ナレッジマネジメントで優れた知やノウハウを蓄積、新たな知を創出する方法

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ナレッジマネジメントとは、企業にあるナレッジを共有・再利用し、新たな知を創造するための経営手法です。ナレッジとはデータ・知識・技能・ノウハウなどを指し、さらに言語化されていない暗黙知が含まれます。優れた知を経営に活用・創造する方法を解説します。

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目次

ナレッジマネジメントとは何か、なぜ注目されているのか

ナレッジマネジメントとは何か

ナレッジマネジメントとは、企業・組織が既存の知を共有・再利用し、新たな知を創造するプロセスを効率化・最適化する経営手法です。

1995年に日本人研究者2人が英語で出版した『知識創造企業:日本企業はどのようにイノベーション・ダイナミクスを創造したか(The Knowledge-Creating Company:How Japanese Companies Create the Dynamics of Innovation)』が世界でベストセラーとなって高い評価を受け、日本に逆輸入された考え方です。共著者の1人である野中 郁次郎氏(一橋大名誉教授、経営学)らはナレッジマネジメントについて従来の訳語「知識管理」に代え、新しい知識をつくり続ける経営という意味で「知識経営」の訳語を提唱しています。

ナレッジにはデータ・知識・知恵・技術・ノウハウなどが含まれ、これらは言語化されていない暗黙知と言語化された形式知からなります。さらに詳しくいうと、暗黙知が形式知として共有できるようになるのは言語によるばかりではありません。数字や図表によっても暗黙知は形式知となりえます。ナレッジのうち、いまだ形式知になっていないものを形式知として表出・明確化し、また共有・創造して、経営に活用しようというのです。

ナレッジマネジメントの基礎理論としての組織的知識創造理論は、以下の4要素からなるとされています。

(1)知識変換の4モード(SECIモデル)
(2)「場(ba)」
(3)知識資産
(4)ナレッジ・リーダーシップ

それぞれ簡単に説明していきます。

(1)知識変換の4モード(SECIモデル)

野中氏と竹内 弘高氏(同上書共著者、ハーバード大学ビジネススクール教授・一橋大学名誉教授、経営学)によると、知識創造には彼らが「知識変換」と呼ぶ以下4つのモードがあるとされています。

知識変換の4モード(SECIモデル)

・共同化
(Socialization)
個々人の暗黙知(思い)を共通体験をつうじて互いに共感し合う 暗黙知→暗黙知
・表出化
(Externalization)
その共通の暗黙知から明示的な言葉や図で表現された形式知としてのコンセプトを創造する 暗黙知→形式知
・連結化
(Combination)
既存の形式知と新しい形式知を組み合わせて体系的な形式知を創造する 形式知→形式知
・内面化
(Internalization)
その体系的な形式知を実際に体験することによって身に付け暗黙知として体化する 形式知→暗黙知

【出典】野中郁次郎・竹内弘高「知識創造企業」、野中郁次郎・梅本勝博「知識管理から知識経営へ」より

これら4つのモードは頭文字を取ってSECIモデルとも呼ばれ、単なるサイクルではなくスパイラルのように巡り続け、組織の知を形づくるとされています。暗黙知を形式知とする(表出化)ばかりでなく、暗黙知・形式知が同一レベルで共有・連結したり、形式知を内面化して暗黙知としたりする、というのは興味深いところです。

(2)「場(ba)」

知識創造に向け共有されたコンテクスト(文脈)としての「場」です。野中氏らによる著書「知識経営のすすめ」によると、「場」とは「共有された文脈−あるいは知識創造や活用、知識資産記憶の基礎(プラットフォーム)になるような物理的・仮想的・心的な場所を母体とする関係性」と定義されています。

なかでも大事なのが「文脈」と「関係性」です。文脈、すなわちその場にいないと分からない脈絡や状況、筋道など、その場にかかわる人々の関係性が、人々が集う場所(仮想空間を含む)で形づくられる、というのです。こうした「場」が知識共有や創造には、なくてはならないものであるとされています。ちなみに英語でも「ba」と表現されています。

