就労移行支援とは|事業所と企業が連携するメリットや事例について解説

就労移行支援とは、障害を持った方や難病のある方が「一般企業での就労に必要な知識や能力を身につけるために必要なサポート」を提供する“福祉サービス”のことを指します。

もともと就労移行支援は、日本における障害者の雇用促進の一環として、2006年に施行された『障害者自立支援法』に基づいて制度化されました。

この法律は、その名の通り障害者が自立して社会参加を果たすための包括的な支援を提供することを目的としています。就労移行支援はその中でも特に重要な位置を占めていて、障害や難病のある人の就労に向けた必要なサポートを提供しているのです。

そこで本記事では、就労移行支援の概要や『就労継続支援』『就労定着支援』との違い、メリットや事例などについて解説していきます。

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目次

就労移行支援とは

就労移行支援とは、冒頭でもお伝えした通り、障害や難病のある方が一般企業ではたらけるようにするために必要なサポートを提供する“福祉サービス”を指します。では、具体的なサービスやその対象者について見ていきましょう。

就労移行支援の対象者

就労移行支援の対象者は、障害を持った方や難病のある方で、かつ企業などではたらくことを希望している方です。障害については、身体障害、知的障害、精神障害、発達障害など、さまざまな障害のある方が対象です。また、特定の難病がある方も対象となっています。

年齢については一般的に「義務教育を終了した18歳以上の方」が対象となっており、上限は65歳未満となっています。

一方で、「すでに就労している方」や「就労を希望しない方」は対象外です。ある程度の職業訓練や日常生活訓練が終わっており、就労への意欲がある方が対象となっています。

就労移行支援で受けられるサービス

就労移行支援では、まず利用者の特性や能力に合わせた個別の支援計画を作成します。そして、利用者は標準期間(24カ月)内で職業訓練を受けます。

同時に、「適性に合った職場探し」や「履歴書の書き方の指導」「面接への対策」「企業とのマッチング」といったこともサポートします。そして、利用者のこれからのキャリア形成のために、就職後も定期的なフォローアップを行っていきます。

こうした多方面でのサービスにより、利用者が自立してはたらけるようになることを目指しています。

「就労移行支援」と「就労継続支援」「就労定着支援」との違い

就労移行支援と似たものとして「就労継続支援」や「就労定着支援」があげられます。いずれも障害のある方が利用できる福祉サービスには変わりないのですが、それぞれ目的が異なります。

ここでは、それぞれの違いについて解説しましょう。

「就労移行支援」と「就労継続支援」の違い

就労移行支援と就労継続支援

 

【出典】パーソルダイバース株式会社「就労移行支援と就労継続支援の違い ミラトレ」より作図

就労移行支援は「はたらくために必要な就労スキルを学ぶための支援」ですが、それに対して就労継続支援は「実際にはたらく場所を提供する支援」となります。

そのため、就労移行支援では訓練が主体となり賃金が発生することはあまりありませんが、就労継続支援では給与や工賃が発生します。また、就労継続支援には「A型」「B型」がありますが、その大きな違いは、「雇用契約の有無」と「利用できる年齢」です。

下記に簡単にまとめてみました。

●雇用契約
・就労移行支援……なし
・就労継続支援(A型)……あり
・就労継続支援(B型)……なし

●利用できる年齢
・就労移行支援……原則18歳から65歳未満(※1、※2)
・就労継続支援(A型)……原則18歳から65歳未満(※2)
・就労継続支援(B型)……制限なし

※1:18歳未満で就労移行支援を利用する場合には、児童相談所の意見書が必要
※2:平成30年4月から65歳以上も要件を満たせば利用可能
<参考>:厚生労働省 障害者の就労支援対策の状況より

関連記事「就労継続支援とは? 就労移行支援との違いや一般企業との関わりも解説」を見る

「就労移行支援」と「就労定着支援」の違い

就労移行支援とは、「一般企業への就職」を目指す障害や難病のある方のための障害福祉サービスであり、それに対して就労定着支援は「就職後のサポート」を目的とした障害福祉サービスです。

就職後はどうしても不安や悩みが生じてしまうものですが、そんなときに就労定着支援員が解決をサポートし、はたらきやすい職場づくりができるよう会社とも連携をとってくれます。

