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Day 1

Session 1

「はたらく」女性と日本の未来を、本気で考える

「はたらく」女性と日本の未来を、本気で考える

「はたらく」ことについて、多様なあり方と考え方が重視される昨今。しかし実際にはまだ課題も多く、「女性活躍」もそのひとつです。そこで女性活躍推進の変遷や社会の変化、現在の女性のはたらき方をめぐる最新の「現在地」について、ジャーナリストの浜田敬子氏、パーソルキャリア株式会社執行役員の喜多恭子氏と考えます。モデレーターは株式会社ブランドジャーナリズムの川口あい氏です。

日本の女性の「はたらき方」の変遷

川口 : まず、「国際女性デー」の始まりを振り返ってみると、制定は1904年3月8日、アメリカの女性労働者が婦人参政権を求めてデモがきっかけでした。International Women's Day Community という団体がこの日に合わせて毎年テーマを設定していて、今年のテーマは「Embrace Equity(公平性を喜んで受け入れ、採用し、支持する)」となっています。非常に時勢が反映されたテーマと言えますね。

浜田 : そうですね。最近は企業の現場を取材していても、D&I(Diversity & Inclusion)からDE&I(Diversity, Equity & Inclusion)、つまり真の公平性を掲げるところが増えています。Equality(平等)に言及する企業は以前から多く存在していましたが、そもそも環境そのものが本当に平等なのかどうかから見直さなければ、本当の意味での公平性は担保できません。一律のサポートではなく、たとえば一口に女性と言っても置かれている状況はさまざまなので、それぞれに合ったサポートが必要なのです。なぜそこまでしなければならないかと言えば、企業は多様な人材に能力を発揮してもらう必要があるからです。

喜多 : パーソルグループの場合、DI&EのEをあえてEquityを踏まえてInclusionとEqualityを目指すという意味あいから、Diversity, Inclusion & Equalityと表記しています。つまり、公平を前提とした上での「平等」を用いています。これはまさにいま浜田さんがおっしゃった通りで、たとえば同じ梯子を全員に配ったとしても、誰もがそれを使って木の実を採ることができるわけではありません。本当の意味で誰もに等しく機会があたえられる環境を作りたいという意味が込められています。

川口 : 日本の女性のはたらき方の変遷をデータで振り返ってみると、1986年に男女雇用機会均等法が施行され、2013年頃から女性の労働参加率が急速に上がり始めたことがわかります。それと同時に、はたらく女性の悩みも、時代によって変化しつつありますよね。

浜田 : データによれば日本の女性の就業率は、世界各国と比べて決して低いわけではありません。ところが、はたらいている女性の約半数は非正規雇用で、男女間の賃金格差が先進国の中では極めて大きいのが実情です。これは日本の大きな課題で、女性の多くが能力に応じた仕事に就けていないことを意味しています。

また、制度の面では出産や育児を経ても仕事を続けやすい環境は整えられてきたものの、そこにやり甲斐が担保されているかどうかは別問題です。少し前の情報になりますが、育児を離職理由とする女性はむしろアメリカとドイツのほうが多く、日本の女性の主な離職理由は、実は「やり甲斐のなさ」だというデータもありました。

やはり、人は会社を辞める際になかなか本当のことは言いませんから、「一身上の都合」とか「子育て」を理由にしがちです。しかし、会社側が思っている理由と女性が抱えている悩みはだいぶ乖離していると見るべきでしょう。

喜多 : また、世代や年代によって、はたらく女性が抱えるモヤモヤも変わってきていると感じます。若い世代であれば、たとえば仕事と家庭の両立に不安を感じていますし、40代以降はまさにマミートラックなどによるやり甲斐の問題が大きいと思います。これらは何より、直面して初めて気づくこと自体が問題でしょう。もっと早期から一人ひとりに合わせたキャリア対話を図ってみる、あるいは男性社員も実際に時短勤務を体験するなどして、制度や環境の本質を周知する努力が必要ですよね。

浜田 : まったく同感です。時短勤務がはたらく側からするといかに機会を奪われ、不安の原因になっているのか、経験しなければわかりませんからね。

上司世代は、短時間で成果を出してもらうためにはどうすればいいのかを、もっと考えなければなりません。さらに言えば、リモートの活用などによって、本当に時短勤務が必要なのかどうかから再考するべきでしょう。

喜多 : そうですよね。家事や育児を終えた、夜間に少し仕事をしたいと望む女性の声は多いですが、会社がそれを許していないケースばかりで、もっと個々の事情に応じた選択肢があっていいように思います。

はたらく女性の雇用をめぐる環境

出典:男女共同参画局

出典:男女共同参画局

川口 : 次に、はたらく女性の雇用をめぐる環境の変化についても、データで見ていきたいと思います。年齢階級別労働力比率のデータによると、30~34歳を底(48.9%)とするM字カーブ問題については、現在は解消されつつあります。しかし反面、新たな課題も生まれているようですが……。

浜田 : たしかにグラフ化してみれば、第二次安倍政権時の取り組みでM字カーブが解消したのは事実です。ところが今度は、一度離職した女性がなかなか「正社員として」復職できず、正社員比率は年代とともに下がっていくL字カーブという問題が起きています。

一度離職した女性たちが正社員として再就職しようとして企業の採用面接を受けても、「子育て中?じゃあ残業はできないね」と門前払いされてしまうケースはいまだに多いのです。そもそも長時間労働を前提としたはたらき方がおかしいですよね。