(3)知識資産

「場」で創造・共有される知識資産は、知識創造プロセスにおける材料でもあり、成果でもあるとされています。

(4)ナレッジ・リーダーシップ

知識創造プロセスには、その進展を促すナレッジ・リーダーシップが必要です。そのトップ・マネジャーが果たすべき役割は、(1)知識ビジョンを創り、(2)それを社内外に広め、(3)自社にとってどのような知識が必要なのかを絶えず再定義し、(4)「場」を創ってそれらにエネルギーを与え、そのような場にいる人々の間のインタラクションを促進すること、また(5)SECIプロセスをリードし、促進し、正当化することである、とされています。
【出典】北陸先端科学技術大学院大学 知識科学研究科 梅本研究室「知識管理から知識経営へ」

注目される背景

従来から企業の経営資源はヒト・モノ・カネ・情報の4つが基本でしたが、企業経営に占める無形資産の比率が高まり、「知識経済」化が進みました。知識の新しさ・独自さこそが競争優位性の源泉となる時代がすでに到来している、というわけです。

(1)内部資源である知識を最大限に活用し、(2)知識経済のメカニズムで成長するということが、九〇年代をつうじてナレッジマネジメントへの関心を表出化させたといえます。こうして見ると、なぜ米国企業がナレッジマネジメントに強い関心を持つかがわかります。それはそれが、生き残りのカギであり、成長の源泉だからなのです。

【出典】野中郁次郎・紺野登「知識経営のすすめ」

さらに、IT技術の発達によって、改めて企業内にあるさまざまなナレッジのIT化とそのセキュリティ確保は今日的な課題となりました。例えば、データ化・共有化(クラウド化)と有効活用(システム化)、秘匿するべき経営情報・個人情報の漏洩防止です。

また、前述のとおりナレッジマネジメントが知られる契機となった『知識創造企業』におけるナレッジには、暗黙知が含まれています。野中氏らは、巷間の浅薄なナレッジマネジメント理解には、この暗黙知の理解が不足しているといいます。

ナレッジマネジメントのアイデアの元ともなった、科学哲学者であり医学・化学も修めたマイケル・ポランニーによる著書『暗黙知の次元(The Tacit Dimension)』には、以下のような記述があります。

私は人間の知を再考するにあたって、次なる事実から始めることにする。すなわち、私たちは言葉にできるより多くのことを知ることができる。

【出典】マイケル・ポランニー「暗黙知の次元」

ポランニーは同書のなかで、暗黙知を敷衍し生物の進化や宇宙論にまで言及しています。暗黙知は、虫の知らせやチェスの達人が持つ言語化されていない技量といった狭い範疇を超え、広く科学の発展に寄与し、新たな知の創出にさえ連なるものだと考えられているのです。

ここで企業経営に立ち返ると、企業内には、いまだ暗黙知のままで形式知になっていない優れた技能・ノウハウ・業務知識などを持つ従業員がいます。こうしたハイパフォーマーの行動特性を「コンピテンシー」と呼びます。いわば「能力ある人の行動パターン」です。

例えば、ある自動車ディーラーの優れた業績を残す販売員に、日々の行動を聞き取りしたところ、次のような答えが返ってきたそうです。「店に入ってくる見込み客の運転の仕方や素振りをよく観察している。すると、その人がクレームを言いに来たのか、新車の購入に来たのかが判別できる。判別できれば、顧客行動に応じた気構えと準備が可能となる」。こうして高い売上が可能になるというのです。

優れた暗黙知・コンピテンシーを引き出して言語化し、マニュアル化して蓄積・共有・展開することは、あらゆる企業に望まれることではないでしょうか。また、そうした技能やノウハウ、その提供を人事評価に組み込むことも、従来の能力評価が見合わなくなった低成長の下では重要な課題となっているでしょう。

