企業が守らなければならない改正労働安全衛生法のルールと3つのポイント

法制度対応 人事 法務・労務

労働安全衛生法は、労働者の安全と健康を守り、快適な職場をつくるために事業主が守るべきルールです。労災防止計画・措置や管理体制、危険物から職場環境まで広く規定されています。なかでも、どんな企業にも共通するルールとポイントをやさしく解説します。

コロナ以降の人事戦略2021最新動向レポート

経営・人事・マネジメント1,000人調査
コロナ以降の人事戦略2021最新動向レポート

資料をダウンロードする

目次

カバーする範囲が広く膨大な条文

労働者の安全・健康を確保し快適な職場をつくる

労働安全衛生法(安衛法)は、管理体制と各種責任者や、措置を講じなければいけない危険物・有害物、職場環境やメンタルヘルスなど、相当な広範囲にわたって労働者の安全と健康を確保するためのルールです。同時に、快適な職場環境づくりをめざす決まりも含みます。

そのため、それらすべてをカバーする条文や関連する通達などが膨大にあります。したがって本記事では、主にデスクワークを中心とする職場に必要なルールやそのポイントに絞って、すなわち、どんな企業でも守らなければならない決まりについて解説していきます。

まず、安衛法の目的は2つ。

  • 職場における労働者の安全と健康を確保すること
  • 快適な職場環境をつくること

この2つを達成するために、事業主は事業場の規模に応じて、労働者の安全と健康を守る管理者を配置しなければいけません。その管理者・資格者は、以下の通りです。

事業主が職場に配さなければならない管理者

事業主が職場に配さなければならない管理者

【出典】厚生労働省東京労働局「共通 3「総括安全衛生管理者」「安全管理者」「衛生管理者」「産業医」のあらまし」より抜粋

業種にかかわらず、常時50人以上の労働者を使用する事業場では「衛生管理者」「産業医」を選任する必要があります。また、安衛法は安全と健康の確保とならんで「快適な職場づくり」も目的としています。そのため、すべての事業主は、メンタルヘルスチェックなど、労働者の心身にわたる健康保持と増進に注意をはらわなければいけません。

製造業、建設業や林業・鉱業といった危険をともなう作業が必要な事業の安全・衛生確保が、いかに大変かがわかります。

安衛法で何が定められているのか

上に見た安全衛生管理体制やメンタルヘルスを含む快適な職場づくりのほかにも、安衛法にはさまざまなことが定められています。
以下は安衛法に定められた主な項目、ならびに安衛法および労働安全衛生施工令の規定に基づき定められた労働安全衛生規則の主な項目です。極めて広範囲にわたり定められていることがわかります。

■安衛法に定められた主な項目

事業場における安全衛生管理体制の確立
└総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医等の選任、安全委員会、衛生委員会等の設置
事業場における労働災害防止のための具体的措置
└危害防止基準:機械、作業、環境等による危険に対する措置の実施
└安全衛生教育:雇い入れ時、危険有害業務就業時に実施
└就業制限:クレーンの運転等特定の危険業務は有資格者の配置が必要
└作業環境測定:有害業務を行う屋内作業場等において実施
└健康診断:一般健康診断、有害業務従事者に対する特殊健康診断等を定期的に実施
国による労働災害防止計画の策定
└厚生労働大臣は、労働災害を減少させるために国が重点的に取り組む事項を定めた中期計画を策定

【出典】厚生労働省「安全・衛生 労働安全衛生法の概要」より

労働安全衛生規則の主な項目(抜粋)

労働安全衛生規則の主な項目(抜粋) 1

【出典】中央労働災害防止協会(JISHA)安全衛生情報センター「労働安全衛生規則」より編集部が抜粋

事業者の責務

このように膨大な定め・広範囲に及ぶ安衛法ですが、ここからはデスクワークを主とした職場で守らなければならない企業の責任を確認しましょう。事業者の責務のうち大きなものは、以下の3つです。

  1. 危険防止の措置
  2. 安全衛生教育の実施(就業に必要な措置)
  3. 労働者の健康保持や健康増進のための措置

1. 危険防止の措置
まず、事業者は労働者が設備や作業などによって危険な目にあたり、けがや病気をすることがないよう、防止措置をとらなければいけません。これは労働者によっても守られなければなりません。労働者も事業者の危険防止措置に応じ、必要な項目を守る必要があります。

