2026年04月06日
ダイバーシティやインクルージョンに取り組む企業は増えていますが、一人ひとりが「ここにいてよい」「自分らしく力を発揮できる」と感じられなければ、組織の力は十分に引き出されません。そこで、多様性を受け入れる段階から、安心して居場所を感じられる段階へ進める考え方として「ビロンギング」が注目を集めています。
本記事では、ビロンギングの意味を整理したうえで、関連するキーワードであるダイバーシティ、インクルージョン、エクイティとのつながりやビロンギングが求められている背景、組織にもたらす効果を解説します。
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経営や人事のテーマとして「DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)」を掲げる企業が増えてきていますが、社内での推進に課題を抱えている方も多いのではないでしょうか。
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ビロンギングとは、組織やチームの中で自分が受け入れられ、尊重され、安心して貢献できると感じられる状態を指します。単に在籍しているだけではなく、「自分の意見や個性が否定されず、この場の一員として認められている」と実感できることが重要です。
ビロンギングは、制度の有無だけではなく、日々の関係性や職場体験の積み重ねによって生まれる感覚です。たとえば、多様な人材を採用していても、会議で発言しにくい、評価基準が見えにくい、少数派の意見が通りにくいといった状態が続けば、その職場に居場所を感じることは難しくなります。
反対に、役職や属性に関係なく意見が聞かれ、挑戦や失敗が一律に否定されず、貢献がきちんと認識される環境であれば、人は組織とのつながりを感じやすくなります。ビロンギングは「制度」ではなく「実感」であり、その実感があるからこそ人は力を発揮しやすくなると考えると、意味がつかみやすいでしょう。
また、ビロンギングは「みんな仲良くすること」と同義ではありません。意見の違いをなくすことではなく、違いがあっても排除されず、対話しながら共通の目的に向かえる状態が本質です。つまり、職場の雰囲気を柔らかくするだけでは不十分で、一人ひとりが役割を持ち、その役割が組織の成果とつながっていると感じられることが欠かせません。ここに、ビロンギングが経営や人材戦略のテーマとして扱われる理由があります。

ビロンギングを正しく理解するには、関連するキーワードとの違いを整理しておくことが大切です。ここでは、ビロンギングと関係の深い3つの言葉を順に確認します。
ダイバーシティは、組織の中にさまざまな属性や価値観、経験を持つ人が存在している状態を指します。性別、年齢、国籍のような見えやすい違いだけでなく、キャリア、考え方、はたらき方、障がいの有無、育ってきた環境など、見えにくい違いも含まれます。厚生労働省も、多様な人材が活躍できる職場環境の整備を重要なテーマとして扱っており、日本企業においてもダイバーシティは広く共有された考え方になっています。
ただし、ダイバーシティはあくまで「違いがあること」そのものを示す概念です。たとえば、採用の幅を広げて多様な人材が集まったとしても、その違いが現場で生かされていなければ、組織の力にはつながりません。人数構成が多様になっただけで、意思決定に参加できる人が限られていたり、発言のしやすさに差があったりすれば、見かけ上の多様化にとどまってしまいます。ビロンギングを高めるうえでは、ダイバーシティを出発点としつつ、違いが尊重される環境まで設計することが求められます。
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インクルージョンは、多様な人材を組織の中に含めるだけでなく、それぞれが意見を出し、関わり、力を発揮できるようにすることです。違いを排除せず、対等な立場で参加できる状態をつくる考え方といえます。
ダイバーシティが「人がいること」を表すなら、インクルージョンは「その人が関われること」を表します。たとえば、会議に出席していても発言機会が偏っている、情報共有が一部の人に閉じている、意思決定の理由が説明されないといった職場では、形式上は参加していても実質的には包摂されていません。そのため、インクルージョンが不十分な組織では、一人ひとりが「ここにいてもよい」とは感じにくくなります。ビロンギングは、インクルージョンが現場で機能した先に生まれる実感として捉えると理解しやすいでしょう。
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エクイティは、一人ひとりの違いや置かれた状況を踏まえ、公平に力を発揮できる条件を整えることです。全員を同じように扱うことが公平だとは限りません。たとえば、育児や介護、障がい、言語、勤務形態の違いがある中で、全員にまったく同じ条件を当てはめると、かえって機会格差が生まれることがあります。
