【正能茉優】「ビュッフェキャリア」なら誰もが笑える

「はたらいて、笑おう。」と聞いて、どんな「笑い」をイメージするだろうか。もちろん、はたらくということは楽しいことばかりではないだろう。人によっては苦しいことを乗り越えた先にこそ、それはあるものかもしれない。はたらいて「笑う」には、どんな心構えで臨むべきか。6人のプロピッカーからのメッセージをお届けする。

「パラレルキャリア」というはたらき方

私は小さい頃から、日常の中で「もっと、こうなったらいいな」と思うことがすごく多いんです。たとえばカフェでケーキのお皿を見て「丸いのより、四角いのがいいな」と思ったり、テレビなら、「固定の場所じゃなくて、いつも目線の先に画面が出てくれたらいいのに」などと思ったりします。

そういう「こうなったらいいな」という思いから、「住空間を、もっと自由に、もっと楽しく」との視点でアプローチしているのがソニーでの仕事。

そして、「地方のモノを、もっと可愛く、伝わりやすく」という視点でアプローチしているのが、大学時代に起業したハピキラFACTORY(以下、ハピキラ)での仕事です。

正能茉優

正能茉優

SHONO MAYU

ハピキラFACTORY 代表取締役

1991年、東京都生まれ。慶應義塾大学在学中の2012年に地方の商材を可愛くプロディースして発信する(株)ハピキラFACTORYを起業。大学卒業後は広告代理店に勤めた後、2016年10月よりソニー株式会社に勤務。新規事業・新商品を開発しながら、自社の経営にも携わる。2016年末まで経済産業省「兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する研究会」委員、北海道天塩町「政策アドバイザー」も務める。

ソニーに入社して8カ月ほどになりますが、ここではユーザーにどのような体験をしてもらうかをベースに、新商品を企画・提案するのが私の役目。

ソニーにはまだ世に出ていないイケてる技術が、実はたくさんあるんです。技術は開発されていても、それをどんなターゲットに向けて、どう商品化するかまでは行きつかず、まだ日の目を見ない技術たちです。

そこで私が、「これって、もっと小さくできないですかね?」とか「これって、固定せずに使えないですかね?」と、まずはユーザー目線で提案してみるんです。もちろん、もともと想定していた使い方ではなかったりするので、びっくりされることもあります(苦笑)。

でも、「ユーザーにこういう体験をしてほしい」という私の視点と、それをかなえ得るソニーの技術が重なり合った時に、すてきな体験を実現できることがある。これが今の仕事の面白いところです。

こうしたソニーでの体験がハピキラの仕事で生きたり、逆にハピキラで培ったネットワークが、ソニーに利益をもたらしたりすることもあるのが、私のような「パラレルキャリア」というはたらき方の醍醐味だと思います。

実際、ソニーに入ってから、様々な部署や立場の方と関わりながら企画・製造していくことの大変さや、それによって“より良い商品”を突き詰めていくことの意義をリアルに体感でき、すごく勉強になっています。

おかげで、ハピキラで商品を企画する際も、製造してくれる人たちの視点にもしっかり向き合うスタンスが身につきました。どれだけ面白いアイデアを思いついても、作り手と一緒に実現できなかったら意味がないですからね。

正能茉優

得意なことで「自分の1時間あたりの価値」を最大化する

私たちミレニアル世代は、仕事だけをがむしゃらに頑張ることを第一としない世代です。仕事や趣味、家族や友達など、バランスよく大切にしたい。どのようなはたらき方をすれば、5年後、10年後も笑っていられるかを常に考えています。人生って、結構長いですからね。

私は、そのバランスをとるため、日々のスケジュールを「人生配分表」という表で管理しています。現在の時間配分は、3割がソニー、3割がハピキラ、そして残りの4割がプライベートを含めたその他、といった感じです。ちなみに、彼との時間は7%(笑)。

人からは「仕事ばかりで忙しいでしょ?」とよく言われますが、そうでもありません。たとえば夕方5時半にソニーの仕事を終えた後、友達と飲みに行くまでの3時間でハピキラの仕事をしたり。ハピキラの仕事をしない日を決めて、家族とゆっくりご飯を食べたり。

ソニーもハピキラも最高に楽しいですが、だからこそ、それ以外のことも意識的に大切にしたいなと思っています。

もちろん、時にはこうした生活に無理が生じることもあります。一番の課題は、一つひとつのことに割ける時間が少ないこと。だからこそ、「1時間あたりに自分ができること」を最大化し、「自分の1時間あたりの価値のアップ」を心がけています。

では、パフォーマンスを上げるにはどうすればいいか。私が大切にしているのは、苦手なことはそれを得意とする人にお仕事としてお願いし、自分の得意なことと好きなことだけに集中する、という考え方です。

これはプライベートも同様で、私は洗濯が苦手なので、家には洗濯機も置いていないんです。洗濯代行サービスのお世話になっています。でも、お風呂掃除は好きなので自分でやります(笑)。

こうして苦手な洗濯にかかる時間をなくし、その分を得意なことにまわした方が、1時間あたりにできることは増えるし、自分の1時間あたりの価値が上がりますよね。ワーク・ライフ・バランスは、こうして自分で改善していくものかなと思います。

正能茉優

誰もが笑って生きていけるはたらき方改革を

はたらくのが楽しいという人であれば、長い時間はたらくことも私はすてきだと思います。だって、大好きなお友達と長い時間おしゃべりしてて、苦しい人はいないですからね。

ただ、はたらいて笑うことができないのに頑張っている人には、そんなに無理をしなくてもいいのに、と心配になります。

私は「ビュッフェキャリア」と表現しているのですが、ビュッフェのように「好きなものを好きなバランスで好きなだけ食べる(はたらく)」ということは、人生を楽しくする基本でしょう。

カレーが好きなら、ずっとカレーを食べてもいい。私は、カレーもパスタも食べたかったから、両方食べているだけなんです。だから1つの仕事に専念する人も、パラレルキャリアも、本人が納得しているのであれば、どちらもすてきなことだと思います。

でも、誰もが自分の好きなはたらき方を実現するには、本人のモチベーションや能力に依存するだけでなく、それを支える仕組みも整えなければなりません。これが、はたらき方改革なのだと私は思っています。

ただ、最近のはたらき方改革を見ていて心配なこともあります。それは、実際の能力以上のモチベーションを持っている人が、自分の限界を超えたはたらき方をしてしまう可能性があるのではないか、ということ。その時に、はたらき方改革が悪者にならないよう、リスクを洗い出した上での慎重な仕組みづくりが必要だと思います。

私がパラレルキャリアを始めた4年半前は、「自分の会社を持ったまま、就職なんてありえない」という風潮だったので、こうした議論が進むのは、すごくうれしいことです。誰もが自分の納得できるはたらき方を実現でき、はたらいて笑える世の中になれば最高ですね。

正能茉優

※この記事は2017年6月の取材を基に作成し、同7月5日に掲載されたものです。

(聞き手:友清哲 編集:久川桃子 撮影:岡村智明)