アジリティとは?
アジリティ(Agility)とは、日本語で「機敏」や「敏しょう性」などと訳されます。スポーツの世界では以前から用いられてきた言葉ですが、最近ではビジネス用語としても使われることが増えてきました。スポーツの世界では速さをより細分化し、SAQとしています。SAQとはスピード(Speed)、アジリティ(Agility)、クイックネス(Quickness)の3つです。日本SAQ協会の定義によれば、
・S=スピード(前方への重心移動の速さ)
・A=アジリティ(運動時に身体をコントロールする能力)
・Q=クイックネス(刺激に反応し、早く動き出す能力)
と分類されています。上記のようにアジリティとは「身体をどう動かすか」と、状況に応じて考え、的確に判断して動くこと。一方、クイックネスは「俊敏性」と訳されるもので、刺激に対していかに速く動けるか、という意味を持ちます。
ビジネスにおける「アジリティ」は、スポーツにおけるクイックネスとアジリティを備えていると考えられます。例えば、状況が変化したとき、組織として意思決定が的確で早い、望ましい行動がスピーディーに実施されること。そうした機敏性が見られたときに「あの組織はアジリティが高い」と表現します。また、個人に対して「アジリティが高い」と評されることもあります。この場合のアジリティも、その人の意思決定や行動が的確で早いことを指します。
ビジネスにおける「アジリティ」とは
状況が変化したとき、組織として意思決定が「的確」で「早い」、望ましい行動がスピーディーに実施されること
アジリティが注目される背景
アジリティが注目されるようになった背景には、ビジネス環境の激しい変化があります。特に以下の4つの要因が大きく関係しています。
1.VUCA時代への突入
VUCA(ブーカ)とは、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を取った言葉で、先行きが読めない状態を意味します。 複雑で曖昧、何が起こるか分からず、予測が難しいVUCA時代。企業・組織は、変化に対してスピーディーに意思決定し、行動することが求められます。予測ができない分、機敏性がより求められるのです。もとよりスピード感はビジネスにおいて重視されることはありましたが、今ではますます重みを増しています。ただし、スピードだけでは不十分。的確さも、組織の意思決定・行動には重要です。すなわち、速さと的確さを兼ね備えた機敏性こそが、ビジネスにおけるアジリティです。
現代の特徴を捉えた「VUCA」とは

【出典】U.S. Army War College「JOHN BOYD AND THE “OODA” LOOP (GREAT STRATEGISTS)」
2.OODAループという新たな意思決定モデルの浸透
このような環境変化に対応するための思考法として注目されているのが、「OODA(ウーダ)ループ」です。OODAは以下の4つのステップで構成されます。
- Observe(観察):外部環境・状況を正確に観察する
- Orient(適応・状況判断):情報をもとに意味づけし、自分の立場を整理する
- Decide(決断):次の行動を決める
- Act(行動):素早く行動に移す
意思決定モデル「OODAループ」とは

【出典】U.S. Army War College「JOHN BOYD AND THE “OODA” LOOP (GREAT STRATEGISTS)」
OODAループは、何が起こるか予測しにくい、複雑で理解が難しい状況のなかで、迅速で的確な意思決定を行うモデルです。状況変化に対し、観察、適応、決断、行動の繰り返しにより意思決定し、適切な処置を行う思考法です。アジリティは、このOODAループをはじめ、さまざまな思考法・手法を用いて発揮できます。
3.DXの加速
リモートワークの常態化、副業・兼業の解禁、個々のキャリア志向の多様化などにより、一律の管理手法が通用しなくなっています。こうした環境においても柔軟かつスピーディーに適応するには、組織や個人がアジリティを備えていることが求められます。
4.はたらき方・人材の多様化
デジタル技術の急速な進化により、ビジネスモデルそのものを見直す必要が出てきています。DX(デジタルトランスフォーメーション)を実現するためには、変化に柔軟に対応できる組織構造や人材の育成が不可欠であり、アジリティはその中核を担う力として重要視されています。
