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Day 1

Session 2

30%の壁は打破できるのか? 女性管理職比率向上の一手

30%の壁は打破できるのか? 女性管理職比率向上の一手

日本のはたらく女性の割合は世界各国と大きな差はありませんが、管理的立場の女性は14.8%といまだ低い水準にあるのが現状です。「2020年までに女性管理職比率30%突破」という政府目標が先送りにされるなか、どうすれば日本の女性管理職比率は向上するのでしょうか? ジャーナリストの浜田敬子氏、株式会社プロノバ代表取締役の岡島悦子氏、株式会社パーソル総合研究所・上席主任研究員の小林祐児氏と、その対策を議論します。モデレーターはPodcast Studio Chronicle 代表の野村高文氏です。

企業に共通する「女性の昇進意欲がない」という課題

野村 : まずは日本の女性管理職比率の現状と課題について、小林さんから簡単にご解説をお願いできますか。

小林 : 皆さんご存知のように、政府は女性管理職比率を2020年までに30%以上にする目標を掲げていましたが、実際は13.2%とまったく届きませんでした。我々の調査によると、女性管理職比率は企業によって異なりますが、そもそも女性に昇進意欲がないという、共通の課題も見えてきています。

出典:パーソル総合研究所<br>女性活躍推進に関する定量調査より

出典:パーソル総合研究所
女性活躍推進に関する定量調査より

我々の調査でわかったことは、本来は女性を対象としているはずの仕事と家庭の両立支援策が、女性よりも男性側の管理職昇進意識を上昇させている傾向が見られることです。もちろん、仕事の継続については女性に対しても一定の成果は見られます。ただ、女性にとって仕事を続けやすいことと昇進意欲は別物ということですね。テレワークの推進にしても、男性の管理職志向は高まりますが、女性のそれに変化は見られませんでした。

こうしたデータからすると、女性管理職比率の問題に着手するには、昇進意欲を格差の問題として捉え直す必要があると言えるでしょう。そして、重視すべきは、どうすれば女性の昇進意欲を上げられるのか、という点です。

野村 : ありがとうございます。いまのデータだけを見ても、想定された仮説と実態の違いが浮き彫りになったように思います。

浜田 : 両立支援制度が女性の管理職昇進意欲に通じていないことは、実はさまざまな企業の現場を取材するなかで感じていたことでした。なぜなら、2000年代以降に整備された時短勤務などの制度は、利用者はほぼ女性社員。女性だけが家事や育児をすることに繋がり、結果的にマミートラックに陥る要因になっています。

しかし、テレワークの浸透が女性の昇進意欲拡大につながっていないというのは、かなり意外な事実でした。はたらきやすくなって昇進意欲が増したのはむしろ男性であるということは、女性に対してはまた別のアプローチが必要ということですよね。

岡島 : 興味深いデータですね。私がサポートさせていただいている企業では、様々な制度を整備した結果、女性の昇進意欲がしっかりと向上しているケースも多いので、これは私も意外でした。ただ、管理職の登用基準というのが昭和の時代からあまり変わっていないため、女性にとってストレスが高い一面があるのかもしれません。極端に言えば、管理職になるためには「24時間はたらけますか」、が求められるイメージが染み付いているのではないかと。

求められているのは、管理職の「あり方」を変えること

野村 : では、成功事例に目を向けてみるといかがでしょう?

浜田 : 私が取材をした某大手企業では、テレワークの導入によって時短勤務から通常勤務に戻した女性も多く見られますし、結果として昇進意欲を高めている人材も少なくありません。ただし、理由はテレワークだけではないでしょう。同社は新任管理職のポストを公募制にし、デザイン系の部署には弱冠2年目の女性が役職に就いたというケースもありました。はたらき方の柔軟性と同時に、年齢や性別に関係なく機会が与えられる仕組みも重要であるという、好例ですね。

岡島 : そもそも性別にかかわらず、「管理職になるって、おいしいのかな?」と思っている人は多いと思うんです。実際、昇進することで残業代がつかなくなったり、業務が増えたりする側面は事実でしょう。しかしその反面、意思決定の権限の範囲は増えますし、はたらき方の自由度も上がるはずなので、まずは「管理職ってやりがいがありそう」と思ってもらえるよう、マインドセットを変えることが大切なのではないでしょうか。

小林 : 冒頭の調査データでいうと、昇進について「どうでもよい」と答える若手が増えているのは、仕方のない側面もあるんです。というのも、このアンケートでは「いまの会社で」という前提の聞き方をしているからです。

岡島 : なるほど。会社にとらわれず、個人のキャリアは自分で作っていきたいという思いの表れとも受け取れますね。

小林 : そうですね。結局のところ、管理職のあり方を変えないまま「頑張りましょう」と呼びかけたところで、響くはずがないんですよ。ロングトレンドとして、日本の管理職を取り巻く状況は厳しくなる一方です。ハラスメントのチェックは厳しいし賃金の手取りは減る、さらに自身や部下のメンタルケアも大変と多くの問題を抱えています。さらに問題なのは、会社や人事にとって、「女性が誰も管理職になりたがらない仕方ないんだよね」と、女性活躍の問題を女性側の責任にできてしまうことです。これは根が深い問題です。

