2025年09月11日
人材育成は、企業の成長や競争力強化を支える土台となる重要な取り組みです。しかし、多くの企業では「研修を実施しても現場に定着しない」「育成を行う時間がない」「成果を可視化できない」といった課題があるのが現状です。こうした課題を放置すると、従業員の成長機会を奪うだけでなく、組織全体の生産性や持続的な競争力にまで影響を及ぼしかねません。
本記事では、人材育成の課題が企業にどのような影響を与えるのかを整理し、代表的な課題や解決に向けたアプローチを紹介します。
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人材育成の重要性は理解していても、「研修施策が成果につながっているのか」「他社と比べて自社はどうなのか」といった疑問を抱える企業は少なくありません。
パーソルグループが実施した「大企業の人材育成に関する実態調査」では、経営層や管理職、人材の採用・育成に携わっている方600名への調査結果をもとに、研修予算の増減や対象者別の実施状況、IT・DX人材育成やリスキリングの取り組みなどの実態を明らかにしています。自社の課題整理や今後の育成施策の検討に、ぜひご活用ください。
目次
人材育成の課題は、単に「従業員がスキルアップできない」という問題にとどまりません。放置すれば企業全体に深刻な影響をもたらす可能性があります。
人材育成が進まず、従業員が自身の成長を実感できない環境では、モチベーションが低下し、結果的に優秀な人材の離職につながります。特に若手社員や中堅社員にとって、スキルアップの機会が提供されているかどうかは、職場にとどまるか離れるかの重要な判断基準です。
さらに、離職によって社内に蓄積されたノウハウが流出すると、育成が一層困難になるという「負のスパイラル」に陥るリスクも高まります。このような状況を防ぐために、従業員が成長を実感できる育成環境を整えることが不可欠です。
離職率が上昇し、内部で人材を育成できない場合、新たな人材を確保するために採用コストが増大します。中途採用市場では競争が激化しており、企業の採用費用は上昇傾向にあります。株式会社マイナビが発表した「マイナビ 中途採用状況調査2025年版(2024年実績)」によれば、採用費用総額の平均は650.6万円で、前年より20.9万円増加しました。このように、採用コストは年々増加しており、多くの企業にとって無視できない経営課題となっています。
人材の流動性が高い企業は、就職・転職希望者から「定着率が低い」「はたらきにくい職場」といったネガティブなイメージを持たれやすくなります。このような評判がSNSや口コミサイトで広がってしまうと、採用活動がさらに困難になり、優秀な人材の確保がより一層難しくなる可能性があります。
一方で、人材育成を積極的に行う企業は「はたらきがいのある職場」として評価されることが多く、採用競争力を高めることができます。人材育成による従業員の定着率向上は、社内外でのブランド価値向上にも寄与します。結果として、人材育成の取り組みが企業のレピュテーション(評価)に直結する重要な要素となるのです。
必要な知識やスキルを持たないまま業務に取り組むと、業務効率の低下やミスの増加、さらにはトラブルの発生につながります。特にDX(デジタルトランスフォーメーション)やAIの活用が急速に進む現代において、新しいスキルを習得できない人材は、ビジネスのスピードについていけなくなり、組織全体の生産性を低下させる要因となります。
さらに、新しい事業やサービスを立ち上げる際に必要な専門人材が社内に不足している場合、事業計画の遅延や新たなビジネスチャンスを逃してしまうリスクが高まります。その結果、企業の競争力が低下し、長期的な成長が阻害される可能性もあります。
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人材育成は多くの企業で重要施策と位置づけられていますが、実際の現場では「うまくいっていない」「成果につながらない」と感じる声も少なくありません。従業員一人ひとりの成長を支える仕組みを整えるには、まず自社が直面している課題を正しく把握することが重要です。
