シニア雇用の現状とは?高齢者雇用安定法の内容や推進のポイントを解説

「人生100年時代」といわれる現代、はたらく意欲のあるシニア社員が増加しています。さらに、シニア雇用に関する法改正も後押しとなっており、シニア社員の躍進に注目が高まりつつある状況です。

本記事では、最新の法改正やシニア社員を取り巻く雇用の現状、企業における実際の取り組み事例などについて解説します。

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少子高齢化が進み、慢性的な人材不足が多くの企業で叫ばれるようになりました。そんな中、いわゆる「ミドル・シニア層」と呼ばれる年代の労働力が、企業の成長を左右する大きなカギとして注目されています。

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目次

シニア雇用の現状と注目される背景

少子高齢化や人手不足の影響を受け、シニア人材の活用がますます求められるようになっています。シニア雇用の現状と注目される背景について解説します。

生産年齢人口減少に伴う慢性的な人手不足

パーソル総合研究所の調査によると、2035年には1日あたり1,775万時間の労働力が不足すると推計されています。産業別にみると、サービス業と卸売・小売業での深刻な人手不足が予測されます。

なお、人数ではなく時間で推計されているのは、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)の促進による人材やはたらき方の多様化に伴う推計を行ったためです。また、今回の調査結果には外国人労働者の労働力も含まれています。

2035年の労働力不足の見通し
【参考】株式会社パーソル総合研究所「労働市場の未来推計 2035

こうした人手不足を解消するための手段のひとつとして、はたらくシニアを増やすことが挙げられます。シニア人材がはたらきやすい労働環境を整備し、就労を促すことで、男女合わせて272万人のシニア人材の活躍が期待できます。これは1日あたり593万時間の労働力が増加する計算です。

シニア就業者の潜在的な労働力の試算結果

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はたらく意欲があるシニアの増加

はたらく意欲があるシニアが増加していることも、シニア雇用が進む背景のひとつとして挙げられます。経済産業省の調査では、現在就労している60代の約8割が「70歳以降もはたらきたい」と回答しました。

また、シニアの就業者数・就業率はともに増加傾向にあることも、同調査で明らかになりました。多くのシニアが、「生涯現役」を望んでいることが分かります。

高年齢者雇用安定法の改正

高年齢者雇用安定法」の改正も、シニア雇用を後押ししています。高年齢者雇用安定法については次章で詳しく解説します。

高年齢者雇用安定法とは

高年齢者雇用安定法(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律)は、高年齢者が意欲と能力に応じてはたらき続けられるよう、企業に対して雇用環境の整備を求める法律です。具体的には、65歳までの雇用機会を確保する義務に加え、70歳までの就業機会を確保するよう努める必要があります。これらの内容について解説します。

高年齢者雇用確保措置(65歳までの雇用確保)

企業は、希望する従業員が少なくとも65歳まではたらけるよう、「65歳までの定年の引き上げ」「定年制の廃止」「65歳までの継続雇用制度の導入」のいずれかを実施することが義務づけられています(従業員31人以上の企業が対象)。

これまでも、事業主に対して60歳未満の定年禁止ならびに、65歳までの安定した雇用の確保は義務付けられていたものの、2025年3月末までは一部条件のもとで企業には経過措置が認められていましたが、2025年4月の法改正で正式に義務化されました。

継続雇用制度は、60歳の定年後に再雇用などの形で雇用を継続する仕組みです。これにより、高年齢者が年齢を理由に一律で職を失うことなく、希望すれば働き続けられる仕組みが整備されています。

高年齢者雇用確保措置(70歳までの就業機会確保の努力義務)

2021年の改正では、定年年齢を65歳以上70歳未満に定めている事業主または継続雇用制度を導入している事業主に対し、以下5つのいずれかの措置を講じる「努力義務」が規定されました。対象となる取り組みは、「70歳までの定年引き上げ」や「継続雇用制度の延長」のほか、業務委託やフリーランス契約、起業支援などの形も含まれます。義務ではないものの、労働力確保の観点から、多くの企業が積極的な対応を求められています。

  • 70歳までの定年の引き上げ
  • 70歳までの継続雇用制度を導入
  • 定年制の廃止
  • 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
  • 70歳まで継続的に以下事業に従事できる制度の導入
    ー事業主が自ら実施する社会貢献事業
    ー事業主が委託、出資等する団体が行う社会貢献事業

