職場におけるメンタルヘルスとは?対策と不調のサインを見抜くチェックリスト

過重な労働による脳・心臓疾患やメンタル疾患を未然に防ぐことは、企業の大事な務めです。

本記事では、知っておきたい企業の義務や職場のメンタルヘルスケア対策の方法などを、不調のサインを素早くとらえるチェックリストとともにやさしく解説します。

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目次

職場におけるメンタルヘルスとは

まずは、メンタルヘルスとは何かについて、正しく知っておきましょう。早期発見のためにも、典型的な症状を知っておくことは有益です。

厚生労働省「知ることから始めよう みんなのメンタルヘルス」に沿って、代表的な精神疾患5つを紹介します。

全社に周知し、早期発見を促すべく「言いだしにくい」「相談しにくい」雰囲気を職場から払拭できるのが理想的といえるでしょう。

メンタルヘルスに起因する代表的な疾患と症状、治療の考え方

     

【出典】厚生労働省「知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス」
*標準体重の計算方法:「摂食障害のサイン・症状」

こころの病気は他の病気と同じ

メンタルヘルスすなわちこころの健康や、職場のメンタルヘルスケアの重要性が広く知られるようになり、国が過重労働による精神障害等を労災認定・補償する仕組みも整ってきました。しかし、それでも「うつ」を病む者に対して「頑張れ」などと心ない言葉をかけたり、こころの病気は「気合いでなんとかなる」と思い込むような事実誤認があったりと、いまだに正しい知識があまねく行き渡っているとはいえないのも事実です。

特に職場のメンタルヘルス対策の障害となっているのが、経営者や管理層の無理解であるといわれます。時代の変化や知識の更新についていけず、精神疾患を正しく認識できずに「やる気がない」などととらえてしまう、といいます。しかし、こころの病気も他の病気と同じく、早期の発見・治療開始が早期回復につながることがわかっています。自ら正しく知り、職場の人々に周知し、早く疾病の芽を摘むことができれば、快適な職場づくりができ、社会的評判を落とすような可能性も減らせるでしょう。

もしも職場のストレスでメンタル疾患が生じたり、過労死を招いたりといったことが起これば、その損害賠償や社会的制裁を受けるリスクは計り知れないものとなります。

そのため、企業や人事担当者は正しい知識を得て、場合により専門家と連携するなどして快適な職場づくりに努め、過重労働による疾病などを防がねばなりません。

政府の取り組み

従来から労災防止は国の厚生労働行政の大きな柱でしたが、その労災の考え方や対応のための規則は、昔と比べ大きく様変わりしました。

というのも、工作機械などの危険物・有機溶剤などの有害物による怪我や病気だけでなく、長時間労働などの過重労働やストレスによる脳・心臓疾患や精神疾患も同じ職場の問題として、新たな課題となってきたからです。

そのため国は、労働安全衛生法によりストレスチェック(メンタルヘルスチェック)を常時50人以上の労働者を使用する事業場で義務化し、2019年施行の改正では週40時間を超える労働が月間80時間を超える者から申し出があったときには、医師の面接指導やこれに基づく健康の保持増進措置を講じなければならない、といった対策をしています。

関連記事「企業が守らなければならない改正労働安全衛生法のルールと3つのポイント」を見る


国はメンタルヘルスケアの重要性を充分に認識し、長時間労働などの過重労働からおこるメンタル疾患や脳・心臓疾患を防ごうとしているのです。そしてこれは使用者の責務ともなっています。

しかし、仕事にかかわる精神障害による労災請求は、ここ数年増加傾向にあり、2019年度には2,000件を超えるなど、減る兆候が見えません。

精神障害にかかわる労災請求・認定の件数

 

【出典】厚生労働省 令和元年度「過労死等の労災補償状況」

厚生労働省のメンタルヘルス対策、過重労働対策

厚生労働省は、2001年から「労働時間把握適正化基準」を定め、長時間労働の改善などの行政指導を行ってきましたが、十分な効果が得られませんでした。そこで、2016年に「過労死等ゼロ」緊急対策を打ち出しました。

以下のような取り組みの強化を図るものです。

1. 違法な長時間労働を許さない取り組みの強化

(1)新ガイドラインによる労働時間の適正把握の徹底
(2)長時間労働等に係る企業本社に対する指導
(3)是正指導段階での企業名公表制度の強化
(4)36協定(さぶろくきょうてい)未締結事業場に対する監督指導の徹底

