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Day 2

Session 3

2023年は男性育休元年? 立場を超えてホンネで語ろう

2023年は男性育休元年? 立場を超えてホンネで語ろう

2022年4月から段階的に施行されている改正育児・介護休業法。10月には出生時育児休業、通称「産後パパ育休」も施行されました。これまで日本の男性育休取得率は約13%前後と低い水準に留まってきましたが、制度の普及で取得率は向上するのでしょうか?江崎グリコ株式会社の木下直也氏、パーソルキャリア株式会社の大浦征也氏と、男性の育休取得推進について議論します。モデレーターは相模女子大学大学院の白河桃子特任教授です。

令和に入って急増する男性の育休取得率

出典:厚生労働省「雇用均等基本調査」

出典:厚生労働省「雇用均等基本調査」

白河 : 本日はまさに育休を取り立てのお2人にご登壇いただいていますので、男性の育休取得について、前向きな議論ができればと思います。さっそくですが、まず見ていただきたいのが男性育休取得率の推移です。女性の取得率が85.1%であるのに対し、男性は13.97%。男性の数字は令和になって急激に上昇していますが、まだまだ低い水準です。お2人の周辺においては、いかがですか。

木下 : ちょうど私と同時期に、周囲でも何人かお子さんが生まれた人がいました。「いついつから育休に入るんだ」、「ああ、そうなんだ」と、自然に男性の育休が会話のなかに盛り込まれるようになりましたので、ある程度浸透しつつあることは実感しています。

大浦 : 私も感覚的にはまさにこのグラフの通りで、この1~2年で急激に男性の育休が根付いてきたと感じます。これが5~10年前なら、弊社でも男性で育休を取得する人はほぼ見られませんでしたから。

白河 : まだまだ東京の大手企業と地方企業とで格差はあるのでしょうが、たしかに街を歩いていても、男性が1人でベビーカーを押している姿は珍しくなくなりましたよね。また、保育園の子供の送り迎えも男性が増えているという話もよく耳にします。

一方で、意外と知られていないのが昨年の法改正です。10月に創設された、育児休業制度とは別に取得できる「出生時育児休業」、通称「産後パパ育休」制度では、出生後8週間以内に4週間の休暇が取得可能と定められています。このあたりの周知の状況についてはいかがでしょうか。

大浦 : 私の場合は役どころ的にこうした制度を社内に知っていただかなければならないですし、私自身が当事者でもあるので、もちろん知っていました。

木下 : 私もこの法改正を受けて、なぜ男性の育休取得が必要なのか、社内でコミュニケーションに取り組んできました。少しずつ、周知は進んでいるとは感じています。

白河 : これは女性の産後鬱を防ぐためにパートナーが寄り添う目的もありますし、男性にとって子育てを自分ごと化する意味合いも大きいと思います。ただ、これを必須とする企業とそうでない企業で、それぞれのお考えがあると思います。江崎グリコではいかがですか?

木下 : 弊社では「Co(こ)育てPROJECT」の一環として、1カ月間の育児休暇取得を必須化する「Co(こ)育てMonth(Co育て出産時休暇)」という制度を導入しているため、男女ともに2年連続で取得率100%を達成しています。江崎グリコというとお菓子のイメージが強いと思いますが、子どものココロとカラダの健やかな成長を実現するというのは、創業時からの想いです。

このプロジェクトの頭にある「Co」には、夫婦が育児に対して「わきあいあいと(Communication/コミュニケーション)」、「上手に協力しながら(Cooperation/コオペレーション)」、「一緒に子どもを育てる(Coparenting/コペアレンティング)」という意味が込められています。弊社でも2017年まで男性の有給取得率は4%にとどまっていましたから、まずは社内で必須化することから始めました。

白河 : 必須化、というのはかなり強いスタンスですよね。

木下 : そうですね。当初は5日間の取得からスタートしまして、実際に休暇を取った人にヒアリングしてみると、5日ではとても足りないという声が多かったので、通常の有給休暇とあまり変わらないという声があり、1カ月という期間を設けることになりました。もちろん業務の引き継ぎなどがハードルにはなりますが、社内イントラでガイドラインを公開するなどして対応しています。

白河 : こうした男性の育休取得は、ただ政府の方針だから従うというのでは、あまり意味がありません。企業側も明確な目的設定が必要ですよね。

大浦 : 「はたらいて、笑おう。」というメッセージを掲げている我々としては、結婚や育児が「はたらく」ことと掛け合わさると、そこに負担が生じてしまうのは大きな問題で、そこを組織の体制づくりによってフォローしたいという思いがあります。そうした体制がつくれれば、社員一人ひとりのエンゲージメントが上がり、結果として強い組織づくりにも繋がるはずですから。

