2022年08月04日
2025年05月13日
多くの企業で行われる人事異動。適切な人事異動は、社員のモチベーションや帰属意識を向上させ、企業の成長や人材流出の防止につながります。とはいえ、人事異動を最適化するためにはどのような考え方で進めるべきなのかと悩む担当者の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、人事異動の目的について整理し、適材適所の人事異動を実現するための考え方について紹介します。
【お役立ち資料】組織活性化につながる最適な人員配置の施策とは
企業が競争力維持・強化するためには、最適な人員配置によって社員一人ひとりが活躍できる環境を構築し、組織を活性化することが必要です。しかし、「最適な人員配置を」といわれても、実際どのように戦略を立案し、どのような施策を実行すればいいのか明確な答えを持っている企業は少ないのではないでしょうか。
パーソルグループでは、最適な人員配置を実現するために持つべき視点と行うべき施策を解説した資料を作成しました。
人員配置をご検討されている方はぜひダウンロードいただき、ご活用ください。
定期的な人事異動を行っている企業は多くありますが、人事異動の目的は企業によって異なります。そもそも人事異動には、どのような目的があるのかを整理してみましょう。
各業務の人員過不足の調整や新規部門の立ち上げといった事業ニーズへの対応は、人事異動の主目的です。このとき採用なども同時に行われることがあります。
事業推進上必要な人材・人員をタイムリーに確保することは、社員のワークライフバランスを改善し、離職率を低減させるためにも重要です。
【関連記事】従業員の離職を防止するためには?原因や対策を解説
人事異動で組織の新陳代謝がよくなることで、組織の活性化につながります。
長期間、同じ業務に従事していると、従業員のモチベーションが低下し、生産性も低下する傾向があります。定期的に人事異動を行うことで、社員のマンネリが回避され、企業全体の活性化にもつながるでしょう。
実際に、パーソル総合研究所の調査によると、異動配置(社内人材の流動性)は、組織内の気軽な意見交換や協業を媒介し、事業・経営状況に正の影響を与えていることが示唆されています。
【関連記事】人員配置とは|最適化する手順やポイントを解説
人材育成やキャリア開発を行うことも人事異動の重要な目的です。今いる環境とのミスマッチによって、なかなか能力を発揮できない人材のポテンシャル開花や、経営人材候補者の発掘・育成などを狙います。他部署への異動を通して新たなスキルや知見を得ることで、より一層の成長が期待できます。
パーソル総合研究所の調査によると、異動経験がある層は、異動経験がない層と比較して成長志向や学習意欲、キャリア自律度が有意に高いことがわかりました。
性別、年齢、勤続年数等を統制して行った重回帰分析でも同じ傾向が確認されており、異動経験によるポジティブな影響が見て取れます。
このような育成・キャリア開発目的の人事異動は、社員にとっても企業にとっても非常に重要なものです。しかし現実では、前述したような事業ニーズによる異動が優先され、ともすると、育成・キャリア開発目的の人事異動は優先順位が後回しになりがちです。
【関連記事】人材育成とは?基本の考え方や育成方法・具体例を解説
人事異動には、定期的に担当者を入れ替えることで長い間同じ業務に携わることによる癒着や不正行為を防止する役割もあります。特定の職務については、定期的にローテーションを内規で定めていることがあります。
人事異動を効果的に行うためには、どのように決めていくとよいのでしょうか。適材適所を実現するためにおさえておきたいポイントは以下の3つです。
適材適所の人事異動を実現するためには、一人ひとりの多様なキャリア観やはたらき方と配置が一致することが重要であり、基本的な属性情報だけではなく、具体的なキャリア情報、スキルやコンピテンシー、職務適性など幅広い人材データを把握しておくことが必要です。
たとえば、具体的なキャリア情報収集のために活用できるものが、目標管理シートです。目標管理シートには、各々がその年度に取り組んだ具体的な仕事内容とその結果、さらには評価やコメントまで記載があるため、公式で詳細な最新キャリア情報が一目でわかります。そのため、目標管理シートの情報をキャリア情報資産へと変換し蓄積していくことで、異動検討の精度が格段に向上します。