このエクイティの視点が欠けると、インクルージョンを進めているつもりでも、一部の人だけが参加しやすい職場になりかねません。たとえば、対面前提の会議運営、長時間労働を暗黙に評価する制度、特定のコミュニケーション様式だけを良しとする文化は、ある人には自然でも、別の人には高い壁になります。そうした壁を放置したままでは、ビロンギングは広がりません。誰もが同じ入口に立てるようにするのではなく、それぞれが力を出せる条件を整えることが、ビロンギングの実現には欠かせないのです。
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ビロンギングが注目されるようになった背景を3つの観点から整理します。
まず大きいのが、はたらき方の変化です。テレワークやサテライトオフィス勤務、選択的週休3日制など、多様なはたらき方を支える取り組みが広がっていますが、こうした変化は利便性を高める一方で偶発的な会話や日常的な一体感が生まれにくいという課題も生んでいます。
以前は、同じ空間で長い時間を過ごすことで、ある程度自然に職場への帰属意識が生まれていました。しかし、分散型のはたらき方では、それだけに頼れません。オンライン中心の環境では、必要な連絡はできても、雑談や相談のきっかけが少なくなり、関係性の濃淡が見えにくくなるからです。その結果、業務上はつながっていても、心理的には孤立してしまう人が出やすくなります。多様なはたらき方を認めるほど、意識的にビロンギングを育てる必要性が高まるのはこのためです。単に制度を整えるだけではなく、その制度の中で人が安心してつながれる仕組みが必要になってきています。
次に、DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)の取り組みそのものが進化してきたことも背景にあります。以前は、ダイバーシティ施策というと、採用比率や登用数、制度整備など、比較的見えやすい指標が中心でした。もちろんそれらは重要ですが、近年はそれだけでは不十分だという認識が広がっています。
いま企業に求められているのは、制度を導入したかどうかではなく、その制度が社員の体験をどう変えたかまで見ることです。多様な人材が入社しても、評価のされ方に偏りがある、少数派の声が届かない、心理的安全性が低いといった状況が残れば、組織としての成果にはつながりにくくなります。そこで重視されるようになったのが、DE&Iの先にあるビロンギングです。違いを認めることから、違いがあっても力を出せる状態へとつながることが求められているのです。
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ビロンギングは、職場の雰囲気を良くするためだけの考え方ではありません。ここでは、ビロンギングが企業にもたらす代表的な効果を順に見ていきましょう。
ビロンギングが高まると、まず期待できるのが従業員エンゲージメントの向上です。エンゲージメントとは、従業員が会社や仕事に対して抱く前向きな意欲や愛着、貢献意識を指します。ただ業務をこなすのではなく、「この組織の役に立ちたい」「この仕事に意味がある」と感じながらはたらける状態といえるでしょう。
エンゲージメントは、給与や福利厚生だけで決まるものではなく、日々の仕事の中で自分の存在が認められているか、自分の声が届くか、組織の目的と自分の役割がつながって見えるかといった要素が大切です。ビロンギングが高い職場では、従業員が「ここではたらく意味」を見出しやすくなります。
たとえば、会議で発言した内容にきちんと耳を傾けてもらえる、上司が成果だけでなく努力や工夫も見てくれる、困ったときに相談しやすい雰囲気があるといった職場では、従業員は組織との距離を縮めやすくなります。反対に、何を言っても聞き流される、自分の考えを出すと否定される、評価の基準が見えないといった状態では、仕事への熱量は下がりやすくなります。つまり、エンゲージメントは気合いや個人の責任で生まれるものではなく、組織がどれだけ安心して関われる場になっているかに大きく左右されるのです。
また、ビロンギングが高いと、従業員は自分を守ることよりも、チームや顧客に価値を返すことに意識を向けやすくなります。居場所が不安定な環境では、失敗しないことや目立たないことが優先されがちです。しかし、安心してはたらける環境では、目の前の課題をどう改善するか、チームにどう貢献するかという前向きな行動が生まれやすくなります。ビロンギングは、従業員の気持ちを内向きの防衛から外向きの貢献へ変えていく土台になると考えると、その価値が見えてくるでしょう。