2. メンタルヘルス・パワハラ防止対策のための取り組みの強化

(1)メンタルヘルス対策に係る企業本社に対する特別指導
(2)パワハラ防止に向けた周知啓発の徹底
(3)ハイリスクな方を見逃さない取り組みの徹底

3. 社会全体で過労死等ゼロをめざす取り組みの強化

(1)事業主団体に対する労働時間の適性把握等について緊急要請
(2)労働者に対する相談窓口の充実
(3)労働基準法等の法令違反で公表した事案のホームページへの掲載


【出典】厚生労働省「「過労死等ゼロ」緊急対策」2016年12月26日

また、このほかにも以下のような取り組みが進められています。長時間労働などによるメンタル不調を防ぐため、重層的な対策が行われているということがわかります。

「過重労働による健康障害防止のための総合対策」改定(2020年4月)
「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」改定(2020年3月)
医師向け面接指導マニュアル修正(2016年6月)
・ストレスチェック制度の義務化(2015年12月施行)、マニュアル改定(2021年2月)
ストレスチェック助成金(従業員数50人未満の事業場向け)(2015年度開始)

関連記事「長時間労働問題に根本的解決を。企業がとるべき対策とは?」を見る

企業はどうメンタルヘルスに取り組むべきか

では、取り組みの主体となるべき企業の現状はどうなのでしょうか。

企業の取り組み状況

下のグラフは2018年までの、メンタルヘルス対策に取り組んでいる企業の割合です。取り組みをしている企業の割合は増加傾向ではあるものの、2018年にいたっても6割に達していません。

メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所割合の変化

 

【出典】厚生労働省「平成30年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況」※2014年は当該項目を調査していない

一方、事業場規模別の取り組み状況をみると、50人以上の規模の会社、特に大企業ではメンタルヘルスケアに取り組んでいることがわかります。

事業場規模別の取り組み状況

  

【出典】厚生労働省「平成30年 労働安全衛生調査(実態調査) 結果の概況

メンタルヘルスケアを実践するメリット

企業がメンタルヘルスケアを実践するメリットは、主に以下の3つがあげられます。

1.生産性や活力の向上
2.ミスや事故を防ぐ
3.労災請求や損害賠償責任を防ぐ

1.生産性や活力の向上
メンタルヘルスケアは、社員の労働生活の質を高めます。なぜなら、快適な職場づくり・職場開発を、メンタルヘルス不調に陥った人だけでなく会社全体で行うことになるため、社員全体のモチベーションの維持につながり、生産性や活力の向上が期待できるからです。

2.ミスや事故を防ぐ
メンタル不調による注意散漫からおこる、ミスや事故の危険を避けることが期待できます。また、メンタル不調に陥る人は、もともと仕事に熱心で責任感の強い人であることが多いものです。そうした社員がメンタル不調に陥ることは、貴重な戦力の喪失そのものです。メンタル不調になってしまえば、仕事への根気が続かなくなり、重要な意思決定ができず、仕事にかかる時間が普段より増えるなどして、生産性が落ちることが多いからです。

さらに不調が深刻になれば、最悪、自殺や離職を招くこともあります。職場でメンタルヘルスケアを実践すれば、そうした不調のサインをより早くとらえ、早期発見・早期対処がより期待できるようになります。

3.労災請求や損害賠償責任を防ぐ
トラブルを避け、結果的に労災や訴訟を避けることができます。注意力・集中力が落ち、事故・トラブルにつながると、本人だけではなく、そうした不注意による影響は同僚や顧客にも及びかねません。

もしも適切なメンタルヘルスケアが行われていなかった場合、使用者は安全配慮義務を怠ったとして、労災請求や訴訟を受けることにもなりかねません。

現場でメンタルヘルスケアを実践するポイント

では、具体的に企業はどうメンタルヘルスケアを実践すればよいのでしょうか。

ストレスチェックのチェックリストの活用

厚生労働省では義務化されたストレスチェックの簡易な例を用意し、ホームページなどで提供しています。たとえば、以下のようなチェックリストがあります。

厚生労働省によるメンタルヘルスチェックリスト

   

【出典】厚生労働省「5分でできる職場のストレスチェック」よりまとめ

これらに順番に答えていくと、最後にストレス状態が診断されます。男女で質問項目が分かれており、上記のチェックリストは女性の場合です。

また、事業主、人事担当者やマネージャーなど管理監督者には、部下の心身の安全・健康を保つ安全配慮義務があります。部下の不調にいち早く気づくことができれば、メンタル不調を未然に防ぐことができるでしょう。 部下の様子がおかしいと気づくために注意しておきたい部下の様子のチェックリストも、厚生労働省が公表しています。

部下にこんな様子が見えたら注意=10のチェックリスト

 