アジリティが高い個人・組織の特徴
ここまで、アジリティの概要をお伝えしてきました。次にアジリティが高いことでどのようなメリットがあるのかを考えていきましょう。
アジリティが高いことのメリットは
アジリティを発揮することで、さまざまな効果が期待できます。大きなメリットとしては次のような点が挙げられます。
・業務が早く進む
アジリティが高いと意思決定が的確で行動が早くなります。個人がアジリティを発揮できる場合はもちろん、組織としてもアジリティが高いなら、業務が迅速に進むのは言うまでもありません。顧客のニーズに応じた対応やトラブル処理なども速やかに行うことが可能です。
・フレキシブルな対応ができる
的確な判断ができるので、状況が変化したときでも柔軟に対応できます。的確な判断のもと、効率的に行動することもできます。
・ノウハウやいい前例を蓄積できる
アジリティを発揮することは、次々と起こる変化に対し、的確な判断を下すことにつながります。迅速に判断して行動する経験を積み重ねることで、ノウハウが蓄積されます。こうしたノウハウは自社ならではの強みとなり、想定外のことが起こったときにも柔軟に対応しやすくなります。
・リーダーシップが磨かれる
変化に応じて的確な判断をする習慣が身につくことで、リーダーシップが鍛えられます。個人のアジリティが発揮できる文化のある組織なら、メンバー全員がリーダーシップを高める機会を与えられているといえます。
アジリティが高い企業・組織の特徴
アジリティが高い組織には共通して、主に次のような特徴が見られます。
・ビジョンが明確である
アジリティの高い組織は、組織全体のビジョンが明確です。メンバーにもビジョンがしっかりと共有できています。そのため、状況が変化したときにもビジョンに沿って的確に判断し、素早く対応できます。また、ビジョンを修正するときにはメンバーの意見を反映させる風土があることも多いようです。
・変化に柔軟に対応できる
経営陣をはじめ、組織を構成する一人ひとりの判断力が高いのも、アジリティが高い組織の特徴です。判断力に優れているので、状況変化に対して柔軟に対応できます。組織のビジョンなども「状況の変化は必ず起きる」という前提のもとでつくられています。
・意思決定しやすい環境
個人の判断が大切にされる社風、組織構造がフラットで情報伝達がスムーズ、意思決定の権限がメンバーに委譲されている、といった特徴があります。ただし、こうした環境をつくるには、組織のビジョンが明確であり、しっかりと共有されていることが前提となります。
・情報の収集・共有に積極的
変化に対応するため、積極的に情報を収集し、組織としてもそれをサポートする姿勢が整っています。上司や部下、メンバー間での情報共有も十分に行われ、業務に関する信頼関係が築けています。シェア文化が発達しているといえます。

【お役立ち資料】うまくいく組織の特徴とは?
マネジメントや組織の実態について管理職および一般職1,000名を対象に調査を行い、マネジメントの実態やパフォーマンスの高い企業の特徴などを調査しました。組織をどのように改善すべきか、ヒントを得られる内容になっていますので、マネジメントに課題をお持ちの方はぜひご活用ください。
アジリティを高める方法
次代のビジネスにおいて、アジリティを身につける必要性は理解できたかと思います。ここからは個人のアジリティ、組織のアジリティをそれぞれ高める方法についてご紹介します。
個人のアジリティを高める方法
組織の一員として、個人のアジリティを高めるには次のような教育方法が有効です。
個人のアジリティを高める教育フロー
1 管理者(マネージャーやリーダーなど)がアジリティの重要性を理解する
2 メンバーの成果について、管理者はアジリティとの関連に注目する
3 2で関連があれば、アジリティに紐づけて成果の評価を行う
4 評価事例をロールモデルとして組織全体で共有し、他メンバーの意識を変える
「テキパキと仕事をこなす人」と聞いて、社内で一人は思い当たる人材がいるのではないでしょうか? 恐らくアジリティを個人で発揮しているケースは、どのような現場でも少なからず起きているはずです。そうしたケースに遭遇したとき、管理者がアジリティの重要性を理解していると、アジリティに紐づけて人事評価を行えます。すると、他メンバーのアジリティ向上につなげられます。