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ビロンギングは、生産性の向上にもつながります。一見すると、生産性は業務設計やITツール、評価制度によって決まるように思えるかもしれません。しかし実際には、人がどれだけ安心して動けるか、周囲と協力できるか、余計な心理的負担を抱えずにはたらけるかが、仕事の質とスピードを大きく左右します。
たとえば、職場で自分の立場が不安定だと感じている人は、仕事そのもの以外のことに多くのエネルギーを使います。発言して浮かないか、相談して評価を下げないか、ミスをしたら必要以上に責められないかといった不安があると、判断や行動が慎重になりすぎます。その結果、本来ならすぐ相談できることを抱え込み、確認すれば防げたミスが大きくなり、チーム内の連携も遅れがちになります。つまり、ビロンギングが低い状態では、見えない心理的コストが積み重なり、生産性を下げてしまうのです。
一方で、ビロンギングが高い職場では、必要な情報共有や相談が早くなります。分からないことを早めに聞ける、違和感をその場で言える、助けを求めることが恥ではないと感じられるからです。すると、問題の早期発見や軌道修正がしやすくなり、結果として手戻りが減ります。これは単なる人間関係の良さではなく、仕事を前に進めるための組織機能が高まっている状態といえるでしょう。
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ビロンギングは、離職率の低下にも大きく関わります。人が会社を辞める理由は一つではありません。待遇、キャリア、家庭の事情など、さまざまな要因があります。ただその中でも見過ごせないのが、「この職場にいても自分らしくはたらけない」「ここに居場所がない」という感覚です。条件面に大きな不満がなくても、組織とのつながりを感じられない状態が続くと、人は少しずつ離れる方向に傾いていきます。
とくに、入社して間もない人材や、組織内で少数派の立場にある人材は、この影響を受けやすい傾向があります。新しい職場では、業務を覚えること以上に、「自分は受け入れられているか」を敏感に感じ取るものです。質問しにくい、雑談に入りづらい、前提知識を共有されない、意見を出しても拾われないといった小さな違和感が積み重なると、次第に心理的な距離が広がります。離職は突然起こるのではなく、日々の居心地の悪さが蓄積した結果として起こることが少なくありません。
このとき、ビロンギングが高い職場では、辞める理由の多くが軽減されます。たとえば、困ったときに声をかけてもらえる、立場に関係なく話せる人がいる、組織の中で自分の役割が見えるといった状態は、定着に大きく寄与します。ここで大切なのは、仲の良さだけではありません。「この組織でなら自分は価値を発揮できる」と思えることが、長くはたらく意思につながります。
また、ビロンギングが高い職場では、多少の困難があっても乗り越えやすくなります。仕事で壁にぶつかったとき、信頼できる関係や居場所の実感があれば、人は組織の中で解決策を探そうとします。反対に、もともと疎外感があると、同じ壁が退職の引き金になりやすくなります。つまり離職率を下げるには、採用時の見極めや制度改善だけでなく、日常の中でビロンギングを育てることが欠かせないのです。
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ここでは、ビロンギングを根付かせるうえで重要な3つの施策をご紹介します。
ビロンギングを高めるうえで、最も基本になるのがコミュニケーションの促進です。人は、ただ同じ組織に所属しているだけでは居場所を感じません。日々のやり取りの中で、自分が認識されている、話を聞いてもらえる、困ったときに頼れると感じてはじめて、組織とのつながりが生まれます。だからこそ、ビロンギングを根付かせる第一歩は、形式的な情報伝達ではなく、相互に関わるコミュニケーションを増やすことです。
ここでいうコミュニケーションは、単に会話量を増やすことではありません。重要なのは、立場や属性にかかわらず発言しやすいこと、安心して質問できること、意見が軽く扱われないことです。会議で一部の人だけが話す状態や、1on1が進捗確認だけで終わる状態では、やり取りがあってもビロンギングにはつながりにくいでしょう。むしろ必要なのは、相手の背景や考えを知る場面を増やし、「この人は自分を理解しようとしてくれている」と感じられる関係づくりです。
たとえば、上司が定期的に業務の相談だけでなく、はたらきにくさや不安も聞く時間を持つだけでも、部下の安心感は変わります。チーム内で意思決定の背景を共有する、オンライン環境でも雑談や短い対話の機会を意識的につくる、発言しにくい人にも意見を出せる方法を用意するといった工夫も有効です。こうした積み重ねによって、従業員は「この場にいてよい」と感じやすくなります。ビロンギングは大きな制度変更だけで生まれるのではなく、日常のコミュニケーションの質によって育っていくのです。
