一人ひとりが自由にはたらけないと会社は沈む。ガイアックスに学ぶ個人の情熱を活かす経営

今回はソーシャルメディアやアプリ事業を行う株式会社ガイアックスに、自由で開かれた社風と多くの起業家を輩出している背景について伺いました。
お話を聞かせてくださったのは同社管理本部の木村 智浩さん。ガイアックスでは人事や採用、労務、広報、IRと幅広く全体の根幹を担い、積極的に発信もされています。一緒にお話を伺うのは、NPO法人場とつながりラボhome's vi 代表の嘉村 賢州さんです。

プロフィール:
木村 智浩
株式会社ガイアックス チーフカルチャーオフィサー。奈良県生まれ。早稲田大学卒業後、ガイアックス入社。幅広く事業部を横断しながらMVPを最多受賞するなど実績を積み、現在は新しい組織づくりを推進する立場として、人事労務や広報IRといった根幹を担当。早くからリモートワークの体制を整え、2020年には家族で奈良県御所市に移住。

嘉村 賢州
東京工業大学リーダーシップ教育院特任准教授、NPO場とつながりラボhome's vi 代表、『ティール組織』解説者。研究領域は、対立やしがらみを化学反応に変える知恵や心理学、脳科学など多岐にわたる。まちづくりや教育など実践の現場も幅広く、ファシリテーターとして年に100回以上のワークショップを行っている。

自由な部署異動や社内での業務委託契約

今回はぜひ、ガイアックスさんの多様な価値観をうまく組織運営に取り入れていることや、自主的な活動を尊重しているといった、先進的な運営について教えてください。

木村さん:ありがとうございます。ちょうど社内でヒアリングを行なったのですが、コロナ禍とは関係ないところで社内に良い変化が起きていました。それは、部署を超えて他部署の人材への関心が高まっている、という傾向です。
ガイアックスは元々スタートアップですが、分権的であることを重んじているため、マネジメントだけに決裁権が限られるというようなことがないんです。

「カーブアウトオプション制度」といって、事業部が大きく成長すると組織の連結から外れて子会社化する制度があります。子会社の株も担当者が保有して、社内の事業だったものを別組織として独自に経営することが可能ですし、分社化して外部資本を受けることもできます。一昨年、ネット投稿をモニタリングしたり、ネットいじめの対策を行うアディッシュ株式会社が上場しましたが、元々アディッシュもガイアックスの子会社でした。その他、社外のシードフェーズに投資することもありますし、どんどん起業家を輩出して事業開発を行うことがガイアックスのビジネスモデルともいえます。

こうした社風だと、他の部署の人にはあまり興味をもたないものなんですね。元々、事業部ごとの収支も明瞭で、労務や法務のサービスを使った分なども所属部署の経費として社内できっちり清算するという、いわゆる独立採算制を実践しています。そうなると、メンバーそれぞれが経営者の視点をもって事業を把握するようになり、個人それぞれが活動しやすくなります。一方で、一人ひとりにすごく遠心力が掛かってまとまらなかったり、他部署の人材にまで関心がいかないんです。しかし現在、社内の傾向として他の部署に関心がある理由は、部署間での業務委託制度を始めたからだと実感しています。

部署間での業務委託制度は、いわば「他部署で副業すること」です。A部署に所属しているガイアックスの社員がB部署の仕事をすることもできる、ここに業務委託契約を結ぶようにしました。それまではA部署とB部署それぞれの上長が調整して、部署としてその業務を行うかどうかという判断をしていました。一般的にもそうだと思います。

しかしガイアックスでは元々個人の活動が自主的で、部署異動も上長の指示ではなく個人と受け入れ部署の了解を得れば行えるようになっていたので、他部署の仕事でもいつの間にか直取引が発生していたんです。
初めは社外から雇用するよりもコストが抑えられるし、メンバーの隙間時間が活用できると、労基署の確認も取りながら小さく解禁したところ、どんどん社内で広まっていきました。「僕はこういう強みがあるので他部署から仕事をもらいます」といったケースが増えていったんです。