課題を明確にすることで、必要な施策の優先順位を定め、限られた時間やリソースを有効に活用することが可能になります。本章では、厚生労働省が公表した「令和6年度 能力開発基本調査」の調査結果をもとに、人材育成に関する課題を見ていきます。
厚生労働省「令和6年度 能力開発基本調査」によると、「人材育成を行う時間がない」と回答した事業所は47.4%に達しています。つまり、回答した事業所の約2社に1社が「人材育成に取り組みたいが、日常業務に追われて時間が割けない」という現実に直面していることが浮き彫りになりました。
このような状況下では、研修やOJTを実施しても、振り返りや実践の時間を十分に確保することが難しく、学びが定着しにくいという課題が生じます。せっかくの人材育成の取り組みが「やりっぱなし」となり、成果が見えにくいことが共通する課題といえます。
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人材育成においては、「時間がない」という課題だけでなく「どう育成すればよいか分からない」といった根本的な課題も深刻です。同調査では「指導する人材が不足している」と回答した事業所が59.5%と最も多く、「人材育成の方法がわからない」と回答した事業所も9.9%に上っています。
育成スキルや仕組みが十分に整っていない場合、育成施策が形骸化し、目的やゴールが曖昧なまま進んでしまうことがよくあります。その結果、従業員は学ぶ意義を感じにくくなり、経営層に対して投資対効果を説明することも困難になります。
同調査において「指導する人材が不足している」(59.5%)という調査結果は、教育や指導が特定の従業員に依存している実態を浮き彫りにしています。特定の従業員にノウハウが集中すると、異動や退職によってその知見が失われ、育成の再現性が低下するリスクが高まります。
さらに、指導内容や質が担当者によってばらつきが生じることで、従業員間で成長機会に差が生じるケースも少なくありません。このように、体系的な育成の仕組みが整理されておらず、ナレッジ共有が不足している状況は、組織全体の持続的な人材育成を妨げる要因となっています。
同調査には直接項目化されていないものの、企業はDX推進やコンプライアンス、リーダーシップ育成、ハラスメント防止など、多岐にわたる育成テーマへの対応を求められています。加えて、「人材を育成しても辞めてしまう」と回答した事業所が54.7%という結果も示されており、限られたリソースの中でどのテーマや対象者に投資すべきか、優先順位づけが難しい現状がうかがえます。育成テーマが多様化する中で、闇雲に手を広げた結果、個々の取り組みが浅くなり、十分な成果を得られないリスクもはらんでいます。
同調査では「育成を行うための金銭的余裕がない」(14.5%)や「適切な教育訓練機関がない」(8.9%)といった回答も見られます。この背景には、人材育成の成果を十分に実感できていないため、継続的な投資に踏み切れないという現実があると考えられます。人材育成の成果は、従業員の行動変容や業務パフォーマンスとして明確に可視化されにくいことが課題です。そのため、経営層への説明が困難となり、次年度の施策改善や予算確保が滞るケースが生じることがあります。
本章では、パーソルホールディングス株式会社が2024年に実施した「大企業の人材育成に関する実態調査」の結果から、大企業の人材育成に関する実態を見ていきます。
「大企業の人材育成に関する実態調査」によると「研修実施数を増やす」と回答した企業は46.1%に上り、「減らす」と回答した企業はわずか4.6%にとどまりました。同様に、「研修予算を増やす」と回答した企業は45.1%で、「減らす」と回答した企業は3.9%と少ない結果となりました。これらのデータから、多くの企業が人材育成を重要施策として捉え、研修の実施や予算配分に積極的な姿勢を示していることがうかがえます。
【出典】パーソルホールディングス株式会社「大企業の人材育成に関する実態調査」【関連記事】研修とは?目的・種類・手法・成功のポイントまでを解説【事例付き】
