ガバナンスとは?必要な背景やコンプライアンスとの違い・強化施策を解説

ガバナンスとは、「統治」「統制」を意味する言葉で、ビジネスにおいては健全な企業経営を行うための管理体制のことを指します。

企業の不祥事に対する社会の目は厳しく、業績や信頼性の低下をまねきかねない大きなリスクです。このようなリスクへの対策として、ガバナンスの強化が求められています。

本記事では、ガバナンスの意味や、ガバナンスが注目される背景や強化するメリット、具体的な施策について解説します。上場企業の対応状況も紹介していますので、他社の取り組み動向もご参考にしてください。

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ガバナンスの強化は、企業の信頼性向上のために欠かせない取り組みですが、
・何から着手すれば良いかわからない
・他社はどのようなガバナンス強化の施策を行っているか知りたい
といった方も多いのではないでしょうか。

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目次

ガバナンスとは

ガバナンス(governance)とは「統治・支配・管理」を意味する言葉で、企業経営において公正な判断・運営がなされるよう、監視・統制する仕組みを指します。上場企業では「コーポレートガバナンス・コード」に基づき、ガバナンスの強化が求められており、最近では中小企業や非上場企業でもガバナンスの重要性が高まっています

ガバナンスと似た概念として、「コンプライアンス」「リスクマネジメント」「内部統制」があげられます。それぞれの違いを解説します。

ガバナンスと混同しやすい言葉との違い

コンプライアンスとの違い

コンプライアンスは、「法令遵守」を意味します。ビジネスにおいては、倫理観や公序良俗など社会的な規範に従って業務を行うことを表します。実際には法令だけでなく、CSRや企業理念、社内ルールの遵守なども含まれます。

対して、ガバナンスはコンプライアンスの意識を高め、維持するための管理体制を指します。つまり、コンプライアンスが守られるよう、体制を整えることがガバナンスともいえます。

リスクマネジメントとの違い

リスクマネジメントとは、経営上のリスクを事前に把握し、予防、対策ができる体制を取る一連のプロセスです。リスクマネジメントにより、トラブルが生じた際は適切なアプローチで鎮火させることで被害を最小限に抑えられます。たとえば、災害時のBCP(事業継続計画)や情報漏洩対策などはリスクマネジメントの一部です。

健全な企業経営を行うためにリスクマネジメントは欠かせないもので、ガバナンスにおける機能のひとつといえます。

【関連記事】リスクマネジメントとは|基本の考え方、プロセスを簡単に解説

内部統制との違い

内部統制は、業務の正確性・効率性、不正防止、法令遵守を実現するための基本的な仕組みのことです。具体的には、会計処理のチェック体制や職務分掌、承認フローの明確化などがあげられます。

ガバナンスがなければ内部統制も形骸化し、内部統制が整っていなければガバナンスは機能しません。

【関連記事】内部統制とは|目的やメリット・コンプライアンスとの違いを解説

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上場企業に求められるコーポレートガバナンス・コードとは

「コーポレートガバナンス・コード」は、企業の健全な経営と持続的成長を支えるために、上場企業に求められるガバナンスの基本原則をまとめたガイドラインです。東京証券取引所と金融庁が中心に取りまとめ、2015年に公表されました。その中では、コーポレートガバナンスについて以下のように定義しています。

コーポレートガバナンスとは、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえたうえで、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する。

【引用】株式会社東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード

また、2021年6月の改訂では、企業とさまざまなステークホルダーとの間における適切な関係性や、組織として臨まれる姿について示されています。特に注目すべきは企業にとってのガバナンスの方向性を示す5つの基本原則が明示されたことです。

▼コーポレートガバナンス・コードの基本原則

  • 株主の権利・平等性の確保
  • 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
  • 適切な情報開示と透明性の確保
  • 取締役会等の責務
  • 株主との対話
【出典】株式会社東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード(2021年6月版)

ここからは各原則について解説します。

原則1.株主の権利・平等性の確保

企業は、すべての株主がその権利を適切に行使できるようにしなければなりません。特に、少数株主を含むすべての株主が平等に扱われることが重要です。株主総会での適切な対応、議決権の行使のしやすさの確保、基本的な権利(配当・議決・情報入手など)の尊重 などが求められます。

