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Day 2

Session 1

仕事「以外」のハードルを越えたい! 女性の健康とはたらき方

仕事「以外」のハードルを越えたい! 女性の健康とはたらき方

はたらく女性にとって、生理痛やPMSによるパフォーマンス低下は、キャリア形成にも大きな影響をもたらすものです。そこで企業側はどのようなサポートを行なうべきか? また、当事者はどのような施策を求めているのか? 産婦人科医の高尾美穂氏、ヤフー株式会社・グッドコンディション推進室の市川久浩氏、パーソルキャリア株式会社・DI&E推進部の松尾れい氏と議論します。モデレーターは、フェムテック関連事業を展開するfermata(フェルマータ)株式会社のカマーゴ・リア氏です。

データから見えた仕事とヘルスリテラシーの相関関係

出典:①健康経営における女性の健康の取り組みについて(経済産業省)<br>②はたらく女性の活躍と健康を考える会

出典:①健康経営における女性の健康の取り組みについて(経済産業省)
②はたらく女性の活躍と健康を考える会

リア : まず前提として、はたらく女性が抱える健康課題とはどのようなものか、データで見ていきたいと思います。月経随伴症状による年間の社会経済負担総額は約4900億円といわれ、女性特有の症状を自覚している人が全体の71.9%、それにより「仕事に支障がある」と答えた人が54.4%と、はたらく女性にとってヘルスケア問題がいかに重要なものであるかがわかります。この数字、松尾さん、高尾先生はどう思われますか?

松尾 : このデータは私たちパーソルキャリアでまとめたものです。私自身も生理痛やPMSに悩まされてきた経験があり、また、同様の経験を持つ女性が非常に多いことから、それによりどれだけの影響があるのかを明確にするべきだと考えましヘルスリテラシーた。
こうした症状は正しい知識さえあれば適切に対処すれば症状を緩和することもできます。まずはその影響の深刻さを知り、女性が自分も適切な対処を行う必要があるのかもしれないと気づくことが重要だと思います。

高尾 : この数字は、月経が順調に訪れる性成熟期の月経困難症(生理痛や腰痛、吐き気などの諸症状)や更年期にまつわる症状など、すべての症状を含めたものです。つまり複数の世代にまたがり、何らかの悩みを抱えながらはたらいている女性がこれだけ多いという現実を、広く知っていただきたいですね。

リア : ヘルスリテラシーが高い人ほど、仕事への満足度が高かったり、はたらく喜びや楽しさが高いというデータも出ていますよね。こうしたやりがいとヘルスリテラシーの相関関係についてはいかがでしょう。

高尾 : 体調を良好に保つためには、自分自身を俯瞰し、よく知る必要があります。そして、不調な部分があるならなぜそうなったのかを考え、それを解消するにはどうすればいいのか、解決策を探してみること。さらに、解決策を探すだけでなくアクションに移すという4段階までがヘルスリテラシーに相当します。

こうしたアクションが日常的にできている方は、日頃から困り事が少ないわけですから、自分が本来やりたいことにより集中できます。体の悩みによって集中力を奪われることがなければ、仕事の質も上がりますから、やりがいがヘルスリテラシーと密接にかかわるのも当然といえるでしょう。

松尾 : 最近、キャリアオーナーシップやウェルビーイングという言葉をよく耳にすると思います。当社は、キャリアや人生を自分で選択するキャリアオーナーシップを育む社会の創造を目指しているのですが、その理由は、学歴や年収よりも「自己決定感」が幸福感に影響することがわかっていて、幸せにはたらく人を増やしたいから。今回の調査は、まさにキャリアオーナーシップやウェルビーイングに直結する話で、当社だけでなくヘルスリテラシーを高めることに取り組む意義を感じてもらえるデータではないでしょうか。

市川 : 私が所属するグッドコンディション推進室は、その名の通りヤフー社員のコンディションをサポートする部署なのですが、「健康」ではなく「コンディション」という言葉を用いているのが1つのポイントなんです。
「健康」は病気ではない状態を示す表現のひとつですが、「コンディション」には人それぞれ目指す「良い状態」があり、たいていの人は現状と「良い状態」とのギャップを抱えています。そのギャップを埋めるため、コンディションを整えるために必要なものがヘルスリテラシーでしょう。

社員のヘルスリテラシーが上がっている状態を作ることを目指し、ヤフーでもセミナーやオンライン研修などさまざまな施策を講じています。しかし、会社がいくら良いものだから学んで実践しようと言っても能動的に動く社員ばかりではありませんから、ヤフーでは自発的な行動変容を促すために「グッドコンディション・ボーナス」という施策を始めました。1日4000歩以上歩いた人には、インセンティブを付与するといったものですね。

高尾 : 4000歩というのが、ハードルが低くていいですよね。

市川 : そうなんですよ。運動として考えると、エビデンス的には8000歩とか1万歩に設定せざるを得ないのですが、参加してもらえなかったら意味がないですから。手の届く範囲の目標設定で、まずは行動を変える、実践することから始めてもらおうという取り組みですね。