なお、就労定着支援の対象者は、就労移行支援・就労継続支援などの障害福祉サービスを利用して一般就労した障害や難病のある方です。

利用期間は1年ごとの更新で、最長3年までサポートを受けられます。就労定着支援の利用料金については、前年度の世帯所得に応じて変動するのが特徴的ですが、就労移行支援と同様に自己負担は1割で、残りの9割は自治体負担となります。

就労移行支援事業所と企業が連携するメリット

就労移行支援を提供しているのが「就労移行支援事業所」です。では、その就労移行支援事業所と企業が連携するメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは2つを挙げて解説しましょう。

メリット(1)採用・安定就業のための必要な施策を一緒に検討できる

企業が障害者を雇用する際、採用後の定着を促進するためには、さまざまな配慮と工夫が必要です。そこで、就労移行支援事業所の担当支援者の存在が大きな助けとなります。支援者は利用者一人ひとりの特性やニーズを深く理解しており、企業に対して具体的な助言を提供することができます。

例えば、「障害者への接し方」についての助言は非常に重要です。障害者が職場で直面する可能性のある問題や、適切なコミュニケーション方法について支援者からの指導を受けることで、企業側はより円滑に障害者を受け入れることができます。

また、任せる仕事内容についても、支援者の助言をもとに利用者の特性や強みに合った業務を割り当てることができます。これにより、障害者が自信を持って仕事に取り組むことができる体制をつくり出せるでしょう。

また、就労移行支援事業所は就職後も定期的にフォローアップを行い、利用者が職場に適応できるようにサポートします。これには、定期的な面談や、職場での課題解決のためのアドバイスが含まれます。このような継続的なサポートにより、障害者が安心してはたらき続けることができ、企業にとっても人材の定着が図れます。

関連記事「障害者雇用のポイントとは?人材の定着・活躍につなげる方法」を見る

メリット(2)採用の安定化が見込める

採用の安定化が見込める点もメリットとして重要です。2026年4月までに障害者法定雇用率が2.7%まで段階的に引き上げられることが予定されているため、
多くの企業は障害や難病のある方の採用を進める必要があります。ただ、単に数を増やすだけではなく、長期的な就業を実現するための安定した採用が求められるでしょう。

安定した採用に向けて、事業所は「職場体験」を実施しています。職場体験は、障害や難病のある方が企業の業務環境や仕事の内容を実際に体験する機会を提供し、適性や能力を確認するための有効な手段です。また、企業側も障害や難病のある方のはたらきを直接観察できますので、採用前に適合性を見極めることが可能となります。

さらに就労移行支援事業所は、企業に対して障害者雇用に関する専門的なアドバイスや研修を提供し、社内の理解を深める支援も行います。これにより、職場全体が障害や難病のある方に対する理解を深め、共にはたらく環境が整っていきます。結果、職場の一体感が高まっていき、障害や難病のある方も安心してはたらける職場環境が実現します。

就労移行支援の事例

続いて、就労移行支援の事例についてご紹介しましょう。厚生労働省の資料から、3つの事業所の取り組みを抜粋します。自社が就労移行支援制度をどのように活用すれば良いのかが見えてくるはずです。
【出典】厚生労働省・PwCコンサルティング(PDF)「平成30年度障害者総合福祉推進事業 就労移行支援・就労定着支援事例集」(平成31年3月)

◆かしま障害者センターLink
ジョブコーチが企業と利用者をつなぎ、就労移行後の定着を実現

かしま障害者センターLinkは、大阪市淀川区にある事業所です。

同所での就労移行支援では、施設内活動に半年程度、施設外活動から企業での体験実習まで1年程度が費やされています。1回あたり10日以上、企業での体験実習を行い、就労まで1人当たり1〜4カ所程度で実施されるようです。結果、多くの利用者が1年半程度で就労に至るといいます。

また、かしま障害者センターLinkでは、企業アセスメントを通じたマッチングを特に重視しているといいますが、これを担当するのが『ジョブコーチ』です。企業アセスメントというのは、同所の利用者が就労を希望する企業に対して企業体験を行い、企業の職場環境、業務内容などに関する客観的な評価を行うことです。

