「シェアードサービス」とは、複数のグループ組織からなる企業が、間接部門における業務を1カ所に集約させて業務効率化やコスト削減を狙う企業改革のことを指します。
簡単にいうと、グループ全社の間接業務を請け負う部門、もしくは子会社を社内に設立することを指しますが、既存部門から業務やサービスを切り離して適切に機能させるには、しっかりとした準備と設計が必要です。
そこで本記事では、シェアードサービスのメリット、導入時の見極めポイント、また運用時の注意点やサービス活用事例について紹介していきます。
【BPO導入前に確認すべき15のチェックリスト付き】
BPO導入のポイントと活用事例BOOK
シェアードサービスとは
シェアードサービスとは、複数のグループ企業からなる企業が、間接部門の業務を1カ所に集約させる企業改革のことを言います。
シェアードサービスの対象となる業務は、財務・経理、総務・人事、情報システム、物流、法務、監査など多岐にわたります。これらの業務は、一般的に、どの企業でも実務内容に大きな違いがありません。そのため、業務プロセスやシステムを標準化して1カ所に集約することで、グループ企業全体の業務効率化やコスト削減を図ることが目的です。
BPOとの違いは?
シェアードサービスと似た言葉に、「BPO」という用語があります。BPOとは「Business Process Outsourcing」の略称で、企業の業務プロセスを一括して外部に委託するアウトソーシングの一種の形態です。
企業の生産性向上や、従業員の負担軽減を図るという目的はシェアードサービスと同じですが、シェアードサービスは社内で1カ所に集約するのに対し、BPOは外部委託するという点で異なっています。
|
シェアードサービス |
BPO |
内容 |
グループ企業内の間接業務を、社内で1カ所に集約させること |
企業の業務プロセスを、一括して外部に委託すること |
委託先 |
企業内 |
外部企業 |
主な目的 |
業務の効率化、コスト削減 |
シェアードサービスの主な活用メリット
シェアードサービスを導入・活用することで得られる主なメリットは、3つ挙げられます。
組織全体のガバナンスを強化できる
まず、組織全体のガバナンスを強化できる点です。シェアードサービスを導入する際には、組織全体の業務を集約します。そうすることにより、これまで各企業でバラバラに行われていた経営管理が一括されるため、ガバナンスの強化を図ることができます。
社内の人的リソースを有効活用できる
次に、社内の人的リソースを有効活用できる点です。
「経理業務」を例に説明しましょう。経理業務の繁忙には波があり、締め日前や決算前は特に担当者の業務がピークに達します。ピーク時に残業が増えると、残業日が増えてしまいます。また、人数をピーク時に合わせるとコストがかかりますし、通常期には人員が余ってしまうことも考えられます。そこで、シェアードサービスを導入し、グループA社の締め日を20日、グループB社の締め日を月末に設定するなど、締め日をずらすことで、ピークをならしつつ社内の人的リソースを最小限におさえることができるのです。
ナレッジの共有と蓄積ができる
最後に、ナレッジの共有・蓄積ができる点です。シェアードサービスでは、グループ内の各企業で行われてきた間接業務を、1カ所で行います。業務の専門性が高まり、業務の品質向上が見込めます。また、各企業での経験やノウハウを共有できるため、グループ全体の経営力強化も期待できるでしょう。
シェアードサービスの導入ポイント|見極めとプロセス
ここからは、実際にシェアードサービスの導入を検討する際のポイントについてお伝えします。
社内課題の把握
シェアードサービスの導入検討時は、まず社内課題を把握することからはじめましょう。
- どういったシステムで業務を行っているか
- ピーク期はいつ頃か
- 誰が、どの作業にどの程度の時間をかけているのか
- 業務課題はなにか
など、自社の現状を整理するとよいでしょう。
初手の組織分析・業務量調査を怠らないことで、本質的に解決すべき課題と、シェアードサービス導入により達成すべき事業成果が明確になります。
また場合によっては、シェアードサービスではなく「BPO」が選択肢に挙がったり、そもそも導入が不要と判断に至ったりすることもあるかもしれません。そのような見極めをするためにも、社内課題の把握を丁寧に行うことで、目的をはっきりさせることが大切です。
導入部署の選定