ナレッジマネジメント導入のステップ

標準的な導入ステップ

ナレッジマネジメントの導入には規模・目的に応じたさまざまな手法がありますが、ごく標準的に必ず踏むステップを簡単にまとめると、以下のようになります。

基本的な導入の4ステップ

(1) ナレッジの発見 一般にサーベイ、アンケート、個人インタビュー・グループインタビュー、観察を通じて得た情報を分析・加工し、暗黙知や明示的な知識とする
(2) ナレッジの取り込み 個人・制作物・組織体のうちにある暗黙知を可視化するため、文書化・言語化により外部化する
(3) ナレッジの共有 適切なタイミングで適切な人々に、以上から得られた暗黙知・明示的な知識が使用できるようにする(マニュアル化・データベース化など)
(4) ナレッジの適用 意思決定・プロセス改善・ビジネス上の課題解決のためのナレッジを具体化する。指示・プロセス・規範を通じ組織全体に浸透させる

こうしたステップを踏む前に、自社が必要とする知識資産の活用目的や活用手段を考慮する必要があります。その際、目的・手段により異なるナレッジマネジメントのタイプが参考になるでしょう。

ナレッジマネジメントの4つのタイプ

 

【出典】野中郁次郎・紺野登「知識経営のすすめ」

・ベストプラクティス共有型(改善×集約)
企業内の成功事例を蓄積・共有します。成功事例・日々の業務分析による学習の成果を集約し、業務改善などに役立てる手法です。例えば、ドキュメント化して情報システムに取り込み、いつでも必要に応じて取り出すことができるようにします。

・専門知ネット型(改善×連携)
専門知識を持つ人々をネットワークで結び、課題解決や意思決定を行う手法です。主に電子メールやネットワーク機能を持つグループウェアを使用します。

・知的資本型(増価×集約)
組織の知的資産のうち、特許や著作権を持つ制作物・プログラム、またブランド・のれんといったものを整備・活用して収益につなげる手法です。しかし、従来のようにIP(知的所有権)戦略にばかり焦点を当てるのではなく、無形の知的財産として企業全体の活動のなかに再配置し、価値を生み出すことが課題となります。

・顧客知共有型(増価×連携)
顧客との知識の共有・提供を継続的に行う手法です。製品・サービスを介した経験、それらの使用法といったノウハウを含めて共有することで、従来のマスマーケティングに代わるワン・トゥ・ワンマーケティングを可能にします。

ナレッジマネジメント導入時の注意点

コンピテンシーの評価制度への組み込み

導入にあたり、難関となるプロセスの一つに「暗黙知の表出・共有」があります。優れた業務知識・技能・ノウハウを持っていても、寡黙な職人タイプで言語化が苦手であったり、ナレッジを独り占めすることに意義を感じたりして、共有可能な形式知にすることに前向きでない場合があるためです。

こうした際には、前述のコンピテンシーを人事評価制度に組み込む方法によって解決を図ることができる場合があります。ハイパフォーマーの行動規範であるコンピテンシーの表出と共有、例えばマニュアル作成といった行動・成果を人事評価制度に組み込むことで、ハイパフォーマーの持つ業務知識や技能・ノウハウを独り占めすることなく共有するよう促すわけです。

シニア人材の活用

今後は、70歳以上の(再)雇用が、努力義務から義務へとなっていくことが考えられます。長年自社ではたらいたシニア人材は優れた暗黙知を持つ者として十分に活用余地があるともいえます。 例えば、暗黙知として業務知識や技能・ノウハウはもちろん、「あることを知っている人を知っている」「知のありかを知っている」という知識があります。つまりknow-whoの知識により、人をつなげて課題解決にあたることができるのです。とくに経験の少ない若手に向けて、そうした知を提供してもらう意義は大きいでしょう。

後ろ向きの知識では意味がない

ナレッジマネジメントの要点は既存の知識を表出・共有するとともに、新たな知識を創造することにありました。したがって、ナレッジマネジメントが有効となるためには、常に新しい知識を取り入れようとする態度や常に知識をブラッシュアップする姿勢が必要です。また常に学び続ける組織風土を醸成することも必要となるでしょう。簡単なことではありませんが、これも評価制度への組み込みによって、ある程度解決を図ることができます。チャレンジする態度や行動、学習への意欲・行動を評価指標の一つとする方法などが考えられるでしょう。