喜多 : 残業前提のはたらき方がまかり通っていると、活躍できる人はどうしても一部の人に偏ってしまいますから、これは由々しき問題だと思います。ただ、企業側の視点として難しいのは、残業をなくしてしまうと今度は、たくさんはたらきたい若手のやり甲斐や成長の機会を奪ってしまう懸念もあります。これについては私自身、まだ明確な正解を持ち合わせていないのですが、まずは就業時間内に仕事が全うできる環境を整えて、その上でそれぞれが選択できるようにするのが理想なのでしょうね。

浜田 : ある調査では、リモートワークの浸透によって生産性が最も向上したのは6歳以下のお子さんを育てる人、というデータもあります。もちろんリモートに対応できない業種もありますが、たとえばNTTグループのように時間や場所の制約を取り払うことで、いっそうはたらき方の選択肢を広げる企業も出てきていることは、1つのヒントになるのではないでしょうか。

私の場合は子供が高校生なのですでに育児という感じではありませんが、それでも仕事の合間に夕食の煮物だけ準備しておいたり、時間の空いた深夜に少し作業を進めたりと、生活に合わせた労働をするのが最も生産的だと実感しています。これは企業にとっても不都合なことではないですよね。

喜多 : そうですね。それに、リモートを認めている企業はそれだけで採用が有利になりますし、生産性も上がっています。ビジネスの観点から見ても、リモートの導入が可能な業態であるなら、避けるべきではないですよね。

川口 : たしかに、これだけリモートが当たり前になっている社会においてフルに出社を求められたら、それだけで離職や転職の理由になりそうですね。

喜多 : ところが、どれだけの企業がリモートに対応しているかというと、名のある大手企業であっても、「部署による」とか「制度はあるけど十分に使われていない」という会社が大半です。本来は誰もが等しく、それぞれに合ったはたらき方を選択できるのが理想なわけですが、事業や業務の特性によってなかなかそうもいかないのは残念な現実ですね。

女性がはたらく環境をどう整えていくか

出典:パーソル総合研究所<br>女性活躍推進に関する定量調査より

出典:パーソル総合研究所
女性活躍推進に関する定量調査より

川口 : また、パーソル総合研究所が行なった「女性活躍推進に関する定量調査」では、ライフステージごとの重視点について、育児期間においては「給与」と「勤務時間」で最も男女の差が大きくなることがわかりました。このデータについてはどう思われますか?

浜田 : ここでも必要なのは対話で、子育て中の女性といっても一括りにできず、個別に事情や状況は異なります。育児に重きを置きたい女性もいれば、夫婦間での役割分担ができているので積極的にはたらきたいという女性もいるでしょう。だから上司は「あなたはどうはたらきたいの?」と、ちゃんと聞いてあげて欲しいのです。

たとえば時短を望む女性に対しても、「それでもあなたの能力であれば、このくらいの仕事はこなせるよね」と背中を押してあげられるのが理想で、それは人材を無駄にしないことにも繋がるはずです。逆に、負担が厳しそうならすぐにサポートできる体制を作って、心理的安全性を保ってあげることも重要です。

川口 : つまり、日頃からどれだけ人材とコミュニケーションを取っているかが大切になってきますよね。時には込み入った事情や思いにも踏み込まなければならないわけですから。

浜田 : そう思います。それは男女同じで、私も過去に、今ひとつパフォーマンスの上がらない男性の部下がいて、話を聞いてみたらご家族が病気で家事や看病を一人でこなしていたという、それまで知らなかった事情が明らかになったことがありました。心のどこかで、男性だからフルにはたらけるのが当然と思いこんでいたことに気づき、この時は猛省しましたね。

川口 : 21世紀職業財団の調査では、第一子を出産して復職した女性の実に4割が、マミートラックに悩んでいるというデータもあります。こちらについてはいかがでしょう。

浜田 : 私の身近なケースでは、マミートラックから脱したという人人は、上司によるところが大きいです。定時の範囲内ではたらく彼女の成果をきちんと評価し、0.5ずつぐらい仕事の難易度をあげていったのです。やはりここでも対話が重要で、どうすればもっとはたらけるか、どう工夫すれば生産性を上げられるかを、よく話し合った結果なのだそうです。上司の役割というのは、そのくらい大きいんですよね。

喜多 : そのあたりはパーソルキャリアもいろいろ取り組んでいて、管理職にかぎらずキャリアプランについて話し合い、考える機会を作ることは大切にし、実際、そういう機会に自分の望みをしっかり共有できていた人は活躍の場が広がっています。逆に、その年齢になるまで何も考えて来なかった人もいますが、キャリア形成はできるだけ早いうちに考え、機会を逃さないことが大切だと思います。

川口 : 現在はそうしたダイバーシティへの取り組みが進んでいる会社とそうでない会社の格差が大きい時代です。これは企業そのものの格差に繋がる問題ですよね。

浜田 : そうですね。若い人材がどんどん減っていく中で、採用も不利になりますから。なかには女性の活躍にまるで関心を示さない企業があるのも事実ですが、そうした企業は淘汰されていくことになるでしょう。

喜多 : ダイバーシティの指標が高い企業は、それだけで人材にとっての心理的安全性に繋がりますし、変化に強い企業であることの表れだと思います。ジェンダーに関する問題をちゃんと勉強しているいまの世代にとっては、当然チェックする指数ですし、その意識の低い企業は少しずつ人材不足に陥っていくことは避けられません。これからの企業にとって、これが非常に大きな観点であることは間違いないでしょうね。

※本記事の情報はイベント開催時(2023年3月13日-14日)基準です。

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