2025年06月24日
2019年に働き方改革関連法が施行されて以降、多くの企業が長時間労働の是正に取り組んでいますが、なかなか結果が出ていないのが現状です。
本記事では、時間外労働に関する法改正のポイントや長時間労働が従業員へ及ぼす影響、時間外労働を減らす具体的な取り組みについて解説します。
働き方実態調査レポートをご覧いただけます
はたらき方は大きく変化している昨今、人事・組織戦略の新たな課題も浮かび上がっています。人事施策や組織戦略の展望にお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこでパーソルグループでは、働き方の「いま」と「これから」について、管理職および一般職1,000名を対象に調査を行いました。人事制度、オフィス環境、副業、人材育成、メンタルヘルスなどに焦点を当て、働き方の実態調査の結果をまとめたレポートを公開しています。
経営・人事の皆さまはぜひご活用ください。
時間外労働とは、労働基準法で定められた法定労働時間を超えて行われる労働のことを指します。具体的には、原則として1日8時間・週40時間を超えた時間が該当します。このような労働を企業が従業員に求める場合には、労使協定(いわゆる「36(サブロク)協定」)を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出ることが法律で義務付けられています。また、時間外労働をさせた場合、企業は該当時間に対して割増賃金を支払う必要があります。
さらに、2019年4月から働き方改革関連法による改正後の労働基準法が順次施行され、時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間とされ、特別な事情があっても年720時間、複数月平均80時間を超えてはなりません。これらを守らない場合、罰則の対象となる可能性があります。
「残業時間」と「時間外労働」は同じように使われることが多いものの、実際には意味が異なります。
残業時間とは、企業が定めた所定労働時間(例:1日7時間)を超えた時間を指しますが、それが必ずしも時間外労働に該当するとは限りません。たとえば、1日7時間の所定時間を超えて8時間働いた場合、その1時間は残業ですが、法定労働時間(8時間)以内であれば「時間外労働」にはなりません。これに対し、法定時間を超える労働は「時間外労働」として法律上の制限と割増賃金の支払いが発生します。
この違いを正確に理解することは、勤怠管理や給与計算の適正化において重要です。
時間外労働が発生した場合、どのように対応すべきでしょうか。
例えば、とある会社では1日の労働時間を9時から17時(休憩1時間)と定めています。この場合、所定労働時間(会社が定めた労働時間)は7時間です。法定労働時間は8時間であるため、17時以降に1時間残業した場合は「法定時間内残業」、それ以上残業した場合は「法定時間外残業」となります。
このとき、法定時間外残業にあたる部分に対して、企業は1.25倍の割増賃金を支払う必要があります。
17時~18時…法定時間内残業/1時間あたりの賃金×1.00×1時間
18時以降…法定時間外残業/1時間あたりの賃金×1.25×○時間
※深夜(22時~5時)は1.5倍に
上記の例は大企業においてのみですが、この割増賃金率も2019年の改正労働基準法にて改正されます。そして2023年4月より、中小企業においても月60時間を超える時間外労働に対し割増賃金率が引き上げられています。
前述のとおり、時間外労働によって企業にも従業員にも負担がかかっているにも関わらず、時間外労働が発生する原因は何でしょうか。考えられる可能性について説明します。
時間外労働が発生する原因として多いのが、業務内容・量と、それに対応する人数のバランスが取れておらず、勤務時間内に対応しきれない、というものです。労働人口減少に伴って、多くの企業が人材不足に悩んでいます。少ない人員で従来どおりの業務量をこなそうとすると、一人ひとりの負担が大きくなってしまうため、時間外労働につながってしまうのです。
また業務過多な状況が続くと、体調を崩してしまったり、離職してしまったりして、更に人材が不足してしまうといった負のスパイラルに陥りかねません。
企業風土や評価制度も、長時間労働に関係している可能性があります。
内閣府がの調査によると、上司が「残業している人」をどう評価するかのイメージとして、「頑張っている人」「責任感が強い人」など、全体的にポジティブなイメージを持っていると感じていることが明らかになりました。また、この傾向は労働時間が長い人ほど顕著にあらわれています。
「長時間労働=頑張っている」という風土として定着してしまうと、長時間労働が当たり前な環境になってしまってもおかしくありません。
残業代込みの給与が生活のベースになっている場合も考えられます。
fabcross for エンジニアの調査によると、残業の主な要因として「残業費をもらって生活費を増やしたい」という回答が、どの世代でも30%程度ということがわかりました。