原則2.株主以外のステークホルダーとの適切な協働

企業の持続的成長には、株主だけでなく、従業員・取引先・地域社会などのステークホルダーとの信頼関係も不可欠です。 法令や倫理の遵守(コンプライアンス)、多様性の推進(女性・外国人・中途人材の活用など)、サステナビリティへの配慮(環境・社会課題)といった視点も含まれます。

【関連記事】ダイバーシティとは?概要や推進例をわかりやすく解説

原則3.適切な情報開示と透明性の確保

企業が信頼を得るには、情報開示の「量」だけでなく「質」も大切です。財務情報だけでなく、非財務情報(経営戦略、リスク、ESG対応など)の開示も重要視されています。タイムリーで正確なIR(投資家向け情報開示)、経営方針やガバナンス体制の説明責任、データの透明性・信頼性の確保などが含まれます。

原則4.取締役会等の責務

取締役会は、経営陣を監督し、企業の中長期的な価値向上を導く中心的な存在です。そのため、構成メンバーの多様性・独立性・専門性が重視されます。 独立社外取締役の確保、取締役会の実効性評価、経営陣への適切な牽制・監督などの仕組みが求められます。

原則5.株主との対話

企業は株主との建設的な対話(エンゲージメント)を通じて、経営の透明性や中長期的な価値向上につなげる必要があります。IR担当や経営陣が株主の声に耳を傾ける体制の整備、対話を通じた経営改善のフィードバック、対話内容の適切な社内共有といった実践が求められています。

ガバナンスの強化が必要とされる背景

コーポレポートガバナンスの強化が必要とされる背景を、3つ紹介します。

1.相次いだ大企業の不祥事

コーポレートガバナンスの強化が注視されるようになったのは、2000年頃複数の大企業において不祥事が相次いだことが発端です。情報改ざんや粉飾決済などの不祥事が多発したことで、企業の管理体制へ批判や注目が集まりました。

2.国際競争力の低下

日本企業の「稼ぐ力」が諸外国と比べて低下傾向にあることも要因の一つです。経済産業省によると、2022年と1990年の日本企業の株価指数を比較すると、日経平均で1.1倍に過ぎません。対して、アメリカNYダウは13倍、中国上海では24倍、さらにはインドムンバイでは54倍との指数が出ていることからも、日本企業が大きな遅れをとっている現状がわかります。

株式指数の長期的動向
【出典】経済産業省「CGS ガイドライン(2022年7月19日)

ESGの重要性の高まり

近年はイノベーションによる付加価値の創出や生産性向上、ESG(環境・社会・ガバナンス)の重要性が高まっています。投資家・株主が企業の持続的成長や中長期的な企業価値向上を評価する上でESGを重視していることから、公正で透明性の高い企業経営が求められています。

【関連記事】ESG/ESG投資とは?企業が取り組むべきことと事例を紹介

ガバナンスが機能していると得られるメリット

ガバナンスが機能することで、得られるメリットは、以下の3つです。

    • 企業価値の向上
    • 健全な経営の実現
    • 持続的成長と競争力の強化

1.企業価値の向上

ガバナンスを強化することで、対外的な企業評価が高まり、中長期的な企業価値の向上につながることがメリットの一つです。企業の信頼性が高まることで、株主やステークホルダーへの利益が守られます。金融機関からの評価にもつながり、出資や融資も受けやすくなるでしょう。

2.健全な経営の実現

ガバナンスが機能していると、改ざんや隠蔽といった不祥事が起きにくく、健全な経営体制の実現にも有効です。企業が積極的な情報開示を行うことで、信頼獲得にもつながります。

3.持続的成長と競争力の強化

中長期的なメリットとして、持続的な成長や競争力の強化も見込めます。信頼性の確保によって業績にも良い影響が期待できるほか、組織力の強化にもつながります。

ガバナンスをうまく機能させることで、従業員の業務範囲や責任範囲が明確化され、指揮系統が整理されるためです。透明性の高い組織になることで、従業員の定着、人材の確保、競争力の向上という好循環が生まれます。