女性のはたらき方とヘルスケアの問題

リア : 企業が提供できる女性へのサポートの1つに、生理休暇があります。しかし、この制度をはたらく女性の実情に即しているのか、そもそも女性は生理休暇を本当に望んでいるのか、再考する時期に入ってきたように思います。

市川 : ヤフーでは他の先進的な企業に倣って、生理休暇を「F休」と改称しました。フィメールのFですね。生理にかぎらず女性の健康課題全体に対するサポートであるニュアンスを強めたところ、取得率が5%ほど上がりましたので、制度を使いやすくする工夫の大切さを実感させられています。

松尾 : ネーミングは意外と重要でしょうね。パーソルグループでも、「上司が男性だと生理休暇を申請しにくい」という声は実際にあがっています。また、生理休暇が有給なのか無給なのかによっても、積極的に使われるかどうかは変わってくると思います。無給なのであれば、生理休暇ではなく有給を使ったほうがいいと考える人がいるのも当然でしょう。

高尾 : そうですね。生理休暇というのは実は、日本は世界に誇るべきといえるほど、早いうちから整備された制度なんです。会社のルールではなく、法律です。ただ、申請があれば休みを与えなければならないことは決まっていても、有給か無給かというのは、会社ごとのルールに拠っているため、そうしたモヤモヤが生じるわけです。

また、生理休暇にはどうしても、足りなくなってしまった人員の穴を誰が埋めるのかという不満や批判が付き物です。しかし、体調によって仕事を休まざるを得ないのは本来女性だけではないはずで、風邪や腹痛、あるいはワクチンの副反応など、性別にかかわらず不慮の体調不良は誰にでも起こります。そうした状況のなかで、いかにやりたいことに集中できる仕組みを整えられるかが、本来の企業の役割ではないでしょうか。

市川 : 会社を構成しているのは男性だけでも、女性だけでもないですからね。お互いがお互いを思いやって、はたらきやすいムードをつくっていくのが理想です。

松尾 : ムードは大切ですよね。生理やPMSの問題は、これまでタブー視されてきた面もあり、それゆえに男性側がその実態をよく理解しないままここまで来てしまった感があります。そこでパーソルキャリアでは、管理職を対象にセミナーを企画し、あえて女性の生理の症状について生々しく実情を伝えたところ、大きな反響を得ました。意識改革に繋がったことはもちろん、会社として本気で解決するといおう「覚悟」を伝えられたのも大きかったと思います。

会社が提供する選択肢をいかに活用するべきか

リア : 女性の健康課題というのは、生理の問題だけではなく、ライフステージによってその内容も変わってきますよね。自身のキャリアプランにかかわるので、場合によってはいったん仕事を休んでじっくり考えたいというニーズもあるかもしれません。そこで企業はどのようなサポートを行なうべきでしょうか。

松尾 : たとえばパーソルグループでは、ライフステージに合わせてはたらき方を選べる「FLASH」という制度を用意しています。これはFamily(育児・介護)、Learning(進学・留学)、Avocation(趣味・余暇活動)、Social(地域活動・社会活動)、Health(治療・療養)の頭文字を取ったもので、そのなかの1つとして、不妊治療のために最長1年間の休暇を取ることができます。私自身も不妊治療を経験しているのですが、やはり仕事との両立が非常に厳しいことを体感しているので、女性に限らず男性も活用できる、そんな制度があるのは良いことだと感じています。

市川 : ヤフーでも、性別にかかわらず不妊治療で最長1年間の休暇が取得できる 「プレグナンシーサポート休職制度」を導入しています。このほか、キャリアやライフステージによって活用できる制度として、週休3日への変更を可能にしたり、勤続10年以上の人に最長3カ月の休暇を提供したり、社員がキャリアプランやライフステージに合わせてアクションを起こそうという時に、会社に複数の選択肢があることが重要だと思います。実際にこれらの制度を活用した社員からも、非常に好評を得ているんですよ。

リア : なるほど、各社さまざまな取り組みをされていますね。高尾先生の視点から、こうした制度をどう使うべきかについて、何かアドバイスはありますか?

高尾 : 1つ言えるのは、快適な生活というのは、快適にはたらくベースになるということです。私自身、昭和の世代ですのではたらきっぱなしが当たり前になっていましたが、コロナ禍でクリニックの受け入れ数が制限された際に、久しぶりに自宅でゆっくり過ごす時間が生まれました。そこで、普段は目を向ける余裕のなかったキッチンの物の配置などを模様替えしてみたら、日々の生活がすごく快適になったんです。いまにして思えば、これは非常に大切な時間だったと実感しています。

市川 : たしかに、身の回りをきれいに整頓するだけでも、目から見える光景が快適になりますからね。グッドコンディションというのは、意外と身近にあるものだと思います。これは女性にかぎらず男性も同様で、どうすれば自分自身を上手に扱えるかを考えなければなりません。そして、会社がそのために、どう適切なサポートを行なうか。これも重要な視点ですよね。

松尾 : そうですね。はたらく女性が勇気を持って現状の不満や改善点を訴え出ることの大切さもそうですが、会社側にはそうした不平不満の声をつぶさに拾える環境をつくることが求められているのだと感じます。

※本記事の情報はイベント開催時(2023年3月13日-14日)基準です。

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