目標管理シートとあわせて1on1やパルスサーベイ(短期間に繰り返す従業員意識調査)なども活用し、日々情報をアップデートする方法も有効です。目標管理シートよりも短いスパンで実施されるため、社員の状態がリアルタイムで追いかけやすくなります。
これらの膨大な情報を資産にし、活用するためには、管理の手間がかかる紙やエクセルではなく、社員情報を一元管理、検索、分析できるタレントマネジメントシステムなどのツールの活用がおすすめです。
【関連記事】MBO(目標管理制度)とは?手法や目標設定の例・メリット
パフォーマンスに問題がなく、とくに異動の必要がなさそうな社員を長期間同じ部署に留めておくことは、中長期的な観点でリスクがあります。
パーソル総合研究所の調査によると、同じ部門に5年以上在籍すると成長志向、学習意欲、キャリア自律への関心が下がってくることが示されています。
次世代経営人材やDX人材などの戦略的な一部のポジションについては全社的観点で育成目的の異動が行われるようになってきましたが、大多数を占める一般社員については中長期的な育成目線を持ちづらい企業も多いのではないでしょうか。
しかし、昨今は雇用延長の流れの中、誰もが長い期間はたらく時代になってきています。個人のキャリアビジョンやこれまでの成果、評価などのデータをもとに、「今後のキャリアを考え、人事異動で他部署を経験したい/させたい」など中長期的な目線での育成計画と環境を整える必要があります。
各部門で基幹戦力となっている、一見異動の必要がなさそうな人材に対しても定期的にスクリーニングを行い、異動を検討することが重要です。
キャリア自律の重要性が高まっているなか、これからは本人意向に基づく手挙げ制の異動配置の仕組みを増やしていくことが必要です。
パーソル総合研究所の調査によると、異動後に満足している層は会社主導の異動では38.7%、本人意向の異動では55.5%とわかりました。本人意向による異動は、会社主導に比べて異動後の職務満足度が約1.4倍高くなっています。
社員希望による異動を実現する以下のような制度の拡充が求められています。
制度 | 概要 |
---|---|
自己申告制度 | 社員が自身のキャリア意向や異動希望などを申告する |
社内公募制度 | 人材を必要とする部署が求人情報を公開し、関心を持った社員が応募、選考をおこなう |
社内FA制度 | FA権を持ち異動を希望する社員が「FA宣言」を行うことで、人材を必要とする部署がスカウトできる |
社内公募制度やFA制度を活用するためにも、社員一人ひとりが自分のキャリアがどうありたいかをしっかりと考えることが必要です。キャリア自律に向けた機会を併せて整備するとなお良いでしょう。
人事異動計画を実行しても、期待していた成果が得られないことがあります。人事異動で起こりがちな失敗例と、その回避方法やフォローについて解説します。
異動に対して納得感がないことで社員のモチベーションが高まらず、結果活躍できないというケースがあります。
人事異動では、これまで取り組んできた業務とは異なる分野で仕事を進めることもあります。そのため、異動先での成果が出るまでに半年以上の時間が必要になることもあります。そのため本人がモチベーションを維持できないと、生産性も低下してしまうことが懸念されます。
▼回避・解決方法
異動について、社員が異動を肯定的に受け止められるよう、異動の目的・理由、今後の期待について十分な説明を行う。
〈例〉なぜ自分なのか、異動先では何を期待されているのか、など
パーソル総合研究所の調査によると、異動理由や異動後の役割・期待感について説明・通知するコミュニケーションによって、異動後の活躍・適合度を高められるという分析結果も出ています。
社員の成長を期待して異動させても、新しい環境でうまく関係を構築できずにパフォーマンスを発揮できないままであったり、本人のキャリア目標との差異からモチベーションが下がり離職に繋がったりすることも考えられます。
パーソル総合研究所の調査によれば、会社の指示による異動について拒否する意向を持つ人は「職種の変更」「事業部門の変更」でそれぞれ約2割いることがわかりました。また、「転勤」を伴う場合は30.6%という結果が出ています。さらに、拒否意向を持つうちの3人に1人は、「拒否できないのであれば、退職や転職を検討する」と回答しました。
