【佐山展生】あなたは本当に「はたらいている」か

「はたらいて、笑おう。」と聞いて、どんな「笑い」をイメージするだろうか。もちろん、はたらくということは楽しいことばかりではないだろう。人によっては苦しいことを乗り越えた先にこそ、それはあるものかもしれない。はたらいて「笑う」には、どんな心構えで臨むべきか。6人のプロピッカーからのメッセージをお届けする。

「休みたい」と思わない理由

最近はワーク・ライフ・バランスという言葉がよく使われますが、本当に楽しい仕事をやっているのであれば、仕事とプライベートの境目は限りなく曖昧になるはず。その意味で私は、完全に「公私一体」の生活を送っていると言えます。

これはある種の理想形だと思います。なぜなら、「休みたい」と思うのは、何らかの無理が生じている証しだからです。その原因の大半は、「はたらいている」のではなく、「はたらかされている」からではないでしょうか。つまり、私が休みたいという欲求とは無縁でいられるのも、自分の意思で“はたらいている”からなのでしょう。

もちろん、若かりし頃からそうした境地に達していたわけではありません。振り返ってみると、自分は30歳でようやく大人になったのだと実感しています。

佐山展生

佐山展生

SAYAMA NOBUO

インテグラル代表、
スカイマーク会長

1953年、京都府生まれ。76年、京都大学工学部卒業。94年、ニューヨーク大学(MBA)、99年、東京工業大学大学院社会理工学研究科博士後期課程修了。帝人、三井銀行(現三井住友銀行)を経て、98年、ユニゾン・キャピタル、2004年、GCA、07年インテグラルを共同設立。現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授、京都大学経営管理大学院客員教授などを兼務。

新卒で入社した会社では、私は言われたことをただがむしゃらにこなす、模範的なサラリーマンを地で行くはたらき方をしていました。

当時所属していた部署は会社の中核事業でしたので、おそらくそのまま残っていれば、ある程度のポストまでは上り詰めることができたでしょう。しかし、頑張ったから、あるいは優秀だからといって、トップになれるとは限らない。社長にならない限り、自分は将来きっと後悔するだろうし、その道筋が明確でないのであれば――と、1人でもやっていける司法試験の勉強を始め、退職を決意しました。

その後、縁あって三井銀行(現三井住友銀行)でまったく畑違いのM&Aを手掛けることになったのは、面白い運命です。銀行に転職してすぐにとりかかった案件で、初めて企業をM&Aによって救済することができた時、得も言えぬ達成感を覚えました。それは「これぞ天職」と、はたらいて「笑う」ことを実感した瞬間でした。

頭の疲れと体の疲れ

会社での実務や大学での講義、さらには趣味のマラソンなど、アクティブに動いているように見えるせいか、「疲れないんですか?」とよく聞かれます。

私も人間ですから、疲れを感じることは当然あります。疲労には頭の疲れと体の疲れの2種類があると思います。

仕事の疲れは典型的な前者です。例えばスカイマーク関連で各方面と交渉を重ねていた時期などは、頭や心の疲労がピークに達し、帰宅してベッドに入っても、2時間ほどで目が覚めてしまうような日々が続きました。これは「頭の疲れ」です。

頭が疲れた時、私はジョギングに出るようにしています。1時間ほどゆっくり走ればいっぱい汗をかきますし、その後、お風呂に入るとスカッとした気持ちになり、すっきりと眠ることができます。ぜひ試してみてください。

また、疲労には「前向きな疲れ」と「後ろ向きな疲れ」があります。目の前のミッションをこなすために頑張った疲れは、前向きな疲れです。

他方、どうにもならない状況に直面したり、理不尽な環境に置かれて悔しい思いをすることで溜め込んだ精神的な疲労は、後ろ向きな疲れです。

新しい自分の将来へのエネルギーになるのは、実は「後ろ向きな疲れ」です。その時には気づきにくいのですが、「この野郎!」という気持ちがあったからこそ、それを乗り越えようと頑張れた局面が、過去に何度かありました。

ですから、解決策が見いだせないような「後ろ向きな疲れ」を感じた時は、自分自身の現状を見直す良い機会なんだろうと思います。

佐山展生

時間は取り返しがつかない

はたらいて笑うことができれば理想的ですが、残念ながら誰もがそういう状況にあるわけではありません。では、笑えない職場とはどのようなものか。

たいていのケースでは、その「組織のトップ」に問題があると私は思っています。

常に不機嫌そうな上司の下ではたらくのは気疲れしますし、どれだけ頑張っても評価してもらえなければ、やりがいも失うでしょう。実際、銀行時代に様々な支店を訪問した時、支店長が代わるだけでその支店の雰囲気ががらりと変わるケースをいくつか見てきました。会社の社長も同じです。社長が代わるだけで、社内の雰囲気ががらっと変わることはよくあります。

しかしもちろん、社員が自らの一存で組織のトップを入れ替えることなどできません。だからといって、文句を言っているだけでは、自分の置かれた状況は何も変わりません。

そこで私がよく言うのは、「人生は自作自演のドラマ」と意識すべきであるということ。自ら行動を起こさなければ、自分の人生を好転させることはできないのです。

現在の会社での打開策が見いだせない時は、転職も有効な選択肢でしょう。私が最初の会社を辞めた時代と違い、今は社会が転職に理解があり、情報も豊富です。はたらいて笑える環境を求めて、自由に行動を起こすことができるのですから、非常に恵まれた時代と言えます。

ただ、そこで1つ注意したいのは、報酬に重きを置いて転職活動をしてはいけないということ。お金は後からでも取り返せますが、時間は後で取り戻すことができません。お金などよりも、その仕事を「面白そう」と思えるかどうかで転職を決断すべきです。

心から面白いと思える仕事は、誰しも一生懸命やるもの。面白くてとことん打ち込める仕事では、その人はその分野のトップになる可能性があります。そして実際にその分野のトップになれば、そこにはそれまで見たことのない新しい世界が広がっているはず。今まで誰もが経験していない分野で思い切って仕事ができた時こそ、人ははたらいて笑うことになるのではないでしょうか。ぜひ、「面白そう」を追求してみてください。

佐山展生

※この記事は2017年6月の取材を基に作成し、同7月1日に掲載されたものです。

(聞き手:友清哲 編集:久川桃子 撮影:岡村智明)