【出典】厚生労働省「15分でわかるラインによるケア」

管理監督者が、こうした部下の変化にいち早く気づくことは重要です。そのために、日頃から部下のはたらき方や人間関係を把握しておくと、より変化を察知しやすくなるでしょう。

職場環境の改善

変化を察知したら、その背後に病気があるかどうかを判断するのは産業医など医師の仕事です。管理監督者は部下の話を聞き、産業医に相談させるといった適切なアドバイスをする、また、前もって従業員が産業医に相談する職場の仕組みづくりをしておきたいものです。

こうした職場ぐるみの対応をするときに、注意したいのが以下の3つです。

1.相談への対応
2.職場組織への対応
3.復帰への対応

それぞれわかりやすく解説していきましょう。

1.相談への対応

部下の相談を受けたり、話を聞いたりするときに批判的な態度を見せてしまうと、「これ以上は話しにくい」「話してもムダ」と思わせてしまう怖れがあります。

そのため、相手を受け止める気持ちをもち、相手の立場に立って話を聞くこと、すなわち「傾聴する態度」が必要となります。相手に関心をもっていることを態度や表情でも伝える、もしも相手の立場であったなら、と相手を思いやる気持ちをもちたいものです。

また、なかには産業医などのカウンセリングに対して抵抗がある人もいるかもしれません。そんなときは、無理に産業医に相談させるのではなく、本人の同意を得たうえで管理監督者が本人に代わって産業医など専門家に相談し、適切に対応しましょう。

部下の健康情報を含む心身に関する情報については、適切に管理することが求められています。こうした個人情報の収集・管理・使用に際しては原則的に本人の何らかの同意を得る必要があり、また個人情報の保護と本人の意思の尊重に努めなければなりません。

2.職場組織への対応

メンタルヘルスケア実践のために職場・組織の改善を行う際に知っておきたいが、以下の2つです。

・ストレス要因の把握・改善をどう行うか
・職場環境の改善をどう行うか

ストレス要因は以下の3つに配慮しながら聞くと、どこに改善するべき点があるのかを、より的確に把握できるでしょう。

(1)仕事の要求度 小 → 大
(2)仕事の自由度 小 → 大
(3)周囲からの支援 小 → 大

ストレス要因としての職場環境には、上記3つ以外にも、作業環境、作業方法、人間関係、組織形態などが含まれます。これらを配慮しながら、ストレス要因を特定し、職場改善につなげていきます。

ストレス要因としての職場環境4つの要素

 

【出典】厚生労働省「15分でわかるラインによるケア」

こうして職場のストレス要因を特定できたら、過度なストレスを排除した快適な職場づくりに向け、適切な職場改善を行っていきます。このとき、管理監督者としては職場全体で取り組むことを意識し、自身が積極的に進めていくことが望まれます。実際に職場環境改善を行う際には、以下の5ステップを踏んでいきます。

5ステップで行う職場環境改善

 

【出典】厚生労働省「15分でわかるラインによるケア」

3.復帰への対応

メンタル不調を脱し、職場に復帰できることになったとしても、「病気が再発しないか」「職場でどう思われるか」等、復帰者はさまざまな心配をかかえています。

管理者はこうした復帰者の立場をよく勘案し、復帰者への理解を示すことが望まれます。復帰者がより安心して職場に戻り、従来と変わらないような仕事ができるようになるまでに要する時間も短縮することが期待できるでしょう。

こうして管理監督者が中心となって復帰を支援するときに配慮したいのが、以下の3つのポイントです。

(1)原則的に元職場への復帰だが、職場要因の有無・適正配置の観点から、業務内容を改めて検討する
(2)産業医などの意見を踏まえ、そのときの復帰者の健康状態に見合った業務を与える。また本人の状況を確認する時間を設ける。
(3)定期的な通院加療を要することが多いため、その時間確保に配慮する。

メンタル疾患はけっして遠い地の出来事ではなく、使用者には正しい理解と適切な配慮が求められます。内外の協力を得ながら、それぞれの企業に合った、より快適な組織環境への改善をこころがけたいものです。

まとめ|ストレスチェックは使用者の義務。正しい理解に努め、適切に対応しよう

安衛法によって、従業員のストレスチェックは企業の義務となりました。メンタル疾患を正しく理解し、部下の様子に注意しながら、組織・職場環境を改善していきましょう。

このとき、部下の様子の変化、傾聴姿勢、職場のストレス要因、管理監督者の積極的な取り組み姿勢と職場環境改善の5ステップを意識することが、より適切なメンタルヘルスケア実践につながることでしょう。

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