そして、利用者に対して配慮して欲しい点があれば、企業にフィードバックするのです。実際、企業の担当者からは、次のような声が寄せられています。

「トライアル雇用期間中から就職後を見据えた目標管理が行われている点が良かった」
「事業所と利用者の定期面談の内容などが企業側にもフィードバックされるので、就労前、就労後も対応に活かすことができた」

◆JSN 新大阪
関係機関なども巻き込みチームで就労移行を支援

大阪府の淀川区にあるJSN新大阪は、就労移行支援事業所と就労定着支援事業所を提供しています。そんなJSN新大阪では、就労移行支援開始後3カ月間は下記の内容で企業実習をスタートさせているようです。

・入力作業、事務作業などの所内作業
・ビジネスマナーなどの座学
・1人当たりの実習企業数は約5社
・総実習日数は平均で約150日

JSN新大阪が特に充実している点は、企業実習のフォロー体制です。企業実習はJSN新大阪の利用者にとって大きな環境の変化です。そのため、実習開始直後は、利用者が変調をきたした場合に備え、同所の職員がつきっきりで利用者を支援する体制を整えています。また、主治医や関係医療機関と協力して各機関からのフォローも促しています。

実習中の企業に対しては、現場のキーパーソンとの関係構築を図っているようです。具体的には、週1〜2回の訪問を通じて利用者との振り返り結果の情報共有を行い、継続的な関係性の構築に役立てているのです。

企業にとっては、企業実習から職場定着に至るまで、障害者がはたらきやすい職場の環境整備がカギとなるようです。

◆ジョブサポート馬出
職員2人1組の体制で支援後も継続してフォロー

ジョブサポート馬出は、福岡市にある事業所です。ジョブサポート馬出の特徴は、就労移行前後にかかわらず職員2人1組の体制で一貫した支援を行っていることでしょう。

就労移行支援の体制は、「コーディネーター」と呼ばれる方が計画作成から就労支援全般を担当し、「フロア担当」と呼ばれる方が直接利用者に接して支援を行います。その2人のペアが基本であり、1ペア当たり7〜8名の利用者を担当して、就労移行支援期間終了後も継続してフォローを行っています。

情報共有も徹底しており、全職員が参加する週1回の『ケース会議』では、各利用者の支援状況や課題などの情報共有と申し送りが行われます。それだけでなく、利用者の支援記録は全職員が閲覧可能な状態で管理されているといいます。

企業にとって、障害者の雇用受け入れ準備は一つの課題でしょう。この事例では、企業からの声として「就労移行支援事業の利用者を雇用する際に、本人の障害の特性や本人と接する際のポイントなどを情報提供してもらえたことが役に立った」といった反応があるようです。

障害者雇用を支援する助成金について

次に、障害者の雇用を促進するために事業主が利用できる主な「助成金」について、大きく3種類に分類して解説していきましょう。

(1)国の助成金

ハローワークなどの紹介により障害者を雇用する事業主に対しては、国の助成金として次のようなものがあります。

・特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
対象労働者1人当たりの支給額と、助成対象期間について下記の表にまとめました。

対象企業:ハローワーク等の紹介により障害者を雇用する事業主

対象労働者 1人当たり支給額 助成対象期間
短時間労働者以外 重度障害者等を除く身体・知的障害者 120万円
(50万円)
2年
(1年)
重度障害者等(※1) 240万円
(100万円)
3年
(1年6カ月)
短時間労働者(※2) 重度障害者等を含む身体・知的・精神障害者 80万円
(30万円)
2年
(1年)

(※1)「重度障害者等」とは、重度の身体・知的障害者、45歳以上の身体・知的障害者および精神障害者をいいます。
(※2)「短時間労働者」とは、一週間の所定労働時間が、20時間以上30時間未満である者をいいます。便宜上、表には対象者に含まれる「高年齢者(60歳以上65歳未満)、母子家庭の母等」について記載していません。

・特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)

対象企業:ハローワーク等の紹介により、発達障害者や難治性疾患患者を継続して雇用する労働者(一般被保険者)として雇い入れる事業主

対象労働者 企業規模 1人当たり支給額 助成対象期間
短時間労働者以外 中小企業(※1) 120万円 2年
中小企業以外 50万円 1年
短時間労働者(※2) 中小企業 80万円 2年
中小企業以外 30万円 1年