例えば、「顧客のニーズを拾って、開発部門に素早く依頼をかけた」という行動をとったメンバーの事例です。管理者は十分に褒めつつ、「なぜ、そのように素早く判断できたの?」と本人から判断や行動にまつわる話を聞くようにします。さらに、その話をロールモデルとしてチームや組織で共有することで、「アジリティが高いことは、成果に結びつく」という意識づけを行います。結果、他メンバーも「アジリティを高めたい」と目指すよう促せます。
組織のアジリティを醸成する方法
前述のとおり、アジリティとは速さと的確さを兼ね備えた機敏性です。特に組織において欠かせないのは「的確さ」です。これを踏まえて、組織のアジリティを醸成させる方法を挙げると次のようになります。
組織のアジリティを醸成するフロー
1 経営理念をメンバーに浸透させる
2 IT環境を整える
3 情報共有のためのツールを充実させる
大前提となるのが、経営理念を組織の全員に浸透させることです。なぜなら、組織にとっては「変革が必要なもの」と「守るべきもの」の両方がある点から説明ができるでしょう。守るべきものについては、やみくもにアジリティを発揮することは歓迎されません。迅速な判断や行動が的確なのかどうか―この判断を行うには、経営理念が基準となるわけです。経営理念を浸透させるためには、掲げている経営理念をミッションやビジョンに取り入れ、行動指針として日常化することが重要です。そして、日々の行動についても経営理念に照らし合わせて評価できると理想的です。
経営理念の浸透が進み、アジリティを発揮するベースができたら、次に行いたいのが環境整備です。まず整えたいのは時間短縮・効率化を見据えたIT環境です。各種申請、プロジェクト管理、受発注管理など、バックオフィスをIT化する手段は数多くあるでしょう。いつでも、どこでも、誰にでも、簡単にアクションを起こすことができれば、組織のフットワークは劇的に改善されます。
情報共有に役立つツールを採用するのも、組織アジリティの向上に有効です。例えば、社内SNSや、ファイルの共同編集ができるシステムを導入するのもいいでしょう。テレワークの増加でコミュニケーションが制限される状況でも、ツールを活用することで情報共有を効果的に行えます。
アジリティを高めるために必要なこと
心理的安全性の高い環境づくり
社員が自由に意見を言えない、失敗を恐れるような風土では、アジリティは育ちません。心理的安全性が確保された組織では、挑戦や変化をポジティブに受け入れ、学び合う文化が育まれます。これは自律的な行動や迅速な意思決定を後押しする重要な土台です。
自律型人材の育成(OJT・Off-JTの活用)
業務のなかで学ぶOJTと、体系的に学ぶOff-JTの両方を活用し、思考力・判断力・行動力をバランスよく養う育成設計が求められます。特に、変化に対する自己効力感(やれるという感覚)を高める教育がカギとなります。
【関連記事】OJTとは?OFF-JTとの違いや運用ポイントを簡単に解説
まとめ|これからのビジネスにおいてアジリティは不可欠
ビジネスの見通しが難しい状況のなか、的確で迅速な判断を下すアジリティは組織の発展や存続に必要です。特に新型コロナウイルスの影響で変動の渦中にある飲食業界や、IT業界など「レッドオーシャン」と呼ばれる競争相手が多い業界では、変化を素早くキャッチし、的確に対応するアジリティが求められます。
また、業界を問わず、有事を想定できているかどうかで対応力は大きく変わります。「いつ何が起こるか分からない」「ちょっと止まると、遅れを取ってしまう」といった危機感を常に持ってアジリティを磨いている組織であれば、予測不能な変化が起こったときにも鮮やかに対応し、他社に先駆けてビジネスチャンスをつかみ、先行者利益を得ることが可能です。アジリティは時代に求められている必須スキルであるといえるでしょう。
【調査レポート公開中】うまくいく組織の特徴とは?マネジメント実態調査
環境変化が激しいなかで成果を上げている組織には、共通する特徴があります。
パーソルグループでは、人材育成やマネジメントの実態について調査し「マネジメントの取り組み・実態調査レポート」を公開しました。
本レポートでは、採用・離職、上司・部下の認識ギャップ、キャリアに焦点を当て、各社のマネジメント状況やパフォーマンスの高い企業の特徴をまとめています。組織をどのように改善すべきか、ヒントを得られる内容になっていますので、人材育成やマネジメントに課題を感じている方は、ぜひご一読ください。