ITやDX推進が企業成長の鍵となる中で、「DX人材を育成できていない」と回答した企業は55.3%に上ることが、調査結果から明らかになりました。多くの企業がDX人材育成において課題を抱えている現状を反映しています。
【出典】パーソルホールディングス株式会社「大企業の人材育成に関する実態調査」さらに、リスキリングの実施率は60.3%に達しており、不足するIT・DX人材を補うための具体的な施策が進んでいることが分かります。リスキリングを通じて、既存従業員のスキルを再構築し、新たなデジタル技術を活用する能力を向上させる取り組みが、多くの企業で注目されているといえます。
【出典】パーソルホールディングス株式会社「大企業の人材育成に関する実態調査」【関連記事】リスキリングとは?注目される背景やメリットを最新調査に基づいて解説

本章で紹介した調査結果の詳しいデータや、研修実施状況・内容など他社の取り組みについてまとめた「大企業の人材育成に関する実態調査」は、無料で提供しています。ぜひダウンロードしてご活用ください。
前章の「人材育成における代表的な課題」で整理したように、人材育成には「時間の不足」「指導者の不足」「ノウハウや仕組みの欠如」など、多くの企業に共通する課題があります。こうした課題は一朝一夕で解消できるものではありませんが、人材育成へのアプローチを見直すことで、持続的な改善が可能です。
そこで本章では、人材育成の課題を乗り越えるためのアプローチを紹介します。自社の状況に照らし合わせながら、どこから着手できるかを検討してみてください。
人材育成が「やること自体」を目的化してしまうと、成果が見えにくくなります。まずは経営戦略や組織の課題と結びつけ「どのような人材を、どのような状態に育てたいのか」を明確に定義することが重要です。例えば、「来期の新事業を担うために、プロジェクトマネジメントスキルを持つリーダーを3人育成する」といった具体的な目標を設定することで、育成の方向性がはっきりします。
このように目的が明確であれば、従業員自身も学ぶ意義を理解しやすくなり、育成施策へのモチベーションが向上します。さらに、具体的な目標設定によって、取り組みの効果を客観的に測定しやすくなり、経営層への説明や次年度の施策改善にも役立つでしょう。 目的を明確化することは単なる人材育成の実施を超えて、組織全体の成長や目標達成を後押しする重要なプロセスといえます。
人材育成は人事部門だけで完結するものではありません。研修やOJTで得た知識やスキルを日常業務に定着させるには、現場の上司や先輩による継続的な支援が欠かせません。特に、1on1や定期的なフィードバックを取り入れることで、学んだ内容を実践する機会を提供し、その行動を評価・承認する仕組みが重要です。具体的には、研修後のスキルチェックシートを活用し、上司と部下が共に振り返りを行い、次の目標を設定するようなプロセスが有効です。このような仕組みにより、学びを業務に結びつけ、行動変容の促進とスキルの定着が期待できます。
また、現場を巻き込むことで、従業員は自身の成長を実感しやすくなり、モチベーション向上にもつながります。現場の上司や先輩が積極的にフォロー体制に関与することで、育成の成果を最大化し、組織全体のパフォーマンス向上を後押しすることが可能です。
【関連記事】1on1とは?目的・やり方・話す内容とうまくいかないときの対処法
一方通行の座学や集合研修だけでは、理解が浅くなり、習得した知識を実務に活用することが難しくなるケースがあります。従業員が主体的に学び、知識を「自分ごと」として捉えられる環境を整備することが大切です。具体的な方法として、一方的に教えるのではなく、グループディスカッションやワークショップを取り入れ、参加者同士で意見交換や課題解決に取り組むことが効果的です。
また、経験豊富な従業員を講師として招いた社内勉強会や、部署横断的なプロジェクトを通じたピアラーニングの導入も有効です。双方向の学習機会を導入することで、従業員の自律的な学びを促し、組織全体の知識とスキルを強化することが可能になります。さらに、従業員間のコミュニケーションが活性化し、チームとしての協働意識が高まるという副次的効果も期待できます。