社外での副業は以前から解禁していたので、ただ副業先が社内の他部署に変わったという感じでもあります。結果としてこの1年の間に複数の部署の仕事をするメンバーもいますし、社内だからこそ融通が利いたり、動きやすかったり、あとは思っていたよりもコミュニケーションコストも低いとわかったのは良い発見でした。

一般的に世間ではコロナ禍以降、自分の業務だけに集中することが強まり、他部署や他社の仕事には関心が薄くなっていると言われています。それはある意味でものすごく孤立しやすいことでもありますよね。でもガイアックスでは“身近な社外”という感じで、他部署の人材への興味が強まっているんです。

実際に副業している方と部署内の方とはどのような関係なのでしょうか?

木村さん:上司が副業しているとその部署のメンバーも副業していて、上司が副業していないとメンバーも副業しづらい、ということはありますよね。なので、ルールを解禁した時はそういうことが起きないように注意しました。それまでは他部署で出した稼働を自分の給与に載せて欲しいということも直属の部署には伝えづらい、特に所属部署が目標に達成してない時は自分だけ収入増することが言いにくいといったことになりがちで、上長の顔色を見ながら他部署の仕事をするようなことも起きていましたが、直取引が解禁されてからはそうしたこともなくなりました。

多く兼務した人が損をするような状況は、他社の事例でもあると思います。

木村さん:それは僕らも悩んでいたことでした。いい人は他部署でも手伝ってくれるんだけど、その結果一番疲弊してしまうとか、評価がわかりにくいとか、でも評価のためだけに働いているわけじゃないからまた頑張ってしまう、というループ。そういった人が業務委託契約にしたことで適切な報酬を受けられるようになったんです。

例えばうちの部署でマーケティングをしている人材が、他部署の副業によって収入も増えるし、何よりも、マーケティングはやはり色んな案件を経験したほうが成長の機会になります。A部署で成功した事例をB部署でもC部署でも提案して、他部署での経験をもってA部署に戻る、といったことが起こるようになりました。

あと良かった点として、採用のミスマッチがあったとしても修正しやすくなったと思います。また、トータルの稼働状況も把握しやすいので、無茶も起こりにくいと労務からも言われました。ある人は「それぞれの上司がいることでクロスメンターがいる状態」だとも言っていて、健全だという声も出ています。

同時に労務に言われたことは、「これを受け入れられない会社もある」ということでした。仕組みとしては部署のメンバーが引き抜かれてしまうことが起こりやすいですし、上司にとっては、部署メンバーの業務把握やコントロールがしづらくなるからです。

実際、元々の所属部署での仕事をどんどん減らして気づいたら他部署に異動にしてしまったといったことも起きていますし、私自身も同じで、今年は正社員から業務委託に変わりました。ガイアックスの場合は複数部署と取引することが、より個人の主導権を強めることにでき、さらに会社もそれを良いと認めていることが成功のポイントになるかと思います。

嘉村さん:少し先の目線からの質問になりますが、そうした掛け持ちをする場合、セルフマネジメントできずに迷惑をかける人が出ることも他の企業などでは聞きますが、ガイアックスさんではそうした人はいないのでしょうか?

木村さん:うまくいかなかったケースも出てはいます。例えば、責任感が高くマルチタスクがあまり向いてない人も当然います。そうした場合、負荷が高まりパフォーマンスは全体的に低下してしまうんです。担当業務を絞り込むことでフォローはしますが、そういう意味では必ずしも副業が全員に向いているかどうかはわからないですね。

中にはやはり、ひとつの仕事に集中した方がパフォーマンスは出るし、お互い仕事もしやすいし、集中するべきという文化もまだあるんです。しかし仕事内容によっては、必ずしもそうじゃない、という理解が広がってきた。複数に関係先を広げた方が会社にとっても本人にとっても、また部署にとっても良いことがある。だから広がっているんだと思います。