ビロンギングを根付かせるには、ビジョンやパーパスの浸透も欠かせません。なぜなら、人は単に仲間として受け入れられるだけでなく、組織の目指す方向の中に自分の役割を見出せたときに、より強い帰属感を持てるからです。言い換えると、ビロンギングは人間関係だけで成り立つものではなく、自分が何のためにここではたらいているのかを理解できることによっても支えられます。
ビジョンやパーパスが曖昧な職場では、従業員は日々の業務をこなしていても、自分の仕事がどこにつながっているのか見えにくくなります。その結果、業務の意味を感じにくくなり、組織との心理的な距離も広がりがちです。反対に、会社が何を実現したいのか、その中で自分たちの部門や仕事がどんな役割を担っているのかが明確だと、従業員は自分の存在価値を捉えやすくなります。自分の仕事が組織の目的とつながっていると実感できることは、ビロンギングを高める大きな要素です。
ただし、ここで気をつけたいのは、ビジョンやパーパスを掲示するだけでは十分でないという点です。社内報や朝礼で繰り返すだけでは、現場では「きれいごと」と受け取られることもあります。大切なのは、日々の評価やマネジメント、会議での意思決定、表彰の基準などに一貫して反映されることです。たとえば、協働や挑戦を掲げているのに、実際には短期成果だけが評価されるというのでは、言葉は浸透しません。ビジョンやパーパスは、運営の中で体感できてはじめて、ビロンギングの支えになるのです。
ビロンギングを定着させるためには、DE&Iの周知も重要です。ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンの考え方が十分に共有されていないと、職場では無意識の偏りや誤解が残りやすくなります。その結果、制度があっても使いづらい、違いがあっても受け止められない、特定の人だけが配慮を求めているように見られるといった状況が起こります。こうした状態では、ビロンギングは一部の人だけのものになってしまいます。
DE&Iの周知で大切なのは、用語を知ってもらうことだけではありません。なぜ組織にとって必要なのか、現場にどんな変化を求めているのかを具体的に伝えることが重要です。たとえば、ダイバーシティは人数構成の話だけではないこと、インクルージョンは全員が対等に関われる状態を目指すこと、エクイティは同じ扱いではなく力を発揮できる条件を整えることだと、実例とともに理解してもらう必要があります。意味が腹落ちしていないままでは、現場は「配慮の話」と受け止めるだけで終わってしまうでしょう。
また、DE&Iの周知は一度の研修で完了するものではありません。新入社員研修、管理職研修、評価者研修、社内コミュニケーションなど、複数の場面で繰り返し扱うことで、少しずつ組織文化に変わっていきます。とくに管理職の理解は重要です。管理職がDE&Iを制度上の対応としか見ていないと、現場では「配慮はするが、戦力としては期待していない」といった歪んだ扱いが起こりかねません。反対に、管理職がDE&Iを組織力向上の視点で理解していれば、メンバーの違いを生かしながら、ビロンギングの高いチームづくりを進めやすくなります。ビロンギングは自然発生するものではなく、DE&Iを正しく共有し続けることで育つ文化だといえるでしょう。
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経営や人事のテーマとして「DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)」を掲げる企業が増えてきていますが、社内での推進に課題を抱えている方も多いのではないでしょうか。
パーソルグループでは、DE&Iの専門家が語る「DE&Iを推進すべき理由」や「DE&Iに取り組むメリット」「DE&I推進の具体的な推進フロー」についてまとめた資料を無料で公開しています。
ダイバーシティ推進の現状把握や、今後の施策検討にぜひご活用ください。
ビロンギングとは、従業員が組織の中で受け入れられ、尊重され、自分らしく貢献できると感じられる状態です。ダイバーシティが「違いがあること」、インクルージョンが「違いがあっても関われること」、エクイティが「違いを踏まえて力を発揮できる条件を整えること」だとすれば、ビロンギングはその先にある実感だといえるでしょう。
ビロンギングが高い職場では、従業員が「この会社はたらく意味がある」「ここでなら自分の力を出せる」と感じられる状態が生まれます。ビロンギングは、やさしさのための概念ではなく、組織の持続的な成長を支える土台なのです。これからの組織づくりを考えるうえで、ビロンギングを単なる流行語としてではなく、現場の実態を変える視点として捉えることが重要になってくるでしょう。