社内課題が把握できたら、次は導入部署を選定しましょう。これまで各企業のルールに基づいて行われていた間接業務を、1カ所に集約していくことになります。どの部署なら業務プロセスを標準化・集約できるか、といった見極めが大切です。
シェアードサービスの対象となる部署は主に以下の通りです。
- 財務・経理(一般会計業務、旅費・経費精算業務)
- 人事・総務(採用業務、福利厚生業務)
- 情報システム(ヘルプデスク)
- 物流(備品等の受発注業務)
また、すでにシェアードサービスを導入した企業が、どのようなプロセスで導入・運用していったのか、事例を見ることでよりイメージがもてるでしょう。
システムの見直し・調整
シェアードサービスの導入前は、各企業・部門で、異なるシステムやツールが利用されているでしょう。委託する業務を効率よく遂行するためにも、現行のシステムを見直す必要があります。事前に分析・把握した社内課題を解決するにはどのシステムを利用するのが最適なのかといった視点をもとに、現行のシステムを比較しましょう。目的に合致するシステム統一、もしくは新規に構築することも一つの手です。また、各社のシステムは他の業務と関わっているものもあることでしょう。システム担当者との調整も欠かさず行い、混乱が生じないようにしましょう。
シェアードサービス部門は本社に置くか?子会社に置くか?
シェアードサービスの導入検討やシステムの見直しと同時に、担当部署を本社の配下に集約するのか、子会社として独立させて集約するかも考えなくてはならないポイントです。それぞれに良し悪しがありますので慎重に決定しましょう。
本社に置く場合
本社に置く大きなメリットは、サービス導入が容易であることでしょう。各部門から一部業務のみを切り離す形で、大規模な組織変更を伴わないため、従業員の混乱も最小限に抑えることができます。
一方で、従来の業務プロセスやシステムが踏襲されてしまうと、業務工数やシステムの課題解決のためにシェアードサービスを導入したにも関わらず、従来のやり方に囚われすぎてしまい大幅な組織改革に踏み切れないといったリスクもあります。
シェアードサービス該当部門を本社に置く際には、期待する効果や導入の目的をはっきりさせ、既存の業務を集約するだけとならないように留意すると良いでしょう。
子会社として独立させる場合
子会社として独立させるメリットは、子会社化することで別法人となるため、シェアードサービスそのものの売上・コストが明確になり管理しやすくなることです。また、独立した企業としての利益獲得を目指すため、シェアードサービス自体の業績を評価することができます。
しかし本社に置く場合と異なり、子会社化は大規模な組織変更を伴います。プロセスや組織、システムを一から構築できる反面、システムやデータ統合に必要な初期コストがかかったり現場が混乱してしまったりと導入が容易ではありません。シェアードサービスの導入は長期的な取り組みであることを踏まえて臨む必要があります。
シェアードサービスは業務効率化を目的としたソリューションの一つ
ここまでシェアードサービスについて説明してきましたが、シェアードサービスはあくまでも「業務効率化」を主な目的とした解決策の一つです。つまり「間接部門の集約」がゴールではなく、それによってどのように経営課題が解決されたのかが極めて重要です。
そこで初めてシェアードサービスを検討する際は、自社課題解決に向けた他のアプローチとして、他社に業務を委託する「アウトソーシング」や、先に説明した「BPO」も視野に入れておくとよいでしょう。

なおアウトソーシングやBPOは、従来自社で補っていた人的リソースを他社で補うことができ、生産性向上に繋がる一方で、自社にナレッジが蓄積されず業務担当者が育たないリスクもあるため、慎重に検討しましょう。本当に該当業務を委託してよいか、自社の目的を明確にし、どのような効果を期待するかの共通認識をBPO会社との間で持っておくとよいでしょう。
まとめ
シェアードサービスの活用で、業務の効率化や品質向上、コストの削減などが期待できること、ご理解いただけたでしょうか。サービス導入までに現行業務を可視化したり、業務の課題を抽出・整理、サービス導入後も継続的な改善を行うなど、実際には長期にわたり改革していく必要がありますが、最終的に享受できるメリットは大きいと考えられます。ぜひこの機会に、シェアードサービス導入について検討してみてはいかがでしょうか。
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