就労移行支援の概要と就職支援との違い
障害者の法定雇用率引き上げに伴い、民間企業の事業主は対応が迫られています。その対応策の一つが、就労移行支援制度を活用した障害者の雇用促進です。
障害者法定雇用率が引き上げに
2021年3月1日から、民間企業の障害者法定雇用率が2.2%から2.3%に引き上げられました。
これに伴い、対象となる事業主の範囲が従業員45.5人以上から43.5人以上の事業主へと広がりました。つまり、従業員43.5人以上を雇用している民間企業は、障害者を1人以上雇用しなければならなくなったのです。この義務を守らない事業主は、ハローワークから行政指導を受ける場合があります。
就労移行支援制度とは
就労移行支援制度は、障害者自立支援法のもと、就労を希望する障害のある人を企業などの就労につなぐ事業として2006年につくられた仕組みです。対象となるのは、就労を希望し、知識・能力の向上、実習、職場探しなどを通じて適性に合った職場への就労が見込まれる65歳未満の人です。技術を習得して在宅での就労や起業などを希望する人も対象として想定されています。
就労移行支援制度のサービスには主に次のようなものがあります。
・就労への移行に向けての事業所内などでの作業や実習
・適性に合った職場探し
・就労後の職場定着のための支援
・通所によるサービスを原則に、個別支援計画の進捗状況に応じ職場訪問などを組み合わせた支援
就労支援と就職支援との違い
就労支援と似た言葉に就職支援がありますが、違いは以下です。
就労支援
・一人ひとり状況に即して就労を実現できるよう支援すること。
・収入を得るばかりでなく、社会とのつながりを構築し、自己実現をはかる。
・ジョブマッチングにとどまらない生活や人生を豊かにする取り組み。
就職支援
・主にハローワークや民間人材サービスなどの職業紹介へつなぐことを重視。
・これに関し、面接対策や履歴書の書き方、カウンセリングなどを行う。
【出典】厚生労働省「就労支援の基本的な考え方〜基礎編〜」より「就労の意義」をふまえた就労支援の重要性(出典)『生活困窮者自立支援法自立相談支援事業従事者養成テキスト』中央法規出版、2014年、228〜229頁
障害者雇用納付金制度とは
障害者雇用納付金制度とは、障害者雇用率制度とセットになった制度です。障害者雇用納付金制度の目的は、障害者を雇用する上での事業主の経済的負担軽減と、事業主間の公平性の調整です。実質的には、障害者の法定雇用率に満たない企業に対するペナルティと言えそうです。 制度の具体的内容は次のようになります。
・法定雇用率が未達成の企業のうち、常用労働者100人超の企業から障害者雇用納付金を徴収。
・この納付金を元に、法定雇用率を達成している企業に対して調整金、報奨金を支給。
・障害者を雇い入れる企業が、作業施設・設備の設置に際し一時に多額の費用の負担を余儀なくされる場合は助成金を支給。
【出典】厚生労働省「障害者雇用のルール/障害者雇用納付金制度」
就労支援サービスの種類
就労支援サービスには、就労移行支援と就労継続支援の2種類があります。
障害者の就労状況
障害者の求職件数は毎年前年を更新し、増加の一途です。一方、障害者の就職件数との開きは大きいままです。このギャップを減らすため、企業などにおいて障害者の雇用機会をさらに増やしていくことが重要になっています。
就労移行支援と就労継続支援との違い
就労移行支援と就労継続支援は障害者の就労を支援するサービスですが、目的や対象などが異なります。就労継続支援にはA型とB型があります。
就労移行支援を行う施設
就労移行支援を行う施設にはどのような施設があり、それぞれどのような役割があるかを見てみましょう。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、障害者に対する専門的な職業リハビリテーションセンターとしての役割を担っています。原則、各都道府県に1カ所設置されていますが、北海道、東京都、愛知県、大阪府、福岡県には2カ所あります。
職業評価、知的障害者判定、職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業などの就労移行支援を行っています。
障害者就業・生活支援センター
就職を希望している人、すでに就職している人それぞれの課題に応じて、就業支援担当者と生活支援担当者が協力して一体的な支援を行っています。
就業支援担当者は、就労移行支援事業の紹介をはじめ就職に向けた準備支援、ハローワークへの同行など就職活動の支援を行うほか、職場を訪問して適応状況を確認するといった就職後の支援も行います。
生活支援担当者は、生活習慣の形成や健康管理、金銭管理など日常生活における自己管理のアドバイスのほか、住居や年金など生活設計に関するアドバイスも行っています。
ハローワーク
就労移行支援を受ける障害のある人はハローワークの専門援助部門で求職登録が必要です。
ハローワークでは企業からの求人票をもとに障害のある人の就職相談を受け、面接や職場実習へと進みます。面接や職場実習などが順調に進めば、ハローワークが事業主に求職者を紹介します。この一連のプロセスには、就労移行支援事業者との連携が欠かせません。