ガバナンス不全が招くリスク

一方で、ガバナンスが機能していないと次のようなリスクが考えられます。

社会的信用の失墜

ガバナンスが機能していないと、不正や不祥事により、社会的信用を失うリスクが高まります。企業の管理体制が十分に届いていないため、不正や不祥事が起きた時に、すぐに対処することができません。

その結果、社会的な信用を失ってしまい、企業にとって膨大な不利益をもたらすでしょう。

グローバル化への対応の遅れ

ガバナンスが機能していないと、経営の健全性や透明性が確保できず、業務効率に問題を抱える可能性が高いため、市場競争に負けてしまう可能性が高まります。

ガバナンスが機能していると、業務上の課題にもスムーズに対応できる体制が整っており、市場で優位に立ちやすくなるでしょう。特に海外市場へ進出する場合には、価値観や文化の違いから、リスクが生じやすい傾向にあります。

ガバナンスを強化する具体的な施策

コーポレートガバナンスは、取り組むべきことが多く、何から手をつけるべきかお悩みの方が多いのではないでしょうか。ここでは、具体的に取り組むべき4つの施策について解説します。

ガバナンスを強化する施策

1.内部統制を構築・強化する

内部統制とは、前述のとおり、業務の正確性・効率性、不正防止、法令遵守を実現するための基本的な仕組みです。具体的には、組織が適切な統治を取れるよう取締役会などの組織構造の見直し、リスクの洗い出しや対応策の整備などの方法があげられます。

方針を決める経営者と、方針を制度に落とし込む人事部門の連携が重要です。

2.コンプライアンスを徹底する

ハラスメント対策などコンプライアンスを徹底できる体制づくりも重要です。ガバナンスが機能していない場合、従業員が不正をしやすい環境になっている可能性があるため、事前に予防する必要があります。

具体的には、社内研修やeラーニングによる教育の継続、通報制度(内部通報窓口)の整備、経営層からのコンプライアンス重視のメッセージ発信などがあげれらます。また、組織として、コンプライアンス委員会を設置し、監視体制を整える手法も効果的です。

【関連記事】コンプライアンス研修とは?テーマ例や必要性・実施のポイントを解説

3.監査体制を整える

第三者目線での監査体制を整えることが重要です。内部監査でも外部監査でも、第三者目線で監査することで、自社だけでは気づくことのできない、不透明な業務上の問題や不適切なルールを発見しやすくなります。

内部監査を行っていない場合、内部監査で調査するべき項目や実施計画の作成、内部監査人の選定などを行います。

4.コーポレートガバナンスを社内へ浸透させる

どれだけ制度を整えても、社員に理解されていなければ意味がありません。「なぜガバナンスが大事なのか」を伝え、一人ひとりが当事者として意識を持つことが重要です。

具体的には、経営層からのメッセージや社内報での発信、ガバナンス研修の実施(特に管理職・経営層向け)、具体的な不正事項などを使ったケーススタディなどがあげられます。

【お役立ち資料】ハラスメント問題対策ガイド

企業が抱えるリスクの中でも特に重要視すべき「コンプライアンス違反」と「ハラスメント」に焦点を当て、課題点と予防法を分かりやすく解説した資料を公開しています。ぜひご活用ください。

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ガバナンス強化の事例

最後に、コーポレートガバナンスを強化するための企業の取り組み事例を紹介します。

経営会議にも外部識者を招聘|味の素株式会社

味の素では、縦割りの組織を打破すべく、取締役会に加え経営会議にも外部識者を招聘しています。また、法定3委員会(指名、報酬、監査)を設置している上に、取締役会議長や各委員長はすべて独立社外取締役が担っています。さらに、「ASV経営」を実現させるべく、監督と執行が分離されている会社機関設計の指名委員会等設置会社を選んでいます。ASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)とは、社会価値と経済価値を共創させるための、味の素独自の取り組みを指す用語です。

これらの取り組みが評価され、一般社団法人日本取締役協会の「コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー®2023」にて、「Winner Company」を受賞しています。


