ナレッジマネジメントとは?意義や手法・導入方法【事例あり】

ナレッジマネジメントとは、企業にあるナレッジを共有・再利用し、新たな知を創造するための経営手法です。ナレッジとはデータ・知識・技能・ノウハウなどを指し、さらに言語化されていない「暗黙知」や言語化された「形式知」が含まれます。

本記事では、ナレッジマネジメントに関して、基礎知識やメリット、必要性、導入手順を解説します。最後に企業の取り組み事例11選も紹介していますので、自社がどのように取り組んでいけばよいかのイメージを掴む上でぜひご参考にしてください。

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目次

ナレッジマネジメントとは

ナレッジマネジメント(Knowledge Management:知識管理)は、組織が培ってきた知見や知識、技術、ノウハウなどのナレッジを組織全体で共有することによって、「新しい知識」を生み出す経営手法です。

1995年に日本人研究者2人が英語で出版した『The Knowledge-Creating Company:How Japanese Companies Create the Dynamics of Innovation』が世界でベストセラーとなって高い評価を受け、日本に逆輸入されたことで生まれました。

ナレッジマネジメントの目的は、企業の持つナレッジを新しい従業員に継承したり、それまでのナレッジを進化させたりすることで、企業の成長を果たすことです。ナレッジマネジメントに成功すれば、業務効率化や組織の生産性向上、新規事業の開発などにつながります。

ナレッジの意味

ナレッジマネジメントの「ナレッジ」は、データ・知識・知恵・技術・ノウハウなどのことで、「暗黙知」「形式知」という2つの「知」にも分けられます。

「暗黙知」とは、「言語化されていない知、言語化するのが難しい知」を指します。仕事においては、長年の経験に基づいた業務上のノウハウや技術が暗黙知に該当します。つまり、感覚的には上手くこなせるけれども、言語化できず他人に継承できないものが暗黙知です。

「形式知」とは、「言語化されている知」のことで、業務マニュアルや作業手順書など社内で言語化されて共有されているものを指します。

ナレッジマネジメントでは、企業に蓄積された暗黙知と形式知を管理、分析して有効活用します。

ナレッジマネジメントが注目される背景

ナレッジマネジメントが注目される背景には、雇用の流動化によってナレッジの継承が難しくなっていることが挙げられます。昨今では転職が活発化しており、従業員が一つの企業に終身で勤続することが当たり前ではなくなってきています。

それに伴って多くのナレッジを持つベテラン社員が、長年勤めた後に他社に転職してしまうケースも増えています。それによってベテラン社員から若手へのナレッジ継承が困難になっているのです。

また、「あの人にしか業務をこなせない」といったように、業務が属人化していると、特定の従業員が退職した際に当該業務をこなせなくなってしまう可能性があります。

こうした問題の解決策として注目されているのがナレッジマネジメントです。ナレッジマネジメントでは、個人に留まっているナレッジを企業に集約し活用するため、継続的にナレッジが継承できます。業務に必要な知識やノウハウを言語化し共有しておけば、特定の業務に精通した従業員が退職した際にも、別の従業員が業務をこなせるようになります。

ナレッジマネジメントのメリット

ナレッジマネジメントによって、以下のようなメリットが期待できます。

    • 業務品質・生産性の向上
    • 人材育成の効率化

それぞれ詳しく解説します。

業務品質・生産性の向上

社内にあるナレッジを有効活用することで、業務品質や生産性の向上が期待できます。

優秀な従業員の知識や業務の進め方を組織内で共有すれば、組織全体の業務品質を向上につながります。例えば、営業成約率の高い従業員の商談ノウハウを共有することで、経験の浅い若手の成約率向上につながるでしょう。

