2024年05月15日
過重な労働による脳・心臓疾患やメンタル疾患を未然に防ぐことは、企業の大事な務めです。
本記事では、知っておきたい企業の義務や職場のメンタルヘルスケア対策の方法などを、不調のサインを素早くとらえるチェックリストとともにやさしく解説します。
【無料DL】メンタルケア施策によって健康経営を推進するポイント
企業でメンタルケアの施策は行っているものの、休職者や離職者が減らず、果たして有効なのか分からないといったお悩みはありませんか?
本資料では、従業員のメンタルケアの重要性と施策の見直しに必要なポイント、健康経営につながる取組みを紹介します。
メンタルヘルスとは、心の健康状態を指します。感情や思考を適切にコントロールできる状態であれば、ストレスに柔軟に対応したり、周囲と良好な人間関係を築いたりすることができます。
職場におけるメンタルヘルスとは、従業員が精神的に安定した状態で、安心してはたらけることを意味します。しかし、長時間労働や人間関係のストレス、業務量の過多といった要因が、心の不調を引き起こすケースも少なくありません。そのため、企業はこうした不調を早期に発見・予防し、適切に対応する仕組みづくりが求められています。職場で見られるメンタルヘルス不調には次のようなものが挙げられます。
うつ病 | 気分の落ち込みや意欲の低下が続き、仕事や日常生活に支障をきたします。慢性的な疲労感や睡眠障害など、身体症状を伴うこともあります。 |
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不安障害 | 過度な心配や緊張が継続し、業務に集中できなくなる状態です。パニック障害や社交不安障害なども含まれます。 |
適応障害 | 職場の変化やストレスにうまく対応できず、抑うつや不安、行動の問題が現れる状態です。環境要因が明確であることが特徴です。 |
燃え尽き症候群(バーンアウト) | 長期間のストレスや過重労働の結果、感情の枯渇や無力感が続き、やる気を失ってしまう状態です。 |
パーソナリティ障害 | 対人関係や仕事の進め方に強い偏りがあり、本人・周囲ともに苦しむことが多い状態です。診断・対応には専門的な知識が必要です。 |
メンタルヘルスすなわちこころの健康や、職場のメンタルヘルスケアの重要性が広く知られるようになり、国が過重労働による精神障害等を労災認定・補償する仕組みも整ってきました。しかし、それでも「うつ」を病む者に対して「頑張れ」などと心ない言葉をかけたり、こころの病気は「気合いでなんとかなる」と思い込むような事実誤認があったりと、いまだに正しい知識があまねく行き渡っているとはいえないのも事実です。
特に職場のメンタルヘルス対策の障害となっているのが、経営者や管理層の無理解であるといわれます。時代の変化や知識の更新についていけず、精神疾患を正しく認識できずに「やる気がない」などととらえてしまう、といいます。しかし、こころの病気も他の病気と同じく、早期の発見・治療開始が早期回復につながることがわかっています。自ら正しく知り、職場の人々に周知し、早く疾病の芽を摘むことができれば、快適な職場づくりができ、社会的評判を落とすような可能性も減らせるでしょう。
もしも職場のストレスでメンタル疾患が生じたり、過労死を招いたりといったことが起これば、その損害賠償や社会的制裁を受けるリスクは計り知れないものとなります。
そのため、企業や人事担当者は正しい知識を得て、場合により専門家と連携するなどして快適な職場づくりに努め、過重労働による疾病などを防がねばなりません。
従来から労災防止は国の厚生労働行政の大きな柱でしたが、その労災の考え方や対応のための規則は、昔と比べ大きく様変わりしました。
というのも、工作機械などの危険物・有機溶剤などの有害物による怪我や病気だけでなく、長時間労働などの過重労働やストレスによる脳・心臓疾患や精神疾患も同じ職場の問題として、新たな課題となってきたからです。
そのため国は、労働安全衛生法によりストレスチェック(メンタルヘルスチェック)を常時50人以上の労働者を使用する事業場で義務化し、2019年施行の改正では週40時間を超える労働が月間80時間を超える者から申し出があったときには、医師の面接指導やこれに基づく健康の保持増進措置を講じなければならない、といった対策をしています。
国はメンタルヘルスケアの重要性を充分に認識し、長時間労働などの過重労働からおこるメンタル疾患や脳・心臓疾患を防ごうとしているのです。そしてこれは使用者の責務ともなっています。
しかし、仕事にかかわる精神障害による労災請求は、ここ数年増加傾向にあり、2019年度には2,000件を超えるなど、減る兆候が見えません。
厚生労働省は、2001年から「労働時間把握適正化基準」を定め、長時間労働の改善などの行政指導を行ってきましたが、十分な効果が得られませんでした。そこで、2016年に「過労死等ゼロ」緊急対策を打ち出しました。
以下のような取り組みの強化を図るものです。