また、経済協力開発機構(OECD)が2020年に行った調査によると、日本の平均賃金(年収)は30年前からほぼ横ばいで、主要国平均を大きく下回っていることもわかっています。
物価は上昇しつつも賃金が上がらず、生活に不安を感じることから、残業代を含んだ収入によって金銭的不安を解消しようとする人が増加していることも考えられます。
さまざまな要因から問題となっている時間外労働ですが、従業員にどのような影響があるのでしょうか。
パーソル総合研究所の調査によると、残業時間が増加するほど、幸福度が下がっていくことがわかっています。
残業時間と幸福度の相関
また、残業が長くなると健康リスクへの影響も顕著にあらわれます。月の残業が60時間以上の人は、「食欲がない」「強いストレスを感じる」「重篤な病気・疾患がある」というリスクが1.6〜2.3倍にもなることがわかっています。
残業時間ごとの健康リスク
従業員の健康状態が悪化してしまうと、業務効率に支障が出るだけでなく、休職や離職、そして職場全体のモチベーション低下にもつながりかねません。
人材不足が懸念される今、自社の従業員に長くはたらき続けてもらうためにも、労働時間の適正な管理は必須といえます。ただ闇雲に労働時間を削るだけでは「隠れ残業」が増加してしまう可能性もありますので、注意が必要です。
時間外労働のリスクがわかったところで、次は時間外労働を削減するためのポイントを見ていきましょう。
厚生労働省の調査によると、時間外労働削減のために行っている取り組みとして、以下のような事例を挙げています。
・従業員間の労働時間の平準化を実施
・残業を事前に承認する制度の導入
・従業員の能力開発の実施や自己啓発の支援 など
自社の時間外労働に関する現状把握を行ったうえで、どのような取り組みを行えばよいか、事例をもとに3つのポイントを紹介します。
・ノー残業デーの設定
・業務目標設定
・勤怠管理システムの導入 など
群馬県の運送業A社では、時間外労働削減にむけて、「ノー残業デー」の設定と業務効率向上の目標設定を行いました。
ノー残業デーは各従業員が自ら決定するとともに、気兼ねなく帰宅できる雰囲気を作るために、互いに確認できる仕組みにしています。また、業務効率向上にむけ月1回の進捗管理を行うことで、業務上の課題をすぐ解決するようにしました。
その結果、一人当たりの時間外労働時間は20時間程度と、著しい長時間の残業がなくなりました。加えて、業務改善の目標設定などにより、従業員の仕事に対する姿勢にも変化が生まれました。
時間外労働を削減するには、まずは従業員一人ひとりの労働時間をしっかり管理する必要があります。「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」にも、使用者は労働時間を適切に管理する責務がある、と明記されています。労働時間を適正に把握するには、タイムカードやICカードなどといった客観的な記録を残す必要があります。この際、勤怠管理システムを活用するのも一つの選択肢として有効です。
茨城県の製造業B社では、残業の事前申請制度の導入と実施状況管理に取り組んでいます。
従業員が残業を行う場合は、「時間外労働申請書」を提出します。管理職が内容を確認し、残業してでも必要な業務かどうか判断し、不要であれば翌日に回すよう指導しています。また、申請書に記載された残業理由や内容をもとに、部下の業務内容や進捗を把握するといったコミュニケーションのきっかけにも活用しているそうです。
その結果、時間外労働は従来の半分以下まで削減できました。
埼玉県の製造業C社では、評価制度・報奨制度との連動を図るために、管理職の人事考課の項目に「部下の時間外労働」を組み入れています。
また、従業員の時間外労働が月80時間に達する場合、管理職が会社に伺い書を提出する必要があります。伺い書が年3回以上提出された場合は、管理部門から管理職に対し、改善措置を取るよう指示が出ます。
その結果、労働時間の削減に繋がるとともに、管理職が部下の時間管理に取り組む必要があることから、安易に残業が発生しない風土となりつつあります。
時間外労働は、人材不足や業務過多、長時間労働が評価されやすい風土などさまざまな原因によって発生します。長時間労働が続くと、従業員の健康を損ねたり、業務の生産性の低下を招いたり、さらには離職や退職による人材離れを招きかねません。
労働時間を適正に管理するツール導入・仕組みづくりや従業員の意識改革をすすめ、時間外労働を減らしていきましょう。
働き方実態調査レポートをご覧いただけます
はたらき方は大きく変化している昨今、人事・組織戦略の新たな課題も浮かび上がっています。人事施策や組織戦略の展望にお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこでパーソルグループでは、働き方の「いま」と「これから」について、管理職および一般職1,000名を対象に調査を行いました。人事制度、オフィス環境、副業、人材育成、メンタルヘルスなどに焦点を当て、働き方の実態調査の結果をまとめたレポートを公開しています。
経営・人事の皆さまはぜひご活用ください。