また、社内で生産性が向上した部署があった際に、その事例を全社的に共有して適用すれば、組織全体の生産性も高められるはずです。

このように、自社に蓄積されたナレッジをさまざまな形で活用することで、業務品質や生産性の向上につながります。

人材育成の効率化

ナレッジマネジメントによって、人材育成の効率化も期待できるでしょう。

これまで共有できていなかった業務フローやノウハウを言語化して、マニュアルにまとめれば、人材育成の負担が削減されます。

さらにテレワーク環境下など直接指導をする機会がない環境であっても、従業員自らが得たい情報を探し、問題解決に活用できる点もメリットです。

ナレッジマネジメント導入のステップ

ナレッジマネジメントの導入には規模・目的に応じたさまざまな手法がありますが、標準的なステップを簡単にまとめると、以下のようになります。

基本的な導入の4ステップ

1.ナレッジの発見 一般にサーベイ、アンケート、個人インタビュー・グループインタビュー、観察を通じて得た情報を分析・加工し、暗黙知や明示的な知識とする
2.ナレッジの取り込み 個人・制作物・組織体のうちにある暗黙知を可視化するため、文書化・言語化により外部化する
3.ナレッジの共有 適切なタイミングで適切な人々に、以上から得られた暗黙知・明示的な知識が使用できるようにする(マニュアル化・データベース化など)
4.ナレッジの適用 意思決定・プロセス改善・ビジネス上の課題解決のためのナレッジを具体化する。指示・プロセス・規範を通じ組織全体に浸透させる

「発見」「取り込み」「共有」「適用」の4ステップを踏むことで、自社に蓄積されたナレッジを効果的に活用できるようになるでしょう。

ナレッジマネジメントに活用するツール

ナレッジマネジメントには、以下のようなツール・システムを活用します。

    • ビジネスチャット(SlackやChatworkなど)
    • 社内SNS
    • クラウドストレージやファイルサーバー
    • 社内Wiki
    • CRMシステム(顧客情報の管理・共有・分析に利用されるツール)
    • エンタープライズサーチシステム(社内データを検索できるシステム)
    • FAQシステム(よくある質問とその回答を検索できるシステム) など

各種ツールを活用し、ナレッジの集約や分析・共有を行います。最近では、社内向けの動画配信プラットフォームを利用し、知識や技術の共有を行う事例もあります。

会社の規模や業務内容・セキュリティ要件などによって、活用するツールを選びましょう。

ナレッジマネジメントの種類と具体例

ナレッジマネジメントには、「ベストプラクティス共有型」「専門知ネット型」「知的資本型」「顧客知共有型」の4種類があります。タイプごとに得られる成果が異なるため、各タイプの特徴を理解して自社がどれを採用すべきかを見極めることが大切です。

【出典】野中郁次郎・紺野登「知識経営のすすめ」

ベストプラクティス共有型(改善×集約)

ベストプラクティス共有型とは、企業内の成功事例を集約・分析して言語化をすることで、新たな知を発見して業務改善などに役立てる手法です。

日々の業務日報や自社の成功事例、優秀な社員の行動パターンを集約・分析することで、ベストプラクティスを生み出せます。

専門知ネット型(改善×連携)

専門知ネット型とは、専門知識を持つ人々をネットワークで結び、組織内のナレッジを集約する手法です。

例えば、ヘルプデスクや情報システム部門のような顧客との応対が多い部署では、顧客からさまざまな問い合わせがされます。とくに問い合わせ頻度の多い内容を「よくある質問」として公開したり、社内Wikiに取りまとめたりすることで、各種対応の負担を減らせるようになります。

知的資本型(増価×集約)

知的資本型とは、組織の知的資産のうち、特許や著作権を持つ制作物・プログラム、またブランドといったものを整備・活用して収益につなげる手法です。

例えば、自社での活用を想定して独自開発した業務システムを社外向けに販売したり、自社が営むレストランの人気メニューを商品としてスーパーやコンビニなどで売り出したりします。

知的資本型では、従来のようにIP(知的所有権)戦略にばかり焦点を当てるのではなく、無形の知的財産として企業全体の活動のなかに再配置し、価値を生み出すことがポイントとなります。

顧客知共有型(増価×連携)

顧客知共有型は、顧客との知識の共有や顧客への知識の提供を継続的に行う手法です。顧客からの意見やクレーム対応をデータベース化し分析して、見つかった課題や好評な点をビジネスに活かします。

例えば、顧客へのアンケート調査で判明した顧客の意見を新商品の開発に反映させたり、自社サービスの導入事例を顧客に共有することで営業の提案力を高めたりします。

ナレッジマネジメント導入時の課題やポイント

ここからは、ナレッジマネジメントを導入する際の注意点をみていきましょう。

ハイパフォーマーがナレッジ共有に前向きでないケースがある

導入における課題の一つに「暗黙知の表出・共有」があげられます。

優れた業務知識・技能・ノウハウを持っていても、寡黙な職人タイプで言語化が苦手であったり、ナレッジを独り占めすることに意義を感じたりして、共有可能な形式知にすることに前向きでないケースです。