(1)新ガイドラインによる労働時間の適正把握の徹底
(2)長時間労働等に係る企業本社に対する指導
(3)是正指導段階での企業名公表制度の強化
(4)36協定(さぶろくきょうてい)未締結事業場に対する監督指導の徹底
(1)メンタルヘルス対策に係る企業本社に対する特別指導
(2)パワハラ防止に向けた周知啓発の徹底
(3)ハイリスクな方を見逃さない取り組みの徹底
(1)事業主団体に対する労働時間の適性把握等について緊急要請
(2)労働者に対する相談窓口の充実
(3)労働基準法等の法令違反で公表した事案のホームページへの掲載
また、このほかにも以下のような取り組みが進められています。長時間労働などによるメンタル不調を防ぐため、重層的な対策が行われているということがわかります。
・「過重労働による健康障害防止のための総合対策」改定(2020年4月)
・ストレスチェック制度の義務化(2015年12月施行)、マニュアル改定(2021年2月)
・ストレスチェック助成金(従業員数50人未満の事業場向け)(2015年度開始)
では、取り組みの主体となるべき企業の現状はどうなのでしょうか。下のグラフは2018年までの、メンタルヘルス対策に取り組んでいる企業の割合です。取り組みをしている企業の割合は増加傾向ではあるものの、2018年にいたっても6割に達していません。
一方、事業場規模別の取り組み状況をみると、50人以上の規模の会社、特に大企業ではメンタルヘルスケアに取り組んでいることがわかります。
企業がメンタルヘルスケアを実践するメリットは、主に以下の3つがあげられます。
メンタルヘルスケアは、社員の労働生活の質を高めます。なぜなら、快適な職場づくり・職場開発を、メンタルヘルス不調に陥った人だけでなく会社全体で行うことになるため、社員全体のモチベーションの維持につながり、生産性や活力の向上が期待できるからです。
メンタル不調による注意散漫からおこる、ミスや事故の危険を避けることが期待できます。また、メンタル不調に陥る人は、もともと仕事に熱心で責任感の強い人であることが多いものです。そうした社員がメンタル不調に陥ることは、貴重な戦力の喪失そのものです。メンタル不調になってしまえば、仕事への根気が続かなくなり、重要な意思決定ができず、仕事にかかる時間が普段より増えるなどして、生産性が落ちることが多いからです。
さらに不調が深刻になれば、最悪、自殺や離職を招くこともあります。職場でメンタルヘルスケアを実践すれば、そうした不調のサインをより早くとらえ、早期発見・早期対処がより期待できるようになります。
トラブルを避け、結果的に労災や訴訟を避けることができます。注意力・集中力が落ち、事故・トラブルにつながると、本人だけではなく、そうした不注意による影響は同僚や顧客にも及びかねません。
もしも適切なメンタルヘルスケアが行われていなかった場合、使用者は安全配慮義務を怠ったとして、労災請求や訴訟を受けることにもなりかねません。
では、具体的に企業はどうメンタルヘルスケアを実践すればよいのでしょうか。
厚生労働省では義務化されたストレスチェックの簡易な例を用意し、ホームページなどで提供しています。これらに順番に答えていくと、最後にストレス状態が診断されます。
チェックリスト例(一部)
【出典】厚生労働省「5分でできる職場のストレスチェック」
また、事業主、人事担当者やマネージャーなど管理監督者には、部下の心身の安全・健康を保つ安全配慮義務があります。部下の不調にいち早く気づくことができれば、メンタル不調を未然に防ぐことができるでしょう。 部下の様子のチェックリストも、厚生労働省が公表しています。
管理監督者が、こうした部下の変化にいち早く気づくことは重要です。そのために、日頃から部下のはたらき方や人間関係を把握しておくと、より変化を察知しやすくなるでしょう。
従業員のメンタルヘルスを守るためには、職場全体での取り組みが不可欠です。
まずは、部下が悩みを相談しやすい環境づくりが第一歩です。批判せず、受け止める姿勢で、相手の立場に立って話を聞くこと、すなわち「傾聴する態度」が重要です。
また、ストレスの原因を特定し、改善することが職場全体の健全化につながります。実際に職場環境改善を行う際には、以下の5ステップを踏んでいきます。
【出典】厚生労働省「15分でわかるラインによるケア」
さらに、復帰後の不安に寄り添うことが再発防止の鍵です。管理者は以下のポイントを配慮しましょう。
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安衛法によって、従業員のストレスチェックは企業の義務となりました。メンタル疾患を正しく理解し、部下の様子に注意しながら、組織・職場環境を改善していきましょう。
このとき、部下の様子の変化、傾聴姿勢、職場のストレス要因、管理監督者の積極的な取り組み姿勢と職場環境改善の5ステップを意識することが、より適切なメンタルヘルスケア実践につながることでしょう。