就労移行支援の事例
就労移行支援の事例について3つの事業所の取り組みを紹介します。企業は就労移行支援制度をどう活用すれば良いのかが見えてくるはずです。
【出典】厚生労働省・PwCコンサルティング「平成30年度障害者総合福祉推進事業 就労移行支援・就労定着支援事例集」(平成31年3月)
かしま障害者センターLink
ジョブコーチが企業と利用者をつなぎ、就労移行後の定着を実現
かしま障害者センターLinkは、大阪市淀川区にある事業所です。
同所での就労移行支援では、施設内活動に半年程度、施設外活動から企業での体験実習まで1年程度が費やされます。1回あたり10日以上企業での体験実習を行い、就労まで1人当たり1〜4カ所程度で実施されるとのこと。結果、多くの利用者が1年半程度で就労に至るそうです。
かしま障害者センターLinkでは、企業アセスメントを通じたマッチングを特に重視しています。これを担当するのはジョブコーチです。同所の利用者が就労を希望する企業に対して企業体験を行い、企業の職場環境、業務内容などに関する客観的な評価(アセスメント)を行っています。利用者に対する配慮が求められる点があれば、企業にフィードバックされることが、同所の高い就労移行率につながっています。
企業の担当者からは、次のような声が寄せられています。
「トライアル雇用期間中から就職後を見据えた目標管理が行われている点が良かった」
「事業所と利用者の定期面談の内容などが企業側にもフィードバックされるので、就労前、就労後も対応に活かすことができた」
JSN 新大阪
関係機関なども巻き込みチームで就労移行を支援
JSN新大阪では、就労移行支援開始後3カ月間は入力作業、事務作業などの所内作業やビジネスマナーなどの座学などを行い、企業実習をスタートさせています。1人当たりの実習企業数は約5社、総実習日数は平均で約150日です。
JSN新大阪が特に充実している点は、就労移行後の定着を目指した企業実習のフォロー体制です。企業実習はJSN新大阪の利用者にとって大きな環境の変化です。そのため、実習開始直後は、利用者が変調をきたした場合に備え、同所の職員がつきっきりで利用者を支援する体制を整えています。主治医や関係医療機関と協力して各機関からのフォローも促しています。
実習中の企業に対しては、現場のキーパーソンとの関係構築を図っています。具体的には、週1〜2回の訪問を通じて利用者との振り返り結果の情報共有を行い、継続的な関係性の構築に役立てています。
企業にとっては、企業実習から職場定着に至るまで、障害者がはたらきやすい職場の環境整備がカギとなるようです。
ジョブサポート馬出
職員2人1組の体制で支援後も継続してフォロー
ジョブサポート馬出は、福岡市にある事業所です。ジョブサポート馬出の特徴は、就労移行前後にかかわらず職員2人1組の体制で一貫した支援を行っていることです。
就労移行支援の体制は、「コーディネーター」と呼ばれる人が計画作成から就労支援全般を担当し、「フロア担当」という直接利用者に接して支援を行う人のペアが基本です。1ペア当たり7〜8名の利用者を担当し、就労移行支援期間終了後も継続してフォローを行っています。
情報共有も徹底しており、全職員が参加する週1回のケース会議では、各利用者支援状況や課題などの情報共有と申し送りが行われます。担当者とサービス管理責任者の間でも随時情報共有が行われます。このほか、利用者の支援記録は全職員が閲覧可能な状態で管理されています。
企業にとって、障害者の雇用受け入れ準備は一つの課題です。この事例では、「就労移行支援事業の利用者を雇用する際に、本人の障害の特性や本人と接する際のポイントなどを情報提供してもらえたことが役に立った」といった声が届いています。
障害者の雇用支援
障害者の雇用を促進するため、事業主が利用できる主な助成金を紹介します。
国の助成金
ハローワークなどの紹介により障害者を雇用する事業主に対しては、次の助成金があります。
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
対象労働者1人当たり支給額助成対象期間対象企業 | ハローワーク等の紹介により障害者を雇用する事業主 | ||
対象労働者 | 1人当たり支給額 | 助成対象期間 | |
短時間労働者以外 | 重度障害者等を除く身体・知的障害者 | 120万円 (50万円) |
2年 (1年) |
重度障害者等(※1) | 240万円 (100万円) |
3年 (1年6カ月) |
|
短時間労働者(※2) | 重度障害者等を含む身体・知的・精神障害者 | 80万円 (30万円) |
2年 (1年) |
(※1)「重度障害者等」とは、重度の身体・知的障害者、45歳以上の身体・知的障害者および精神障害者をいいます。
(※2)「短時間労働者」とは、一週間の所定労働時間が、20時間以上30時間未満である者をいいます。便宜上、表には対象者に含まれる「高年齢者(60歳以上65歳未満)、母子家庭の母等」について記載していません。