【出典】労働安全衛生法 第20条~第36条より適宜編集

2. 安全衛生教育の実施
次に、事業者は、雇い入れた労働者に、従事する業務に関する安全衛生教育を実施しなければいけません。この労働者には、アルバイト・パートなども含まれます。

【出典】労働安全衛生法 第59条~第63条より適宜編集

3. 労働者の健康保持や健康増進のための措置
さらに、事業者は労働者の健康の保持増進のため、作業環境測定、作業の管理、健康診断等を実施しなければなりません。

・作業環境測定、作業管理

作業環境中に、有機溶剤・鉛およびその化合物・特定化学物質等の有害な化学物質、粉じん等の有害な物質のほか、騒音、振動、高温・低温、高湿度等があるときには、これらを除去ないし一定の限度まで低減させなければいけません。そうした対策だけでは不足の場合には、保護具や保護衣などによって労働者の健康被害を未然に防止しなければなりません。

また事業者は、労働者の健康に配慮して、その従事する作業を適切に管理しなければいけません(第65条の3)。

・健康診断、保健指導

事業者は、労働者に対して医師による健康診断を行わなければなりません(第66条)。またその結果を記録し(第66条の3)、異常の所見が認められた労働者については、健康保持のため必要な措置について、医師や歯科医師の意見を聞かなければいけません(第66条の4)。加えて、それら意見を勘案し、必要の場合には就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少などの措置を講ずるほか、医師・歯科医師などへ報告その他の適切な措置を行わなくてはいけません(第66条の5)。

66条にある年に1度の健康診断は、どんなに労働者が受診しないといっても、受診させることが会社の義務になっています。そのため、就業規則に懲戒事由と罰則を盛り込んでおく、というのも1つの方法かもしれません。

また保健指導も、必要に応じて行うよう努めなければいけません。健康診断の結果、特に健康保持に努める必要がある労働者に対しては、医師または歯科医師による保健指導を行うよう努めなければいけません(第66条の7)。

2019年改正のポイント

改正の背景

2019年に安衛法は大きく改正されました。ここ20年ほど、一般労働者の年間総実労働時間は2000時間前後で推移しています。業務における過重な負荷により脳・心臓疾患を発症したとする労災請求件数は、過去10年ほど、700~900件で推移しています。

また減少傾向とはいえ、勤務問題を原因の1つとする自殺者数は、年2000人前後と依然高い水準にあります。こうした現状を踏まえ、改正されたと考えられます。

一般労働者とパートタイム労働者の年間総実労働時間

一般労働者とパートタイム労働者の年間総実労働時間

【出典】厚生労働省「毎月勤労統計調査」※事業所規模5人以上、年換算値は各月間平均値を12倍し、小数点以下第1位を四捨五入

業務における過重な負荷により脳・心臓疾患を発症したとする労災請求件数

業務における過重な負荷により脳・心臓疾患を発症したとする労災請求件数

【出典】厚生労働省「過労死等の労災補償状況」

勤務問題を原因の1つとする自殺者数

勤務問題を原因の1つとする自殺者数

【出典】警察庁自殺統計原票データより厚生労働省作成

今次改正のポイントと意義

改正安衛法は、2019年4月から施行されており、改正のポイントは3点です。

  1. 労働時間の適正な把握の義務化
  2. 面接指導の強化
  3. 産業医・産業保健機能の強化

それぞれ解説していきましょう。

1. 労働時間の適正な把握の義務化
管理監督者を含むすべての労働者の労働時間を、適正に把握することが義務化されました(第66条の八の三)。

この労働時間の適正な把握のために企業が行わなければならないことは、厚生労働省がガイドラインにまとめています(労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン)。これによると、使用者は以下を講じなければいけません。