ナレッジマネジメントの成功事例

富士フイルムビジネスイノベーションの「何でも相談センター」

最も著名なナレッジマネジメントの成功事例の一つが、富士フイルムビジネスイノベーションのナレッジ・イニシアティブの取り組みです。ユニークなのが、同社の知識重視経営についての考え方です。それは知や知識そのものは管理すべき対象ではなく、知を生み出し活用する人々を活気づけ、自発的に参画させることによって知を高める、という考え方です。

富士フイルムビジネスイノベーションでは経営トップ自身が知識重視のビジョンを繰り返し語り、「New Work Way」という社員一人ひとりが自分らしく新しいはたらき方をする、という全社運動などを通してナレッジの取り組みが浸透しています。

取り組みは多岐にわたり、「知識とベストプラクティスの共有化」「顧客知ベースの構築とマイニング」「専門家のネットワークのマッピング」「商品としての知識を生み出す」といったトップ10領域(Top 10 Domains for Knowledge Management)にまとめられています。

これらトップ10領域には、それぞれ「グローバルにサービス技術者の発見した最新ノウハウの登録・審査・共有(XeroxのEureka)」や「新たな知識の創造・提供と評価の連動(新人事制度)」「製品開発のノウハウと議論のデータベース(全員設計:Z-EIS)」など、多岐にわたる成功事例が豊富に含まれていますが、なかでも顕著な成功事例の一つが「何でも相談センター」です。

営業部門に設置された「何でも相談センター」は、営業からの問い合わせに何でも答える、という部署です。もともと営業スタッフらの「お客様の相談事に、専門外のことであっても何でも誠意をもって応えたい」という声から生まれました。

何でも相談センターに属する相談員は、公募で自ら手を上げた営業経験者です。相談員は1カ月に約2,000件もの相談に答え、決してたらい回しにしないといいます。必ず責任を持って答える姿勢により、営業スタッフの信頼を勝ち取ることに成功しています。

結果、相談センターには顧客知をはじめとする多くの知識が蓄積され、真のプロフェッショナルが育成されて最も価値あるナレッジの源泉となるまでに至っています。さらに驚くべきことに、同センターではknow-whoネットワークが構築され、どんな質問にも最適な解答を見つける専門的な知識を持つ人を探し出すことができ、このネットワークは営業部門・社内のみならず社外にまで広がっているそうです。

何でも相談センターの情報技術の活用や効果

<td">データベース活用
情報技術 活用内容 効果
データベース活用 ・相談センターに寄せられた質問と回答はすべて直ちに50のカテゴリーに区分されデータベースに保存(カテゴリーは検索容易なように工夫)
・データベースはイントラネットを通じ社内公開、営業スタッフだけでなく全社員が閲覧可能
・過去事例を容易に検索可能
・現在の顧客の関心事を知ることができる
ホームページ活用 ・質問はイントラネット「何でもホームページ」にも掲載・公開
・ホームページは毎日1,000人以上のクライアントからヒット、1日あたり1万ページ以上が参照
・営業スタッフによる自力解決時に比べ1回平均3時間以上の効率化を実現
・営業スタッフの顧客レスポンスが格段に向上

【出典】野村恭彦「富士ゼロックスにおけるナレッジイニシアティブ」

富士フイルムビジネスイノベーションでは、ナレッジマネジメントが注目されるより以前から「知識とは何か」「知識を高める支援にはどのようなものがあるか」など、ナレッジに関して活発に議論が重ねられてきたそうです。こうした先進の取り組みから深く学び、自社でどのような取り組みが可能か考えていきたいものです。

ナレッジマネジメントは知識の利活用のみならず新たな知の創造を行う経営

ナレッジマネジメントとは既存の知を共有・再利用し、かつ新たな知をつくり出すことによって企業の収益を生み出す経営手法です。知には言語・数字・図表により明確化された形式知と、そのように明確化されていない暗黙知とがあります。企業にある知には、例えば、ハイパフォーマーが持つ業務知識や技能・ノウハウといった暗黙知が含まれ、これは人事評価制度への取り込みなどにより発出・共有する仕組みを構築することが可能です。知識経済が発展する昨今、より一層ナレッジの重要性を深く理解し、自社の収益につなげる仕組みづくりに努めましょう。

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