副業で問題になりやすいのは、副業していることを隠しているケースだと思います。基本的には副業について開示してほしいとしているのに、会社にも同僚にも隠れて副業をしているケースがある。これはうまくいかないことが多いです。おそらく、会社の仕事をうまく抑えて報酬だけを上げたいという考えがそうさせるのかもしれません。開示してくれることで、会社としても支援しやすかったり、お互い真摯にコミュニケーションが取れていると思います。

Well-beingとは、自分で自分の人生のハンドルを握ること

ひとつの事業部に所属して自分のミッションを達成する喜びと、副業などで他者に貢献できる喜びも出てくるなど、個人の幸福度やWell-beingという観点では、どんな変化がありそうでしょうか?

木村さん:やはり、それぞれがミッションに基づいて情熱的にはたらけることは幸福度が高い、と改めて認識しています。ただ単に副業をしていてもただ忙しくなるだけです。仮にその副業でものすごく収入が増えたとしても、幸福度が上がるとは限らない。でも本人が裁量をもって自己決定したものについては幸福度に寄与します。自分で自分の人生のハンドルを握っている感覚があるかどうか、個人個人がミッションを元に動けているかどうか、これが最も幸福度を左右する要素であり、主観的なWell-beingを上げると思います。

Well-beingについては2017年頃に注力し始めました。その時、ある男性社員が最年少で事業部長になったんです。離職率が高い部署だったのですが、彼はWell-beingについてよく認識していたこともあり、事業部の運営もそうしたことを徹底して、メンバーを信じて任せることに特化しました。その結果、すぐに業績が2倍に成長したんです。離職が劇的に減り、採用は紹介や推薦で良い人材が増え、生産性は高まり、事業としても大きく成長しました。

この時リモートワークも徹底していて、彼は「週1だけ出社してくれたらいい」としていたようです。私自身もその前から同じようなことを言っていたのですが、その時は反対意見もありました。しかし、ひとつの部署がこうして良い結果を出してくれたことで早くからリモートワークが他の部署にも広がっていき、同様に業績が上がったという事例にもつながっていきました。

もうひとつ会社全体の事例でいうと、社員総会や合宿を年に1回開催しているんですが、参加は自由にしています。企画している身としては絶対に来て欲しいですけど、社風として「絶対○○して」と強要することはないので、あくまで個人の任意参加になります。ただそれも少しずつ、事業部ごとの傾向が出てきました。以前は部署間の連携をよくするためにわざと交流する機会を企画しようとしましたが、反対意見もありましたし、やはり全社のために全員が集まるということ自体に無理があるとも思うんです。

そこで、社員総会も合宿も来たい人だけ来てくれたらいいとして、みんなのWell-beingが高まることに特化したコンテンツを開催しました。ストレングスファインダーをやってみたり、Well-beingに関するワークやエクササイズプログラムを行うなど、会社に関する話は一切しません。参加メンバーの幸福度が上がるかにフォーカスして開催するようになってからは参加者が増えました。反響も良いですし、こうしたフィードバックの重要性も再認識しましたね。

総会などを企画する立場にいると、頭ではそれぞれを尊重したいと思っても、一方で組織として統制したい葛藤みたいなものはありませんか?

木村さん:そうですね。元々は部署間コミュニケーションを良くしたいと思っていたわけですが、下心を見透かされるというか、空気を読んで参加してくれるようになってしまうんですね。本音は参加したいかどうかわからないけど社員だから出ます、ということになると結局はコストが掛かるし、全体の場の質を下げてしまいかねません。こうした悲劇は表面化しにくいものの、非常に大きな問題だと思っています。本音でコミュニケーションできるようになると、企画が参加者に受け入れられているかどうか如実にわかりますし、むしろ本心がわかると対応もしやすくなるんです。