シニア雇用推進によるメリット

シニア雇用を推進し、シニア社員の活躍を実現できれば、企業側にも多くのメリットがもたらされます。

人材不足の解消

シニア雇用は人材不足の解消につながることが大きなメリットとして挙げられます。加えて、シニア人材の活躍は、若年社員を含め会社全体にポジティブな影響をもたらすことが期待できるでしょう。

パーソル総合研究所の調査によると、「シニアの仕事の不透明さ」「シニアの疎外状況」がある職場では、若年者の転職意向が大きくなることが明らかになりました。

仕事の不透明感をなくしたうえで、組織の一員としてシニアが活躍できれば、シニア自身がパフォーマンスを発揮しやすくなるだけでなく、若年者の転職抑制にもつながることが分かります。

ダイバーシティの実現

シニア雇用を進めることで、年齢や性別、その人のバックグラウンドを問わないダイバーシティ経営を促進できます。多様な価値観や視点を持つ人材がともにはたらくことで、組織の柔軟性や企業イメージの向上につながるでしょう。

また、異なる世代間の相互学習は、従業員に新たな視点をもたらし、ビジネスチャンスの創出にも寄与します。企業の 企業の持続的な成長のためにも、ダイバーシティの実現は重要です。

【関連記事】ダイバーシティとは?推進のメリットや施策、企業事例を解説

組織活性化

シニア人材の持つ豊富な経験や知識は、企業の組織活性化にも大きく貢献します。シニアは若手社員への中長期的な教育や業務の引き継ぎを通じて、次世代の育成を担う重要な役割を果たすでしょう。知識の共有が進めば業務効率化につながることは言うまでもありません。

また、定年後もはたらける環境が整うことで、従業員によってはモチベーション向上にもつながるでしょう。このように、シニア層の活用は、組織の活性化だけでなく、社員全体の成長を促す重要な施策となります。

【関連記事】組織活性化とは|実現への5ステップ、取り組みの効果

シニア雇用推進によるデメリット

シニア雇用にはメリットが多い一方で課題も存在します。体力面の問題、給与・配属の調整、DXへの対応など、具体的なデメリットについて解説します。

体力・体調面の不安

シニア人材の雇用において、体力・健康面の問題は無視できない課題です。特に、長時間労働や重労働の職種では、負担が大きくなるリスクがあります。

軽作業をまかせるといった肉体的な負担軽減はもちろんのこと、時短勤務や週3~4日勤務といった柔軟な働き方を導入したり、健康診断やストレスチェックなどの健康管理サポートを充実させたりするのも有効な取り組みです。シニア層が安心してはたらける環境を企業主体で整備しましょう。

給与・配属の問題

シニア人材を雇用する際、給与や配属の調整も重要な課題となります。給与体系が年功序列制度の場合、若手社員から不満の声が上がるリスクが高いため、能力・成果主義への移行が必要なケースも多いでしょう。

役割に応じた適正な給与体系の導入や、ジョブ型雇用による柔軟な働き方の促進は、効果的な対策として挙げられます。給与の額面については、一般的には定年退職時の賃金の50~70%程度に設定している企業が大半です。

業務内容や量も鑑みて、給与体系の見直しならびに適材適所の配属を行うことで、企業側とシニア層の双方が納得できる雇用形態を実現しましょう。

DX・デジタルへの対応

近年、多くの企業でDXが進んでいますが、それと同時にシニア層のデジタル適応力が課題となるケースが増えています。新しいシステムやツールの習得に時間がかかると、若手社員とのギャップが生じ、双方がストレスを感じてしまうかもしれません。

シニア向けのデジタル研修を実施したり、シニア層も使いやすいデジタルツールを選定したりして、シニア人材が適応しやすい環境を整えることが重要です。

【関連記事】DXとは?意味や必要とされる背景、進め方、事例を解説

シニア雇用推進時のポイント

シニア雇用を成功させるためには、適切な制度設計と環境整備が不可欠です。シニア人材が活躍できる企業を実現するために、4つのポイントを押さえましょう。

雇用・賃金制度を見直す

シニア雇用を推進するには、年齢に応じた柔軟な雇用形態や賃金制度の見直しが不可欠です。従来の年功序列型制度では、シニア人材の給与水準が企業のコスト負担を増やす要因となるため、適切な見直しが求められます。

企業が取り組むべき施策として、以下の例が挙げられます。

    • 職務や成果に応じた賃金体系の導入(ジョブ型雇用の検討)
    • 短時間勤務や契約社員・嘱託社員制度の活用
    • 再雇用制度の整備(定年延長・継続雇用制度の導入)
    • 退職後もスキルを活かせる新たな雇用形態の導入(プロジェクトベース雇用)