このようなケースにおける解決策のひとつは、行動特性の言語化と共有を評価制度に組み込むことです。例えばマニュアル作成を評価項目に入れることで、業務スキルや技能・ノウハウの共有が促進されるでしょう。

関連記事「人事評価制度とは?必要性や評価項目の具体例・導入のポイント」を見る

シニア人材のノウハウを活用する

長年自社ではたらいたシニア人材は優れた暗黙知を持っています。

例えば、暗黙知として業務知識や技能・ノウハウはもちろん、「あることを知っている人を知っている」「知のありかを知っている」という知識があります。つまり、人をつなげて課題解決にあたることができるのです。特に経験の少ない若手に向けて、そうした知を提供してもらう意義は大きいでしょう。

関連記事「シニア人材のマネジメント課題|キャリア自律を促す3つのポイント」を見る

後ろ向きの知識では意味がない

ナレッジマネジメントの要点は既存の知識を表出・共有するとともに、新たな知識を創造することにありました。したがって、ナレッジマネジメントでは、常に新しい知識を取り入れようとする態度や常に知識をブラッシュアップする姿勢を組織が持つことが必要です。

また、常に学び続ける組織風土を醸成することも必要となるでしょう。簡単なことではありませんが、これも評価制度への組み込みによって、ある程度解決を図ることができます。チャレンジする態度や行動、学習への意欲・行動を評価指標の一つとする方法などが考えられるでしょう。

ナレッジマネジメントの取り組み事例

最後に、ナレッジマネジメントを導入した事例を見てみましょう。自社のナレッジマネジメント導入のヒントが見つかるはずです。

富士フイルムビジネスイノベーション株式会社

最も著名なナレッジマネジメントの成功事例の一つが、富士フイルムビジネスイノベーションのナレッジ・イニシアティブの取り組みです。取り組みは多岐にわたりますが、なかでも顕著な成功事例の一つが「何でも相談センター」です。

営業部門に設置された「何でも相談センター」は、営業からの問い合わせに何でも答える、という部署です。もともと営業スタッフらの「お客様の相談事に、専門外のことであっても何でも誠意をもって応えたい」という声から生まれました。

何でも相談センターに属する相談員は、公募で自ら手を上げた営業経験者です。相談員は1カ月に約2,000件もの相談に答え、決してたらい回しにしないといいます。必ず責任を持って答える姿勢により、営業スタッフの信頼を勝ち取ることに成功しています。

結果、相談センターには顧客知をはじめとする多くの知識が蓄積され、真のプロフェッショナルが育成されて最も価値あるナレッジの源泉となるまでに至っています。さらに、同センターではknow-whoネットワークが構築され、どんな質問にも最適な解答を見つける専門的な知識を持つ人を探し出すことができ、このネットワークは営業部門・社内のみならず社外にまで広がっているそうです。

何でも相談センターの情報技術の活用や効果

情報技術 活用内容 効果
データベース活用 ・相談センターに寄せられた質問と回答はすべて直ちに50のカテゴリーに区分されデータベースに保存(カテゴリーは検索容易なように工夫)
・データベースはイントラネットを通じ社内公開、営業スタッフだけでなく全社員が閲覧可能
・過去事例を容易に検索可能
・現在の顧客の関心事を知ることができる
ホームページ活用 ・質問はイントラネット「何でもホームページ」にも掲載・公開
・ホームページは毎日1,000人以上のクライアントからヒット、1日あたり1万ページ以上が参照
・営業スタッフによる自力解決時に比べ1回平均3時間以上の効率化を実現
・営業スタッフの顧客レスポンスが格段に向上