総会に参加しないことが会社に対して忠義心がないというわけではありませんし、関わり方やコミュニケーションのスタイルが多様であることを改めて認識させられます。私たちはみんな、強みも興味関心も違っていて、それぞれがパフォーマンスを出すことが大切なんですよね。組織運営の落とし穴でもありますが、行動力やパフォーマンスがそこそこ平均であることが普通と思いがち。でも現実の組織運営は、一人ひとり違って多様であることが大きな違いをつくると思っています。

投資するのはメンバーひとり一人の生命力

ガイアックスさんの中に地域社会との共通点を感じますね。多様な人がいて、お互いどう助け合ったり、うまく共生していくか。また、どういう風に組織文化をつくっていくか。そうした思いやりが途切れない秘訣みたいなものはあるのでしょうか。

木村さん:私の場合、全社的なことを運営する立場で、例えば「ミッションを浸透させよう」みたいなことを言うとメンバーからの抵抗が起こりやすいです。表情がピクッと反応して、「“浸透させる”ではなく“共感”と言い直した方がいい」といった議論が始まったりする。本当に自由な社風なので、自分は自分であるという意識もそれぞれが確立できているからだと思います。

あと、報酬テーブルが影響しているかもしれません。昔から「マイルストーンセッション」という呼び方で目標管理制度を設定しています。各自のライフプランを聞き、それをベースにどんなパフォーマンスを出すのか、さらに、報酬案をベストケース・ミドルケース・ワーストケースで描いてもらうものです。つまり各自が、どういう背景でこう評価して欲しいという提案することで、それを遂行することに責任感が生まれるんです。そうすると、誰かに何かを強制されることには意識が強くもなりますね。

嘉村さん:その話し合いを行う際は、個人を尊重されながら上長も意見したりすると思うのですが、少し高圧的に出るリーダーがいる部署では萎縮しちゃう人がいるケースなどはないでしょうか? もしかしたらそういうときも、他部署に移動できる仕組みがあるから救われることもあるのかと思いました。

木村さん:自ら報酬を的確にアピールするって、日本人が全体的にあまり慣れてないことだと認識しています。そのため、新人研修のときにトレーニングをしていて、どういう指標を元に、どんな風に伝えたらきちんと給料が上がるか、という知恵を身につけてもらっています。マネジメント側に伝え方を研修するというよりは、ちゃんと交渉する方法をメンバーたちに習得してもらい、それによって上司も一緒に鍛えられていくんです。ガイアックスはそうした、いわば「上司の立場から見ると嬉しくないこと」のインプットも多いと思いますね。

嘉村さん:上司から変えようとするとただのトップダウンになりますもんね。それよりも自律型人材を現場に増やすことで、上司は勝手に変わらざるを得ないという。すごく卓越した戦略ですね!

木村さん:現場の味方というか、一人ひとりがどう自分らしく生きているか、一人ひとりの生命力に投資するのが一番良いと思っています。

投資先の選定基準もガイアックスならでは

嘉村さん:少し違う観点で聞きたいんですが、新規事業が生まれるときに、ガイアックスとして何かコンセプトを選ぶ指針はありますか?

木村さん:いい質問ですね。おそらくどこの会社も新規事業は苦しんでいると思うんです。ガイアックスは常に、利益はほとんど新規事業に使い切る、あるいは資金調達にして全部投資しているんですが、泣かず飛ばずの新規事業も多いです。また、連続的に失敗したメンバーが退職してしまうケースもあります。気を遣うのかもしれないですが、結果的に退職した後は成功率が高いので、退職者の新規事業にも投資します。これはあまり他社ではないことだと思うんですが、「優秀だったのを知っているからこそ投資したい」と積極的に投資することもありますね。それでIPOのリターンを得たりすることもあるんです。

ひとつ事例を挙げると、スマートロックの株式会社フォトシンスという会社は、代表の河瀬 航大さんがガイアックスの社員のときに取り組んでいた事業でした。当時はまだ入社3年目、部活的に社内のサークルでつくったスマートロックが新聞に載って話題になったんです。それで代表の上田が「バックアップするから」と起業を勧めました。現在は上場して、最近また数十億も資金調達できる企業に成長しています。元々一緒に仕事していたメンバーなら人となりもわかりますし、投資対象の調査をする場合も深く見ることができて、判断しやすいです。そういう意味では、出資対象の幅はかなり広くもっていると思います。また、今は新規事業の経営判断自体を手放していて、基本的には外部資金調達の支援をしていますね。