(※1)中小企業の範囲=厚生労働省「各雇用関係助成金に共通の要件等」
(※2)「短時間労働者」とは、一週間の所定労働時間が、20時間以上30時間未満である者をいいます。便宜上、表には対象者に含まれる「高年齢者(60歳以上65歳未満)、母子家庭の母等」について記載していません。
【出典】厚生労働省「障害者を雇い入れた場合などの助成」

このほか、障害者を試行的に雇い入れた場合などに助成が受けられる「特定求職者雇用開発助成金(障害者トライアルコース)」もあります。

(2)高齢・障害・求職者雇用支援機構が扱う助成金

・障害者作業施設設置等助成金
障害のある方の就労上の課題を解決するため、新たに作業施設を造ったり、設備を改造したりする場合に支給されます。

障害者作業施設設置等助成金は第1種と第2種に分かれます。第1種は建築や購入などで行う場合、第2種は賃借で行う場合で、支給限度額が異なります。

障害者作業施設設置等助成金の概要

支給限度額 支給期間等
第1種 作業施設は1人につき450万円
作業設備は1人につき150万円
同一事業所当たり同一年度について4,500万円を限度
第2種 作業施設は1人につき月13万円
作業設備は1人につき月5万円
短時間労働者の場合は1人につき上記の半額
3年間

【出典】独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者作業施設設置等助成金・障害者福祉施設設置等助成金」

(3)障害者介助等助成金

障害者介助等助成金は、雇用管理のために必要な介助等の措置を行う事業主への助成金です。障害者介助等助成金には、大きく次の4種類があります。

・職場介助者の配置または委嘱助成金
・職場介助者の配置または委嘱の継続措置に係る助成金
・手話通訳・要約筆記等担当者の委嘱助成金
・障害者相談窓口担当者の配置助成金

障害者介助等助成金の概要

助成金の種類 対象障害者 支給限度額 期間
職場介助者の配置 ・事務的業務に従事する重度視覚障害者
・重度四肢機能障害者
1人当たり月15万円 10年
職場介助者の委嘱 ・事務的業務に従事する重度視覚障害者
・重度四肢機能障害者
委嘱1回当たり1万円(年150万円まで)
・事務的業務以外の業務に従事する重度視覚障害者 委嘱1回当たり1万円(年24万円まで)
職場介助者の配置の継続措置 ・事務的業務に従事する重度視覚障害者
・重度四肢機能障害者
1人当たり月13万円 5年
職場介助者の委嘱の継続措置 ・事務的業務に従事する重度視覚障害者 ・重度四肢機能障害者 委嘱1回当たり9,000円(年135万円まで)
・事務的業務以外の業務に従事する重度視覚障害者 委嘱1回当たり9,000円(年22万円まで)
手話通訳・要約筆記等担当者の委嘱 ・6級以上の聴覚障害者 委嘱1回当たり6,000円(※) 10年
障害者相談窓口担当者の配置 ・身体障害者
・知的障害者
・精神障害者
・専従の場合1名につき月8万円(2名まで) 最大6カ月
・兼任の場合1名につき月1万円(5名まで) 中小企業は最大12カ月、その他は最大6カ月

※年間支給限度額は事業所1所当たりの支給対象障害者の数が9人以下の場合は28万8,000円、10人以上の場合は10人ごとに28万8,000円を加算した額まで。
【出典】独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者介助等助成金」

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まとめ|就労移行支援とは、雇用可能な障害者をバックアップし就労支援をする制度

本記事では、就労移行支援の概要や事例、助成金について解説してきました。就労移行支援とは、障害を持った方や難病がある方をバックアップして、就労支援をする“福祉サービス”であることがお分かりいただけたかと思います。

もともと就労移行支援は、2006年に施行された『障害者自立支援法』に基づいて制度化されましたが、2024年4月から、民間企業の障害者法定雇用率が2.3%から2.5%に引き上げられました。毎年6月1日時点の障害者雇用状況をハローワークに報告しなければならず、この義務を守らない事業主は、ハローワークから行政指導を受ける場合があります。

本記事で解説した就労移行支援の仕組みや助成金をよく理解していただき、制度変更にもしっかりと対応できるようにしましょう。

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