【出典】野村恭彦「富士ゼロックスにおけるナレッジイニシアティブ」

ナレッジマネジメントの基礎理論

ナレッジマネジメントについてより本格的に学びたい方は、以下の基礎理論について理解しておくと良いでしょう。

    1. 知識変換の4モード(SECIモデル)
    2. 「場」
    3. 知識資産
    4. ナレッジ・リーダーシップ

それぞれ簡単に説明していきます。

1.知識変換の4モード「SECIモデル」

ナレッジマネジメントにおいて知識が創造されるまでには、「SECI(セキ)モデル」と呼ばれる4つのモードを経由していきます。SECIモデルとは知識が創造されるまでに歩むプロセスをモデル化したもので、暗黙知・形式知がどのように変化をしていくのかを理解する上で役立ちます。

知識変換の4モード(SECIモデル)

共同化
(Socialization)
暗黙知が共通の体験や作業を通じて、他者に伝達された状態を指す。 暗黙知→暗黙知
表出化
(Externalization)
獲得した暗黙知が形式知に変換される状態、つまりマニュアルなどで言語化された状態を指す。 暗黙知→形式知
連結化
(Combination)
既存の形式知と新しい形式知を組み合わせて体系的な形式知を創造することを指す。 形式知→形式知
内面化 (Internalization) 新たに獲得した体系的な形式知を、実際に体験することによって身に付け暗黙知として体得・深化させることを指す。 形式知→暗黙知
【出典】野中郁次郎・竹内弘高「知識創造企業」、野中郁次郎・梅本勝博「知識管理から知識経営へ」

上記の通り、「共同化」「表出化」「連結化」「内面化」のプロセスを経ることで、「知」はさまざまな形で変換を遂げていき、新たなナレッジが創造されていきます。

2.「場」

ナレッジマネジメントを通じて新しい知を創造していくには、「場」と呼ばれる要素も不可欠です。野中氏らによる著書「知識経営のすすめ」によると、「場」は以下のように定義されています。

共有された−あるいは知識創造や活用、知識資産記憶の基礎(プラットフォーム)になるような物理的・仮想的・心的な場所を母体とする関係性

つまり場は、知識資産の創造や共有、活用がされるために必要な、関係性や空間、環境を指します。具体的には以下のようなものが場に該当します。

    • 顧客と対面する場
    • 社内でのミーティング
    • 業務を行う現場
    • 社内外でのプレゼンテーション
    • 社内掲示板やSNS など

上例のような場は、知識を新しく創造するための基盤(プラットフォーム)になるもので、ナレッジマネジメントで重要視されています。ナレッジは、議論や情報共有、アウトプット、インプットを通じて醸成されていくのです。

3.知識資産

「知識資産」とは、企業で活用できる幅広い知識(目に見えない資産)のことを指し、新たな知を創造するための材料となるものです。知的資産としては、人材や組織力、顧客とのネットワーク、ブランドなどが挙げられます。

「場」で創造・共有される知識資産は、知識創造プロセスにおける材料でもあり、成果でもあるとされています。企業に固有の知的資産を把握して、有効活用していく経営を「知的資産経営」と呼ぶこともあります。

【参考】経済産業省「知的資産・知的資産経営とは

4.ナレッジ・リーダーシップ

知識創造プロセスには、その進展を促すナレッジ・リーダーシップが必要です。そのトップ・マネジャーが果たすべき役割は、

(1)知識ビジョンを創り
(2)それを社内外に広め
(3)自社にとってどのような知識が必要なのかを絶えず再定義し
(4)「場」を創ってそれらにエネルギーを与え、そのような場にいる人々の間のインタラクションを促進すること
(5)SECIプロセスをリードし、促進し、正当化することである

とされています。

【出典】北陸先端科学技術大学院大学 知識科学研究科 梅本研究室「知識管理から知識経営へ」

まとめ|ナレッジマネジメントは知識の利活用のみならず新たな知の創造を行う経営

ナレッジマネジメントとは既存の知を共有・再利用し、かつ新たな知をつくり出すことによって企業の収益を生み出す経営手法です。

知には言語・数字・図表により明確化された形式知と、そのように明確化されていない暗黙知とがあります。企業にある知には、例えば、ハイパフォーマーが持つ業務知識や技能・ノウハウといった暗黙知が含まれ、これは人事評価制度への取り込みなどにより発出・共有する仕組みを構築することが可能です。

知識経済が発展する昨今、より一層ナレッジの重要性を深く理解し、自社の収益につなげる仕組みづくりに努めましょう。

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