嘉村さん:それなりに資金調達できるってことは、社会にとってニーズがあると判断される事業ということですね。

木村さん:そうなんです。なのでガイアックス100%で伸ばしている新規事業はあまりないんです。

嘉村さん:しかし自由性をもっても、コンセプトがバラバラな事業群ができるのではなく、社会性が高かったり、社会的意義があるような大きな流れをもっていますね。

木村さん:基本的にはシェアリングエコノミーや、ソーシャルメディアが自律分散型の世の中をつくるという価値観をベースにしたビジネスが多いです。投資先にも優先的に選んできたことではあります。人と人をつなげることをミッションにしてきた会社ですので、そこから離れているものだと、たとえすごく儲かりそうに思えたとしても出資はしていませんね。

嘉村さん:採用についてはどうでしょうか。人間力とかコミュニケーション力とかを育むための教育研修などは意識していますか。

木村さん:採用はこだわっていて、今は現場で採用できるようになっています。以前は経営陣にプレゼンしたり、複数部署の承認を得てから採用するようなこともしていましたが、それらがコストにもなっていたため、今は色んな採用が走っています。

他の仕事をしているけどガイアックスではたらきたいと言ってくれる人を受け入れることもありますし、永田町グリッドに出入りしている人で感度の高い人を採用することもあったり、アルバイトから入って活躍するケースも多いですし、多様な採用手法があることで大きな募集をせずとも良い採用ができています。

研修については教育研修でというよりは、入社後にガイアックスのカルチャーの影響を受けていることが大きいと思います。もう少し端的に言えば、誰か一人が徹底して自分らしさを出す姿が他者にも影響を与えていると思います。

先輩が自分の姿を見せたり一緒にはたらく中で組織の文化も形成されるとは思うのですが、コロナ禍前からリモートワークが多いガイアックスさんの場合は、どういう風に自分らしさを示しているのでしょう?

木村さん:社内でキャラが目立つ人、自分らしさを発揮し始めた人ほど活躍する印象はありますね。自分らしさを出せないと、特に新人の時は萎縮することもあるかもしれないんですが、突き抜ける人は多いです。平均的な形でないと生き残れないと思っていたのが、ある意味いびつな方が生き残りやすい。誰かが楽しそうにしている姿を見ることで大きな影響があると思います。

嘉村さん:僕は実は2004年ぐらいにガイアックスでインターンしていたんですけど、その頃からそういう空気はありました。今はマックスむらいとして有名になった村井 智建さんもいて、周りが面白がっているような雰囲気がありましたよ。

失敗の捉え方

嘉村さん:失敗に関する考え方もお聞きしたいです。一般的にはマネジメントが先読みしてしまう話を聞くことも多いのですが、周りが介入し過ぎて自律分散が起こせずにいる組織に向けて、アドバイスするとしたらどんなことでしょうか?

木村さん:以前の事例ですが、まだ若いメンバーが少し強引に推進したことで評判を落としてしまい、このままいったら他のメンバーが辞めてしまうので担当を変えた方がいいんじゃないか、という話が出ました。その時、役員たちも状況は理解していたのですが、「彼に一任しているんだからもしも失敗したとしても彼が責任取れるようにした方が良い」と判断していました。個人的にはついつい他の人に変えたら良いんじゃないかと思ってしまっていたのですが、結果を見るとその後状況に行き詰まった彼自身が気づいて変わっていったんです。ある意味では冷酷で非効率だったり、無駄な赤字を出しているという見方もできますが、社員の成長につながる方を選んでいるという経営側の意志は強いですね。

あと、会社も変化を重ねる中で、失敗を経験した人材を大事にしている傾向もあります。失敗してもまたチャレンジするという姿勢は貴重ですし、そうした人材と良い関係性を続けたいという気持ちもありますし、チャレンジする精神や姿勢を大切にしていますね。

嘉村さん:過去でレッテルは貼らないんですね。

木村さん:それぐらい任せているケースが多い、ということでもあります。だからこそ、一生懸命取り組んだ方を評価したいんですね。

嘉村さん:逆に、こういう振る舞いは許されない、ということはあるのでしょうか?