【参照】味の素株式会社「味の素㈱、コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー®2023 「Winner Company」を受賞

取締役10名のうち6名が独立社外取締役|セイコーエプソン株式会社

エプソンでは、自社の価値観・行動様式を定めた「エプソンウェイ」に基づいて、持続的成長と中長期的な企業価値向上を図るべく、ガバナンス強化に取り組んでいます。

ガバナンス強化の取り組みとして代表的なものの1つに、取締役10名のうち6名を独立社外取締役が占め、任意の氏名と報酬員会の長を社外取締役が担っていることが挙げられます。これは、ガバナンスの実効性を向上させ、公正かつ迅速な意思決定を促すことを目的としています。

これらの取り組みが評価され、味の素株式会社と同様に、「コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー®2023」にて、「Winner Company」を受賞しています。


【参照】セイコーエプソン株式会社「「コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー®2023」の「Winner Company(入賞)」を受賞

ガバナンス体制を4つの方針から構成|大和ハウス工業株式会社

大和ハウス工業は、2019年からガバナンス強化に向けた取り組みを公表しています。4つの基本方針を定め、その内容に基づいたガバナンス強化のための基盤づくりを行なっています。

基本方針 具体策例
経営体制及び管理・監督のあり方の再検討 ・社外取締役の比率を3分の1以上へ変更
・社内取締役の上限年齢の設定
業務執行の機動性及びリスク対応体制の強化 ・コンプライアンス推進部の設置
・事業本部リスク管理委員会を各事業本部に設置
リスク情報の収集と共有の強化 ・リスク報告基準の明確化
・内部通報の外部窓口新設
持続性・実効性を支える環境の強化 ・役職員へのリスク・コンプライアンス教育の継続実施
・リスク・コンプライアンス関連の社内ルールの検索性の改善

コーポレートガバナンスが優れていることに加え、環境対応、女性活躍推進、ダイバーシティ対応、働き方改革などのESG活動を積極的に行っているとして、「コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー2018」で東京都知事賞を受賞しています。


【参照】大和ハウス工業株式会社「「大和ハウスグループ ガバナンス強化策」の実施状況について

社長の選任・後継者計画における先進的な取り組みを推進|株式会社ダイフク

ダイフクでは、ガバナンスの根幹である社長の選任・後継者計画において、以下のような取り組みを実施しています。

  1. 現社長の選任は、指名委員会に相当する諮問委員会における検討など客観性を重視したプロセスを経て決定
  2. プロセスの透明性・合理性・客観性強化のために、諮問委員会の構成を社外者中心にするなど社長選任プロセスを改善
  3. 外部からの指摘に対して迅速に対応・開示をするなど、ステークホルダーと真摯に向き合っている。社外の目・声を重視すべく、社外取締役との意思疎通や情報共有を行いつつ、中長期的な視点に立ったグローバルな経営を行った結果、高い業績をあげている

これら社長の選任・後継者計画において、先進的な取り組みを行っているとして、日本取締役協会が選定する「コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー2021」の経済産業大臣賞を受賞しています。


【参照】経済産業省「株式会社ダイフクが「コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー2021」経済産業大臣賞を受賞しました」|経済産業省

【無料DL】ガバナンス強化、他社はどうしている?取り組み調査レポート

ガバナンスの強化は、企業の信頼性向上のために欠かせない取り組みですが、
・何から着手すれば良いかわからない
・他社はどのようなガバナンス強化の施策を行っているか知りたい
といった方も多いのではないでしょうか。

パーソルグループでは、1,300名を対象にガバナンス強化に関する課題と取り組みについて調査し、結果をまとめたレポートを公開しています。

ガバナンス強化を検討する際にぜひご活用ください。

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まとめ

健全な企業経営を実現し、持続的に成長するために、ガバナンスの重要性が高まっています。内部統制の強化や監査体制の構築など、ガバナンス体制を整えることで、企業の不祥事や不正が起きるリスクの低減につながります。

ガバナンスを強化し、変化に対応できる強い組織体制を構築しましょう。