  1. 始業・終業時刻の確認と記録
  2. 始業・終業時刻の確認と記録の原則的な方法
    原則的に、次のいずれかの方法で記録します。
    ア)使用者が自ら現認する
    イ)タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録など客観的に記録する
  3. 自己申告によって始業・終業時刻の確認と記録を行う場合
    この場合は以下の措置を講じます。
    ア)正しい記録、適正な自己申告などについて十分に説明する
    イ)労働時間を管理する者に自己申告制の適正な運用など十分な説明をする
    ウ)必要に応じて実態調査し、所要の労働時間の補正をする
    エ)時間外労働の理由などの報告が適正に行われているか確認する
    オ)労働者が自己申告できる時間外労働の時間上限を設け、上限を超える申告を認めないなど適正な申告を阻害するようなことをしてはならない
  4. 賃金台帳の適正な調整
    使用者は労働者ごとに労働日数・労働時間数・休日労働時間数・時間外労働時間数・深夜労働時間数などを適正に記入しなければならない
  5. 労働時間の記録に関する書類の保存
    労働者名簿や賃金台帳など労働時間の記録は3年保存する
  6. 労働時間を管理する者の職務
    労務管理の責任者は労働時間の把握など労働時間管理の適正化を管理し、労働時間管理上の問題点を把握しその解消を図る
  7. 労働時間等設定改善委員会等の活用
    使用者は必要に応じて労使協議組織を活用し労働時間管理上の問題点、その解消策などの検討を行う

2. 面接指導の強化
長時間労働者への面接指導の基準が、これまでの時間外・休日労働時間1カ月あたり100時間超から月80時間超に引き下げられました。

これまでも長時間労働者は医師と面談することが必要とされていましたが、これが残業上限規制に合わせ厳格化されたといえます。
労働基準法に違反しないために押さえたい2つの重大ポイント」の記事を合わせて読む

※これは研究開発業務に従事する労働者、高度プロフェッショナル制度の対象者を除きます(月100時間超)。

長時間労働者の面接指導の流れ

長時間労働者の面接指導の流れ

【出典】厚生労働省「改正労働安全衛生法のポイント」
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000372681.pdf

3. 産業医・産業保健機能の強化
最後に、産業医や産業保健機能の強化が図られています。
具体的には、以下が定められました。

  1. 産業医等による労働者の健康を保持する環境の整備
  2. 産業医による勧告の強化

まず(1)環境整備のポイントは以下です。

  • 事業者は産業医等に、労働者の労働時間など、必要な情報を提供する
  • 健康管理を実施し、産業医等が健康相談に応じるための体制を整備する(努力義務)
  • 産業医の業務内容などを掲示して労働者に周知する
  • 労働者の心身に関する情報を適正に管理し、労働者の健康保持に必要な範囲内で収集、保管、使用する

(2)産業医勧告の強化については、次の2点に注意しましょう。

  • 労働者の健康を確保する必要があるとき、産業医は事業者に必要な勧告を行う
  • 事業者は産業医の勧告を受けたとき、衛生委員会または安全衛生委員会に報告する(義務)

使用者による民事上の安全配慮義務や、今次改正より前からストレスチェック(メンタルヘルスチェック)義務化や受動喫煙防止対策の推進などが行われていることにも注意が必要です。

工場や工事現場などでは、さらに広範で詳細な安全と健康を守るルールが適用されますが、オフィスワークを主とした労務管理者が守らなければならないことをまとめました。さらに細かい決めごとなどもあるため、社労士やコンサルタントなどの専門家に相談するのも1つの方法かもしれません。知らなかった、とならないよう、労使ともに安全・健康で快適な職場づくりを目指しましょう。

労働者の安全を確保し、心身の健康維持・増進を図る

安衛法は広範囲にわたり労働者の安全・健康を守り、快適な職場づくりをめざす法律です。業種・事業場の規模などにより各種責任者や産業医を選任したり、危険防止措置、安全衛生教育の実施、労働者の健康維持・増進の措置を講じたりしなければなりません。2019年から改正安衛法が施行されましたが、主要な改正点は3つ。1.労働時間の適正な把握の義務化、2.長時間労働者への面接指導の強化、3.産業医・産業保健機能の強化です。いずれもポイントをおさえ、適切に対応しましょう。

インタビュー・監修

中村俊之(なかむら・としゆき)

中村俊之(なかむら・としゆき)

中村社会保険労務パートナーズ代表、特定社会保険労務士・人事コンサルタント。人事労務畑の仕事に40年の経験、会社の実態に沿ったベストソリューション(問題点の解決)を得意とし、企業研修は年50回程度行う。人事制度・賃金制度等処遇制度の構築、人事考課制度の構築・考課者研修、労働相談、就業規則その他規程の作成・見直し、目標管理制の構築・研修、階層別(部長級・課長級・係長級・新入社員)教育訓練ほかに対応。主著に『やさしくわかる労働基準法』(監修、ナツメ社刊)ほか

ご相談・お見積り・資料請求等
お気軽にお問い合わせください

Webでのお問い合わせ

お電話でのお問い合わせ

0120-959-648