木村さん:決まりごとにしているわけではありませんが、やはり嘘をつくことは嫌がられますよね。ただそれに対して怒ったりするというのもちょっと違うかもしれません。みんなで怒ったら嘘をつかなくなるというものでもないですから。ただ、元から色んなことをオープンにしている組織文化は、嘘をつきづらい空気ではありますよね。

嘉村さん:採用や人事の力と、あと、このオープンな文化、この2つが性善説なマネジメントを可能にしているように感じました。

木村さん:どちらもものすごく大切ですよね。オープンさと人。どちらもガイアックス側から信じている姿勢は高いと思います。会社として付き合っているというよりも、人と付き合っている感覚が強い会社というか。契約形態も含めて、どんどん個人の「その人らしさ」が出やすい形にしているのが良いと思っています。

一般的にはオンとオフをもっている人が多いので、自分らしさや自分自身のことをオープンにすることには抵抗がある人もいるとは思うんですが、組織の中に入れば慣れるのでしょうか?

木村さん:私はもう馴染みすぎてわかんない人かもしれませんね(笑)

嘉村さん:よく聞くのは、色々オープンにするために導入したSlackでも結局、個別DMで話しちゃってあまりうまくいかない、とか多いと思いますが、木村さん自身はそういうのを聞くとどう思いますか?

木村さん:ガイアックスとしては「オープンにしたい人たちはしたらいいし、別にしなくてもいい」というトーンでもあるんです。

要は権威みたいなものが全体的にないんですね。部署異動が自分で決められて、仮に上司が異動を反対したとしても異動先と合意できたら異動できるわけですから。もしもそこに誰かが権威を振りかざして介入するようなことがあると、もう本音をオープンにすることなんてしないんだと思います。

他社から転職してくれた方から、ガイアックスのオープンさに驚いたという話をよく聞きます。歴史のある日本企業から転職した方が言っていたのは、一般の会社だと統率を重んじることが重要で突飛なことをする社員は管理しにくいと思われる、とか。あと会社によってはそれが左遷につながることもあるようです。

ガイアックスではそういう心配もないですし、むしろ常に新しいことをしないといけないので、社員も本当に自由に動けるようにしておかないと何も生まれないんです。また、困ったときの相談など、オープンにしておくことで頼りやすい関係性がつくれるのもオープンさのメリットですよね。

ガイアックスでは、組織や会社にとって都合がいいだけの自律型人間を求めていないんです。一番重要なのは一人ひとりの人生であって、それがキードライバーであることを会社全体の価値観として共有しているので、ガイアックス外で大きく活躍するかもしれないとしても、社会全体にとってはそれもまた良いことだと捉えています。今では出資で支援できる体制もつくれましたので、より一層、それぞれが一番やりたいことを進めることが全体を好転させています。

会社側のそうした思いを理解してもらえると、パフォーマンスを見せて応えたい、という気持ちを強めてくれます。そうするとみんな無理しないはたらき方を自ら調整するんですね。仕事だけじゃなくて休み方も含めて、個人の人生をどうつくるかということだと捉えている方が会社へのリターンも高い。

会社のミッションに社員が合わせるのではなく、個人のミッションを会社に浸透させる、ということの方が強いですね。個人のミッションほどパワーのあるものってないんですよね。結局、ガイアックスが一番重要視している経営リソースは「情熱」なんです。情熱って底なしで無限ですから、お金や物よりもよっぽど強いんです。

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