▼回避・解決方法
各部門や人事部でパフォーマンスやモチベーションの変化をシステムやサーベイにより追う。全員を細かにモニタリングすることが難しい場合、離職傾向のある人や新卒3年目までなど、対象者を絞ってフォローする。
〈例〉パルスサーベイ(短期間に繰り返す従業員意識調査)の活用、対話によるフォローなど
社内公募制度などの手挙げ制度を導入したものの、応募に際して条件があったり、応募できるポジションがそもそも限定的であったりするという課題が残っている場合があります。
パーソル総合研究所の調査によれば、社内公募制・フリーエージェント制・キャリア自己申告制を合計した本人意向(手挙げ制)による異動は約1割に留まっていることがわかりました。そのため、実際に本人意向に基づいて異動できるケースは限定的と推察されます。
さらに、本人が異動を希望していたり、周囲が異動させるべきと思っていたりしても、各部門が優秀な人材が手放さないということも起こります。
▼回避・解決方法
現場の声とあわせて自己申告制度で本人の意向を確認し、双方の情報をもとに異動・配置の調整を行う。
人事異動を考える際は、社員一人ひとりが持つこれまでのキャリアに関するデータやスキル、職務履歴、携わったプロジェクトの目標や成果、今後のキャリアビジョンといった情報が必要になります。
しかし、属性情報は管理できても、一人ひとりの細かなキャリア履歴等は直属の上司しか把握していないため、人事異動に活用できなかったり、情報が古いままで新たな情報へとアップデートできていなかったりという状況になっていないでしょうか。
こうした課題は、ツールを活用することで、さまざまな情報を集約・一元管理ができ、さらに適宜アップデートしていくことで最新の情報が更新され続けるため、所属部門や上司の変更があったとしても人事異動の際の根拠としても活用しやすくなります。
目的を明確にして人事異動を行うことで、適材適所の人員配置が実現し、企業の業績向上だけでなく社員の離職による人材流出の防止などさまざまな効果を得ることができます。タレントマネジメントシステムなどのツールも活用しつつ、一人ひとりの特性を見きわめて横断的に人事異動を行っていきましょう。
【お役立ち資料】組織活性化につながる最適な人員配置の施策とは
企業が競争力維持・強化するためには、最適な人員配置によって社員一人ひとりが活躍できる環境を構築し、組織を活性化することが必要です。しかし、「最適な人員配置を」といわれても、実際どのように戦略を立案し、どのような施策を実行すればいいのか明確な答えを持っている企業は少ないのではないでしょうか。
パーソルグループでは、最適な人員配置を実現するために持つべき視点と行うべき施策を解説した資料を作成しました。
人員配置をご検討されている方はぜひダウンロードいただき、ご活用ください。
株式会社パーソル総合研究所 上席主任研究員
藤井 薫
電機メーカーの人事部・経営企画部を経て、総合コンサルティングファームにて20年にわたり人事制度改革を中心としたコンサルティングに従事。その後、タレントマネジメントシステム開発ベンダーに転じ、取締役としてタレントマネジメントシステム事業を統括するとともに傘下のコンサルティング会社の代表を務める。労政時報など人事専門誌への寄稿も多数。2017年8月パーソル総合研究所に入社、タレントマネジメント事業本部を経て2020年4月より現職。
人事異動には、大きくわけて4つの目的があります。
1.人材構成の適正化
2.組織の活性化
3.育成・キャリア開発
4.コンプライアンス
>>人事異動を行う4つの意義
組織の活性化や育成を目的とした人事異動を行う際は以下に気をつけましょう。
1.異動について納得感がなく、かえって生産性が下がる
2.人材と環境のミスマッチが起こる
3.制度を導入したものの、機能しない
>>人事異動でありがちな失敗とは
A3.適材適所の人員配置を実現するポイントは以下です。
・人材データを蓄積・把握する
・一見異動させる理由がない必要がなさそうな社員も含め、人事異動案を計画検討する
・社員希望による異動を活性化させる
>>適材適所を実現する人事異動の決め方