特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)
対象企業 | 発達障害者や難治性疾患患者をハローワーク等の紹介により、継続して雇用する労働者(一般被保険者)として雇い入れる事業主 | ||
対象労働者 | 企業規模 | 1人当たり支給額 | 助成対象期間 |
短時間労働者以外 | 中小企業(※1) | 120万円 | 2年 |
中小企業以外 | 50万円 | 1年 | |
短時間労働者(※2) | 中小企業 | 80万円 | 2年 |
中小企業以外 | 30万円 | 1年 |
(※1)中小企業の範囲=厚生労働省「各雇用関係助成金に共通の要件等」
(※2)「短時間労働者」とは、一週間の所定労働時間が、20時間以上30時間未満である者をいいます。便宜上、表には対象者に含まれる「高年齢者(60歳以上65歳未満)、母子家庭の母等」について記載していません。
【出典】厚生労働省「障害者を雇い入れた場合などの助成」
このほか、障害者を試行的に雇い入れた場合などに助成が受けられる「特定求職者雇用開発助成金(障害者トライアルコース)」があります。
高齢・障害・求職者雇用支援機構が扱う助成金
・障害者作業施設設置等助成金
障害のある人の就労上の課題を解決するため、新たに作業施設を作ったり、設備を改造したりする場合に支給されます。障害者作業施設設置等助成金は第1種と第2種に分かれます。第1種は建築や購入などで行う場合、第2種は賃借で行う場合で、支給限度額が異なります。
障害者作業施設設置等助成金の概要
支給限度額 | 支給期間等 | |
第1種 | 作業施設は1人につき450万円 作業設備は1人につき150万円 |
同一事業所当たり同一年度について4,500万円を限度 |
第2種 | 作業施設は1人につき月13万円 作業設備は1人につき月5万円 短時間労働者の場合は1人につき上記の半額 |
3年間 |
【出典】独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者作業施設設置等助成金・障害者福祉施設設置等助成金」
障害者介助等助成金
雇用管理のために必要な介助等の措置を行う事業主への助成金です。障害者介助等助成金には次の4種類があります。
・職場介助者の配置または委嘱助成金
・職場介助者の配置または委嘱の継続措置に係る助成金
・手話通訳・要約筆記等担当者の委嘱助成金
・障害者相談窓口担当者の配置助成金
障害者介助等助成金の概要
助成金の種類 | 対象障害者 | 支給限度額 | 期間 |
職場介助者の配置 | ・事務的業務に従事する重度視覚障害者 ・重度四肢機能障害者 |
1人当たり月15万円 | 10年 |
職場介助者の委嘱 | ・事務的業務に従事する重度視覚障害者 ・重度四肢機能障害者 |
委嘱1回当たり1万円(年150万円まで) | |
・事務的業務以外の業務に従事する重度視覚障害者 | 委嘱1回当たり1万円(年24万円まで) | ||
職場介助者の配置の継続措置 | ・事務的業務に従事する重度視覚障害者 ・重度四肢機能障害者 |
1人当たり月13万円 | 5年 |
職場介助者の委嘱の継続措置 | ・事務的業務に従事する重度視覚障害者 ・重度四肢機能障害者 | 委嘱1回当たり9,000円(年135万円まで) | |
・事務的業務以外の業務に従事する重度視覚障害者 | 委嘱1回当たり9,000円(年22万円まで) | ||
手話通訳・要約筆記等担当者の委嘱 | ・6級以上の聴覚障害者 | 委嘱1回当たり6,000円(※) | 10年 |
障害者相談窓口担当者の配置 | ・身体障害者 ・知的障害者 ・精神障害者 |
・専従の場合1名につき月8万円(2名まで) | 最大6カ月 |
・兼任の場合1名につき月1万円(5名まで) | 中小企業は最大12カ月、その他は最大6カ月 |
※年間支給限度額は事業所1所当たりの支給対象障害者の数が9人以下の場合は28万8,000円、10人以上の場合は10人ごとに28万8,000円を加算した額まで。
【出典】独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者介助等助成金」
まとめ|就労移行支援とは雇用可能な障害者をバックアップ、就労支援する制度
2021年3月1日から、民間企業の障害者法定雇用率が2.2%から2.3%に引き上げられ、対象となる事業主の範囲が従業員45.5人以上から43.5人以上の事業主へと広がりました。この変更によって、特に注意が必要とされるのが、従業員43.5人以上45.5人以上未満の民間企業です。毎年6月1日時点の障害者雇用状況をハローワークに報告しなければならず、この義務を守らない事業主は、ハローワークから行政指導を受ける場合があるからです。就労移行支援の仕組みや障害者雇用促進のための助成金などを上手に活用し、制度変更に対応しましょう。
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