日常業務が忙しく、まとまった時間を確保することが難しい企業にとって、学びを「日常のすきま時間」に取り入れることは有効です。短時間で取り組めるマイクロラーニングやスマートフォンを活用したeラーニングはその代表例です。例えば、1回5~10分程度の動画コンテンツを配信することで、従業員が手軽に業務に関連する知識を習得できる環境を整備することができます。また、業務に必要な知識をクイズ形式で学べるツールを導入することで、楽しみながらスキルを向上させる仕組みを提供することも効果的です。
さらに、資格取得費用や外部研修への参加費用を補助する自己啓発支援制度を整備することで、従業員が主体的にスキルアップに取り組む文化を醸成することが可能です。このような制度を導入することで、従業員一人ひとりの成長が促進され、結果として組織全体の成長を加速させることが期待できます。 学びを日常化する取り組みは、忙しい現場であっても無理なく継続できる方法であるため、従業員のモチベーション向上や業務効率の改善にも寄与します。
人材育成は、実施して終わりではありません。効果を測定し、改善を続けることが人材育成を成功させるための鍵となります。例えば、研修直後の満足度調査だけでなく、研修の前後でスキルテストを実施して知識の定着度を測定したり、研修で学んだ内容が実際の業務でどのように活かされているかについて、上司が客観的な評価基準を用いて確認する仕組みを取り入れたりすることも有効です。
さらに、従業員の実際の行動変化や業務成果にどのような影響があったかを確認する仕組みを整えることで、人材育成の成果を「なんとなくよくなった」という主観的な感覚ではなく、「○○%生産性が向上した」「○○というスキルを持つ従業員が○○人増加した」といった具体的なデータで語れるようになります。このようなデータがあれば、経営層に対して人材育成の価値を明確に説明することができ、次回以降の施策改善にもつながります。
育成ノウハウが特定の人材に偏ることを防ぐためには、組織全体で知見を共有する仕組みを構築することが不可欠です。社内ポータルやオンラインツールを活用し、研修資料や成功事例、業務ノウハウなどを一元管理することで、誰でも必要な情報に必要な時にアクセスできる環境を整備します。例えば、社内Wikiに営業の成功事例をまとめる、新人育成マニュアルをオンラインで共有するといった取り組みです。
さらに、定期的に開催される勉強会やナレッジ共有会は、従業員間の交流を促進するとともに、形式知(明文化された知識)だけでなく暗黙知(経験に基づいた非言語的な知識)の共有にも大きく貢献します。こうした仕組みによって、特定の人材に頼ることなく、平等に学びの機会を得られる環境をつくり、属人化を防止しながら組織全体の学習効率を向上させることができます。
人材育成は、企業の成長を支える重要な取り組みの一つです。しかし、多くの企業では「時間の不足」「指導者や仕組みの不足」「成果の可視化が難しい」といった共通の課題を抱えています。これらの課題は一見大きな壁のようですが、目的の明確化や仕組みづくりなど、具体的な工夫によって改善できるものです。
さらに、人材育成の取り組みは単なる教育施策にとどまらず、経営戦略と直結した重要な投資です。従業員一人ひとりが学び続ける環境を整え、組織全体で成長を実感できる仕組みを構築することが、企業の持続的な競争力につながります。
人材育成を成功させるためには、課題を正確に把握し、適切な施策を講じることが不可欠です。本記事で紹介した具体的な取り組みを参考に、自社の課題解決に向けた一歩を踏み出してください。人材育成の強化は、企業の未来を切り開く力となります。
【お役立ち資料】これからの人材育成を強化するために
人材育成の重要性は理解していても、「研修施策が成果につながっているのか」「他社と比べて自社はどうなのか」といった疑問を抱える企業は少なくありません。
パーソルグループが実施した「大企業の人材育成に関する実態調査」では、経営層や管理職、人材の採用・育成に携わっている方600名への調査結果をもとに、研修予算の増減や対象者別の実施状況、IT・DX人材育成やリスキリングの取り組みなどの実態を明らかにしています。データをもとに戦略的な育成施策を検討し、未来を担う人材を育てるための基盤づくりにお役立てください。