組織として、個人として、育休をどう考えるか

白河 : 育休を取得するとして、どのくらい休むかという期間の設定に悩んでいる方も多いようです。江崎グリコさんでは5日間から1カ月間へと変更されたとのことですが、これは何を基準にされているのでしょうか。

木下 : 5日間では子育てのさわりの部分にしか関わることができませんが、4週間あれば少なくとも自分が育児の主体であるという実感を育むことができます。また、個人差はありますが、産後の女性の体調の問題に寄り添うためにも、1カ月は必要だろうと判断しました。ただし、これが正解とは考えていませんので、今後も必要に応じて改善を重ねていくことになるかと思います。

大浦 : 個人的には、悩むならその悩んでいる範囲の最大限を目指すのがいいのではないかと思っています。たとえば「1年間は長いかな、半年間にしておこうかな」と悩むなら、1年取ればいいという考え方ですね。ただ、なかには仕事を休むことが精神的な負担になる人もいるかもしれません。それぞれ自分にとって家事・育児と仕事のバランスをどう取るのが適切なのか、あらかじめパートナーとすり合わせをしておくべきでしょう。

白河 : たしかにそうですね。育休を体験された男性のアンケートを見ていても、引き継ぎが不十分でしょっちゅう会社から連絡が入ることがストレスになっていた、という話もありました。これは意外と難しい問題かもしれません。

木下 : 弊社の場合は、育休に入る際に会社から貸与されたパソコンやスマホを返却しなければならないため、連絡をしようにもできない環境になるんです。否が応でも育児に専念しなければならないわけで、これは良かったかもしれません。ただ、大浦さんがおっしゃったように、仕事のことが気になって仕方がない時期もありましたから、このあたりは今後もっと良いバランスを模索していきたいですね。

大浦 : その点、私は自分の仕事が属人化していた反省があって、育休中も時々スマホを覗いてはいました。しかし、これもケースバイケースで、ちょっとした意思決定や承認作業を引き続き私が担うことで、残されたチームの業務が円滑に運ぶのであれば、私自身の精神衛生的にもそれでいいように感じています。でもこれはあくまで私個人的な見解であって、必ず確認できるような状況を作っておく必要があるとか、確認してほしい、という意味では全くないです。人それぞれ違うと思うんです。

白河 : ちなみに、分割取得という選択肢もありますよね。お2人にしても、このあとまたあらためてまとまった休みを取る権利はあると思いますが、ご予定はいかがでしょう。

木下 : いまのところ予定はしていませんが、たとえば子どもがこの先、小学生にあがったタイミングで不安定な状態に陥るようなことがあれば、仕事にフルコミットするよりも、短時間であっても家庭にいられる期間を取りたいと思います。

大浦 : 私の場合は先日の育休が第4子で、これから第5子が生まれないかぎりはもう育休は取らない方針です。しかし、育休の間に新たな学びや発見がたくさんあって、おかげでいわゆる名もなき家事を積極的にこなすようになりました。育休は男性にとって、育児・家事の大変さを知りパートナーへ感謝するきっかけになるのはもちろん、育休が終わった後も家事・育児へ積極的参加につながると思います。

白河 : そうした育児の経験が、社会や企業、組織にどのような影響をもたらすのかも気になるところです。たとえば有名なデータで、第1子誕生の際に夫の家事・育児の協力時間が長いほど、第2子出生の割合が上がるという事実があります。

木下 : これは実感できるデータですね。第1子の際に夫婦が協力し合って家事や育児にあたれていれば、次もイメージしやすくなります。つまり第2子、第3子への心理的なハードルが下がるのではないかと。

大浦 : それに、育休を取ったことで夫婦の会話の時間が増えたことも良かったです。家事や育児のこともそうですが、お互いのこれからのキャリアについても、じっくり話し合うことができたのは、休暇があればこそでした。また、その経験によって、社員一人ひとりの家族やパートナーの存在に気がまわるようになりました。これはエンゲージメントの点で、組織に有意義なことだと感じています。

白河 : そうして子育てとの両立の理解が広がれば、自ずと女性にとってもはたらきやすい組織づくりに向かうでしょうから、その影響は計り知れないですよね。男性の側からは、「上司のほうから『育休いつ取るの?』と聞いてほしい」という声も実際に多くあがっていますから。

制度はやはり運用が大切で、皆さんがどれだけ納得したうえで育休を取得できるか、だと思います。会社が「取りなさい」と命じることで取得率が100%になっても、お父さんはただ家でゴロゴロしているだけ、ということにもなりかねません。組織の中で一人ひとりの理解を広げ、個人の満足度、家庭の満足度が最大限に上がるかたちを目指せば、必ず組織全体の利益に繋がるはずです。

※本記事の情報はイベント開催時(2023年3月13日-14日)基準です。

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