そもそもWell-being(ウェルビーイング)とはなんでしょうか?

Well-being(ウェルビーイング)とは、Well(よい)とBeing(状態)が組み合わさった言葉で、「よく在る」「よく居る」状態、心身ともに満たされた状態を表す概念です。元々は「健康的な・幸せな」を意味する、16世紀のイタリア語「benessere(ベネッセレ)」を始源としています。
Well-beingという言葉自体は、1946年のWHO(世界保健機関)設立に際して、設立者の1人であるスーミン・スー博士が定義づけした「健康」にはじめて登場しています。

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
健康は、完全な肉体的、精神的及び社会的福祉の状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない
(出典:厚生労働省 昭和26年官報掲載の訳)

従来の健康が身体的に良好な状態を表す狭義の概念であるのに対し、Well-beingは身体的・精神的・社会的にも良好な状態、とより広い概念を表していて、また「状態」としていることからも一時的・瞬間的に良好かどうかではなく、持続的に良好であるとしていることがその特徴です。一方で、幸せと訳されることの多い「Happiness」は一時的・瞬間的な、精神的な面での幸せを表します。Well-beingはこのHappinessを包み込むような一段大きな概念です。

▼健康の定義づけ(概念図)

なぜいまWell-beingが注目されているのでしょうか?

私たちにとって最もなじみのある統計のひとつとして、経済の指標であるGDP(Gross Domestic Product/国内総生産)があります。これまでGDPは経済的な豊かさを国や地域ごとに比較したり、各国政府の政策実行の目的として広く使われてきました。ただ、GDPは生産量を計測する目的で作られた指標であるにもかかわらず、ほかに代替しうる指標がなかったことから、生活の豊かさや幸福度を計測する場面においても使われるケースがあり、先述の目的は果たせても、人々の生活の質がどれくらい向上しているかといった豊かさ(Well-being)を計測するには十分ではないという議論が早くからありました。

2007年には、欧州委員会・欧州議会・ローマクラブ・OECD・WWFによる「Beyond GDP」の国際会議が開催され、GDPはWell-beingや将来世代が利用できる資源を残せているかという環境面の評価が十分にできないという点で、GDPを超えた新たな指標が必要との認識が示されました。この会議はGDPの拡大だけではない、人々のWell-beingに注目を集める契機となりました。
このBeyond GDPの取り組みは、2010年にイギリスがMeasuring National Well-beingプログラムで国内のWell-beingの状態を可視化したり、2011年にOECDがスティグリッツ委員会の提言を受けて作った、Better life Initiative(より良い暮らし指標)プロジェクトで暮らしの11分野について計測・比較できるようにするなど、様々な取り組みにつながっていくことにもなります。

2012年には、国際連合の持続可能開発ソリューションネットワークによって、World Happiness Report(世界幸福度報告)が発行され、その後毎年150を超える国や地域で調査が行われ、世界中の人々のWell-beingを可視化している指標のひとつとなっています。
また、2015年には持続可能な開発目標(SDGs)の目標3:Good Health and Well-beingの中でWell-beingが組み込まれるなど、一層注目度が増しています。また、従来の大きな属性ごとの括りから、一人ひとりを尊重しフォーカスするよう社会の風潮が変化してきたこともWell-beingが注目を集める背景のひとつとなっています。

日本でも、政府が2021年に日本政府が「成長戦略実行計画」において、「国民がWell-beingを実感できる社会の実現」とWell-beingについて言及され、「Well-beingに関する関係省庁連絡会議」の設置によって、省庁間でのWell-beingに関する取り組みの推進に向けた情報共有・連携がはかられるなど、加速度的に取り組みが進んでいます。
また、GDPだけではなく、満足度・生活の質に関する幅広い視点を可視化する目的で、現在は内閣府によってWell-beingダッシュボード(満足度・生活の質を表す指標群)が公開されています。

シンプルかつ世界共通のWell-being 調査とは?

当初は健康の定義づけのために登場したWell-beingという言葉ですが、その後アメリカのGallup社が行なっている世界最大の調査Gallup World Poll(GWP)のデータを国連が採用し、世界各国・地域で主観的な観点でのWell-beingの状態を知るための調査が行われるようになりました。この調査は国際標準として、現在も先述のOECD のBetter Life Index とともに、World Happiness Reportの世界幸福度ランキングにも採用されています。
これは主観的にその人自身がどう感じているかを測る、キャントリルの梯子と呼ばれる手法によって行なわれています。

▼梯子の図

経済的指標だけでは測れない、物質的な豊かさを超えた人々の豊かさや満足感を測る指標としてWell-beingという概念が注目を集め、この「良好な状態」は主観的にも客観的にも存在し、それぞれに評価されるべきものであると考えられています。現在ではその中でも主観的にその人自身がどう感じているかがより重視されるようになってきています。

▼Well-being(良好な状態)を構成する2つの指標

日本の課題は広がるギャップ。GDPが成長しても、主観的Well-being は低いまま!

それではその主観的Well-beingは、日本ではいったいどのような状態なのでしょうか?
毎年3月に国連が発表するWorld Happiness Reportにおいては、日本の順位は決して高くはないのが現状です。
2021年に創設された日本版Well-being Initiativeでは、経済的な発展(GDPの拡大)にもかかわらず、日本では生活満足度(主観的Well-beingが長年にわたり向上していないことを課題に挙げ、その原因・改善すべきところを見つけ出す共同研究がはじめられていて、GDPだけでは捉えきれていないものを補うものとして、GDW(国内総充実/Gross Domestic Well-being)を「経済社会における豊かさのあり方」として位置付けるべく、推進しています。

▼日本人のWell-being推移(1958-1987年)

「はたらく」の領域にも主観的Well-being の視点を!

アメリカのGallup社が2017年に発表した従業員のエンゲージメント(仕事への熱意度)調査によると、日本では「熱意あふれる社員」の割合がわずか6%となっていることが分かりました。2017年に発表された「働き方改革実行計画」、2019年の働き方改革関連法を皮切りに、コロナ禍で私たちの働き方は一段と変化しています。一人ひとりのWell-beingの実現に向け、はたらく領域におけるWell-beingは欠かせない要素のひとつではないでしょうか。

私たちパーソルグループでは、報酬や社会的地位など、はたらくことを通して得られる客観的なWell-being とは別に、もうひとつの指標として、はたらくことそのものを通してその人自身が感じる主観的な幸せや満足感を“はたらくWell-being”と定義し、2020年から日本と世界116の国と地域でのグローバル調査を開始しました。今後蓄積されていくこのデータを理解、活用し、一人ひとりの「はたらくことへの満足度」をどのように高めていくか。その課題に取り組んでいきます。

はじまったばかりの調査ですが、はたらくことで得られる主観的Well-being(はたらくことを通して、その人自身が感じる幸せや満足感)が少しずつでも高まっていくことが、これからの社会ではより重要になってくると信じています。
かつてのような終身雇用を前提とした固定的なはたらくから、現在は、はたらくことの価値や勤務形態は柔軟に、フリーに変化してきています。パーソルグループが掲げるビジョン「はたらいて、笑おう。」が実現される社会に向けて、“はたらくWell-being”は新しいひとつの指標になっていくと考えています。