女性管理職比率は数値化可能な実践的ダイバーシティ指標

野村 : では、女性管理職比率を向上させるためには、どうすればいいでしょうか。

出典:パーソル総合研究所<br>女性活躍推進に関する定量調査より

出典:パーソル総合研究所
女性活躍推進に関する定量調査より

小林 : 実際の手立てはたくさんあると思いますが、ここではデータから見出だせるポイントをまとめました。女性の昇進意欲を向上させる要因をデータからひもといてみると、まず1つ目が、管理職を含むはたらき方改革がひとつ。2つ目に、登用・選抜の見直し。3つ目に、男性の育休推進が挙げられます。

ここでとくに注目したいのは、登用・選抜の「脱・平等主義」です。頑張れば誰でも幹部を目指せる組織は世界的にも稀有で、諸外国ではMBAホルダーなどエリートだけが幹部層候補まで上がっていくのが一般的です。これはどちらが良いという話ではなく、日本式の平等な昇進構造は、管理職昇進が遅くなりがち。30代という出産や育児といった女性に負荷がかるライフイベントがまるまるその“選抜”期間とかぶってしまいます。

また、結婚後には男女間で意識の差がより顕著になることもわかっています。育児期間で比較すると、男性は「給与」をより重視し、女性は「時間」を重視するようになる、ということです。こうしたライフイベントが昇進意欲の差に通じるのも当然で、遅い平等主義的昇進を続ける限り、女性は自動的に不利になってしまうのが現状のシステムと言えます。

野村 : なるほど。日本のゆっくりとした自然選抜よりも、海外の早期選抜のほうが“期待されている感”が途切れないというのも、わかりやすい対比ですね。

小林 : さらにもうひとつ、実務担当者が社内で最も苦労するのは、女性活躍への「抵抗感」、「懐疑心」を払拭することです。実際、自社の女性活躍について調査すると、4割が「法律の改正に合わせて行っているだけ」、「世間体を整えているだけ」と懐疑的であることがわかります。

出典:パーソル総合研究所

出典:パーソル総合研究所

また、女性活躍に対する批判には「定型文」と言えるものがあります。典型的なものは主に3つで、たとえば女性に対する優遇措置が「逆差別」であるという批判。これに対しては、むしろ男性が自然に優先される現状こそが差別的であるときちんと主張するべきでしょう。また、実力が足りない女性の「優先登用」が批判されることも多いですが、男性ばかりが出世しやすいいまの仕組みこそが非実力主義というべきです。

そして最近増えているのが「非本質批判」です。「女性管理職比率は表面的な指標に過ぎず、本質はダイバーシティであるはずだ」といったものですが、見方を変えれば、目標を数値化することが難しいマイノリティ支援策のなかで、「女性」は明確に数字で示すことができます。だからこそ誤魔化しがあればすぐに指摘できるわけで、女性の登用は数値で効果が測れる極めて実践的なダイバーシティ指標であることを忘れてはいけません。
例えば「売上高」はただの数字ですが、それに対して「ただの数字だ」という経営者はいません。都合の良い「非本質批判」は議論のすり替えに過ぎません。

岡島 : 本当に、どれも納得です。とくに女性活躍批判の定型文に関しては、いかに現場の皆さんの理解を深めていくかが重要だとあらためて感じます。

浜田 : いつも思っていることを小林さんに代弁していただいた感じで、聞いていて気持ちよかったです(笑)。多くの企業が女性活躍の取り組みに飽きてきている節があって、シニアの活用やLGBTQ問題にアプローチしがちなのですが、一丁目一番地であったはずの女性活躍すら実現できていないのに、なぜ他の問題が解決できると思えるのか疑問です。

女性が管理職を目指すために必要なのは「積極性」

野村 : では、組織ではなく個人の目線で考えた場合、女性が管理職を目指す際にあらかじめできる準備や心得は何でしょうか。

小林 : 実際問題として予習しておくのは難しいはずで、あらかじめあるべき上司の姿を習得しようとすると、これまでの上司のふるまいを真似ることになります。しかし、いざその時が来たら、業務でも人間関係でも予想もつかないことの連続であるはずで、かえって「どうして想定通りにいかないのだろう」と苦しむことになりかねません。そうではなくて、自分自身が「正解になろう」というマインドセットをいかに取り払えるかが、これからの管理職が本当の意味で活躍していくためには大切なはずです。

岡島 : そうですね。「習うより慣れろ」で、OJTに勝るものはありません。だから私は普段から経営者の皆さんに、とにかく若手や女性に機会を提供してほしいと伝えているんです。若手社員の方も、隙きあらば率先して管理職を目指せばいいと思います。いきなり管理職は難しくても、プロジェクトリーダーでも何でもいいので、機会を得たら躊躇せず打席に立って欲しいと思います。

小林 : おっしゃる通りで、現状は手を挙げなければ女性に機会がまわってこないことは、調査でも明らかになっています。マネジャー側にある差別意識は男性だけのものではなくて、女性管理職者にも子供の有無で差別をする傾向がありますから。「育児中だから難しいよね」と無自覚に機会を奪ってしまいがちなので、本人の積極性は非常に重要だと思います。

浜田 : いきなり管理職に手を挙げるのが難しいなら、その前段階でのチャンスを活かす手もありますよね。「こういうことをやってみたい」とか「この部署ではたらきたい」などと、自分の意思をアピールすることを、男性はお酒の席などですでにやってきたわけですから。健全な野心は口に出してみるべきでしょう。

※本記事の情報はイベント開催時(2023年3月13日-14日)基準です。

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