また、若手社員との給与バランスにも配慮し、適正な報酬制度を整えることで、従業員全員のモチベーションを維持できるように努めましょう。

就業規則の作成・変更・届け出を行う

シニア雇用を推進する際には、就業規則の見直しや変更が必要になるケースが多くあります。特に、定年後の再雇用制度や短時間勤務制度の整備に伴い、就業規則の適用範囲を明確にすることが求められるでしょう。

定年後の雇用継続制度の明文化や、労働時間・休暇制度の見直しといった変更を行う際には、労働基準監督署への届け出が必要となる場合があります。労務担当者や社労士と連携しながら適切な規則を整備することで、シニア層が安心してはたらける環境を構築しましょう。

シニアが活躍できる環境の構築

シニア層が最大限の力を発揮できる環境を整えることは、企業にとっても大きなメリットとなります。年齢に関係なくはたらきやすい職場づくりを進めることで、組織全体のパフォーマンス向上につながるでしょう。

例えば、メンター制度を導入し、シニアが若手の育成を担当することで、双方のスキル向上が図れます。また、はたらきがいのある環境を提供するために、キャリアプランの選択肢を増やすことも有効です。バリアフリー化やシニアフレンドリーな設備への投資も少しずつ進めていきましょう。

人事・労務システムの見直し

シニア層を積極的に採用し、活用するには、人事・労務システムを時代に合わせて最適化することが重要です。従来の仕組みのままではシニア雇用のメリットを最大限に活かせない可能性があるため、適切な見直しが求められます。

人事評価制度の再構築や労務管理のデジタル化、テレワークやフレックスタイム制の導入による多様なはたらき方の実現は、その代表的な取り組み例です。特に、人事評価制度の見直しは重要なポイントと言えるでしょう。年齢ではなく「貢献度」「専門知識」などを評価する仕組みを取り入れることで、シニア人材のモチベーションを維持しながら組織全体の生産性を向上させることが可能です。

また、DXを進めることで、シニア層がより効率的に業務を遂行できる環境の整備も進めましょう。労務管理システムの導入により勤務状況を適切に把握できれば、シニア向けの勤務形態にも柔軟に対応できるようになります。

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シニア雇用の取り組み事例

実際に、シニア人材の活躍推進に取り組む企業事例を紹介します。

株式会社ノジマ

株式会社ノジマでは、定年後の再雇用契約を上限80歳までとする就業規則を導入しています。2020年7月に、65歳の定年後も80歳まで臨時従業員としてはたらけるよう規定を見直しましたが、「80歳を超えてもはたらき続けたい」という要望を受け、2021年10月には上限廃止へ踏み切りました。

シニア社員の給与体系は正社員と同一ですが、希望により勤務日数・時間の調整も可能な仕組みとなっており、シニア人材がはたらきやすい環境を構築しています。

ダイキン工業株式会社

ダイキン工業株式会社は、2021年4月より再雇用の上限を65歳から70歳に延長しました。ダイバーシティ・マネジメントを経営の柱のひとつとして掲げる同社では、ベテラン層の活躍推進にも長年取り組んでいます。また、従来の報酬・評価設計を見直すことで、シニア人材が活躍できる環境づくりを推進し、事業成長に必要な人材力強化につなげています。

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少子高齢化が進み、慢性的な人材不足が多くの企業で叫ばれるようになりました。そんな中、いわゆる「ミドル・シニア層」と呼ばれる年代の労働力が、企業の成長を左右する大きなカギとして注目されています。

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パーソルが提供するシニア人材躍進支援ソリューション

シニア人材の活躍を促進するためには、キャリア意識の醸成やスキル習得支援、適切な人事制度の改革が不可欠です。パーソル総合研究所では、ミドル・シニア人材を取り巻く雇用の現状や課題をふまえ、ミドル・シニア人材を躍進に導くサービスを提供します。

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まとめ

シニア雇用推進の背景や最新の法改正、推進時のメリットやポイントなどについて解説しました。

人生100年時代、多くのシニア人材が活躍できる環境をつくることは、人材不足の解消やダイバーシティの実現など、さまざまなメリットを生み出します。紹介したシニア人材の雇用に不安を抱える企業は、外部の支援ソリューションの活用を検討するのもおすすめです。事例を参考にしながら、自社に適したシニア雇用のあり方を探りましょう。