹介します。
・リーダーシップには多様なスタイルがあることを伝える
・組織の課題を共有する
まず、リーダーシップには多様なスタイルがあることを教えるのが大切です。リーダーにはカリスマ性があるタイプやフォロワー要素の強いタイプもいれば、PM理論のPM型、マネジリアル・グリッド論の9.9型、SL論のS1~4など、さまざまなリーダーシップがあります。こうした多様な選択肢があることをリーダーに教え、リーダーが自分やチームの目標設定や課題解決に役立てられるよう導くとよいでしょう。
もう1つのポイントは、組織課題を共有し「自身のリーダーシップが会社の未来にどう影響するのか」を教えることです。課題に対して自身のチームをどのように行動させるか、リーダーが設定できたことを評価できるとなおよいでしょう。リーダーが自分一人で完結するのではなく、チームでの目標達成を目指すよう意識づけることができます。
これからの時代、組織が持続的に成長していくためには、多様な人材を巻き込み、導き、育てられるリーダーの存在が欠かせません。そして、そのリーダーシップは、一部の特別な人だけが発揮するものではなく、役職や年次に関係なくあらゆる従業員が身につける べき力となっています。
これからの組織づくりにおいては、多様な人材がそれぞれの形でリーダーシップを発揮できるよう支援していくことが重要になるでしょう。
【調査レポート】組織マネジメントの実態調査
はたらき方が多様化し、「組織マネジメント」の重要性が高まっています。パーソルグループでは、管理職および一般職1,000名を対象に調査を行い、 【組織マネジメントの実態調査レポート】を作成しました。
採用・離職、上司・部下の認識ギャップ、キャリアなどに焦点を当て、 組織マネジメントにおける課題や取り組みについてまとめたものです。
組織作りやマネジメントに課題を抱える経営・人事の方、管理職の方のご参考になれば幸いです。